怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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英雄の一撃

 

 

「っ!」

 

 地形ごと破壊しながら迫る剛腕、それを回避する。

 

 その余波に殴り飛ばされ、吹き飛ぶジャックに襲いかかる黒竜が―――幾筋もの斬閃に切り刻まれた。

 

『ウゥッ!?』

 

 傷ついた体を癒やしながら恐ろしい程の威圧感と共に睨み付けたのは、後方から攻撃魔法を放った精霊(アリア)

 

 その直後、一際大きい風の牙が黒竜の体をを穿った。

 

『―――オォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 調子に乗るなと言いたげに怒りの咆哮を上げる黒竜は美しい精霊を正確に捕捉、(あぎと)を開く。

 

 岩盤を何枚重ねようがぶち抜く、漆黒の砲撃。

 

『―――ガッ!?』

 

 それは、翼を(まと)った王族(ハイエルフ)の回し蹴りを受けて横に逸れた。

 

「―――遅ぇよ、ノロマ!」

 

「先走った馬鹿が何を言う」

 

 合流した彼等は今にも崩れ落ちそうな体に鞭を入れ、|黒竜に立ち向かっていく。

 

「―――【それは、破滅(おわり)の始まり】」

 

 激しい戦闘に悲鳴を上げる銀杖を握り、グリファスは詠唱を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――【構えよ剛弓、防ぎ守れ銀の盾。その手に宿れ不屈の刃】」

 

 後方で詠唱を続作り上げたけるクレスは全魔力をつぎ込む。

 

 彼の魔力に呼応して聖剣が輝き―――詠唱が完成した。

 

「【邪悪なる敵を殲滅せよ】―――【リベリオン】!!」

 

 魔法名が紡がれると同時、金色の輝きが溢れる。

 

 罅割れ、摩耗していた聖剣は目を焼く輝きを放ち―――より鋭く、より輝く聖剣がその場にあった。

 

 これまで彼が創り上げた中での、最高の一振り。

 

 黒竜に損傷(ダメージ)を与えうる、最後の一手。

 

「―――」

 

 薄く、息を吐いた彼は―――それを、死地に向けて、()()した。

 

「―――らぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 黄金の聖剣が風を切り、高速で飛んで行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【凍てつく地も燃え盛る地も存在しない無の世界、始まりの地】」

 

 詠唱するレイラは、今も死闘を繰り広げる彼等を想う。

 

「【歴史はここから始まり、歴史はここで終わった】」

 

 あの時。

 

 立ち上がったジャックは、グリファスは、レイラに対して何も言わなかった。

 

 黒竜の砲撃を相殺したレイラに魔力はほとんど残っていないと判断したのだろう、それは正しい。

 

 精神力回復薬(マインド・ポーション)で回復して多少はマシになったが、それでも消耗は否定できない、恐らくこの魔法一つで自分は力尽きるだろう。

 

「【始まりの深淵、常闇の奈落】」

 

 でも。

 

 だからどうした。

 

 今も彼等は戦っている。

 

 それならば、たった一人でも歌い続けよう。

 

 たった一つの魔法でも、必ず届けて見せよう。

 

 全てを投げ捨ててでも、全魔力を込めてでも。

 

「【足を踏み入れし愚者は世界から消えていく、呑まれていく】」

 

 

 彼等を救い、彼等を守る―――魔法(うた)を、届けよう。

 

 

「【永久(とこしえ)の闇に広がる亀裂(さけめ)よ、(あぎと)を開け】―――」

 

 超長文詠唱によって紡がれるのは、全てを飲み込む消滅魔法。

 

 ありとあらゆる物を呑み込む裂け目を開き、世界から消し去る。

 

「―――【我が名はアールヴ】」

 

 詠唱を、完成させた。

 

 目の前に広がる脅威を見据え、魔法名を紡ぐ。

 

 

「【ギンヌンガ・ガップ】!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

 爆砕。

 

 その衝撃に薙ぎ払われ、何(ミドル)もの距離を転がるジャックは、見た。

 

 精霊の全魔力を喰らって輝く聖剣が、こちらに向かって飛んで来るのを。

 

 それは、10M後方の地面に突き刺さった。

 

(―――来たっ!)

