デス・ア・ライブ   作:月牙虚閃

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大分更新が遅れて申し訳ありませんでした。今回の話は過去最長の10000字越えです。ただ、ネタに走ってしまった部分も多々あるのでご了承ください。
では、作品をお楽しみください。


Promise

一護と士道が無理やりギャルゲー訓練をやらされ、更に一護が例の喫茶店を訪れた日から数日後――――――士道のギャルゲー訓練を無事終了させた。だが、士道が選択に失敗の代償として幾つもの昔の黒歴史が公に流出したことか。ちなみに、一護は琴里が率いるフラクシナスの工作員が訓練に連れ戻そうとしているが、どれも人間業とは思えない動きで工作員を躱して逆に工作員を打ちのめしていた。それでも、一護が逃げ回れる1番の理由は、こちらの世界に来てから士道のような黒歴史を残していないからだ。まあ、精神年齢としては一護は20代なのだから当たり前なのだが。

 

 

それで訓練が一区切りついたので、新たなステージに入ることになった。今回の訓練は琴里の策略(士道が某龍の玉を集める話の主人公の真似をしている画像を合成して、まるで一護がしているような写真)によって強制的に訓練に参加させられているのだが…

 

 

「なんだよ…この状況。」

 

 

現在、士道は折紙と廊下の角で衝突して地面に倒れている。そこまでは良い、実際に起こりうる出来事だ。だが問題なのは折紙の白いパンツが丸見えで、所謂M字開脚のような体勢を取っている。しかも、折紙がその体勢となって倒れる際に士道と揉みあって、運悪く一護も巻き込まれ倒れてしまった。何故か一護の股の上に折紙の顔があった。

 

 

元々このような事態を引き起こした要因は一護と士道のあるのだが、あれは致し方ないような気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間を少し遡って…

 

 

精霊を口説き落とす訓練として、最初に選ばれたターゲットが岡峰珠恵―――――通称タマちゃん先生であった。精霊を口説き落とすのは主に士道なので、例の物理準備室から出て行った士道を見送って一護は別に付いていかなくてもいいだろうと教室で待機しようとしたのだが…

 

 

「何してるのよ。一護も行きなさい。」

 

 

「何で俺も行かなくちゃいけねえんだよ。士道と精霊の二人きりの方が上手くやれるだろ。」

 

 

「甘いわね、タンドリーチキンに蜂蜜をつけてから黒砂糖をまぶしたぐらい甘いわよ。」

 

 

琴里の言った表現を思い浮かべると胃液がせりあがるぐらいの味を一護は想像してしまった。それを何とか堪えて何故行かなくてはならないのか尋ねたところ。

 

 

「よく考えてみなさい。士道は女性の経験が無いのよ。そのうえ女性から好意を寄せられていたとしても全く気付かない朴念仁だわ。そんな士道に精霊を口説き落とせるとでも。…だから、私のことも気づいてくれないんだから。」

 

 

かなり酷い言われように苦笑した。琴里が最後の方に言ったことは声が小さくて聞き取れなかったが、一護も琴里の挙げた意見に士道が当て嵌まるのは納得できた。

 

 

「だから、俺も一緒に付いて士道をフォローしろ、っていうことか。けど、俺も生憎ながら女性経験はねえよ。俺ってそういうのって柄じゃないし。」

 

 

「そんなワケ無いでしょ。女子から人気は5位っていう情報も入っているのよ。でも、正直言うと士道だけじゃ心配なのよ。いつも自分のことを考えないで突っ込んでいくんだから。私も精霊を助けたいと思ってるけど、士道おにいちゃんだけを危険なところに送り込んで私は安全なところで指示、というのは嫌なの!」

 

 

琴里の士道を大切に思う気持ちを聞き届けて、物理準備室の扉を開けた。

 

 

「一護おにいちゃん…」

 

 

「俺に任せろ。士道も琴里も精霊も全部俺が護ってやる。だから、安心して俺と士道に指示してくれ。俺はそれに従うし、多分士道もそれに従うと思う。危なくなったら、俺が必ず助ける。」

 

 

そういうわけで、一護はタマちゃん先生と士道がエンカウントしている場所に向かったのだが…

 

