デス・ア・ライブ   作:月牙虚閃

10 / 32
またまた更新が遅れてしまいました。本当に申し訳ありません。
今回は完全オリジナル回です。私が書いた駄文ですが、楽しんでもらえたら幸いです。
それでは本編をお楽しみください。


1 and 4 with cafe

あの散々たる結果をもたらした物理準備室を抜け出し、一護はある場所へと向かっていた。今、一護の手に持っていたのは、ウルキオラから渡された名刺だった。

 

 

(聞きてえことは沢山あっけど、とりあえず地図の場所に行かねえと。)

 

 

目的の場所はいつも登下校に使っている道の外れの住宅街にあった。学校と家、どちらが近いといえば、やや家の方が近いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少々走ったので、数分で目的の場所に着いた。ウルキオラが渡した名刺と同じように『喫茶店 十刃(エスパーダ)』と扉の横に立て掛けてある看板に書いてあった。ここでようやく、ウルキオラが出てきてからここまでの出来事が夢ではないことを実感した。

 

 

その思考が読まれていたかのようにドアが開かれ、中からウルキオラ本人が出てきた。

 

 

「待っていた、黒崎一護。中に入れ。」

 

 

ウルキオラが中に入っていったので、一護もそれに付いて行った。中に入ると、他の喫茶店と同じような雰囲気で美味しそうなコーヒー匂いが立ち込めていた。

 

 

「好きなところに座れ。」

 

 

一護はカウンターの1番左の席に座った。ウルキオラはその端からカウンターの中へと入って、コーヒーを淹れ始めた。

 

 

「紅茶だけじゃなくて、コーヒーも好きなのか?」

 

 

「まあな。お前はどうだ?」

 

 

「人並みには飲むぐらいだけど。」

 

 

「そうか。」

 

 

ウルキオラが戦闘を中断までして、紅茶を飲んでいたことをこの光景を見て思い出した一護であった。少しして、出来上がったコーヒーを差し出した。出てきたコーヒーを一口飲むと、くど過ぎない程良い苦みが口の中で広がっていく。

 

 

「美味いな。」

 

 

「当然だ。」

 

 

一護はしばらくの間ウルキオラの淹れたコーヒーを楽しんでいた。だが、一護がここに来た目的はコーヒーを飲みに来たわけではない。なぜ、ウルキオラがこの世界にいるのかを聞きに来たのだ。

 

 

「なあ、なんでウルキオラがここにいるんだ?」

 

 

一護の飲み終わったコーヒーが入っていたカップを片付けていたウルキオラの動きが止まった。そして、カップを片付けてから『staff only』の表示がある扉を開けた。

 

 

「スターク、起きろぉぉ。スタークってば…」

 

 

部屋の奥の方に寝ていたオッサンが今、緑髪の少女にゆすり起こされている。しかし、全く起きる気配というより起きようという気配がない。客が来ているにもかかわらずにもだ。

 

 

「もしかして、忙しい時間に来ちまったか?そうだったら、出直してくるけど。」

 

 

「構わない。あれはいつものことだ。」

 

 

ウルキオラが小さく嘆息すると、人差し指を少女にスタークと呼ばれたオッサンに向けた。そして、その指先に緑色の閃光が収束していく。

 

 

「ちょっと待て!虚閃(セロ)なんか使って、何するつもりだ!?」

 

 

こんなところでウルキオラが虚閃(セロ)を使ってしまったら、ここにいる場所を中心に小さく見積もっても半径数キロは廃墟と化してしまう。

 

 

「問題ない。ここには顕現装置(リアライザ)が展開してある。俺が虚閃(セロ)を使ったとしても被害はここだけで収まるはずだ?」

 

 

「そこのオッサンが消し炭なるから!ついでに疑問形っていうことは、顕現装置(リアライザ)で止められる自信がないじゃねえかよ!」

 

 

