怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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随分と執筆に手間取りました。スランプかも……




オラリオの地下で

 

 

「……よし」

 

「こんなもんかな……」

 

 理想郷(アルカディア)、その応接間で。

 

 無事に処理した複数の書類に、青年と中年男性、二人のヒューマンが息を吐いた。

 

 片や【ゼウス・ファミリア】団長、ライズ・ヴァレンシュタイン。

 

 その向かいに座るのは【ヘラ・ファミリア】副団長、アッシュ・ロックアウトだ。

 

 先程持って来たジャガ丸くんをライズに投げ渡し、彼は一笑する。

 

「昼飯だ。醤油バター味で良かったか?」

 

「あぁ。好物だ」

 

 笑い合う二人は遅めの昼食を食べ始める。

 

 一週間前の神会(デナトゥス)で発表された、【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】合同の三大冒険者依頼(クエスト)挑戦。

 

 その知らせは瞬く間に広がり、今では世界中の注目となっている。

 

 それに伴い、彼等はギルドに提出する書類を纏めていた。

 

「―――それにしても、本当に良かったのか?」

 

「え?」

 

 ライズが首を傾げる中、中年の第一級冒険者は続ける。

 

「六歳になったばかりの娘を置いて、勝てるかも分からない戦いに挑んで」

 

「……それは、遠征と変わらないだろう?」

 

「まぁ、それもそうだがな」

 

 尤もだと苦笑するする彼に、都市最強の一角、Lv.7【天閃】は告げる。

 

「それに―――死ぬつもりも、毛頭無いからな」

 

「……」

 

 不器用に笑ってそう断言する彼に、僅かにアッシュは目を見開き―――そして、小さく吹き出した。

 

「ふっ、頼もしいな」

 

「それはどうも」

 

 束の間笑い合った二人だったが、ふと気付いたライズは気付いた。

 

「そう言えば、グリファスさんは?出かけているって聞いたけど……」

 

「あぁ」

 

 ジャガ丸くんを咀嚼するアッシュは、事も無げに告げた。

 

「―――ギルドだってさ」

 

 

 

 

「……」

 

 ホームの付近、西のメインストリート付近に広がる住宅街。

 

 その真下に存在する地下通路を歩くグリファスは、ふと立ち止まった。

 

 ロクな明かりも無い目の前の空間に広がる暗闇を見据え、笑みを浮かべる。

 

「―――フェルズ」

 

 誰もいない、薄闇の空間。

 

 そのはずだった。

 

 しかし。

 

 

『―――久方ぶりです、「師匠(せんせい)」』

 

 

 スゥっ……、と。

 

 闇に包まれた地下通路から、音も無くその人物は現れた。

 

 全身を包む漆黒の衣装。目深に被られたフードでその顔は見えず、両の手に紋様を刻まれた手袋をはめていた。

 

「本日はどの様な案件で?」

 

「ウラノスに用があってな。久々に昔話でもするか?」

 

「勘弁願いたい。アレは私の汚点(トラウマ)だ」

 

 苦笑するかの様に体を揺らすフェルズに、グリファスも笑みを浮かべる。

 

 ―――二人は、いや三人は『家族』だった。

 

 数百年前、(レイラ)と共に訪れた魔法大国(アルテナ)

 

 その貧民街(スラム)で倒れるヒューマンの孤児と出会った彼等はそれを介抱し、親身になって面倒を見ている内に気付けば家族の様に思う様になっていた。

 

 彼は養父母(ふたり)を慕い。

 

 王族(ハイエルフ)の夫妻は少年を息子の様に扱った。

 

 そして、関係はまた一つ変わる。

 

 当時オラリオ最強、Lv.6だった【妖精王(オベイロン)】に憧れた少年は彼に師事を仰いだ。

 

 グリファスもそれに応え、持てる全てを子に授けた。

 

 そして、時は流れ―――彼はグリファス以上に『神秘』を極め、いつしか【賢者】と呼ばれるまでになった。

 

 しかし、その時は訪れる。

 

 寿命の短いヒューマン。彼もそれからは逃れられず、限界を感じる様になる。

 

 まだ、学びたい事があった。

 

 世界の全てを知りたかった。

 

 ヒューマンの短い寿命を克服し、無限の叡智を欲した。

 

 だから、彼は創った。

 

 神々や精霊の域に届き得る不老不死の象徴―――賢者の石を。

 

 しかしそれは砕かれる事になる。

 

 あろう事か、完成した『石』を見せに行った主神の手によって。

 

 偶然の産物だった賢者の石は再生成する事もできず、かつて【賢者】と呼ばれた者は永遠の命に対する執着に取りつかれ、新たな不死の秘法を生み出した。

 

 そしてそれは、大きな間違いだった。

 

「―――まさか反動で全身の血肉が削ぎ落とされる事になるとはなぁ」

 

「ははは……」

 

 空笑いする愚者(フェルズ)に半眼を向ける。まぁ全身が骸骨化したこの男に笑みを浮かべる事などできそうも無いが。

 

「着いたな」

 

『―――』

 

 地下通路を歩く二人の前に立ち塞がったのは紋様の刻まれた石の壁。フェルズが片手をやって呪文を呟くと紋様が光を放ち、石壁が横に開かれた。

 

 相変わらず個性的(ユニーク)な呪文だなと思っていると隣のフェルズが進みだしたので、一歩遅れてついていく。

 

 そこに広がっていたのは、広大な地下室だった。

 

『―――グリファスか』

 

 ギルドの地下、最深部に足を踏み入れた直後、荘厳な声が響き渡る。

 

 神々の誰よりも神威(しんい)の込められた声に、王族(ハイエルフ)の老人は顔を上げ―――笑った。

 

「……ここに来るのも、数十年振りだな。―――ウラノス」

 

 玉座、いや神座に君臨するのは一人の老神(ろうじん)

 

 一〇〇〇年前、人類に最初に恩恵(ファルナ)を与えた、彼のかつての主神だった。

 

 





9巻が出たので早速絡めました。彼等の出会いについても追憶編でおいおい書くつもりです。

夜の零時に、番外編の予約投稿があります。


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