怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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エピローグ 妖精王の日記

 

 

 日記を再開した。

 三大冒険者依頼(クエスト)や【ファミリア】の消滅もあって最近ゴタゴタしていたが、一ヶ月振りに手をつける事ができた。

 ヘラとゼウスを逃がした後はどうするか悩んだが、今現在オラリオに存在する全ての(闇派閥(イヴィルス)を除いた)【ファミリア】を見て回った。と言うか予想以上に勧誘を受けて死にそうになった。

 商業系【ファミリア】も多少興味があったが、今後の方針を現実的に考えるとやはりダンジョン系【ファミリア】だな。

 大派閥から考えて行くと、【ロキ・ファミリア】はともかく【フレイヤ・ファミリア】は止めておこう。あの女神はどうも気に食わない。それに美の女神には少々トラウマがある。下手に誘惑されたらレイラが化けて出て来そうだ。当然【イシュタル・ファミリア】は論外。

【ガネーシャ・ファミリア】は……悪くないが、主神が面倒臭いな。怪物祭(モンスターフィリア)を考えるとこれから余計忙しくなりそうな派閥に好き好んで入るつもりは無い。……この【ファミリア】と共に治安を守る【アストレア・ファミリア】も良いな。だがあの女神に私の持つ案件―――例えば『異端児(ゼノス)』―――を知られる可能性が出るのは不味い。明らかに反感を受けるだろうな。

 色々考えると……絞られたのは【ロキ・ファミリア】に【ヘルメス・ファミリア】だな。

【ロキ・ファミリア】にはこの先が楽しみな若者が多く、主神であるロキも酒好きである点を除けば神格者(じんかくしゃ)の部類に入るだろう。ただ都市最強派閥としてある程度のしがらみに囚われる事が懸念されるが……まぁ、【ヘラ・ファミリア】と大して変わり無いだろう。

【ヘルメス・ファミリア】は愛弟子(アスフィ)もいるし、中立を気取る主神の姿勢(スタンス)も私の思想と一致する。中々の好条件だが……私が強過ぎる。最大派閥(ロキ・ファミリア)ならともかく中堅派閥(ヘルメス・ファミリア)に私が入ってしまったら明らかに悪目立ちするだろうな。団員達も動きにくくなるだろう。それにヘルメスの動きが読めない。まだガネーシャの方が分かりやすいと言うのに……。あの派閥に入ったが最後、主神に振り回されて過労死しかねないな。

 そう考えると、【ヘルメス・ファミリア】に入る必要性を感じなくなって来たな。あの中立派閥であれば【ロキ・ファミリア】にいてもアスフィの面倒を見れるだろうし、渡してある通信用魔導具(マジックアイテム)があれば情報も滞り無く集める事ができる。それにウラノスとの繋がりを利用すれば割と自由に外に出られるから……問題無いな、うん。

 それにしても今日は書く事が多かった。明日は【ロキ・ファミリア】を訪ねる事にしよう。

 

 

 

 随分あっさりと話が終り、【ロキ・ファミリア】に入る事となった。ロキは大分狂喜していたな。ヘルメスにその事を伝えると頭を抱えてうずくまっていたが。まぁあの駄神の事は置いておこう。

 夜食の時ベートとか言う狼人(ウェアウルフ)の少年に絡まれた。いきなり襲い掛かられた時に足を掴んで宙ぶらりんにしてやったのが不味かったかも知れない。ロキに唆されていた様だが……。それにしてもアロナと良く似ていた。まぁ血縁関係は無さそうだが。そう言えばアロナはヘラを外に出した後『豊穣の女主人』で働き始めたらしい。ヘラからの恩恵はそのまま授かっている様だ。今度様子を見に行くとしよう。

 

 

 

 眠い。

 今夜は夜中にティオナに叩き起こされて昔話をする羽目になった。結果的に二時間以上話を聞かせる事になったが、よくもまぁ飽きない物だ。どうも童話や英雄碑が好きらしい。前も誰かが言っていたが、そう言うのを生で見聞きした者―――私の様に長生きしたエルフや精霊等―――から話を聞くのはやはり違うらしい。

