怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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連投です。お気に入りから読む方はご注意ください。


黒竜

 

 

「―――ディルムッド」

 

「……あぁ、もうじき厄介なのが31階層に現れる」

 

 ジャックの声に小人族(パルゥム)の騎士が応じた。

 

 迷宮から逃げる様にして地上にやって来たモンスターが次々と戦士達に狩られる中、彼等は『穴』を見下ろす。

 

 『穴』の側に陣取っていた彼等主力陣は、来たる怪物に備えて顔を引き締めた。

 

「……それにしても」

 

 千里眼で迷宮を見張るディルムッドは、畏怖の感情を込めて呟いた。

 

「迷宮が、悲鳴を上げている……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷宮が、揺れていた。

 

『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!』

 

 無数の怪物(モンスター)の断末魔と共に、地形が変わる。変えられる。

 

 たった一頭のモンスターによって、地下迷宮(ダンジョン)32階層は更地と化していた。

 

『―――ウゥゥ』

 

 破壊の中心に君臨するのは元凶たる災厄。

 

 このモンスターにとって、この階層は()()()()

 

 ソレが唸り声を上げる度にモンスターの恐慌(パニック)を起こし、一歩進む度に迷宮が罅割れ、震える。

 

 36階層を抜けてからは、そのモンスターに迷宮が耐えられなくなっていた。

 

『……?』

 

 上層に進出しようとしたモンスターは、その外見に見合わぬ仕草を見せる。

 

 真上を見上げ、首を傾げたのだ。

 

 無造作に翼を羽ばたかせ、真上に飛ぶ。

 

 その直後。

 

 分厚い岩盤を破壊し、爆砕音と共にソレが31階層に進出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ―――」

 

 姿を現したソレに、ディルムッドが息を呑む。

 

「何だ、アレは―――」

 

 そして―――

 

『……!』

 

 確信を得た様にして真上を見上げる怪物と、『目が合った』。

 

『―――オォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!??」

 

 一瞬で叩き込まれた殺意に、彼は弾かれた様に立ち上がった。

 

「……?」

 

「おい、ディルムッド?」

 

 周囲の言葉も、ほとんど聞こえなかった。

 

「嘘、だろ……」

 

 汗を滝の様に流し、槍を構える彼は呻く。

 

「あの距離から、捕捉された……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――』

 

 遠く離れた場所から確かに己を『視た』者に対して威嚇を行ったソレは―――その(あぎと)を開く。

 

 砲口を連想させる口腔が、熱を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?不味い、走れ!!砲撃が来る!!」

 

「!?」

 

「嘘だろ、31階層からだろ!?」

 

 それを視たディルムッドの警告に各々が武器を構え、一目散に走る。

 

 その、直後だった。

 

 

 全てが、破壊される。

 

 

『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!??』

 

 ディルムッドのいた場所から半径10(ミドル)―――その全てが()()に呑み込まれた。

 

「っ!?」

 

「かっ、ぁ……!?」

 

 ディルムッドの警告の賜物(たまもの)か、直撃を受けた者こそいなかったが砲撃の余波で誰もが薙ぎ払われた。

 

「っ―――【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 立ち上がった精霊(アリア)が、瞬く間に超短文詠唱を終える。

 

「【エアリアル】!」

 

 攻守一体を為す風の付与魔法(エンチャント)を受け、戦士達が立ち上がり―――声を失う。

 

「っ―――」

 

「くそったれ……!」

 

 『穴』が、広がっていた。

 

 怪物の砲撃は、ディルムッドのいた場所から半径10(ミドル)に渡って、元の『穴』まで抉り―――黒炎に呑まれた地面を消失させていたのだ。

 

 建設途中だった塔が致命的な損傷(ダメージ)を受け、彼等の側で轟音と共に崩れていく。

 

 そして、これはソレにとっては『出口』でしかない事を、誰もが悟った。

 

「来るぞ……!」

 

 ディルムッドの警告の、直後だった。

 

 バサァアアアッッ!!と、その翼が生み出した嵐の様な暴風と共に、『ソレ』が姿を現した。

 

『―――』

 

 砲撃によって『穴』を広げても尚、壁を削って現れた巨体。

 

 全身を覆う漆黒の鱗。完成した塔も鷲掴みできそうな前腕。30(ミドル)近い巨体を浮かべる翼はどこまでも大きかった。

 

「ッ……!!」

 

 戦士達が武器を構えるのを眼前に、黒竜はどこまでも広がる蒼い空を見上げた。

 

『アァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

 大地を空を世界を震わせる、狂喜の咆哮。

 

 今まで確認した事の無い存在感を放つ黒竜は、彼等にとって悪夢としか言えなかった。

 

 




 やって来ました、黒竜です。

 黒竜との邂逅は、物語の重要なターニングポイントとなります。



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