一護が必死にウルキオラ虚閃(セロ)を放つのをやめさせるよう努力したものの全く意味を成さない。ついに、虚閃(セロ)が臨界状態に達したそのとき…

 

 

「ふぁ~、よく寝た。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタークが起きたことにより、ウルキオラによるこの地域の壊滅の危機が回避された。少しの間でも世界を危機に陥らせたその代償としてスタークは緑髪の少女に猫のように引っ掛けられた。

 

 

「悪いな。俺のせいで軽く騒がせちまって。」

 

 

本当は軽くどころではないと突っ込みたい一護なのだが、それは胸の中で封印するとした。

 

 

「俺はコヨーテ・スタークだ。それでうるさくてちっこいのがリリネット・ジンジャーバック。」

 

 

「ちっこい、とか言うな!」

 

 

スタークがちっこいと言ったのに対してリリネットが抗議の声を挙げるが、どうでもいいといった様子で自己紹介を続けた。

 

 

「もうとっくにわかっていると思うが俺とリリネットは元は人間じゃない。」

 

 

「知ってる。1度虚圏(ウェコムンド)で会ったからな。」

 

 

一護とスタークの関係はウルキオラとの関係のように深くはないが、一護が一度助け出した井上織姫を目の前で連れ去ったのである。もう藍染の時の出来事は解決したものの、やはり気まずさは拭えなかった。

 

 

「あのときはすまなかったな。謝って済む問題とは思ってねえが、本当にあの女の子を連れ去ってしまってすまなかった。」

 

 

「こっちの世界にはいねえけど、謝るんだったら俺じゃなくて井上にしてくれ。怖い思いをしたのは井上なんだから。」

 

 

「そうだな。」と、スタークが一護に反応を返して、織姫を連れ去った件は一応の和解は出来た。しかし、ここで気になることがひとつ。

 

 

「スタークさん、あんた何番なんだ?」

 

 

ウルキオラと戦いでは、一護自身ウルキオラと戦うことができることが不思議なくらいの強さだった。まだ本当の力(・・・・)には覚醒していなかったものの、まるで石造か何かと戦っているような感覚であった。その上で、目の前のスタークという男は先述した場面で一護が消えたという感覚に陥れさせられた。このことから、スタークの実力はウルキオラと同等以上という推測が建てられる。

 

 

スタークは手に着けていた白い手袋を外した。そこから肌色の肌の手が露出した。その手の甲に黒で序列が示されていた。

 

 

「悪いな。俺が♯1(プリメーラ)だ。」

 

 

「あんたが…」

 

 

目の前にいる男は(ホロウ)の力を借りて何とか勝つことができたグリムジョーや、(ホロウ)の力を使っても勝てなかったウルキオラよりも上ということになる。

 

 

「俺は、いや俺たち(・・・)は他の破面(アランカル)とはなった成り立ちが違う。」

 

 

一護はスタークの言ったことを理解出来なかった。大虚(メノスグランデ)は幾つもの(ホロウ)の魂が折り重なって生み出されたモノなのだが、スタークが言いたいことはそういうことではないらしい。

 

 

「おそらくほとんど破面(アランカル)(ホロウ)から進化したときに己の魂を体と斬魄刀に分ける。」

 

 

このことは一護も知っていた。以前朽木ルキアから聞かされ、浦原喜助にもそのことを敵を打ち倒すには敵をよく知ることが1番というような理由から詳しく説明された。おかげで、話についていけているわけなのだが…

 

 

「本当の意味でスタークという存在を指し示すのは、俺だけじゃない。リリネットもスタークの一部だ。俺たちは本来肉体と刀に分けるべき魂を2つ肉体に分けた。」

 

 

「そうなのか。」

 

 

ウルキオラもこの起源を知らなかったようで、そんな声を漏らす。わざわざ自らの生い立ちを他人の目の前で話すということは、崩玉によって呼び出されたことと関係しているからであろう。

 

 

