デス・ア・ライブ   作:月牙虚閃

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ようやく更新することができました。
今回は少し長めです。話を前半と後半で分けることも考えましたが、1話で投稿しました。
では、お楽しみください。


Decision2

一護が自宅へと戻った後に無事に士道への訓練は執行された。当然のごとく、いきなり異性が寝ている寝室に投げ込まれれば寝室に寝ている者と投げ込まれた者の双方は混乱する。結果的に士道は十香に投げられた赤ベコが頭に直撃して昏倒した。さらに、黒歴史を公共の電波に晒されたとか。憐れである。

 

 

「あれ?何で制服着てないんだよ、兄貴」

 

 

玄関の扉を開けて学校に向かおうとした士道が足を止めて一護に尋ねる。そう、一護は未だ普段服姿である。ちなみに、先ほどの十香の暴走による負傷は体中に貼ってある湿布が見て取れた。

 

 

「ああ、ちょっとな」

 

 

一護は昨日あったことを隠すのに言葉を濁して答えた。そうすると、十香が寂しそうな眼を向けてきた。

 

 

「今日は…学校に来ないのか…」

 

 

そんな十香の様子に思わず顔を赤くする一護なのだが、今日は最優先で寄らなければならない場所がある。そのため心苦しいが学校を諦めざるを得ない。

 

 

「ちょっと行く場所があってな、すまん」

 

 

一瞬、十香が落ち込んだかに見えたが、「うむ、わかったぞ」と言って明るく振る舞った。そして、十香は士道と共に高校へと向かった。それを見送っていた琴里が一護の後ろで仁王立ちしていた。

 

 

「十香を不安させないで言ったでしょ」

 

 

「わかってる。十香の精神が不安定になれば、精霊の力に逆流するんだろ」

 

 

「そうよ。なんでそれが分かっているのに一緒に行ってあげないの?―――――って、聞かないでおいてあげる。一護には私たちにまだ言えないことがあるんでしょ。私にも言えないことがあるから、これでお互い様」

 

 

「ありがとな、琴里」

 

 

琴里の言葉が一護の心に染み込んでいる内に家を出た。(ホロウ)が出てきたことで、もう悠長にこの生活を楽しんでいくわけにはいかなくなった。はっきり言ってしまえば、一護一人だけではこの世界全員を護れない。だから、仲間に頼る。これは以前の自分には出来なかったことだ。

 

 

 

「ちょっといってくる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一護が学校を休んでまで向かったのは『喫茶 十刃(エスパーダ)』。同じく以前の世界の出身者であるウルキオラとスタークには話を通しておいたほうがいいだろう。

 

 

店内に入ると、ウルキオラはいつもの如くカウンターの内側で新メニューの開発に勤しんでいる。一方、スタークはカウンター席でコーヒーを飲みながら寛いでいた。

 

 

「今は学校にいなければならない筈だが」

 

 

「冗談は止せよ。俺が来た理由、とっくに分かってんだろ」

 

 

「無論だ」

 

 

ウルキオラが素っ気なく答えながら一護にコーヒーを差し出す。スタークはコーヒーを一気に飲み干して、カップを片付けてから一護の隣の席に座った。と、ここで一護はスタークに違和感を感じた。

 

 

「あの子…リリネットさんはいないんすか?」

 

 

「ああ、あいつな。あいつさ、誰から見ても子供だろ。あと、あいつのことはリリネットでいいから。」

 

 

「ま、まあ、そうっすね。」

 

 

リリネット自身は自分のことをガキじゃないと言い張っているので肯定するのには躊躇いがあった。スタークはそんな歯切れの悪い一護の反応に苦笑して、リリネットがいない理由を明かした。

 

 

「あの体型で今の時間にここにいると色々とまずいんでな。それと、現世の知識を身に着けさせるために近くの中学校に通わせてる」

 

 

「なるほど」と、一護は納得した。前にウルキオラから聞いた話によれば、戸籍上は親子として記録されているらしい。だから、警察に補導されるようなことは無いのだが、到底大人には見えないリリネットを学校に通わせないとなると様々な問題が巻き起こされることは容易に想像はできた。

 

 

気になったことも解消でき、店内で客はいないのでいよいよ本題を切り出す。

 

 

「多分探査神経(ぺスキス)で感じ取れてると思うけど、この世界にウルキオラとスタークさん以外に(ホロウ)が出た」

 

