遠征の後に盛大な酒宴を開くのが、【ロキ・ファミリア】の習慣だ。
眷属の労をねぎらうと言う大義名分を得た
辺りはすっかり日が沈み、夜になっていた。ギルドの最奥でウラノスと話していたグリファスはホームに戻ってロキ達と合流し、彼女達と共に西のメインストリートに向かった。
「これから行く所、グリファスもよく行くんだよね?」
「行きつけの店と言う訳か」
「あぁ、昔からの知人が何人か店にいてな。しばらく行ってなかったが……」
「あそこの酒は美味いからなぁ、楽しみじゃわい」
列の前方、先導するロキの後ろでフィンやリヴェリア、ガレスと談笑するグリファスは、魔石灯に照らされる盛況な大通りの光景に目を弓なりにする。
「ミアお母ちゃーん、来たでー!」
予約を入れた酒場、『豊穣の女主人』に到着した所でロキが声を上げる。すぐにウエイトレス姿のエルフの店員が出迎えた。
「いらっしゃいませ、【ロキ・ファミリア】の皆様」
「ぬふふ、リューちゃん久方振りやなぁ。相変わらず可愛ぇでえ?」
「お戯れを」
さっそく鼻の下を伸ばすロキを彼女が軽くあしらう中、顔を見合わせる団員達が苦笑する。
この酒場はロキお気に入りの店だ。店員が全て女性であるのとそのウエイトレスの制服がロキの琴線に触れたのだろうと彼等は悟っていた。
「お席は店内と、こちらのテラスになります。ご了承ください」
「あぁ、分かった。ありがとう」
酒場にはテラスが存在した。
恐らくは【ロキ・ファミリア】の大所帯が入り切らない為の処置だろう、エルフの店員に頷いたフィンが団員の半数をテラスに座らせる。
「それではこちらへどうぞ」
残ったフィン達を店内へ案内するエルフの店員だったが―――ロキ達の後ろに着く形で傍を通ったグリファスが、彼女に聞こえるギリギリの大きさで呟く。
「―――久し振りだな、リオン」
「ッ……その名では―――」
「はは。分かってるさ、悪かった」
大きく狼狽したエルフの少女―――【疾風】に意地の悪い笑みを投げ、グリファスは店内に入る。
「いらっしゃいませー!」
「おぉ、久し振り
「はい!ミアお母さんや皆には優しくして貰っています!」
「ふーゆーかーたん!尻尾モフモフさせてー!!」
「わっ」
「ごきゅ!?」
『『おーっ』』
「……今の動き、見えなかったんスけど……」
「ん?おぉ、ベート坊か」
「なっ、おま、【
「言って無かったっけ?私ここで働いてんだよ。それと昔負けたからって親の仇みたいな面すんなって」
「あぁ!?」
「まぁまぁ落ち着け。Lv.5でも上位になったみたいだし、
『アロナぁ!この忙しい時になに油売ってんだい!』
「……母ちゃんがマジで怖いから、また今度な」
「……」
「ルノア、アロナと【
「何年か前、突っかかって来たのを返り討ちにしたって」
「何だ、つまらんニャー」
「良いから貴女達も働きなさい」
「「「あいあいさー」」」
「アイズさん、一杯どうぞ!」
「私からも!」
「受け取ってください!」
「えっと……」
「止めろお前等。アイズに酒を飲ませるな」
「あれ、アイズさんお酒飲めないんですか?」
「ん、と……」
「アイズは酒を飲ませると面倒なんだよ、ねー?」
「え、どういう事ですか?」
「お酒に弱いっていうか、下戸っていうか……ロキが殺されかけたっていうかぁ」
「最終的には私が割と全力で抑え込んだな」
「ティオナ、グリファスも、止めて……」
「あはは、アイズ顔赤ーい!」
「くくく……」
ティオナにじゃれつかれ笑い合うアイズ達の姿に笑みを浮かべるグリファスだったが……ふと、不思議な視線を感じた。
この様な場に現れると当然の様に好奇の視線が集中するものなのだが……何故か、これは不思議な感覚がした。
「……」
その視線の方向に顔を向け……グリファスは目を見開く。
(あれ、は……)
店の奥で自分達に視線を向けていたのは、白い髪に紅い瞳の少年だった。
(アイズ・ヴァレンシュタインさん……)
僕ことベル・クラネルがシルさんのお誘いを受けて食事をしていると、何かの打ち上げなのか、都市最大派閥である【ロキ・ファミリア】が酒場に訪れる。
その内の一人―――【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインさんに、僕は目を奪われていた。
その時だ。
彼女と幾つか言葉を交わしていたエルフの老人と、目が合った。
驚いたかの様に、その銀色の瞳が見開かれ。
僕もその顔を見て、呼吸を止めた。
知ってる。
あの人は世界唯一のLv.8。
【
『古代』、神様達が下界に降臨する前からモンスターと戦い続け、数多くの英雄達を支え救い指揮した、文字通りの伝説の人。
それこそ英雄碑や童話など多くの物語に登場し、歴史に名を刻んできた大偉人を生で目にする事ができたと感動に打ち震える。
その直後だ。
突然立ち上がったあの人は、怪訝な顔をするエルフの店員に何かを言って―――こちらに歩み寄って来た。
(えっ……?)
「あれ、グリファスさん?どうかなされましたか?」
「あぁ、少しな」
シルさんに軽く笑みを投げた彼は、次には座る僕を見下ろす。
「えっ、と……?」
思わぬ事態に困惑する僕が、アールヴさんを見上げていると。
「済まない。相席構わないか?」
「え、えっ。えぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええッ!?」
盛大な驚声が酒場に轟き、眼前のアールヴさんが顔を強張らせた。
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