「俺たちが2つの肉体に魂に分けたのは単純なことだ。元々俺たちが持っていた力が大き過ぎる為に魂の力を肉体と刀という入れ物だけじゃ足りなかった。だから、俺たちは己の魂を肉体と肉体という形で力を分散させながら分けた。そうしなければ、俺たちの力はその場に居るだけで周りに居る霊圧の小さい(ホロウ)を死に至らしめてしまう。」

 

 

一護は魂を2つの肉体を分けた理由をそれだけではないと思った。なぜならば、話をしている最中ずっと顔を俯かせていた。まるで1度失ったものは取り戻すことができないということを味わったかの様子であった。

 

 

十刃(エスパーダ)には司る死の形があるということは知っているか。」

 

 

「…知らねえ。」

 

 

この事実を一護は知らなかった。誰からも教えてもらえなかったから知らないというのは当然であるが。これを聞いて7つの大罪のようなものを一護は思い浮かべた。司る死の形についての説明をスタークの代わりにした。

 

 

「司る死の形は各々の十刃(エスパーダ)の性格・能力・戦闘方法に関わってくる。因みに俺の司る死の形は『虚無』だ。それ故に俺は何もないところから傷ついた体を造り直す『超速再生』を成体の破面(アランカル)となってしまっても失うことはなかった。そして、その能力の根源となったものは何もない場所で死に、何もない虚圏(ウェコムンド)(ホロウ)として生み出された。」

 

 

ウルキオラが司る死の形を説明したついでに、自分のことに関しても話した。軽く説明されたのでまだ深くは理解出来ていなかったが、大体のイメージを掴むことができた。続いてスタークが再び身の上話を引き継いだ。

 

 

「俺の司る死の形は『孤独』だ。さっき話したことから分かると思うが、俺たちは居るだけで周囲に死をばら撒いてしまう。だから、‘孤独‘を紛らわす為に2つの体を生み出した。」

 

 

この話を聞いて一護はスタークと藍染の置かれていた状況に似ていたのではないかと思う。藍染に関しては自分の勝手な想像なのだが。それに、一護自身も見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)との戦いで強くなり過ぎた故に隔離されそうになった。だが、なんとか自分の力を抑える術を見つけることができたので今ここに居る。その方法が見つからなければ孤独になってしまうところだったのかもしれない。

 

 

「それで俺たちは虚圏(ウェコムンド)で意味もなく放浪していたところで藍染サマに見出されて、俺たちは十刃(エスパーダ)となった。2つに体を分けて自我に目覚めた瞬間から俺たちは孤独だった。俺たちは共に居てくれる奴だったら誰でもよかった。俺たちが弱くなれないのなら、俺たちと同じぐらい強い奴らのそばで居たかった。だから、藍染サマについていったけど、最後は斬り捨てられたけどな。」

 

 

スタークは最後に憂うような顔をして、藍染について行ったのが本当に良かったのか悩んでいた。

 

 

「そういうことだから、俺たちが仕出かした間違いを償いたいという気持ちが俺たちをここに呼び出されたのかもな。まあ、それでも俺たちを拾ってくれた藍染サマには感謝してる。」

 

 

恐らく未だ崩玉を従えた頃の藍染の元に就いていた頃の忠誠心が残っている。崩玉の特性によって死んでもなお藍染に対しての忠誠心が強いが為、今一護が従えている崩玉の元に生き返ったのだろう。そう思った一護はスタークに対して確認の為に質問をした。

 

 

「スタークさんが今まで潜ってきた過去は気の毒だと思うし、藍染の下で従っていたのも分かる。けど、今は俺と家族に敵対して危害を加えるということは無いんだよな?」

 

 

「もちろんだ。それに俺たちが戻ってくる対価として崩玉にお前の下で動くことを誓約したからな。それはウルキオラも同じだろうな。」

 

 

スタークの口から出たウルキオラは頷いた。どうやらスタークが言ったことは間違ってはいないみたいだ。それで一護はスタークが敵対する意思がないということに安堵した。

 

