怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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 ―――待たせたな!

 ……いや、本当にお待たせしました。
 無事旅行も終わり。予想以上に執筆時間が確保できて。珍しく土曜に更新できました。

 それでは。



制裁

 

『―――どうしたのですか?』

 

 その出会いは、二百年以上も前の事だった。

 

 顔見知りのギルド職員に向かって何かを必死に訴えかける女神の姿を見たグリファスは、傍らのレイラと共に事情を尋ねた。

 

 その女神の名はヘラ。

 

 『出会いを求めて下界へ一人降臨した』と言う夫、ゼウスを探して欲しいと言う懇願に応え、当時無所属(フリー)だった彼等は彼女に力を貸し、初の【ファミリア】団員となった。

 

「ッ!」

 

 衝撃で石畳を破壊しない様に注意しながら跳躍、住宅の屋上に着地する。

 

「……」

 

 目を細めるグリファスは、迷宮の様に広がるダイダロス通りを見下ろす。

 

 オラリオ、東と南東のメインストリートに挟まれる形で広がる居住区は、後に奇人と呼ばれた土精霊(ノーム)の手によって何度も何度も改築された地上の迷宮だ。

 

 一度迷い込んだら二度と出て来られないと言う逸話すらあるダイダロス通りだが、彼の場合は少々異なる。

 

「ダイダロス通り西南部、D-46からE-7の通りは孤児院が、G-3から18は飲食店が多い。そこはひとまず候補から外して捜索を行え」

 

『了解』

 

 彼は迷宮の様に入り組んだダイダロス通りを完璧に把握していた。

 

 複雑な紋様を刻まれた木の板から【ヘラ・ファミリア】に次々と指示を出しながら彼も捜索を行う。

 

 過去に魔導書(グリモア)を執筆した彼の発現させた発展アビリティ、『神秘』。

 

 世界に一握りしか無い発展アビリティを極めた彼が開発した通信用の魔道具(マジックアイテム)でもって大神(ゼウス)の捜索を円滑に進める。

 

 その、数分後。

 

 ダイダロス通りを制圧した【ヘラ・ファミリア】の手によって、エルフの美少女と情事に浸ろうとしていた糞爺(ゼウス)が連れ出された。

 

 

 

「……」

 

 妻の眷属(ファミリア)の人間によって縛り上げられ、女神の目の前に突き出された大神(ゼウス)はダラダラと汗を流していた。

 

「―――何か、言いたい事はある?」

 

「ゴザイマセン」

 

 あ、これ詰んだ。

 

 目の前で仁王立ちするヘラの姿に、ちょっと本気で泣きそうになる。

 

 前回捕まったのは半月前。今回で458回目、らしい。言い訳などとっくにネタ切れ、何よりも背後で殺気を放つ【妖精王(オベイロン)】をはじめとした妻の眷属達がそれを許さない。

 

 以前『ハーレムは男の浪漫(ロマン)』と口走った直後本当に殺されかけた事を思い出して口をつぐむ。

 

「……」

 

 普段明るい女神(かのじょ)からは表情が消えていた。その手には漆黒の手袋がはめられ、拳はきつく握られている。

 

 ヤールングローヴィ。

 

 鉄で作られた手袋ははめる者に莫大な『力』を与え、細身のエルフですら屈強なドワーフにも勝る『力』を得る事ができる。

 

 グリファスによって作られた魔道具(マジックアイテム)の一つ。

 

 そして、それが女神の手にはめられている理由は、どこまでも単純(シンプル)だった。

 

「―――」

 

 ヘラは大きく息を吸い―――爆発する。

 

「ゼウスの……バカァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「へぶぁっ!?」

 

 ゴグシャァッ!!と神体(じんたい)が出してはいけない音と共に老神(ろうじん)が殴り倒される。

 

「わ、悪かっ、ごふぅ!?すまん、愛してr―――ボグッ!?」

 

「馬鹿でしょ、本当に馬鹿でしょ!?貴方が私を愛してくれているのは知ってるよ、知ってるよ!!だけどそれならそれ相応の態度ってのを見せてくれないかなァ!?何なのハーレムって、馬鹿じゃない!?貴方はゼウスでしょ、私の夫でしょ!?だったらそんなの止めてよ、浮気しないでよ、私だけを見てよ馬鹿野郎ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 ゴンッ、ガッ、ドガッ、と暴力的な音が相次ぐ。

 

『―――』

 

 意識を落とす直前。

 

 撲殺系ヒロイン、と言う言葉がゼウスの脳裏に浮かんだ。

 

 アホな事を考えた直後、轟音と共に意識が闇に落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当、何であんなの好きになっちゃったんだろ……」

 

「……」

 

 衣服を脱いで横になるグリファスの背の上で、すすり泣くヘラがポツリと呟いた。

 

 血まみれになった老神は、何度も頭を下げる己の眷属に抱えられて開放された。

 

 今主神の部屋で行っているのは【ステイタス】の更新。

 

 だが、彼のステイタスは百年以上前からほとんど上がっていない。

 

 伸びしろの残ってない彼に行う【ステイタス】の更新は、言わば二人きりで行う相談の様な者だ。

 

「……あーあ。いっその事嫌いになれたら良かったんだけどなぁ」

 

「……そうだな」

 

 もう何度も何度も繰り返し聞かされた愚痴に、王族(ハイエルフ)の老人は苦笑する。

 

 もう言いたい事は正確に想像できる。聞かされそうな文句はすぐに把握できる。

 

 もう、かれこれ二百年以上の付き合いだ。主神の事をグリファスは完璧に理解できていた。

 

「だが……そこで諦める訳では無いんだろう?」

 

「……まぁね」

 

 「本当、アイツはさぁー」と文句と共にしだれかかって来る女神に苦笑しながら、グリファスは付き合っていく。

 

 時には同意を返し、あるいは一緒に憤り。

 

 女神の理解者は、彼女が全てを吐き出すまで寄り添い続けた。

 

「……ふぅ、ありがと。すっきりした」

 

「気にするな」

 

「あ、珍しく上がってたよ?」

 

「へぇ、一ヶ月振りだな」

 

 相談を終えた女神から渡された羊皮紙に、グリファスは目を通していく。

 

 

 

グリファス・レギュラ・アールヴ

 

Lv.7

 

力:D589 耐久:D531 器用:A846→847 敏捷:A865→866 魔力:S999 魔装:A 魔導:A 精癒:B 神秘:B 耐異常:C 魔防:D

 

魔法

【グングニル】

・必中魔法

・恩恵を与えた神の神の力(アルカナム)を一部使用

 

【フィングニル】

・飛行魔法

 

スキル

妖精舞踏(フェアリィ・ダンス)

 

妖精追憶(オベイロン・ミィス)

 

 

 

「2増えたか」

 

「そうだね。何かあったの?」

 

「……【ハデス・ファミリア】の襲撃者を潰したのと、それを殺さない様に加減したからか?」

 

「あ、そう」

 

 あっさりとした問答だった。

 

 ヘラにとっては、ゼウスと己の眷属以外は眼中に無い。

 

 ましてや対処したのがグリファスでは、心配するのはむしろ彼にのされた襲撃者達の方だった。

 

「それじゃあ」

 

「あ、おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

 穏やかな挨拶と共に、グリファスは寝室に向かった。

 

 




 閲覧、ありがとうございました。

 少ししたら旅行の事とか、今後の方針とか活動報告に載せたいと思います。

 次の投稿は……月曜かな?感想、お願いします。


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