 

無言が場を支配する。新たな世界でも再び戦禍が巻き起こる可能性。このことに関して全員が予想していなかったわけではなかった。

 

 

「かつて藍染様が従えていた崩玉を従えている今の一護ならばこの原因を知らないわけないだろ」

 

 

「まあな。だけど、情報共有はしておいた方がいいだろ」

 

 

全員と情報共有を行えば1人で対策を考えるよりも多くの知恵を集めて対策を考えたほうがいいだろう。それを含めて昨日のことを話すために一護はここに来た。

 

 

「で、その崩玉を従えた一護くんの考える理由っていうのはなんだ?」

 

 

少し焦れたかのようにスタークが言った。それに促されて一護は問題の起因されると思われる原因について語り出した。

 

 

「まずは、俺たちの霊圧だ。2人は(ホロウ)だから知ってると思うけど、(ホロウ)は霊圧濃度の濃い魂に引き寄せられる」

 

 

「なるほどな。俺たち3人の莫迦でかい霊圧に引き寄せられてるってワケか」

 

 

とても単純な理由だが、それ故説得力の強い根拠でもあった。だからスタークは納得したのだったが、ウルキオラがその説の穴を指摘した。

 

 

「それはおかしい。この世界は精霊はいるが、元々(ホロウ)はいない世界だ。そして、俺たちがいた世界とこの世界は全く別物で隔絶している」

 

 

ウルキオラが言うように、世界は隔絶している。そうでなければ、この世界に一護たちが訪れる前に(ホロウ)がいるし、逆に一護たちがいる世界に精霊がいるはずだ。だが、一護たちの記憶にはかつて精霊いたという記憶はない。

 

 

「崩玉からの受け売りだからよくはわかんねえけど、俺がこの世界にいる誰かに呼ばれたときにワームホールみたいなところを通ったんだ。それで本当に一瞬だけど、俺たちがいた世界とこの世界とが繋がったんだ」

 

 

「確かにそれなら話のつじつまが合うな。一瞬だけならこちらの世界に流入した(ホロウ)の絶対量は少ない筈だ。こっちからおびき出して、全て殲滅してしまえば問題ないか」

 

 

ウルキオラは現時点で一護からもたらされた情報から解を導き出した。だが、一護の持っている情報はそれで全てではない。

 

 

「本当はそうやって(ホロウ)をおびき出してソウル・ソサイティに送っていければいいんだけど、俺の通ってきたワームホールの影響でこの世界と向こうの世界との距離が近くなってる上に世界の境界が緩くなってるらしい。だから、俺たちが霊圧を解放してしまえば向こうの世界から(ホロウ)がどんどん入ってくるみてぇだ」

 

 

「チッ、打つ手無しかよ」

 

 

スタークが忌々しげに言った。これだけでも相当深刻な問題なのだが、(ホロウ)流入における原因はこれだけではない。

 

 

「お前はさっき『まずは』と言って話をし始めた。つまり、原因がそれ1つではないということだろ」

 

 

「ああ。むしろ、こっちの方がやばい」

 

 

「マジか…」

 

 

これから一護が話そうとしている原因の方がより深刻だということを聞いた二人は顔をしかめた。一つ目の原因よりも酷いということは一体どれだけの原因だろうか。

 

 

「さっき話したことはあくまでも現在いる(ホロウ)を引き寄せるだけなんだ。はっきり言って、これから話す二つ目の原因の余波が一つ目の原因って言ってもいいかもな」

 

 

「全く話が見えねぇけど」

 

 

話の中身が分からないといった様子のスタークなのだが、次の一護の言葉に息を飲むことになる。

 

 

「俺の胸に埋め込まれてる崩玉の能力を知ってるか?自分で達成できる能力さえ持ってれば夢を現実にすることだってできる。そして、その範囲は無限だ。」

 

 

「「なっ!!」」

 

 

ウルキオラとスタークが以前に藍染の元で下っていたときに崩玉に関してのことは聞いていた。概ね一護と言っていたことと同じなのだが、対象となる範囲は周囲だと説明されていた。ところが、崩玉の効果の適用範囲が周囲だけではなく無限である。自分たち大虚(メノスグランデ)から破面(アランカル)に進化させるような能力の適用範囲が無限だということは如何に恐ろしいか想像に難くない。これに加えて一護は一言付け足した。

 

 