 三大冒険者依頼(クエスト)についても聞かれたが―――アイズに黒竜の話を聞かせるのはあまり良くないだろうな。気を付けるとしよう。

 

 

 

 私が【ロキ・ファミリア】に入団してから一ヶ月が過ぎ、今日は神会(デナトゥス)があった。

 Lv.8になった事で、私の二つ名も変わったらしい。

生きる伝説(レジェンド)】、だそうだ。

妖精王(オベイロン)】もそうだったが、随分と大層な二つ名を貰った物だ。一〇〇〇年以上生きている、と言うのもありそうだが。

 そしてもう一つ、ヘラから連絡があった。

 ゼウスが逃げたらしい。思わず通信用魔導具(マジックアイテム)を握り潰しそうになった。

 一回アイツ殺した方が良いんじゃないか?

 

 

 

 アイズがLv.2になった。

 いや、私も耳を疑った。何しろ過去にオッタルが実現した最速記録(レコード)と同期間で【ランクアップ】したのだから。しかも八才になったばかりの少女が、だ。

 12階層で黒犬(ヘルハウンド)白兎(アルミラージ)等のLv.2のモンスター、その群れと突然遭遇(エンカウント)し、これを単独で全滅させたらしい。話を聞いて私とフィンは頭を抱えたが……ボロ雑巾の様になって帰って来たアイズを見たリヴェリアの剣幕には肝を冷やした。アイズがどこかへ逃げて行った後は追い掛けて行ったが……二人でホームに戻って来た時はアイズが少し涙目だった。一体何があったんだ。

 今更だが、よくリヴェリアと若い頃のレイラが重なる。アイツも怒った時は本当に怖かった。

 私も気を付けるとしよう。

 

 

 

 最近闇派閥(イヴィルス)の動きが活発化している様だ。特に【アぺプ・ファミリア】や【テスカトリポカ・ファミリア】が妙な動きをしている。

【ハデス・ファミリア】が潰れた後姿を隠していた者達もそこに合流している様だ。全くキリが無い。

 都市内では【ガネーシャ・ファミリア】や【アストレア・ファミリア】が取り締まりを強化しているが……ダンジョンでは既に冒険者同士の殺し合いが多発している。フィンも団員達に警戒を促していたが……アイズやティオナ達は普通にダンジョンに行きそうだな。仲が良いのは結構な事だが、しばらくは止めて置いた方が良いだろう。

【アストレア・ファミリア】の【疾風】がまたランクアップしたらしい。アイズと言いアスフィと言い最近の若い者は凄く成長が早いな。あまりうかうかできないかも知れない。

 

 

 

 27階層で多くの死者が発生した。

 ダンジョンにあると言う闇派閥(イヴィルス)の隠れ家を訪れた【ディアンケヒト・ファミリア】や【ガネーシャ・ファミリア】、【アストレア・ファミリア】等の団員達を幾つもの怪物進呈(バス・パレード)と共に急襲し、多くの被害を出したのだ。

 一緒にいた私も戦ったが……まさか『邪神』の一角が自らダンジョンに潜って神威を放ち、故意に『神災(じんさい)』を引き起こすとは予想できなかった。

 結果生まれたのは27階層の階層主、迷宮の弧王(モンスターレックス)

 本来Lv.5のはずだったソレはダンジョンの怒りによってLv.6の潜在能力(ポテンシャル)を発揮し、私はその対処にかかるしか無かった。あの邪神を見つけた時点で早急に対処できなかった事が悔やまれる。身元不明の死体が多く発見された中、闇派閥(イヴィルス)の一人、オリヴァス・アクトの下半身も発見された。己の眷属の死すら嗤って見送ったあの邪神に対する憤りを私は決して忘れる事はできないだろう。

【アストレア・ファミリア】の主力は多くが死んだらしい。【疾風】リオンの遺体が無かったが……一体どうなったのか。

 今後に期待していた若者達の多くが失われた事を考えると本当に痛い損失だ。闇派閥(イヴィルス)は根こそぎ潰す必要がある。

 

 

 

【アぺプ・ファミリア】が壊滅した。死んだと思われていた【疾風】によって叩き潰されたらしい。一人残らず、皆殺しだった。邪神と登録されていた神アぺプは半死半生―――『神殺し』と呼ばれる禁忌を侵さないギリギリまで痛めつけられていた。

