デス・ア・ライブ   作:月牙虚閃

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どうも月牙虚閃です。

今回は年初めの更新です。再び本編に戻って先に進みます。

今回はやや話が動き始めます。

では、お楽しみください。


Decision

士道が十香に気絶されてから少しして、一護・士道・琴里・令音はリビングに集まっていた。十香のときは急だった為に精霊についての説明をし切れていない部分があったので、改めて説明をすることになった。それで一通りの説明が終えたのだが。

 

 

「精霊がどういう存在かということはわかったし、十香がこれからしばらくの間住むことになることも兄貴が了承したから、それもわかった。だけど、なんで俺がまた訓練をしなきゃいけないんだよ。」

 

 

士道は説明を聞いた上で疑問を琴里にぶつける。精霊とは十香のことであり、その精霊の力をある方法を以て封印した。このことから、精霊の存在がこの世からいなくなり2度と不幸が起きなくなるはずである。だが、琴里はそれを否定した。

 

 

「誰が精霊が十香だけだと言ったのかしら。」

 

 

「ッ!」

 

 

その事実に驚いていたのは士道だけであった。他の者は誰も驚いていない。

 

 

「兄貴も知っていたのかよ…」

 

 

「ああ。」

 

 

「俺は兄貴と違ってそんなに強くはない。だから、もう出来ない。」

 

 

「随分と腑抜けた答えを口にするんじゃないの。」

 

 

琴里がそのように言う。士道は気づいていなかったらしいが、一護は琴里がその言葉を言った際に微かに握っていた右の拳を揺らしていた。明らかに士道の答えに対して怒りの感情を持っていた。

 

 

「そんなこと言ったって俺はもうあんな危ない目に…」

 

 

ビシッ

 

 

士道の言葉は言い終える前に遮られた。それは琴里が士道の頬を引っ張叩いたからだ。これには一護は黙っていることができなかった。

 

 

「琴里、やりすぎだ。」

 

 

一護は琴里がもう片方の手でもう一度反対側の頬を引っ張叩こうとしていたのを手首を掴んで止めた。

 

 

「離して!そうしなきゃ精霊が救われないのよ。昔の士道なら絶対に賛同するはずよ。」

 

 

「うるせえ!」

 

 

士道と琴里はこんなにも声を荒げた一護をこれまで見たことが無かった。一護自身も本来はこんなに声を荒げるつもりはなかった。だが、感情の昂ぶりを止めることができなかった。

 

 

「琴里、士道の気持ちを勝手に決めつけるんじゃねえよ。士道はいきなりこっちの世界に投げ込まれたんだ。まだ心の整理がついてないのかもしれない。そんな状態じゃ覚悟もできりゃしない。少し考える時間を与えてやってもいいんじゃねえか。よく考えた結果として、士道が作戦に参加しないと言っても納得出来るだろ。」

 

 

今まで黙って見ていた令音も一護の意見に同調した。琴里よりも多くの人生経験をしている令音であるから冷静に物事を判断して一護と同じ意見に至った。

 

 

自分の右腕の令音までもそんなことを言われてしまれば自分の気持ちと照らしあわせて考え直す。

 

 

「令音と一護の言う通りね。少し焦り過ぎてたかも。時間をあげるわ、その中でしっかりと考えてごらんなさい。」

 

 

「すまん。」

 

 

「何、謝ってるのよ。そんなことを言われたら、私、悪役になっちゃうじゃない。」

 

 

琴里は顔を俯かせて士道に見えないようにしながら言った。士道と琴里には心の落ち着かせる時間が必要だと一護は思った。そして、琴里は少なくとも5年前に精霊になった日についての出来事の一部を知っているのかもしれないと、琴里自身の言動から感じ取れた。しかし、今はまだだ。

 

 

「というわけで、士道と一護に訓練を受けてもらうわよ。」

 

 

「考える時間をくれるんじゃなかったのかよ。」

 

 

「あんなヘンテコ訓練を受けてたまるかよ。」

 

 

琴里のいきなりの訓練予告に士道と一護が非難の声を挙げる。まさか、この状況で訓練のことを切り出すとは。どっちにしろラタトスク監修の訓練はどうせ禄でもないので非常にやりたくない。

 

 

「訓練といっても、今回は日常生活の中で起きる不測な事態に対してどれぐらい対応できるのかを試すものだから別に普通にしていて構わないわ。」

 

 

普通に生活していても構わない、と言われても事前にこんなことを言われてしまえば嫌でも気になってしまう。だが、琴里にどんな内容なのかを聞いてもそれに答えるどころか問答無用で参加させられるだろう。

 

 

「しょうがねえ。その訓練というやつに今回は付き合ってやるよ。」

 

 

まずは一護が先に答える。次いで、士道も答えようとしたが…

 

 

「士道は訓練の拒否権は無いから。」

 

 

「なに、その扱いの違い!?」

 

 