 

「本気で先生と、結婚したいと思っているんです。」

 

 

は…、何を言ってんだこいつ。

 

 

これが士道の言った結婚宣言に対しての一護の最初の反応であった。だがその反応はタマちゃん先生のリアクションによってすぐに塗りつぶされた。

 

 

「本気ですか…」

 

 

いつものタマちゃん先生からでは考えられない雰囲気にたじろぐ士道。一護もこの圧倒的なタマちゃん先生の雰囲気に後ずさりそうになった。

 

 

「!…一護くんも本気ですか。」

 

 

タマちゃん先生が一護の存在に気づいて尋ねた。まさか、自分にフラれるとは思わなかった一護はすぐには返事を返せずしどろもどろとなった。そして、ついにタマちゃん先生の封印は破られる。

 

 

「結婚するとなると両親のところに婿入りして実家の仕事を継いでもらったり、両親の世話をしたりとかいいんですか!?」

 

 

「いいんですか?」とか言うわりには、一護と士道のブレザーを掴んでかなり必死でこのままタマちゃんによって強制的にゴールインされてしまいそうだった。それと、目が血走っていてなんというか怖かった。

 

 

「そうだ、まだ俺16歳なんで結婚は…」

 

 

士道がなんとか逃げ道を探ろうとまだ結婚できる年齢ではないということを挙げたが、それはタマちゃんには意味がなかった。むしろ、結婚へと突き進むタマちゃんの思考を更に加速させた。

 

 

「心配しないでください。血判書を作りますから、痛くしませんから安心してください。あ、日本って多夫一妻制が認められてないんですよね。」

 

 

「そ、そうですよ。ああ残念だったなぁ、一夫多妻制じゃない日本じゃ1人しか結婚できませんよね。結婚するんだったら、俺よりも士道の方がいいですよ。俺、士道との結婚を期待してます。」

 

 

琴里に士道を護ると言っておきながらこれは酷い選択だった。裏切られた士道は逃れる道を絶たれたということで汗をダラダラと頬を伝って、一護を睨むことしかできなかった。だが、タマちゃんはその定められている法でさえ乗り越えようとした。

 

 

「それなら私のツテを使って国会で法を…」

 

 

「「ごめんなさい!」」

 

 

想像を越えたタマちゃんの行動力に一護と士道は謝りながら走り去っていった。2人で全力で走って廊下の曲がり角に差し掛かったところで現在に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「そ、その、すまん!」」

 

 

一護と士道の位置が絶望的だ。一護には往復ビンタ若しくは顔面パンチを、士道は回し蹴りを喰らっても可笑しくないレベルのことをしでかしてしまった。だが、被害を受けた女子生徒―――――折紙は一般の女子生徒と異なった対応をした。

 

 

「問題ない。むしろ、嬉しかった。」

 

 

「え?」

 

 

思わず一護はそんな声を漏らしていた。士道の方も同じような様子だろう。折紙がそれを気に留めず無表情で言葉を続けた。

 

 

「五河士道は私の下着を見た。五河一護は私に膝枕をした。これは事実。」

 

 

一回「嬉しかった。」と持ち上げてから、事実を並び立てて脅して奴隷にされるのではないかという予感がよぎったものの、さすがにそこまではしないだろうと思い直す一護。やはり、何か男の尊厳を踏みにじるような制裁を実行するのではないかと思う士道。だが、そんな一護と士道の思考なんて比べてぶっ飛んだ考えを折紙の脳内で展開されていた。

 

 

「このような行為は恋人以上の関係を持つ人間同士なら許せるもの。ということは、私と五河士道、そして五河一護は恋人である。」

 

 

論理が飛躍し過ぎている。ただの事故から思考を膨らしてここまでの結論を導き出せるに折紙に脱帽である。タマちゃん先生といい、折紙といい、2人が通っている学校の人々は個性的だ。

 

 

折紙は恋人判定してすぐ一護と士道のそれぞれの腕を掴んだ。折紙がこのような行動をしたのか2人にはわからなかった。その疑問を見通したかの如く折紙が答えた。

 

 

「私たちは恋人。デートするのは当然。」

 

 