「多分、範囲が無限ということに誤解してると思う。無限という意味は過去から未来に掛けて全員(・・・・・・・・・・・・)という意味だ。」

 

 

「過去から未来掛けて全員…そんなことってありえるのかよ!」

 

 

スタークが悲鳴のような声を挙げる。どうやら一護の真意に気づいたらしい。ウルキオラも同様に気づき、一護が見たことがある中で一番驚いているように見えた。

 

 

「そう、この世界に入ってくる(ホロウ)は過去に斬られた奴とか、これから俺らの世界で生まれてくる奴がこの世界に来ても可笑しくはないんだ。」

 

 

一護がそう言ったのと同時に思う。もしも、あのときに不用意に崩玉に近づかなければこのような事態を招くことはなかったではないのかと。

 

 

それとは反対に、もしも一護がこの世界に来なかったら、人々は対抗策を生み出せずにこのまま滅ばせてしまうところだったではないか。

 

 

せめぎ合うふたつの思いに今の一護には答えを出せない。だけれども、このような事態を招いた以上、責任を持って自分ができることをやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一護、ウルキオラ、スタークが(ホロウ)の出現に対する対応策を議論していたら、すっかり太陽が真上に登っていた。

 

 

「そろそろ昼か…飯を食っていくか?」

 

 

一応の結論が出たので議論を打ち止めにして、ウルキオラが昼食を提案した。ちょうど一護はお腹が減っていたので昼食をここで済ますことにした。それで出てきたのは喫茶店の定番メニューのナポリタンであった。

 

 

「相変わらず美味そうだな」

 

 

「当然だ。自分の料理に自信が無ければ店のメニューには載せない」

 

 

この店には店員のルックスの良さに惹かれて女性客もやってくるのだが、ウルキオラの提供する料理の研究に対してストイックな態度で臨んでいることもあって著名な料理研究家や雑誌の取材などが頻繁に来る。だが、取材に対しては拒否している。理由は新メニューを研究する時間が取れなくなるだそうだ。

 

 

「ハア、お前の食材へのこだわりのせいで日本中に駆り出される俺の身にもなれよ」

 

 

目の前に輝いているようにみえるナポリタンを頬張りながら、隣に座っているスタークの愚痴が耳に入る。てっきり、食材の選別もウルキオラがやっていると思っていた一護には意外に感じた。

 

 

「働かない者には飯を出さん。それに、お前の眼は不愉快なことにも俺よりも食材を見極めることに対して優れている」

 

 

「俺を貶してるのか、それとも褒めているのかわかんねえな」

 

 

ウルキオラにそんなことを言われてもスタークは気怠そうに返すだけであった。一護の知っている他の十刃(エスパーダ)であれば絶対に食って掛かりそうなものである。それにしぶしぶながらも従っているスタークは器がでかいのか、それともただ反抗すること自体が面倒なだけなのか。

 

 

それでも一護はナポリタンを口に運ぶ。できることなら、このタイミングに空間震警報が鳴ってほしくないと思うほどである。

 

 

―――――ウォオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンンンンン――――

 

 

何というタイミングなのか。鳴らないでほしかったと思っていた一護はさっきのが完全にフラグだったことにうんざりしつつ、皿に残っていたナポリタンを一気に口に入れて飲み込んだ。

 

 

「行くのか?」

 

 

「ああ」

 

 

「さっき話し合ったことを護れ」

 

 

「加減は苦手だけど、出来るだけ霊圧を出さないように努力するさ」

 

 

ウルキオラが念を押すように先ほどの結論――――とりあえず霊圧は抑える――――を一護に確認させた。そして一護は人々が避難している町へと繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一護は精霊から放たれている霊力を感知しそれを辿った結果、市内の大型デパートに辿りついた。まあ、空間震の影響でもう既にデパートは崩れているのだが。

 

 

ASTの隊員は既に空中に待機している。何かしらのアクションを起こしていないということは、精霊の姿を発見できていないということだろう。また、こちらは死神化はしていないので霊力を感知される心配はないから、ASTがまだ手を出さない内に精霊と出会って士道にたくしたい。そう思ってポケットから電話を取り出そうとしたところ後ろから足音が聞こえてきた。

 

 

「兄貴も来てたんだ。ってか、何で精霊が出てくる場所が分かるんだよ?」

 

 

「俺が精霊とかの居場所が分かるのは体質だと思っていてくれ。説明すると少し長くなるからな」

 

