―――ギルド、と言う言葉がある。
それは『古代』に神々が降臨した頃、当時のオラリオで活動していた『
下界に降臨した神々の自由奔放な姿を見て警戒したグリファスがその老神に掛け合って立ち上げたと言う経緯もあり、今では迷宮都市の管理機関として機能し、多くの役割を果たしている。
「―――約一〇〇年前だ。精霊達の怒りを買って『クロッゾの魔剣』のほとんどを失った
その内の一つ、『学区』内で
学区。
それは若い人材の育成を掲げて活動する教育機関だ。
ギルドの全面協力の元、数学や歴史等の一般教養、あるいはヒューマン以外の種族が持つ独自の言語や【
グリファスが教えているのは今も教鞭を振るう歴史、そして戦闘術だ。
一〇〇〇年以上も生きた彼の実体験も織り交ぜた歴史の授業も人気だが、やはり世界最強が教えるとだけあって戦闘術も凄まじい物がある。
「そうして、
そうして解説を締めくくると同時、校舎として機能する建物の中でチャイムが鳴る。
「―――それじゃあ、今日の授業はここまで。三日後の授業では小テストがあるのでしっかり勉強する事」
『はーい!』
子供達の元気な返事に笑みを見せるグリファスは資料を持つ。
「先生!ダンジョンの話聞かせてよ!」
「階層主やっつけたんでしょ!?」
「うん?ちょっと待ってくれ……ミィシャ、どうした?」
「あの、グリファス様。ここを御指導お願いしたいんですけど……」
「……どうしたいきなり。エルフみたいな言い方をして」
「エイナが、そう言えって……」
「……エイナ?」
「えぇっ!?私言ってませんよ!?」
「えへへ」
「ミィシャぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」
「わーこわーい」
「ははは……」
ハーフエルフの少女が追い、ヒューマンの少女が逃げる中、グリファスは苦笑する。
次の授業が始まるまで、教室が静かになる事は無かった。
「いやぁ、子供達もグリファス様に親しんでいる様ですなぁ」
「そうだな……孫を見ている様な気分になるよ」
「やはり貴方に依頼して何よりでした。入学の申し込みが後を絶ちません!」
「……ところで、聞かせて貰って良いか?」
「はい!」
息を吐くグリファスは、目の前の太ったエルフに尋ねる。
「……どうしてお前が来ているんだ、ロイマン」
「は、ははは……一つ、御相談がありまして……」
「わざわざ学区まで来て……ギルドに呼び出せば良いだろう」
「まさかっ、よりにもよって貴方にその様な御足労はかけられません!」
「……はぁ」
目の前にいる太ったエルフ、ロイマン・マルディールは数年前ギルドのトップとなった男だ。
もう四〇年以上ギルドに勤めているこの男、一〇年程前まではエルフらしい整った顔立ちと細身の体を持っていたのだが、ギルドの頂点となってからは一変した。
豪遊した日々を毎日の様に送り、それはもう見事に堕落したのだ。
今では『ギルドの豚』とまで呼ばれ、あらゆるエルフから嫌われている。
「(また太ったな、この男……)」
「どうかしましたか?」
「……いや、良い」
一体どこで間違えてしまったのか、とかつてロイマンを指導していたグリファスは息を吐く。
首を傾げていたロイマンに視線を向けた。
「で?」
「あ、はい。実は、ウラノス様が」
「ウラノスが?」
ロイマンの口から出てきた最初の主神の名に眉を跳ね上げる。
オラリオ初期にギルドの指導者として名を刻んだグリファスにその後のギルドの長から相談事を持ちかけられるのは決して少なくなかった。ロイマンもその例に漏れなかったが、彼等との会話でその神の名が出る事は少ない。
それ程の重要案件なのかと気を引き締めたグリファスの予想は、続くロイマンの言葉に覆される事となった。
「モンスターを使った、催し物を行いたいと……」
「はぁ?」
思わず呆けた様な声を出すグリファスは耳を疑った。
催し物?
一切の娯楽と無縁であろうあの老神が?
「あの、ウラノスが……?」
「えぇ。一体何を考えられているのやら……」
ロイマンの真剣な表情から嘘では無いと判断し、グリファスは息を吐く。
「……詳細を聞かせてもらっても?」
「はい。これが資料です」
ロイマンから手渡された紙の束に目を通す。
「……」
東のメインストリートにある
開催時期は五年後を目処とする。
「……一体、あの男は何を考えている?」
「さぁ、私には何とも……」
嘆息するグリファスに、これまた困惑した様な表情でロイマンも答える。
「……とりあえずこの案件は
「分かりました」
息を吐くグリファスが話を切り上げようとしたその時、彼の衣服にあるポケットから熱を感じた。
「……」
複雑な紋様の刻まれた木板を取り出す。
魔力を流すと、聞き慣れた声が聞こえた。
『あ……団長?』
「ルーラか。どうした?」
己の作製した
『今、お客さんが来てるよ?学区にいるからって断ろうとしたけど「アポは取ってる」なんて言ってたから通しちゃったけど……』
「いや、特に予定は無かったが……誰だ?」
そう尋ねながらもグリファスには何となく心当たりがあった。
そもそも、門番に向かって『アポは取っている』なんてほざく者など神々しかいない。
そして、その予感は的中する事となる。
『―――神ヘルメスと、その眷属っぽい女の子が来てるよ?』
「……はぁ」
『うっわ凄い嫌そう』
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