折紙は完全にデートをする気である。しかも、堂々と二股で。デートと恋人であることを誤解だと認識させるために「恋人になったつもりがない。」と言うのは恋人認定をした折紙のことを思うと至難のことだと思えた。したがって、一護と士道は折紙のデートを受けることにした。

 

 

それに、一護は精霊に対して並々ならぬ憎しみを持つ折紙の本心が聞きたかったということもある。士道の方は分からないが少なくともそのことは心の隅にはあるだろう。

 

 

―――――――ウゥゥウゥゥウゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウ―――――――――――

 

 

唐突にけたたましいサイレンが鳴る。これは始業式のときと同じサイレンの空間震警報だ。

 

 

「急用ができた。また。」

 

 

折紙が短くそう言うと、軽やかに昇降口の方へ駆けていった。おそらく精霊が出現したため出撃要請が出たのだろう。ASTが動いたということは、こちらも動くことになるだろう。そう一護が思った通り、士道を通じて精霊との接触を行うという情報が伝えられた。ちなみに、士道はインカムを装着しているためフラクシナスに移動した琴里も指示を受けているが、一護はインカムを装着する前に出ていってしまったため琴里の指示を受けられない。したがって、琴里からの誘導で士道が先導して精霊の出現予想地点へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精霊の出現予想地点は教室だった。しかも、まだ進級して間もないものの自分たちの教室だった。今、一護と士道はその教室前にいる。もう既に精霊は中にいるようだが、まだ士道の中に入る心の準備ができていなかった。

 

 

「とりあえず中に入ってみようぜ。もし何かあったらなんとかするから。」

 

 

「さっきタマちゃん先生に詰め寄られたときに見捨てたくせに。」

 

 

「ぐ…」

 

 

士道がジト目で一護を見た。さっきの出来事を根に持っているようだ。だが、このままじっとしているわけにはいかない。ようやく士道が覚悟を決めて教室の中へと入った。

 

 

中に入ると教室は見るも無惨に破壊されていた。もし今日に限って置き勉をしていたら普通に笑えない状況になるだろうな、と場違いなことを考える一護だが、すぐに中に件の精霊がいることに気づいた。先方もこちらの存在を認識したようで、一護と士道がいる方向に振り返った。そして、掌を2人に向けた。

 

 

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ―――――――――――

 

 

危なかった…

 

 

精霊の少女が頭上に浮かべていた破壊力抜群の黒い球体を一護と士道に向けて放った。幸い一護が反応が遅れた士道を掴みながら回避したので事なきを得た。黒い球体が襲った場所は抉れて所々に穴が空いていた。もし回避が遅れていたら、士道の体に幾つもの穴が空いてしまうところだった。

 

 

「む?お前たちはこの間の…」

 

 

「そうだ。」と一護が応えようとしたところ士道がいきなり口を押えてきた。いったいどういうつもりだ、と言おうとしたが、精霊の少女を刺激しないように小さな声で話しかけた。

 

 

「いきなり俺の口を押えやがって…何かあったのか?」

 

 

「ごめん兄貴。でも、琴里から通信が入ってあの子にどう話しかけるのか検討してるみたいだから。ちょっと待って。」

 

 

士道と一護がなかなか返答してこなかったので精霊の少女がいらいらし始めた。そろそろ返答しなければ、斬撃の一つや二つは襲ってきそうだった。

 

 

ここでようやく作戦が纏まったのか、士道がインカムを押えて琴里からの通信を受けた。これで緊張は和らぐだろうと思っていた一護だったのだが、作戦の内容が余程おかしいのか士道の顔が脂汗をかきながら青ざめていた。正直言って、一護もこんな士道の顔を見たこと無かった。インカムを通して琴里に諭されたのかわからないが意を決して士道は作戦を実行した。

 

 

「我が名は『ダーク・オーバーブレイカ―』。貴様を我が眷属に…」

 

 

今度は剣を振って霊力の篭った斬撃が襲った。今回はただの威嚇の為だったのか敢えて士道と一護の目の前の地面に当たり床が破壊された。こんな当てるつもりのない威嚇でも士道には十分な恐怖を植え付けた。一方、一護は士道が中学生のときにそういう類のアニメ等々を見ていて全力でやってたな、と士道の中二病ぶりかなり引いた。あとから聞いた話だと、もしあれを実行しなければ動画配信サイトで士道の黒歴史を公開すると琴里から脅されいたようである。哀れ、士道。