 

聞こえてきた足音の主は士道であった。精霊が出現しているときに表に出てきたということは士道の決心が決まったということなのか。そんな一護の思考に気づいているかは不明だが、自分の答えを言葉にした。

 

 

「前にも言ったけど俺は兄貴と違って普通の人間だからこういう場所にいること自体がおかしいし、俺も出来ることなら早くここから逃げたい。だけど、俺は見たんだ。何も抵抗していない精霊が理不尽な暴力に晒されてるということに。俺にはそれを解決できるような力を持っているらしい。そうだったら、俺は救いたい」

 

 

これが精霊が置かれている現状を自分の眼でしっかりと見た上での士道の出した答え。一護はビンタしようとした琴里を止めたものの、実際のところ最終的にはこの答えに至ることをわかっていた。そして、予想通りの答えに一護は不敵に笑いながら言った。

 

 

「精霊は俺たちが傷つけさせない。俺たちの戦争(デート)を始めよう」

 

 

「おう」

 

 

一護と士道はASTに気づかれないように崩壊したショッピングモールに入っていった。中は完全に崩壊はしていなく、まだところどころ被害がほとんど出ていない専門店もあった。瓦礫を避けながら通路を進んだ。程なくして、少女が天井から降りて一護たちの目の前に現れた。

 

 

『君も、よしのんをいじめにきたのかなあ…?』

 

 

目の前に現れたのは緑のコート着た少女。そして何よりも目を奪われるものといえば少女の左手に装着されているウサギのパペット。そう、この姿に一護は見覚えがある。

 

 

「四糸乃…いや、よしのん」

 

 

『やあ、一護くんよく会うねー』

 

 

よしのんは体をくねらせながら言ってくる。今日もよくわかんないリアクションが全開である。そんなよしのんがとあることに気づいた。

 

 

『う?一護くんの隣にいるのは誰なのかなー?』

 

 

「俺は五河士道。一応兄貴の弟なんだけど」

 

 

『弟の士道くんねえ。オーケイ、オーケイ』

 

 

よしのんは一人で頷きながら士道を品定めをするように見てくる。士道もこんなにまじまじと見られるのは初めてだったので少し気押されてしまった。一護は士道の言った『一応』という部分に少し気がかりに感じた。実際に本当の兄弟ではないから『一応』という表現は合っているのだが、今はよしのんのことに集中しなければならない。

 

 

「まあ、そういうことだ。別に士道は怪しいやつじゃないからな」

 

 

「怪しいやつ、って何だよ」

 

 

一護が言ってきたことに関して士道はジト目で見てくるが、一護もさっき『一応』と言ってきたことに抗議するという意味で睨み返してやった。そうしたら、士道はその場で正座をした。

 

 

「申し訳ありませんでしたッ!」

 

 

『あははは!二人ともよしのんを和ませようとしてコントしてくれたのー?だとしたら、面白かったよ』

 

 

よしのんが腹を抱えて笑っている。余程面白かったのかパペットの胴体が捩れている。だが、そのパペットを操っている少女―――――四糸乃は全くの無表情だった。そのことに士道は気になったこともあり、ある質問をしてみた。

 

 

「『よしのん』って、そのパペットの名前じゃなくて君の名前でいいんだよな?それなら何でパペットを通して喋ってんだ?」

 

 

『士道くん、何を言っているのかなぁ…』

 

 

周囲の空間の風の流れが変わった。それと同時に体感気温が急速に低下していく。そして、今までの陽気なよしのんの様子も黒く濃いオーラが発せられているように見えるぐらいの威圧感が感じられた。

 

 

『一体どんなことをやったのよ!このウスバカゲロウ』

 

 

士道の装着しているインカムから琴里の罵りと非難が聞こえてくる。自分自身でも一体何が起きているのかわからない。

 

 

「士道、それはダメだ。実はよしのんは…いや、今はよしのんの機嫌を直すぞ」

 

 

一護は四糸乃の二重人格について話そうとしたが思いとどまり、士道に機嫌を取り直させるように促した。士道はそれに従い何とかよしのんを普段の陽気に戻すことができた。

 

 

「で、さっき何を言おうしたんだよ?」

 

 

「いや、何でもない。さっきのは忘れてくれ」

 

 

一護が「忘れてくれ」と、言ってきたので、士道は問いただすのをやめた。一護がそう言ったのならば、自分は知らない方がいいだろう。

 