一護に対する扱いと士道に対する扱いが違いすぎる。これは毎朝の食事の時間にチュッパチャップスを舐めさせないようにしていた報いなのかと士道は頭を抱える。そんな士道の心境に関わらず訓練が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練の開始から2時間も経たない内に最初の試練が士道に降りかかった―――――それは士道がトイレの電球を取り換えに行ったときのこと。琴里に頼まれて取り換えに行ったのだが、トイレの扉を開けるとそれはなんていうことでしょう。十香が中で泄を足していたのである。瞬間、何が起きたのか解らなかった。その直後意識が飛んだ。

 

 

後の一護の話によると、士道の頬にそれはきれいな紅葉が刻まれた。それも意識を飛ばすほどの威力のビンタは非常に見事だったと。

 

 

それから数時間後―――――そのため士道がダウンしたことで代わりに一護が家事を行うことになった。元いた世界でも妹が小さいころから家事はしていたのでそれなりに手馴れている。

 

 

「一護、そろそろお風呂に入ってきたら、どう?」

 

 

 

琴里がそんなことを言ってくる。普通ならば厚意を受け取って浴室に向かうところなのだが、今日は一護に対しても訓練を行うとも言っていた。さらに、お風呂はそんなウフフイベントが起こる定番のスポット。如何にも怪しい。そこで一護は琴里に揺さぶりを掛けることにした。

 

 

「俺は後でいいよ。まだ食器を洗い終わってないからさ。それよりも琴里が先に入ってきたらどうだ?」

 

 

一護の返答に琴里はピクッとほんの少し肩を揺らした。どうやら何かされるという予想は間違ってはいないようだ。それを見て一護は更に攻勢を強める。

 

 

「そうだ、今日はバブを使ってもいいぜ。最近使ってなかったからな。」

 

 

琴里は体に雷が落ちたかのように衝撃を受けた。そう、琴里はバブの炭酸によるシュワシュワが大好きなのだ。それは司令官モードの琴里にも通用するはずだ。その証拠に歯をガチガチさせている。

 

 

「へ…へぇ…私は…いいわよ…いいから…入ってきなさいよ」

 

 

今度は一護が衝撃を受ける番であった。まさかバブの魔力に抗ってしまうとは…もうそうなってしまえば琴里に乗ってやろう。

 

 

「分かった。俺が先に入るよ。」

 

 

というわけで、一護は浴室に入り湯船に浸かった。

 

 

(やっぱり、シャワーだけじゃなくて湯船にも入ってた方が疲れが取れるな。)

 

 

十数分後――――ちょうどいい具合に気持ちが良くなってきて眠気が襲ってきた。そろそろ上がろうかなと思っていたところだった。

 

 

ガラガラガラ…ドッシャン

 

 

「な、何だ?」

 

 

ウトウトしていた一護はいきなり扉が開いて何かが入ってきたことに水しぶきを飛ばされた時点でようやく気付いた。それでいきなり入ってきたものは…

 

 

「十香か…と、十香!?」

 

 

「イ、イチゴ!?」

 

 

異性同士がお風呂に入っている事態にお互いが顔を赤くする。とにかく十香を落ち着かせるのが先決だ。こんなところで暴れられたら悲惨な結果に至ってしまう。

 

 

「お、落ち着け。とりあえず、俺も見ないようにするからそっちも見ないようにしてくれ。」

 

 

「見ないように…な、何を言っているのだー!!」

 

 

見ないでくれと言われたら、気になって見てしまうのがそれが人間。それは精霊であっても変わらない。そしてどちらも再び混乱して浴槽の中で暴れた結果がこれだ。

 

 

「「…プカー」」

 

 

「はい、アウト。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――深夜3時

 

 

「悪いわね、令音。」

 

 

「構わないよ。」

 

 

通常ならば琴里はぐっすり夢の中の時間なのだが、更なる訓練を士道と一護に課すために令音に起こしてもらったのである。

 

 

「人員は用意できたかしら。」

 

 

「用意出来てるよ。ただ、ひとつ問題がある。」

 

 

「問題って、神無月が十香の寝てる部屋で縛りプレイを受けてるとかじゃないわよね。」

 

 

「いや、それよりも深刻だ。寝ているはずの苺が寝室にいない。」

 

 

「なんですって!?」

 

 

こんな時間に外に出て行ったということであろうか。琴里は一護に関しては死神の力を持っているので、何かトラブルに巻き込まれたとしても無事の可能性が高い。だが、いきなりの家族の消失ということで不安が大きくのしかかる。

 

 

「別の人員を一護の捜索に回してもらってもいい?」

 

 

「わかった。手配しよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

琴里が目覚める30分ほど前、一護は寝室で眠りについていた。十香との事故があったために普段よりも早く眠気が襲い、そのまま深い眠りに入っていた。

 

 

 

――――――ホロウホロウホロウホロウホロウホロウ―――――

 