 

 

「何だそのしゃべり方は?驚いて思わず貴様の首を刎ねてしまうところだったぞ。」

 

 

本当に士道の首が刎ねられてしまったら精霊の力の封印どころではない。人生がゲームオーバーだ。士道は再び黒歴史に刻まれるようなことを命が掛かっている状態でさせた琴里に心中で愚痴りながらも気を取り直した。

 

 

「さっきはごめん。脅かすつもりは無かったんだ。今日は君と話をしにきたんだ。」

 

 

士道はそう言うと精霊の少女は臨戦態勢を解いた。これは以前に出会ったときに話をしたから警戒を弱めているのだろう。

 

 

「シドーとか言ったな。私と話し合いたいとは、一体何が目的だ。」

 

 

士道が答えを返そうとしたら、再びインカムを通して新たな指示が与えられた。また突拍子のない指示をされなければいいのだが…

 

 

「実は…君を…抱きに来たんだ!」

 

 

精霊の少女が士道の告白を理解した瞬間、顔が完熟トマトのように赤くなった。さらに訳が分かんなくなって剣を出鱈目に振り回し―――――霊力の篭った剣圧が無差別に襲う。

 

 

「何を言っているのだ馬鹿者めッ!?」

 

 

尚も精霊の少女の熱暴走は続いている。このまま何もしなければ力を解放していない一護と士道は塵も残らない程切り刻まれるだろう。そこで、チンプンカンプンな指示を出す琴里を後で説教してやろうかと心の内で決めながらも、士道を抱えながら空気を完現術(フルブリング)してその場に残像を残すような速度で避けていく。

 

 

数分後―――精霊の少女の熱暴走は治まった。だが代わりに、士道が部屋の片隅で絶賛現実逃避中だ。それもそのはず、琴里に黒歴史レベルのことをさせられ、その上精霊の攻撃を避ける為とはいえ一護にお姫様抱っこをされた。もう男のプライドがズタズタである。

 

 

「うん、そのごめん。」

 

 

「もうやめて!もう俺のもうとっくに壊れてるガラスの心を粉々にしないでッ!」

 

 

一護の同情が余計に士道を苦しめていた。その一部始終を見ていた精霊の少女は若干顔を紅く染めながら不機嫌そうに見ていた。そんな表情をしているのを士道と一護は気づき、不愉快の思いをした精霊の少女が斬りかかると思っていた。その予想通り、精霊の少女は2人の元に向かっていた。一護は死神化する為に代行証を胸に当てようとした。

 

 

「へ?」

 

 

一護は自分からそのような声が漏れているのに気付いた。士道は精霊の少女の動きが速すぎて何が起きているのか理解出来ていなかったが、一護は精霊の少女が剣を霧散させているのを認識した。そして、少女はそのまま一護と士道に抱き着くかのように突っ込んだ。

 

 

 

「げほっ、げほっ。一体何なんだよ?」

 

 

一護はまだ死神化していなかったので体にそこそこのダメージを負ってしまった。ただの人間の士道に至っては一瞬三途の川を渡りかけた。士道は何とか意識を取り戻してはっきりと周囲の状況を確認できるレベルにまで達した。そこで士道は戦慄した。何せ目の前に精霊の少女がいるのだから。

 

 

士道は同じ状況下にある自分よりかなり頑丈な筈の一護を見てみると、驚いていない代わりに顔を紅く染めていた。その理由はすぐ知れた。精霊の少女の豊満な胸が一護の胸板に当たっていたのだ。それを指摘しようと思ったのだが、また暴走を起こしては困るということで何も言わないことにした。それは一護も分かっているらしい。

 

 

「二人だけでずるいぞ。私も話に混ぜてくれ。」

 

 

予想外すぎる精霊の少女の言葉に士道と一護は耳を疑った。だが、すぐに答えた。

 

 

「そうだな。皆で話した方が楽しいに決まってる。」

 

 