 あそこには第二級冒険者……Lv.4が何人かいたが、強力な『魔法』によって消し飛ばされていた。多対一の状況が成立した中であれ程の魔法を行使した事実に感嘆を隠せない。彼女は想像以上の力を持っていた様だ。

 だが、ギルド等の公的機関に姿を現さない事が気になる。した事を軽く咎められはするだろうが、【アぺプ・ファミリア】を壊滅させた事は恩賞を貰っても良い事だったのだが……。

 ……嫌な予感は外れて欲しいものだが。

 

 

 

 不味い事になった。

 リオンの主神であったアストレアは既にオラリオの外へ逃がされ、止める者―――いや、止められる者のいなくなった【疾風】は、仲間を死に追いやった要因全てに復讐をしている。

 闇派閥(イヴィルス)の残党は勿論、その構成員と繋がりのあった者を闇討ちから襲撃する形でだ。

 結果として悪事に手を染めなかった冒険者や、さらには一般人、ギルドの人間にも被害が出ている。もうじきギルドのブラックリストに登録されそうだ。

 こんな事になるとはな…つくづく神が嫌になる。

 

 

 

 闇派閥(イヴィルス)は壊滅した。【ロキ・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】等、オラリオでCランク以上と認められている有力派閥に出された強制任務(ミッション)が出てからは早かったな。邪神達の多くは神々に強制送還された。

 ブラックリストに登録されていた闇派閥(イヴィルス)の人間は全て捕らえられたが……【疾風】はなりを潜めていた。勘に過ぎないが、これ以上一般人に被害の出る事は無いだろう。

 

 

 

『強化種』が現れたらしい。同族を次々と襲い、魔石を喰らったトロールが恐ろしく強くなったとか。

 冒険者依頼(クエスト)が出され、幾つかの【ファミリア】が動き出した様だが……果たしてどうなる事か。同じ様にモンスターの魔石を喰らう『異端児(ゼノス)』でも古参は第一級冒険者並みの力を誇る。まぁ今は結果を待つ事しかできないだろう。

 ……つい先程行って来た『豊穣の女主人』でどこか見覚えのある新人(エルフ)が居たんだが……気の所為じゃ、無いんだろうなぁ……まぁ、情状酌量、と言う事で良しとしよう。バレなければ問題は無い。

 

 

 

 アイズがLv.5になった。ベートに先を越される事となったが、あの若さで第一級冒険者になるのは本当に凄い事だと思う。あの子に刺激される形でティオナやティオネもすぐに【ランクアップ】する事だろう。

 ……アイズは、本当に丸くなった。ダンジョンに籠もる癖は決して治ってはいないが、ティオナが友達になってからは本当に良くなった。あの調子で居てくれれば、我々は言う事が無いんだが……。

 そう言えば、もうすぐ『学区』からエルフの女の子が来るらしい。アイズの一つ下で、Lv.2の優等生だとか。確か名前は……レフィーヤ・ウィリディスだったか。彼女にもアイズの支えになって貰いたい物だ。

 

 

 

 新たな団員としてレフィーヤが【ファミリア】に入った。アイズやティオナとも仲良くなっている様で何より。『魔法』が発現しているとの事で、彼女はリヴェリアが見ている。筋が良いと褒めていた。しっかりと勉強に励んでいるのは良い事だ。アイズやティオナはしょっちゅう逃げ出していたからな……、うん?

 不味いな、この派閥の幹部陣大丈夫か?

 

 

 

 以前の黒竜との戦いから、あっと言う間に時間が過ぎた。

 時代の流れを感じる。

 フィン、リヴェリア、ガレス、オッタル……かつての仲間(英雄)の面影が重なる彼等に加え、アイズをはじめとした若い者が育って来た。

 まだ、黒竜には早いのだろう。

 だが、ゼウスがいなくなった後、世界は少しずつ静かに変遷を迎えようとしている。

 もうそろそろだ。

 あと少し、新たな要素が加われば―――恐らくは、黒竜にも届き得る。

 もうすぐだ。

 時代が動く。

 

 


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