 

しかし、その眠りを切り裂き、一護を戦いに引きずり出す号令が鳴り響いた。久しくこの音を聞いていなかったのだが、耳に染みついたこの音ですぐに目覚める。

 

 

「代行証が鳴ってる。ありえねえ、こっちにはウルキオラとスタークさん以外は(ホロウ)はいないはず。」

 

 

だが、その一護の思考を否定するように(ホロウ)の霊圧を感じ取れてしまう。本当に(ホロウ)なのかはこの目で実際に見なければわからないが、このまま放置するわけにはいかない。代行証と自分の感覚の鈍化を信じて死神化をして現場へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 

やはり(ホロウ)であった。こうして実際に目にしてしまった以上、この世界に(ホロウ)が存在しているということは認めざるを得ない。相手の(ホロウ)は体自体は蛇のような様相をしているが胴体に腕が生えている。そして体格差は5倍ほどあり、通常のそれよりも大きい。

 

 

「出てきたもんはしょうがねえ。俺が消す。」

 

 

「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 

どうやらこの(ホロウ)にはもう既に言葉を理解する力は失ってしまっているらしい。それでも霊圧の変化から一護が戦闘モードに入ったことを感じて先に攻めにいった。胴体から生えたその腕で拳を振り下ろす。(ホロウ)はそれで終わると思っていた。

 

 

「悪いな。この世界にはお前がいたらダメなんだよ。」

 

 

一護は(ホロウ)の拳を人差し指で軽く止めていた。それに茫然としていた(ホロウ)の腕を引っ張り、仮面を被った顔面を手繰り寄せる。そして、出力を調節して殴り飛ばす。

 

 

「ギ…ガァ…ガァ…」

 

 

一護の拳により仮面は打ち砕かれた。(ホロウ)が被っている仮面はその進化体を除けば原則的には弱点だ。そこを狙われた(ホロウ)は為す術もなく消滅していく。

 

 

「ソウル・ソサイティで安心して眠ってくれ。」

 

 

この世界に(ホロウ)がいるということは、他の(ホロウ)が存在しているのかもしれない。何でこの世界に存在しているのかは、またあとで考えるとしよう。

 

 

一護は霊圧をほんの少し放出させる。ほんの少しといっても並の死神にしてみればかなりのものである。

 

 

「「「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」」」

 

 

一護の狙い通り複数体の(ホロウ)がこの世界へと侵入した。(ホロウ)というものは霊圧濃度の濃い魂を狙ってくる。

 

 

そんな状況の最中、ゆっくりと背中に背負っている斬月を掴みとる。そして、最初に腕を振り下ろした(ホロウ)へと斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…もう…朝ぁ?」

 

 

日差しが部屋の中に流れ込んで琴里は目をこすりながら瞼を開いた。確か夜中に一護おにいちゃんがいなかったから探しててそのまま寝ちゃったんだっけ―――――と思ったところでぼんやりとしていた頭が覚醒した。

 

 

「令音、おにいちゃんはッ!」

 

 

令音に一護の行方が知れたかと尋ねたのだが何も返ってこない。もしかしてフラクシナスでまだ一護の行方を捜しているのかもしれない。

 

 

今になって気づいたのだがソファーで寝ている間にリボンが解けてしまったらしい。どおりで今にも泣きたい気分になっている。琴里はグシャグシャになったリボンを掴んで、髪を括ろうとした。

 

 

ガシャリ

 

 

玄関の扉が開いた音がした。もしかして一護おにいちゃんが―――――と思い、玄関の方へと駆け出した。

 

 

リビングと玄関へと続く廊下とを隔てる扉を開くと―――――目の前にずっと探し求めていた一護がいた。

 

 

「琴里?」

 

 

まさか琴里に出迎えられるとは思っていなかった一護は驚いた。琴里はそんなの構わずに一護の胸へと飛び込んでいった。

 

 

「おにいぢゃあああああああああああああんんん!」

 

 

今まで瞳に溜め込んでいだものが一気に溢れた。それと同時に感情も際限なく溢れていく。

 

 

これを見た一護は全てを悟った。自分が夜中に抜け出していたのに気づいて、夜中にずっと探してくれたことを。

 

 

「ごめんな。心配掛けちまって。」

 

 

「うわあああああああああああああんんんんんんん」

 

 

どうやら、しばらくはこの状態から身動きが出来ないみたいだ。思い切り感情をぶつけている琴里を一護は抱きしめていた。

 

 

(けど、俺の世界の都合をこっちに持ち込むわけにはいかねえ。(ホロウ)は俺が斬る。最悪、俺の最後の力(・・・・)を使っても構わねえ。)

 

 

『一護、私は…』

 

 

(わかってる。おっさんは俺を護りたいんだろ。あれは俺も使いたくねえよ。あくまで最悪の場合だ。俺もおっさんを護りたいんだよ)

 

 

『一護…』


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