一護の言葉に士道が同調して首を縦に振る。それを見た精霊の少女はパアっと表情を柔らかくした。自分が受け入れられて相当嬉しかったようだ。

 

 

「なんで俺たちと話したいと思ったんだよ?」

 

 

はっきり言って士道はこの間会ったばかりのこの少女を心を開くことが出来ているのか心配だった。だから、少女にこのような質問をした。

 

 

「これまでの人間たちは私に見向きもしなかった。だが、シドーとイチゴは初めて私のことを見てくれた。それだけでも嬉しかったのだ。そして二人は私を救ってくれるといったのだ。信じたくなったのだ、2人を。」

 

 

士道の心配は杞憂に終わった。氷の心を溶かした、さらに好感度を上げるためにこれから本格的対話を始めることになる。その前に一つ問題があった。

 

 

「私と話をするには名前が必要だな。これまでは誰もいなかったから必要なかったが。そうだ、シドーとイチゴで名前を付けてくれ。」

 

 

これは何とも責任重大な役目だ。こんな経験は他の者にはいないであろう。というよりも、一護は前世と合わせると実年齢は30代半ばであるが、結婚して子供をつくる日を迎える前に名づけ役がやってくるとは非常に複雑な心情だ。

 

 

というわけで2人は精霊の少女の名前を決めることになった。名前というものは両親の願いを表したものだったり、名前の総画数で名づけられた者の運命が変わってきたり―――――――――――何が言いたいのかというと、名付け親の責任は重大だよね。その重大さを解っている士道と一護は名前を決めあぐねていた。精霊の少女はキラキラとした瞳で待っているので、あまり変な名前は付けられない。

 

 

ここで士道がインカムを押える仕草をした。どうやら琴里が名前を考えてきたようだ。今回はこれから行う行動の指示ではなく名前の決定なので、余程センスがないということが無い限り変な名前が付けられることはないだろう。そして、士道の口から精霊の名前を告げられた。

 

 

「君の名前はトメだ。」

 

 

床が崩れ落ちた。士道から告げられた名前は相当に嫌だったらしく地団駄を踏んだ結果がこれだ。一護が再び完現術(フルブリング)を駆使して無事に下の階に着地した。士道をお姫様抱っこした状態で、だが。それにしても、いくら琴里が考えた名前でもトメは酷過ぎる、と思う一護であった。

 

 

「なぜかわからんが、バカにされたような感じがした。」

 

 

この通り精霊の少女も一気に不機嫌になった。こんな調子では先が思いやられる。このままではいけないと思い、今度は一護から考えた名前を告げた。

 

 

「そうだな、夜空だったらどうだ?」

 

 

う~ん、と悩んでいるような仕草を見せてから首を横に振った。

 

 

「確かにその名前は悪くないのだが、何だかその名前にしては残念になってしまうような気がするのだ。別にエア友達はいないはずなのに。」

 

 

何を言っているのか分からないが、精霊の少女の期待には添えることができなかった。一護は決して隣人部のことを意識して名前を考えたわけではない。夜色の髪に合っていると思っていたのだが。

 

 

今度は士道が自分自身で考えた名前を告げた。そしてその名前にはかなりの自信があった。

 

 

「それじゃ、君の名前は月海だ。」

 

 

「私は水を操れないし…その…パンツ丸見えちゃんでもないぞ。」

 

 

今度は精霊の少女が顔を若干赤く染めて恥ずかしいという気持ちに堪えながら、拒否した。この名前にしたのは、決して典型的なツンデレ少女を思い出したわけではない。

 

 

これでは永遠に名前が決まらない。一護と士道がそれぞれで考えた名前は採用される可能性は低いので、次は2人で一緒に考えることにした。精霊の少女の男性なら必ず魅了される容姿から名前を考えると先ほどの一護が考え出した名前に辿りついてしまったので容姿から考えるのは止めた。

 

 

「夜空がダメなら、どんな名前にすればいいんだよ。」

 

 

一護は自分たちのアイデアの無さを嘆きつつも引き続き真剣に考えた。士道も唸りながらも一つの名前を捻りだした。

 

 

「十香…とか、どう?」

 

 

「いいと思うぜ。それで、その名前どこから持ってきたんだ?」

 

 

