怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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ヘルメスの願い

 

「……」

 

 日が沈み始めた頃、学区から戻ったグリファスは一組の家族とすれ違った。

 

「あ、グリファス!」

 

「アイズか。アリアにライズも。もう帰りか?」

 

「うん!」

 

 晴れやかな少女の笑顔につられ、グリファスも自然と笑みを浮かべる。

 

「グリファス、さっき神ヘルメスが来てたけど……?」

 

「あぁ、ルーラから連絡があった。一体何の用だか……」

 

 アリアの言葉に嘆息するグリファスは彼等と別れて正面玄関から理想郷(アルカディア)の中に入る。

 

「あ、団長」

 

「グリファス様……」

 

「ヘルメスは?」

 

「応接間に通しました」

 

 会った団員達から来訪者の居場所を聞き出し、王族(ハイエルフ)の老人は足早にその場に向かった。

 

 漆黒の扉を開き、広々とした応接間に入る。

 

 ソファーにゆったりと座っていた優男の神は、彼の姿を見るなり両腕を広げて立ち上がった。

 

「やあグリファス!久し振り、会いたかったよ!」

 

「あぁそうか。私はお前の顔をできるだけ見たく無かったがな」

 

 連れないなぁ、と笑いかけて来るヘルメスに嘆息し、グリファスはもう一人の来訪者―――青に白が混ざる髪の少女に視線を向ける。

 

 彼と目が合った少女は、パァッ!と顔を輝かせる。

 

「……」

 

 先程の嫌な予感が的中した様な気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの【妖精王(オベイロン)】と生で会えるだなんてっ、感激ですっ!あ、あのっ、私アスフィ・アル・アンドロメダと言います!どうかお見知り置きを……!」

 

「あ、あぁ」

 

 顔が引きつるのを感じた。

 

 世界最強と名高いあの【妖精王(オベイロン)】にキラキラと憧れの視線を送って来る少女に、ヘルメスに文句も言う事もできず硬直する。

 

「ははは。人気が絶えないねぇグリファス」

 

「……はぁ。それでヘルメス、何の様だ」

 

「あぁ、折り入って頼みがあってね」

 

「断る」

 

「早過ぎじゃないか!?」

 

 慌て出すヘルメスに嘆息して座らせ、グリファスも向かい合う様にして座る。

 

「……で?」

 

「グリファス。頼みがあるんだ」

 

 表情を真剣な物に変えたヘルメスは、アスフィの頭に手を乗せて、言う。

 

「この子―――アスフィを指導してあげて欲しい」

 

「―――よし、二人きりで話し合おうか」

 

「え、ちょっ!?グリファース!?」

 

 青筋を浮かべるグリファスはヘルメスの襟元を掴み上げて彼を引きずって行く。

 

 それは、半ば連行だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 近くの空いた一室にヘルメスを連れ込んだグリファスは口を開く。

 

「まずは率直に言わせて貰おうか。……断る」

 

「おいおい、頼むよぉ」

 

 

「―――()()

 

 

 ズッ……!!と。

 

 空気が一気に重くなった。

 

 常人なら息を止める様な凄まじい殺気を目の前の神に叩きつけるグリファスは、それでもヘルメスがポーカーフェイスを貫くのを見て息を吐く。

 

「……済まない。少し苛立っていてな」

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………し、死ぬかと思ったぁ!?」

 

 へなへなと崩れ落ちるヘルメスに申し訳無さそうな表情をするグリファスは続ける。

 

「本当に今は大事な時期なんだ。アイズ―――【ファミリア】の子供が六歳になれば迷宮に行かせる事になるし、三大冒険者依頼(クエスト)の話も出る様になって来てから一気に忙しくなった。正直これ以上の面倒事は厳しい」

 

「そ、そこを何とか……」

 

「そもそもあの娘は一体どうしたんだ。貴方の【ファミリア】の人間にしては見覚えの無い顔だな」

 

「海国の王女様」

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 空白があった。

 

 やがて、過去に情報紙で見たとある国の王女と先程の少女の外見、名前が一致する事実に気付き―――彼は頭を抱える。

 

「……気付いてしまった自分が嫌になるよ」

 

「いやぁアスフィにはもう大丈夫だと伝えていたんだけどさぁ。移動している内に追跡者(ストーカー)を見つけたんだよねぇ。それが中々の腕前で、ダイダロス通りを使ってようやっと撒いて来たんだよ」

 

「こいつ……」

 

 つまり、目の前の男神(おとこ)はこう言ってるのだ。

 

 海国の追っ手を黙らせる為に元王女と一緒に居てあげて?と。

 

 たとえ【ステイタス】を持つ戦力の少ない海国でも立派な『国』だ。とてもでは無いが【ヘルメス・ファミリア】では手も足も出ない。

 

 だが、【ヘラ・ファミリア】なら違う。

 

 第一級冒険者ともなれば単身で軍隊を蹴散らす大戦力だ。それを多く抱える【ヘラ・ファミリア】に喧嘩を売るのは、神に攫われた王女と天秤にかけるにしても不味(まず)過ぎる。

 

「でも、アスフィも結構な境遇だったぜ?」

 

 ロクに外出もできずに鳥籠に囚われて日々を過ごしていた、孤独な王女。

 

「アイツはこう言っていたんだ」

 

『―――いっその事』

 

『外の広い世界(そら)を、鳥の様に飛んで行けたら―――』

 

 彼女の事情を語るヘルメスは、正面からグリファスを見つめる。

 

「頼む。あの子を守る為だけじゃぁ無い。あの子の夢を、真の意味で叶えさせてやって欲しい」

 

「……」

 

 沈黙があった。

 

 やがて息を吐いたグリファスは、うんざりした様にヘルメスを見やった。

 

「―――そんな事を言われて、断れるはずが無いだろう」

 

「……ありがとう」

 

 いつだって子供に優しい、そんな老人の言葉を聞いて。

 

 ヘルメスは、満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

 





「……だが、まず一発殴らせろ」
「え゛、ちょ―――」
 その夜、【ヘラ・ファミリア】ホームに鈍い音が響いたとか響かなかったとか。

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