 

「それが聞けて良かった。それで、俺のことは自由に呼んでもいいぜ。ウルキオラもな。」

 

 

そういうことでスタークは五河、ウルキオラは一護と呼ぶこととなった。スタークの話はこれで終わったらしくそそくさとその場から離れた。リリネットも連れて外に出掛けたようだが、ウルキオラ曰くあの2人が何処かに行っても問題ないらしい。「よくウルキオラ独りで店を回すことができるな。」と思った一護なのだが、今度はウルキオラ自身の話を始めた。

 

 

「俺が話すことはお前が暴走して消える前の話だ。」

 

 

その当時のことはよく覚えている。何せウルキオラを消し飛ばしたのは一護なのだから。この出来事は一護がこれまでの戦いの中で最も悔いが残った戦いだと言っていい。

 

 

「俺は藍染様の命を受けお前の前に立ちはだかり、そして敗北した。俺があの世界から消え去ろうしていたとき…女――――――井上織姫を見ていた。」

 

 

織姫がウルキオラにどのようなことを伝えたのだろうか。最後の最後でウルキオラは何を思ったのであろうか。それはウルキオラ本人から打ち明けられる。

 

 

「そのときまで心が必要なものだと思えなかった。むしろ、心があるが故に傷つき、命を落とす、無用なものだとしか考えていなかった。だが、女が最後に俺に残した言葉が心とはどういうものであるか少しだけ知った気がした。」

 

 

あれだけ一護がしてきた行動を否定し続けたウルキオラがこのようなを論じるとは、一護にとっては意外だった。しかし、これは一護が何故戦うのかという理解不能な心持をウルキオラに解ってもらう良い機会なのかもしれない。

 

 

「藍染様はお前に敗けた俺をもう必要とするまい。それならばお前たちのことを知り、心というもの解りたかった―――――と願った。恐らく俺がここに呼ばれたのはそう願ったかもしれない。」

 

 

ウルキオラがこの世界に呼ばれた心当たりを話していたときにも、一護はあの戦いで犯した罪に苛まれいた。ウルキオラがこの世界に呼ばれたのはああいう理由だと言っていたが、精神世界に潜っていたときに崩玉に自分自身に理由があると指差された。

 

 

ウルキオラと対面した今ならば解るかもしれない。あの戦いを無かったことにしようと心の片隅に追いやろうとした。それが逆に余計にウルキオラに対しての罪の意識を増幅させた。そして、自分の意思に反して消し飛ばしたウルキオラとの決着を着けたい―――とそう願ってしまった(・・・・・・・)。一護は自分の都合で消し飛ばし、自分の都合によって呼んだという答えに至ってしまった。これ以上ウルキオラに隠し続ける訳にはいかない、もう気づいてしまったのだから。ついに、一護は自らの罪をウルキオラに告白した。

 

 

だが、決意して告白した一護にウルキオラが返した答えは予想していたものから外れていた。

 

 

「意外だな。てっきり俺は女を護るために戦い、助け出したのだからもう気にしていないかと思ったが。」

 

 

「そんなワケねえだろ!確かに井上は助け出した。けど、そんな理由を振りかざして誰かを殺していいということはならねえよ。だから、俺は全てを護りきれなかった。」

 

 

そんな一護を見ながらウルキオラは表情を変えずに言い放った。

 

 

「やはり思い通りにならん男だ。だが、これも心というものだろうか。もしそうならば、こういうのもいいかもしれない。」

 

 

「ウルキオラ…」

 

 

今まで心の片隅に追い込んで見ないようにしてきた事実にウルキオラは何も変えず接してきた。もう気にしていないというわけではないだろうが、一護は少し気持ちが楽になった。

 

 

「今日はもう閉店だ。帰れ。」

 

 

一護は時計を見ると7時を指していた。もう日もとっくに沈んでいる。訓練をしている士道の為にも今日は食事の準備しなくてはと思い、家路を急いだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。