デス・ア・ライブ   作:月牙虚閃

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今回から2巻からの内容に入ります。もちろん、あのロリッ娘が出てきます。
次回は年末・新年特別企画をやるかもしれません。
ではお楽しみにしてください。


Spirit loves
Deathberry in the rain, and a little thing


5月上旬の特に何てことのない日――――いつもは別段用事の無い日には士道と共に下校するのだが、今日は一護が先に下校している。その理由は先月に士道が力を封印した精霊の十香とクラスメイトの折紙にあった。

 

 

士道が十香の精霊の力を封印をした数日後に同じクラスに転校という形で編入された。同じクラスということは折紙の目に触れるワケで、編入初日からちょっとしたいざこざがあった。その日から毎日のように口喧嘩(十香が純粋なために折紙に弄ばれている)が絶えない。それを止めるのは士道か一護の役目である。

 

 

(はあ…あいつら、もうちょっと仲良くできねえのかよ。まあ、今日は士道に全任せにしたけど。)

 

 

毎回喧嘩を止めるのに随分と労力(主に精神面)を費やしてしまう。まだ自分はいいが、超人の2人相手に一般人の士道が仲裁に入っていると思うと南無~と一護は手を合わせて天を仰いでしまう。実は今日も女子が調理実習でクッキーを製作したことをきっかけにちょっとしたクッキー戦争が起きてしまった。

 

 

具体的に言うと、十香が士道と一護にクッキーをプレゼントしたところ折紙と口喧嘩になりその中の折紙の一言で周囲の男子が獣と化した。つまり、十香のクッキーを渡された士道と一護にそれを奪おうとした学校内の男子が襲ってきたのである。一護は可及的に速やかに窓から脱出したのだが、取り残された士道は…

 

 

家に帰る前に薬局に寄って、包帯を買ってきてやろうと思ったところで、ふと気づく。

 

 

(雨か…最近天気予報がよくはずれるな。)

 

 

どうせただの通り雨ですぐに晴れるだろうと思っていた一護なのだが、それに反して次第に強くなっていく。

 

 

「マジかよ…」

 

 

本降りとなった雨にうんざりとしつつも、周囲に誰もいないことを確認した。そして、自らを取り囲む空気を完現術(フルブリング)して雨を弾く。紛うことなく完全な能力の無駄遣いなのだが、一護であっても雨に濡れるのは嫌なのである。

 

 

雨に濡れないために能力を使用しているのを極力他の人の目に触れさせないために、これまた完現術(フルブリング)を遣い高速で移動する。

 

 

1分も経たない内に一護は道程の9割を踏破した。だがここで忘れていたことが1つ。

 

 

(やべえ。包帯を買いに行くの忘れた。)

 

 

そう、そのことに気づいた時にはドラッグストアを既に通り過ぎて大分離れてしまった。しょうがないので、士道が保管しているらしい湿布を探そうと決めた一護。そんなことを思っている間に自宅にまで至る道の最後の曲がり角に差し掛かろうしていた。

 

 

―――――ずるべったあああああああああああああああんんんんん

 

 

いきなりその曲がり角から誰かが飛び出してきて転んだ。高速移動中の一護は突然の転倒者に慌てたものの、倒れてきた人を飛び越えて高速移動の勢いを殺すために受け身を取った。そして受け身を取って気づく、結局地面に体が接して全身がビチョビチョになったことを。本格的に気分が沈んでいきそうになったところで、受け身の原因を作った人物を見る。

 

 

「大丈夫か…って、四糸乃!?」

 

 

突然飛び出して転んでしまったのは緑のウサギ型のコート着ている幼い少女―――――四糸乃だった。

 

 

ここで疑問に思う方もいるだろう、何故一護は四糸乃のことを知っているのか。それは、四糸乃は通常の現界よりも静粛現界の方が多いこと。それに加えて、一護が精霊の調査の為に霊力を探索していたからである。その探索の中で一護が出会った精霊の一人である。

 

 

「ッ!!」

 

 

転んだ四糸乃に一護は手を差し伸べたのだが、四糸乃はそれに気づくとすぐに距離をとって後ずさった。そんな反応に数度接触を試みた一護にしてみれば、少なからず目から汗を流したくなる。それでも一護は諦めない。

 

 

「驚かしてすまねえ…今日も一緒に付き合ってくれねえか。」

 

 

「…一護…さん…おねがい…ッ!」

 

 

四糸乃が応答をしている際に何か気づいて目を見開いた。次いで、何かを探すように動き出した。それと同時に、四糸乃が動揺してしまったからか降り続いていた雨が豪雨と言ってもいいほどに降り方が強くなった。よく見ると、いつもは左手に装備されているパペット―-――『よしのん』がいない。先ほど転んでしまった際に左手から外れてしまったようだ。