一護がそう尋ねると士道はやや気まずそうにした。それで、精霊の少女には聞こえないような声で一護に耳打ちした。

 

 

「俺たちが初めてあの子と会ったのは4月10日だろ。そこから名前をつけたんだ。」

 

 

確かにこれはあの子に明かさない方がいいよな、と一護も思った。その当事者である精霊の少女は一護と士道がひそひそとしているのを見て頬を膨らました。

 

 

「また私を仲間外れにしたな。私にも話に入れさせろ。」

 

 

「分かったって、その前に俺たちで決めた君の名前を言っていいか。」

 

 

頬を膨らましていた精霊の少女は一気に顔を綻ばせ、明るい笑顔となった。名前の発表は思いついた士道からすることにした。今度こそ受け入れられると信じて精霊の少女に発表した。

 

 

「君の名前は…十香だ。」

 

 

精霊の少女に名前を告げた後、一瞬の静寂が訪れた。士道と一護が少女の顔色を窺った。すると、少女の瞳が徐々にキラキラと輝いていって…

 

 

「うん、いいと思うぞ!」

 

 

これで一安心だ。こんなに喜んでもらえたのならば名前を付けた甲斐があったというものだ。ここで精霊の少女―――――――――――十香が士道に体を向けた。

 

 

「シドー、私の名前を呼んでくれ。」

 

 

「十香…」

 

 

名前を呼ばれて満足そうしている十香は次に一護の方に体を向けた。

 

 

「イチゴ―――」

 

 

「―――――ああ、解ってる。十香…」

 

 

一護からも自分の名前を呼ばれて相当に嬉しかった。こちらの世界に引き寄せられた(・・・・・・・)中で今が1番嬉しかったのかもしれない。今までは敵意を向けられてこんなことは無かった。

 

 

「トーカ、とはどうやって書くのだ?」

 

 

「それはな…」

 

 

士道がチョークの入っている箱からチョークを取り出し『十香』と書いた。十香もそれを真似てビームらしきもので黒板を削って書いた。下手くそな字だったが『十香』と書けていた。

 

 

ここでまた士道に琴里からの通信が入った。現在の十香の状態は士道と一護に対して非常に好感を持っている。これに水を差すような指示はやめてほしい。

 

 

「そのだな…デートしてくれないか?」

 

 

――――――デート?―――――士道の言った言葉に一護は首を傾げる。別に言葉の意味が解らないというわけではない。なぜにこのタイミングで誘ったのか、と疑念を浮かべた瞬間、前方の壁が爆発したかのように破壊された。おそらくASTの仕業であろう。

 

 

それを頭の中で理解したところで一護はすぐに死神化した。

 

 

「士道、俺があいつらの攻撃を全部止める。お前は十香と対話を続けてくれ。」

 

 

「分かった。死ぬなよ。」

 

 

「誰にモノを言っているんだよ。」

 

 

互いに信頼があるが故の士道と一護の選択である。だから士道はASTの猛攻を気にせずに対話を続けることにした。

 

 

「いいのか?イチゴには凄まじい戦闘力を持っていると思うが、あの数のメカメカ団を裁ききれるだろうか?」

 

 

 

十香は心配そうに士道に尋ねる。士道は眼前にただ立っているだけの一護に目を向けるように促した。そこには、ASTの集団からミサイルや弾丸やら殺意が籠った兵器が飛んでくる。だが、その前に一護に届く直前でそれらの兵器は全て灰となった。

 

 

「ほら、兄貴の言った通りだろ。」

 

 

実は何かしらがこちらに飛んでくるのではないか、とハラハラしていたのはここだけの秘密だ。一護が本当に止めてくれたので十香の不安が払拭できた。ここからしばらくの間、銃弾やらミサイルなどが飛んできている中で士道は十香と対話した。内容としては、十香の目に入っているモノの中に疑問を浮かべたことに対して士道が答えるというシンプルなものであった。それでも会話が楽しかった。どれもなんてことがないような話だが、十香が大きく反応してくれる。それを見ているとよりいっそうに十香を救い出したいと思った。

 

 

「ところで、デェトとは何なのだ?」

 

 

