「……」
日が高く昇る。
多くの団員達が慌ただしく動く中、グリファスは静かにその作業を見守っていた。
迷宮都市、その門の外。
そこには、【ゼウス・ファミリア】、【ヘラ・ファミリア】―――オラリオ最強である二派閥の戦力が結集しようとしていた。
第一級冒険者達が各々装備を確認する中、門の中から何台もの
彼等の討伐対象は、いずれもオラリオから遠く離れた場所に縄張りを持っている。長旅に備え、
「船団は?」
「つい先程連絡が。
「そうか……」
「妨害、されませんよね?」
「三大
「は、ははは……そうですね」
信用の無い軍神を思い浮かべて団員が苦笑する。今のやり取りをヘラが聞けば『アンのバカ息子……』と頭を抱えるだろう事は容易に想像できた。
グリファスは
今回の為に用意した
そこで想起したのは、事前に討伐部隊全員に配布した漆黒の丸薬。
「(……不備は無いな。万全の態勢だろう)」
その時だった。
「―――
「……アスフィか」
振り返るグリファスの目の前にいた少女は、その表情を曇らせて佇んでいた。
「……行ってしまうのですね」
「あぁ、そうだな」
「しばらく指導はして貰えなくなると、ヘルメス様が言っていました」
「……間違ってはいないな。戦いの結果に関わらず私は忙しくなる。時間も著しく削らされるだろう」
静かに告げられた言葉に、アスフィは整った顔立ちを歪めた。
ぽつりぽつりと、絞り出す。
「貴方のおかげで、私は多くの事を学べました」
「そうか」
初めて彼女に指導を施した時の事を思い出す。
あの時、目を輝かせる少女はグリファスの知識を貪欲なまでに吸収し、確かな才能を示した。
「貴方の元で学ぶ中で、王宮の中では決して叶えられなかった夢の、きっかけが掴めて来たと思います」
「身になった様で何よりだ。お前なら必ずできるさ」
本音だった。
後に【賢者】と呼ばれる事となる少年を指導した時の感覚と同じ物を、グリファスは彼女に覚えていた。
この少女なら、いつか必ず夢を叶えられるだろう。
そう確信していた。
「できる事なら、ずっと貴方の元で指導して貰いたい所ですが……」
「構わない。時間が空けばできる限りの事を教えよう」
「!」
目を見開くアスフィに笑みを見せる。
瞳を震わせ、彼女は呟いた。
「約束、ですよ……?」
「当然だ」
王族の老人の言葉を聞いて、少女は輝く様な笑顔を見せた。
「―――三大
「あぁ」
『―――グリファス!』
声が聞こえた。
準備を終えた団員が合図を出した様だった。
「それじゃぁ、行って来る」
「はいっ!」
アスフィに見送られる中、グリファスは団員達の元へ向かう。
「グリファス、頼む」
「あぁ……」
(……やれやれ。本来この様な事は不向きなんだがな)
その場に集まったのは、【ゼウス・ファミリア】四三、【ヘラ・ファミリア】四一―――総勢八四名の部隊。
ライズに促されたグリファスは隊列を組む彼等の前に立ち、声を張り上げる。
「―――これより我々、【ゼウス・ファミリア】【ヘラ・ファミリア】は、三大
その様子は行使を許可された
「討伐対象は一〇〇〇年前地上に進出した強大な力を持つ
「一度部隊を二つに分け、
「勝算はある、だがこれまでとは比べ物にならない戦いになるだろう!だが、ここにいるのは両【ファミリア】のにおいてかつて無い最高の戦力だ!全力を尽くして戦い、またこの地に―――ホームに戻ろう!」
『―――おおっ!!』
咆哮が轟いた。
迷宮都市の外に集う冒険者達は雄叫びを上げ、より士気を高める。
そして、その日―――【ゼウス・ファミリア】、【ヘラ・ファミリア】の主戦力は発ち、強大なモンスターの討伐に向かった。
そして、オラリオでも各々の思惑が交差する。
「―――彼等が、出発しましたか」
「ガネーシャとの連携を取りなさい。彼等がいない間は、私達がオラリオを守らなければ」
「―――ひひっ、黒竜でどうせ奴等は潰れる」
「そん時が俺等―――【アペプ・ファミリア】が
「おぉ、怖いねぇうちの主神様は」
「―――ふふっ、始まったわね」
「フレイヤ様、神ロキからの申し出はどうされますか」
「そうねぇ……ヘラに対して悪意は無いけれど、あの
そして。
『……』
山が蠢き。
『―――』
海が揺れ。
『―――アァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
空が震えた。
戦いが、始まる。
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