 

 目を見開くジャックだが、その直後に黒竜の剛腕が振り下ろされた。

 

「がっ……!?」

 

 剣を回収する余裕など、無い。

 

 吹き飛ばされて呻く中―――黒竜の周囲の空間が、()()()

 

 反応したのは、グリファスだった。

 

「―――離れろ!?」

 

 

 その直後、裂け目が開く。

 

 

『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!??』

 

 虚空に開いた無限の虚無。

 

 それは瞬く間に黒竜を捕らえ、引きずり込んだ。

 

 どんな魔法を受けようが耐え凌ぐ黒竜に対して、レイラが出した答え。

 

 回復されてしまうのなら―――消し去ってしまえば良い。

 

「……」

 

 その様子を見ていたジャックだが、凄まじい引力に逆らい続ける黒竜を見て聖剣を回収する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――【最後に嗤うのはヒトならざる怪物】」

 

 詠唱を再開するグリファスは、レイラが超長文詠唱によって紡いだ魔法を凌ぐ黒竜に対して目を細める。

 

「【世界は終焉の闇に包まれる】」

 

 アレは、破られる。

 

 確信に近い思いを抱きながらも、彼は詠唱を続ける。

 

 ジャックの攻撃を、あの怪物に当てられる様に。

 

「【人々を見下ろした世界樹よ。妖精(われら)を見守り続けた始まりの樹よ。世界を守れ、世界を繋げ。我が願いに応え力を貸したまえ】」

 

 歌いながら思い起こしたのは、ジャックとの会話だ。

 

 

『具体的にはどうする。魔法以外であの体は傷付けられないぞ』

 

『―――眼を狙う』

 

『……成程な』

 

白夜(びゃくや)が言ってた。どんな生き物だって、眼球が一番脆いっ、てな!』

 

『回復されるだろう』

 

『眼を貫かれたままじゃぁ回復できないだろう?だから剣を突き刺す。どんなに掻きむしっても絶対に壊れない、絶対に取れない土精霊(ノーム)の聖剣をな!』

 

 

「―――【それは英知を司る一本の枝】」

 

「【妖精の手により枝は槍に変わった】」

 

 正直言って、論外だった。

 

 飛行魔法(フィングニル)を自在に操るグリファスでさえ度々撃墜されかけているのだ。地を走るしか無い剣士をどうやって黒竜の眼前に届ける。

 

「【至れ、オーディンの槍】」

 

 だから、彼は魔法に頼った。

 

 全てを貫く槍で黒竜を抉り、縫い留め、ジャックを届けさせる。

 

「【全てを貫け、暗雲を払え。放たれよ、神の一撃】!」

 

 詠唱を完成させる、その直後。

 

「っ……!?」

 

 後方で魔法を発動させていたレイラが、その整った顔立ちを苦悶に歪める。

 

 極限までその瞳孔を開いた黒竜は―――裂け目を、強引に破った。

 

『アァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 消滅魔法を破り、解放された黒竜の咆哮が飛ぶ。

 

 もう、十分だった。

 

 絶望の象徴を目の前に静かに笑みを浮かべ、王族(ハイエルフ)は呟く。

 

「―――レイラ、よくやった」

 

 そして、魔力が罅割れた銀杖にかき集められ、槍を形作る。

 

 風を纏い、輝きを放つ聖剣を持ってジャックが走り出す、それに応じて。

 

「―――【グングニル】」

 

 その直後。

 

 銀杖を砕きながら放たれた神の槍(グングニル)が、ヒューマンに振り下ろされた剛腕ごと黒竜を打ち砕いた。

 

 追い打ちをかけるかのように風刃が切り裂くが、それでも黒竜は灰にならない。

 

 だが―――関係無い。

 

『っ―――』

 

 そして。

 

 そして。

 

 崩れ落ちた黒竜が、回復して身を起こすよりも早く。

 

「―――あぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 金色の光を纏う聖剣が、振り下ろされた。

 

 それは黒竜の眼球を穿ち、貫き、潰し―――柄の部分まで突き刺さった。

 

『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!??』

 

 叫喚が轟いた。

 

 深々と聖剣を突き立てたジャックが薙ぎ払われ、全魔力を魔法につぎ込んだ精霊と妖精(エルフ)が今度こそ力尽きた。

 

「っ、―――」

 

 暗闇に染まる視界の中で、グリファスは見た。

 

 どす黒い血をまき散らしながら、片目を潰された黒竜が、どこかへと飛び去って行くのを。

 

 彼の見つめる中。黒竜の輪郭はぼやけ、どんどん小さくなっていき―――やがて、空の果てに消えていった。

 

「……」

 

 そして、青年の意識は途切れる。

 

 

 

 

 その戦いは、砦から目撃した者達、そして少ない生き残りの戦士によって語り継がれていった。

 

 そして、彼等の紡いだ戦いの歴史は、後世に残される事となる。

 

 英雄達と怪物(モンスター)の戦いを描く物語。

 

 

 それはいつしか、迷宮神聖碑(ダンジョン・オラトリア)と呼ばれる様になった。

 

 

 

 




 今回は魔法をガンガン出しました。いかがでしたか?文字数もそれにおうじてかなり多くなっております。
 次回で古代編は終了になります。

 感想、お待ちしています。


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