士道は思わず声を詰まらせてしまった。琴里やフラクシナスのクルー達には急かされたものの、十香にその単語を教えたのは士道自身である。変に単語に伝えてしまったら取り返しのつかないことになってしまうので、どう伝えようか悩んでいると…

 

 

「そんな悩むことはねえだろ。普通にデートの意味を教えろよ。」

 

 

「んなッ!それなら兄貴が教えろよ。」

 

 

「いや、俺、士道と十香を護るのでせいいっぱいなんだけど。」

 

 

見るからに全然余裕そうだろ、と士道が叫びそうになったが、この銃弾とミサイルの攻撃を防ぐ一護にそんなことは言えず何だか負けた気分になった。十香も早く言えと、目で促しているので諦めてデートという単語の意味を教えようとした。

 

 

だが、それは教えられることはなかった。なぜなら、ある1人のAST隊員が突貫してきたからだ。しかも、その人物はクラスメイトの折紙だった。

 

 

「はああああああああああああああああッ!」

 

 

折紙は十香の目の前で裂帛の声を響かせ剣を振り降ろそうとした。十香もそれに応じて自らの天使を召喚した。

 

 

鏖殺公(サンダルフォン)!」

 

 

十香と折紙はお互いの命を刈り取るべく全力で剣を振り降ろした。だが、お互いの体が傷つくことはない。その前に一護が十香と折紙の間に入り、腕で両方の剣を受け止めた。

 

 

「「ッ!」」

 

 

「どっちもこういうのは止めねえか。俺はお前らが生きている限り(・・・・・・・)誰も殺したくはねえ。」

 

 

折紙は一護の言っていることは理解している。このようなことは本当はやりたくないと思っている。だが、自分の両親を殺した精霊を決して許すことはできないし、精霊を根絶させないと一護が望む世界は達成できないと思っている。あと、一護の言い回しが気になった。まるで死んだ人間を殺せるというような…

 

 

「それに、お前らはよく周りが見えてねえよ。士道が倒れているっていうのに、まだドンパチやろうとするのか。」

 

 

「「ッ!」」

 

 

十香と折紙は一護の言葉にハッとした。いくら相手が憎くて戦っていたとしても、大切なものを失ってしまえばそれで自分の世界に終わりが訪れるのだから。十香と折紙はお互いに得物を降ろした。

 

 

一護はそんな十香と折紙の様子を見て安心した。これ以上2人が動けば自分自身も実力行使をしなければならない。そうなれば、2人を傷つけない保証はない。それと、士道が今まで積み上げてきた十香との関係を壊しかねない。だから、一護の言葉に従ってくれた2人を安心させる。

 

 

「大事はねえよ。ただ気を失ってるだけだ。それと剣を降ろしてくれてありがとな。」

 

 

現界から大分時間が経ったからであろうか、十香の体が徐々に透き通っていく。これは消失(ロスト)の兆候だ。

 

 

「もう時間のようだ。また会おう、イチゴ。士道にも言っておいてくれ。」

 

 

「分かった。また会おうぜ。」

 

 

最後の言葉残してすぐに十香の姿は一護と折紙が見守る中、虚空へと消えていった。十香を見送った一護は死神化を解いて士道を抱えながら折紙に言葉を掛ける。

 

 

「わりい。俺、あの話を聞いて精霊を憎んでいるのを知っている筈なのに、それを踏みにじるようなことを言っちまって。」

 

 

「私の方こそ、謝らなければならない。もしあなたが私を止めなければ五河士道を失ってしまうところだった。そしてあなたにも顔向けできなかった。」

 

 

「そんなに気にするなよ。結局誰も傷つかなかったわけだし。あと、フルネームだと言い辛いだろ。俺と士道のことはどんな風にも呼んでくれても構わねえぜ。」

 

 

「わかった。考えておく。」

 

 

呼び名でそんなに悩むものなのかと思う一護だが、態々言う必要はないだろう。ここで折紙に通信が入った。

 

 

「精霊の霊力が観測されない為、帰投命令が出た。」

 

 

折紙はそう言って一護に頭を下げるとASTの集団の中に戻っていった。そして、最後に残った一護は…

 

 

「いつまでもこんなところにいてもしょうがねえし、帰るか。」


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