 

実際その通りだった。四糸乃が二重人格だということはある思いから来ている。それを一護は簡単に他の人に伝えることはできない。だから、一護はそのことを士道には伝えなかった。

 

 

気を取り直して再びよしのんの攻略をしよう。崩壊しているショッピングモールの中で崩れている部分を避けながら真っ直ぐ続く通路を3人で談笑しながら歩いていく。先ほどのよしのんの様子が嘘だったかのようにとても話が弾んでいた士道は思えた。

 

 

よしのんは十香とは違ってこちらの世界の社会常識を多く知っていたが、専門店内の実物の商品を見ると興奮していた。それで、3人はおもちゃを売っている専門店に差し掛かったときによしのんはその店に駆け出した。

 

 

「おーい、そんなに急いだら危ないぞ」

 

 

士道が気を付けるように注意するもののよしのんは聞く耳を持たなかった。尚もよしのんはすべりだいの階段を上り頂上に立った。

 

 

『わーはは、士道くん、一護くん、よしのんかっこいい?』

 

 

よしのんがそんなことを聞いてくるが、一護は気が気でなかった。それは先日の『ずるべったああああああああああああああああんんんんんんん』のイメージが払拭できなかったのである。

 

 

よしのんはそんな一護の対応に不満に思った。かっこいい、かっこよくないかを聞いているのにそれはおもしろくない。

 

 

『ぶー、もう一護くんったら。もうこうなったらよしのんのスペシャルドリーム、って、う、うわ、うわぁ!』

 

 

一護の懸念の通りに滑り台の頂上からすっ飛んだ。しかも、一護が落ちると予想していた場所の反対側に。

 

 

「くそっ!」

 

 

一護は瞬間的にボディーガード顔負けの跳びっぷりでよしのんを受け止めようとした。士道も必死に駆け寄って助けようとした。

 

 

「「ぐはっ…」」

 

 

一護と士道の両名ともによしのんに潰されたが、四糸乃もよしのんも無事であった。だが、問題がひとつ。

 

 

((唇…だと))

 

 

そう、一護は四糸乃に、よしのんは士道に接吻、つまりキスをしていた。しかも最悪なことに…

 

 

「…女とイチャコラしているとは何事かああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 

「「十香!?」」

 

 

そこには十香がいた。しかもばっちりとキスの瞬間を見ていた。最悪だ。

 

 

「…シドー、大事な用とはこの事か…」

 

 

十香は妙にゆったりとした動きで士道に近づきながら問う。どうやら怒りの矛先は士道に向かっているようだ。これを見て、一護は傍観に徹しようと思った。

 

 

「い、いや、そうだな…」

 

 

困り顔の士道と十香の様子を見たよしのんが立ち上がりながら言った。

 

 

『おねーさん、えっと――――』

 

 

「十香だ…」

 

 

『十香ちゃん、もしかしてきっと士道くんに飽きられちゃったんじゃないのぉ?』

 

 

「なッ…!」

 

 

火に油を注ぎやがった、と思う一護と士道。しかし、尚もよしのんは攻勢を強めていく。その結果、十香は本当に泣く寸前まで至ってしまった。もう感情のやり場のない十香は暴挙に出る。

 

 

十香が地団駄を踏むと地を砕き、地を揺らした。一護と士道が声を挙げようとしてもできなかった。そして、パペットが喋っていると思った十香は四糸乃の着けたよしのんを奪い取った。

 

 

「わ…私は!いらない子では…ない!し…シドーは…ここにいてもいいと…言ったのだ」

 

 

「!…か…かえしてください」

 

 

いきなりよしのんを奪われた四糸乃は十香の制服の端を引っ張り訴えるが、とても小さな声で伝わらない。さすがに、このままでは四糸乃が可哀そうなので一護が返すように訴えた。

 

 

「十香、それをその子に返してやってくれねえか」

 

 

「な…ッ!シドーはどうなのだ?」

 

 

「返してあげた方がいいかな」

 

 

十香は愕然とした。もしかして私は本当に要らない子かもしれない――――そう思うと十香は叫びたくなった。

 

 

「「うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」

 

 

十香が叫ぶと何処かに走り去ってしまった。その叫びに釣られて叫んだ四糸乃も消失(ロスト)してしまった。一護と士道は作戦を中止せざるを得なかった。


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