怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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先程御指摘があり、『オリキャラの設定を纏めて欲しい』とのリクエストがありました。

この作品に登場したオリキャラは今後の『追憶編』に出す予定なので余裕ができた時に載せたいと思います。


指導

 

 

 ……さて。

 

 ヘルメスからは追っ手についてとやかく言われたが、実質グリファスは指導だけをすれば良い。

 

 グリファスが表に出ずとも、指導の度にヘルメスとアスフィが理想郷(アルカディア)に姿を現すだけで向こうが『【ヘルメス・ファミリア】はオラリオ最大派閥の庇護を受けている』と勝手に判断してくれる。

 

 一ヶ月も通えば、海国の方にもそう報告が届くだろう。

 

 そうなればかの海国も手を出せず、アスフィや【ヘルメス・ファミリア】の安全も保障される事となるだろう。

 

 グリファスの考えは正しかった。

 

 ヘルメスの来訪から二週間が過ぎ、二人が頻繁に【ヘラ・ファミリア】に通う姿を見つめる追跡者の姿を発見したのだ。

 

「……」

 

 書斎の窓からそれを見ていた老人は息を吐き、二人を出迎える。

 

(―――この分であれば問題無い。一ヶ月後には問題無く『アレ』に向かう事ができるな)

 

 

 

 

 アスフィを伴ってグリファスがやって来たのは、己の書斎だ。

 

 彼は目の前の本棚を眺めると一冊の分厚い目録(リスト)を手に取り、中身を捲る。

 

 その中の一(ページ)に目を留めた。

 

「……これにするか」

 

 そう呟いたグリファスは、傍らで目をキラキラさせるアスフィに笑みと共に告げる。

 

「―――そうだな。今日は、魔導具(マジックアイテム)の作成を手伝って貰おうか?」

 

「はいっ!」

 

 元気な声で答える少女の顔は、眩しい位に輝いていた。

 

 指導をすると言う事で、グリファスは彼女に魔導具(マジックアイテム)の作成について教えていた。

 

 彼の指導を受ける事で発展アビリティ『神秘』を発現できれば、彼女の夢を実現させる足掛かりになるだろうからだ。

 

 まずは積極的に雑用をして貰う事で【ファミリア】の団員の好感を買って貰い、グリファスの与えた本を貸し与える。

 

 分からない所はしっかりと教えてやり、アスフィの飲み込みの良さもあって昨日には基本の基本を身に着けたと判断できた。

 

「今回は【ヘラ・ファミリア】の団員に支給している魔導具(マジックアイテム)を作成する」

 

 少女が頷くのを確認して彼は懐から一枚の木板を取り出す。

 

「これは私達が連絡に使用している魔導具(マジックアイテム)だ。魔力を流す事でこれを持つ者達と連絡を取り合う事ができる」

 

「へぇ、便利ですね……」

 

 興味深げに見つめるアスフィに微笑みかけ、多くの機材を入れた籠から何の加工もされていない木板を取り出す。

 

「さて、始めるか」

 

「はいっ!ご教授お願いします!」

 

「固くなるな。力を抜け」

 

 頂点にあった日が沈み始める中、彼の指導は続いた。

 

 

 

 

「おーい、グリファス、まだー?」

 

「良いから黙って待って居ろ。今良いところなんだ……よし、良いぞ。そこをずらすんだ……」

 

「はい……」

 

「もう日も沈んじゃったじゃないか。色々物騒なんだからできるだけ早く……」

 

「……基本的にお前の所為だと言う事を忘れて無いよな……?」

 

「あ、スイマセン」

 

 すっかり外も暗くなっている中、グリファスの書斎で作業が進められていた。

 

 暇していたヘルメスをグリファスが黙らせる中、アスフィは真剣な表情で作業に取り組む。

 

「……」

 

 ガリ、ゴリッ、と、静かになった部屋木板を削る音が響いた。

 

 そして―――その作業が、唐突に終わる。

 

「で、できた……!」

 

 パァッ、と顔を輝かせる少女の手の中には、複雑な紋様を刻まれた木板があった。

 

 試しに魔力を流す直後、確かな反応がある。

 

 完成した、何よりの証だ。

 

「完成しました、師匠(せんせい)……!」

 

「あぁ、良くやったな」

 

 喜色満面の少女に偽りの無い称賛をしながらも、彼の表情は驚きに染められていた。

 

 まさか、自分の指導があったとしても一回で成功するとは思わなかった。

 

 この少女には、才能があるのかも知れない。

 

 かつてグリファスや【賢者】の辿り着いた境地に追いつき、追い越す程の才が。

 

 少女の示した才と成功に驚愕するグリファスは―――しかしその笑顔を見て、破顔した。

 

 優れた才能?

 

 実に結構な事だ。今後のオラリオを支える一人として、その才能を存分に発揮して貰おうではないか。

 

 それを開花させるきっかけになれれば―――自分は、全力で彼女に教えよう。叩き込もう。

 

 己の手に入れた叡智を。先人達の手に入れた物の全てを。

 

 笑みを深めるグリファスは、喜ぶ少女に目を細めた。

 

 

 ―――これが、【万能者(ペルセウス)】と後に呼ばれる少女の始まりだった。

 

 




閲覧ありがとうございました。

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