 

 

「ええええええええええんんんんんん!」

 

 

四糸乃の精神状態は時とともに比例して悪化していく。精神状態が悪化すればそれに連動して世界も荒れる。豪雨の次にやってきたのは寒波で急激に気温が下がり、まだ夏服に制服が移行していないためにブレザーを着用していた一護なのだが体があまりの寒さのため自由が利かない。もし夏服であればカチンコチンみ凍らされていただろう。

 

 

早くよしのんを見つけなければ本格的に生命活動が危うくなる。死神化すれば問題ないだろうが、その姿で四糸乃の前に姿を現れれば余計に四糸乃を怖がってしまうにちがいない。なるべく、早く見つけなければ。

 

 

プップウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ――――――――

 

 

「「!」」

 

 

けたたましいクラクションが耳をつんざく。一護は嫌な悪寒を感じた。クラクションが鳴った方に顔を向ける。そして、一護の目に飛び込んだものは動く巨大な鉄塊―――――――トラックが四糸乃に目掛けて迫る。

 

 

「四糸乃ッ!」

 

 

このままトラックが進行してしまえば最悪の結末を迎える。一護は咄嗟に四糸乃を庇うように体で覆った。一護はふと思った――――――前の世界で小学生だったとき(ホロウ)から護ってくれたお袋と同じような状態だな――――と。

 

 

一護と四糸乃は迫ってきているトラックが止まることを信じて目を閉じる。その直後にトラックは発せられたブレーキ音を周囲にまき散らす。そして――――

 

 

「助かったのか…」

 

 

何も衝撃が感じない。今、一体どうなっているのかを知るために閉じた目を開き、後ろを振り返る。振り返った一護の瞳に映したのは、今し方突っ込んできたトラックの前面。トラックは一護の目鼻10センチというところで止まっていた。

 

 

「あれは…」

 

 

一護はそのトラックの下に落ちていたモノに気づき拾った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、運転席からトラックを運転していた男性が降りてきて涙を流しながら必死に謝罪してきた。運転手の弁によれば、突然の豪雨の中で運転していたのだが、あまりの雨によって前方の数メートルの状況さえわからない程の視界不良に陥っていた。一護たちがいる場所に差し掛かる前にいきなり視界に入った歩行者を避けるために急ハンドルを切ったのだが、その進んだ先に一護たちがいたというところだ。幸いにして、こういう事態を見越して速度を抑えていたため大惨事にはならなかった。一護は特にこちら側に被害が無かったので何も問い詰めるようなことはしなかった。

 

 

「ありが…とう…ございます。」

 

 

「どういたしまして。」

 

 

四糸乃が助けてくれた一護に対して懸命に感謝の言葉を口にした。今まで会う度に怖がられていた一護にしてみれば心を開いてくれたことに感動も一塩である。四糸乃も四糸乃で感謝の言葉に返してくれたことに若干頬を赤く染めた。

 

 

「あ、そうだ、これ。」

 

 

「!」

 

 

一護はスラックスのポケットに詰め込んでいたパペット―――――よしのんを取り出して差し出した。それに四糸乃は引っ手繰るようなスピードで手に取り左に嵌めた。それと合わせて凄まじい勢いで降っていた雨が小雨となった。

 

 

『やっはー、助かったよー。』

 

 

左手を器用に動かしてよしのんが感情豊かに動く。傍から見れば、四糸乃がパペットを動かして腹話術で声を発しているように見えるだろう。実際その通りであるが、ただの腹話術ではない。このよしのんというのは四糸乃が生み出したもう一つの人格であり、四糸乃が主に対外的な部門を任せてある。

 

 

『それにしてもー、いろいろとよしのんの体をさわってくれちゃったんだよね。正直、どーだった?どーだった?』

 

 

「は…はあ。」

 

 

どうにも反応に困る質問である。人格が違えば同一人物だとしても性格が変わってくる。それは当たり前のことであるが、先ほどまでの内気な四糸乃と比べると大違いだ。非常に陽気でフレンドリーであるのだが、時たまこういうどう返せばいいかわからない質問をしてくる。

 

 

『ぶー、ノリがわるいなぁ。でも、まあいいや。じゃあね、四糸乃を助けてくれてありがとさん。』

 

 

「おう、じゃあな」

 

 

よしのんが一護に別れを告げると、四糸乃自身の足で走って一護の視界から消えた。「はあ…」と、とりあえずため息をしたところで今の一護自身の装いに気づく。全身ずぶ濡れでおまけに泥だらけ、帰ったらどうやって士道に言い訳しようか。

 

 

「ん?なんだこれ?」

 

 

ほんの一瞬で消えたのだが空間が歪んで見えた。空間で歪むといえば空間震なのだが、それとは異なり前の世界で見たことのある歪み方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

