そして今日もダンジョンダンジョン。
「くそったれ……」
「畜生、どうなってやがんだ……」
『始まりの道』、その奥。
分かれ道の前で円になる戦士達。ディルムッドやミランダが周囲の警戒に当たる中、ジャックとシルバは毒づいた。
彼等の表情は一様に驚愕と焦りに彩られていた。
異変に気付いたのは、分かれ道の前までやって来た時の事だった。
「ちっ、やっぱ奥まで続いてんのか。どんだけ広いんだ」
「地図を作るぞ。ジャック、頼んだ」
「ああ」
「意外だな、地図を作れるのか?」
「クレスと世界を回ってる間にな。教えてもらったんだ……て、おいディルムッド。何が意外だって?」
軽口を叩き合いながら手慣れたように作業を進め、『始まりの道』、今いる分かれ道までを羊皮紙に描き―――ジャックが固まった。
「?」
「ジャック?」
「どうした」
顔を強張らせる彼に次々と問いが投げかけられる中―――ぽつりと、呟かれた。
「方位磁石が、壊れた……?」
「なんだって?」
「……ああくそ、無理だな。ここでは磁気でも狂ってんのか?」
「……それが無くても、地図は作れるか?」
「できない事はねぇが……クレスと比べて質が馬鹿みてぇに下がるぞ」
「……」
どうする。
一旦退くのか、それとも進むか。
黙考するグリファスに視線が寄せられる。
少しの時間、空白が生まれ―――ピキ、パキリ、と。
付近の壁から、
『……』
誰もがその位置を見つめる中。
予想もしなかった光景が目に入る。
『―――ギィ』
壁が、
「なっ……!?」
迷宮の壁から産まれたのは、犬頭のモンスター、コボルト。
普段なら歯牙にもかけないような最弱モンスター、それが戦士達の顔色を変える。
「(まさ、か―――)」
直前に存在していた問題など、頭から吹き飛んでいた。
モンスターはどこから生まれるのか。
何故次々と『穴』―――この
誰も教えてくれず、誰にも分からず。
永らく出て来なかったその『
目の前に、あった。
牙をむいてソレが威嚇してくる中、彼等は一つの答えを出した。
「(モンスターは、迷宮から、生まれる―――!?)」
動揺も半ば、襲いかかって来るコボルトを粉砕する。
「全く、どうなってんだ……」
「……予想外、としか言い様が無いな。まさかモンスターが生まれて来るとは……」
ひとまず進む一行。とりあえずは地図を
迷わないように目印を次々とつけながら、物思いに
衝撃が抜けずにある中、時折訪れるモンスターの撃破を続けながら彼等は進んで行った。
「ここは……
開けた空間に出た所でガランが呟く。
探索を続ける中、それなりに広い空間を誇るルームとルームを通路が繋げている事が分かった。
数体の雑魚を一蹴しながら、適当な通路をコイントスで決めて進む、そんな時。
「……待ってくれ」
『千里眼』を使って前方の警戒を続けていたディルムッドの言葉に、進軍が止まる。
「どうした、
冗談でも何でも無いシルバの言葉に、ディルムッドは困惑したような顔をしながら首を振り―――告げる。
「この先のルーム、に―――階段、だ」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………おい、嘘だろう?」
先程の光景よりずっと大きな衝撃に打ちぬかれ、グリファスの、その場にいる全員の思考が白く染まる。
―――――――――階段?
この際他の階層があったって良い。坂道ならまだ良い、大穴が広がっていたって目を閉じよう。
だが……階段?
ありえない、馬鹿な、荒唐無稽だ。
何故人類の技術が、この怪物の巣窟に存在する……!?
「どういう、事だ……!?」
ジャックの言葉もロクに耳に入っていなかった。
走り出す。
「グリファス様!?」
レイラが叫んだが、構わずに疾走する。
『―――ヴゥ!?』
「―――退け」
進路を塞ぐようにやって来た
一気に懐に潜り込み、紅い魔力を練り上げ―――銀杖を突き出して胸部の魔石をぶちぬいた。
『―――』
断末魔すら上げる事もできずに灰となるミノタウロスを突破、背後から追って来る
そのルームの中央にあったのは―――確かに、下へ降りる階段だった。
「ッ……!!」
「おい、冗談だろう……?」
背後から聞こえたシルバの声も、届かなかった。
「……一体、どうなっている……!?」
足元を見下ろすグリファスは歯を食い縛り、はるか奥深くに存在する『何か』を睨みつける。
「―――この下では、一体何が起きている……!?」
あたかも、それに応えるかのように。
下の階層から、竜の咆哮が
いかがでしたか?
今話では迷宮の未知、それを追う彼等『冒険者』を描いてみました。
彼等は
次話、迷宮が牙をむきます。