 

 

重い足取りで家の中に入っていく。家の奥から何も返ってこないということは誰もいないということであろうか?とりあえず全身ずぶ濡れの状態から脱しようと着ていた衣服の全てを洗濯籠に放り込んだ。そして浴室に入りシャワーを浴びる。本当は湯船に入りたかったのだが、まだ湯も沸かしていなかったので致し方なかった。

 

 

数分でシャワーを浴び終えて浴室から出ると、家の状況が先ほどまでと違っていた。

 

 

「ふぅ。お、リビングの明かりが点いてる。誰か帰ってきたのか。」

 

 

さっさと着替えを終わらせてリビングへと向かう。そしてリビングに続く扉を開けるとソファーでテレビを見て寛いでいる琴里とキッチンでコーヒーに角砂糖を糖尿病になるんではないかと思うほど入れている令音がいた。

 

 

「おかえり、琴里。それと令音さん、どうもっす。」

 

 

「ただいま、おにーちゃん。」

 

 

「邪魔してるよ。ところで、いきなり私が家に上がっているのに抵抗はないのかね?」

 

 

普通であれば少し知り合ったぐらいの人が自分の知らない間に家の中にいたのなら多少なりとも反応するものである。それがそんなに気にしないとは肝が余程据わっているのか、単純に警戒心がないだけなのか。

 

 

「誰かが勝手に入ることなんて(前の世界じゃ)よくあることだし。」

 

 

「えっ!?」

 

 

「なまらびっくり。」

 

 

確かに前の世界では織姫やチャド、そして石田が一護の許可なしで入ることは当たり前。その他に死神のルキアと恋次などの死神勢も勝手に一護の自室で会議を始めたこともある。さらには、滅却師(クインシー)の力を使用した破面(アランカル)が急襲してきたこともあった。だが、こちらの世界ではよっぽどのことが無ければそんなことは起こりえない。

 

 

「あれだよ、あれ。よく蚊とか窓とかから入ってくるだろ。」

 

 

全くもってかなり苦しい言い訳である。もちろん、そんな言い訳に琴里と令音が信じるわけもなくジーっと半眼で見つめてくる。

 

 

ピンポーン

 

 

まさに救いの鐘―――――玄関のチャイムが鳴った。未だに疑いの視線は消えないが、一護はそれを気にせずに出る。

 

 

「イチゴではないか。学校にいないと思っていたのだが、先に帰っていたのか。」

 

 

訪問者はなんと十香であった。確か十香は学校以外のときは検査と人間界の勉強のためにフラクシナスで保護されていると琴里から聞いているのだが。

 

 

「待っていたよ、無事に辿りついたみたいだね。」

 

 

「令音さん、これは一体…」

 

 

「我々で検査と人間界に慣れるための学習をさせていることは聞いているかい?」

 

 

「はい、琴里から。」

 

 

「一通りそれらが終わって、十香を学校以外の外の世界に出してみた。」

 

 

「それで、家に来ることに何か関係は?」

 

 

「外の世界で住むには家が必要だろう。」

 

 

「ああ、なるほど。」

 

 

令音が最後まで言わずともどういう事情であるかを察した。つまり、今後必要となる家の完成までの間、この家で預かってほしいということだ。2階奥の父母の部屋が空いているのでそこ使わせよう。

 

 

「とりあえず中に入れよ。家の中にあるものだったら何でも使っていいからな。」

 

 

「うむ。」

 

 

一護はまず十香に使わせる部屋に案内した。久しぶりに中に入るので散らかっていると思っていたのだが、きれいに整理整頓されていた。しかも、十香の生活の為に必要と思われるものはもう既に中に持ち込まれていた。さすがにこれには先に話を通してもらいたかった。

 

 

案内し終えて一護が下に降りた数分後、十香がバスタオルを持って下に降りてきた。そのままリビングの扉を開け浴室へと向かった。浴室の場所を教えていないのになんでわかるんだ―――――と思ったのだが、持ち物を事前に持ち込まれているのだから、どうせ琴里に教えられているのだろう。

 

 

少しして、士道の帰りが遅いと一護は思う。たまにこういうことがあるので一護が料理を作ることもあるのだが、どうやら今日はそういうことになりそうだ。一護がソファーから立ち上がろうとしたとき、家全体に鈍い音がした。

 

 

一体何事かと思い、音のした浴室の方へと向かうと士道が床の上で伸びていた。

 

 

「どうした、何があったんだ!?」

 

 

一護が士道の体を動かすと「ぐふっ…」と声を漏らすだけであった。何が原因なのか周囲に視線を向けるとバスタオル巻いた十香が立っていた。これで士道はラッキースケベだということを察した。


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