デス・ア・ライブ   作:月牙虚閃

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結構更新をするのに時間が掛かってしまって、申し訳ありません。
なんだが最近、この作品での十香がギャグキャラのように思えてきました。
それでも更新はし続けるつもりなので、お楽しみください。


Lost my hero

あの後、士道と一護のキスシーン(特に士道の方)を見た十香は自室に閉じこもってしまった。まあ、一護から見れば当然の行動だと思うが、あの唐変木の士道ならば何でこんなことをするのか分かっていないかもしれない。

 

 

それを含めて四糸乃との出会いを昨日の内に反省会をしていた。シェルターに避難していた筈の十香が現場に来たというイレギュラーがあったものの、あそこで上手く対応できなければ今回のような出来事が起こり精神が不安定となって精霊の力が逆流する。その精神の不安定を引き起こさないことが今後の課題のひとつとなった。

 

 

四糸乃に関しては一護は四糸乃の人格とよしのんの人格があることは言わないことにした。いずれは令音が解析してわかるだろうが、一護にしてみれば士道に自分でそれに気づいてもらいたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その会議のあとに一睡した一護は何でも屋の依頼を受けて学校に赴いた。ちなみに空間震の影響で学校が休校となっているため私服で来ている。

 

 

「そういや、育実さん元気にしてるかな?」

 

 

前の世界では同じく何でも屋のバイトしていたのだが、うなぎ屋という何でも屋の元でバイトをしていた。その何でも屋の店主というのが鰻屋育実だ。物凄く強烈なキャラを持っているが、一護が悩んでいた時は相談に乗ってくれたこともあり信頼している。ちなみに、店名が『うなぎ屋』という名前なので本物の鰻屋と間違えられてうな重の注文を発注されたこともある。

 

 

思いに耽っていたら依頼主がやって来た。その依頼主は学校に待ち合わせ場所を指定したこともあり、案の定来禅高校の生徒であった。

 

 

「五河一護さんですか?」

 

 

「ああ。で、依頼の内容は何だ?」

 

 

「あの…わたしと一緒に…この子の散歩をしてもらってもいいですかッ!」

 

 

「お、おう」

 

 

依頼主は頬を染めながら語気を強めて依頼内容を言った。一護がこの世界の女性に会う度にこのような反応をされる。嫌われているだろうか。まあ、この外見から不良だということを理由にしてレッテルを貼るような人間はいないので問題がないのだが。ところで、気になることがひとつ。

 

 

「犬の散歩っていうのはいいんだけど、依頼主さんが一緒に散歩するというのは何でも屋の俺が言うのもあれなんだけどさ、俺に頼む意味無くねえか?」

 

 

至極当然に思うことだ。何でも屋に頼むということは何かしら依頼主が忙しいから頼むということではないのか。一緒に散歩していたら、別のことをやれないのではないか。

 

 

「私が…ついていっちゃダメですか?」

 

 

「いや、依頼主さんがそれでいいんなら問題ないけど」

 

 

そんな潤んだ眼で見ないでほしい。何だか悪いことを言ってしまって罪悪感が芽生えてしまう。

 

 

結局のところ、報酬の話も簡単に折り合えて契約の成立をした。一護自身も提示してきた報酬に幻聴かと思うほどによかった。確かに報酬は高い方がいいが、予想していたよりも1ケタ違った。

 

 

ということで、一護は依頼主と一緒に犬の散歩をすることになった。一護が空を見上げると青空が広がっていた。絶好の散歩日和であるが、遠くの方に黒い雲があることから雨がそこで降っていそうだ。そこには近づかないようにしようと思う一護であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――数時間後、犬の散歩の他に、悩み相談、壁の補修などの幾つかの依頼を終えたが、もうその頃には日が傾き始めていた。今日の依頼はこれで終わりなのでこのまま帰ろうとしたところ、ポツポツと水滴が顔を叩いた。

 

 

「最近、よく雨に降られるなあ」と自身の運の無さにため息をつくが、この後特に急ぐこともないので近くのコンビニに雨宿りで寄ることにした。

 

 

よく見ると、ここは昨日四糸乃が現れた場所であった。このコンビニがもう営業を始めていることから察すると、運良く空間震の影響を受けなかったようだ。

 

 

コンビニの窓ガラス越しに外を見ているとますます雨が強くなった。まるで一護が下校している最中に四糸乃に出会ったときのように。まさか、本当に四糸乃が現界しているのではないかと思ってしまうほどに。

 

 

「一応見てみるか…」

 

 

一護はコンビニでビニール傘を買って雨の降っている外へと出た。ビニール傘が雨粒を弾いて、身を濡らすことを防いでくれる。

 

 

周囲は雨音が鳴り響き、視界の見通しは悪い。人間状態の一護では敵意や殺意を向けらなければ遠くにいる者の存在に気づかない。それでも、昨日四糸乃の現れた場所を考えれば自ずと予想は着く。

 

 

「一護…さんッ!」

 

 

一護の予想通り、昨日消失(ロスト)したショッピングモールの専門店内に四糸乃がいた。その四糸乃だが、泣きながら一護に抱きついた。

 

 

「どうした?何があったんだ?」

 

 

「実は…よしのんが…いないんです」

 

 

四糸乃がしゃくり上げながらも何とか事の次第を一護に伝えられた。昨日の現界のときに十香が現れて、そこでよしのんが奪われたときに動転してそのまま消失(ロスト)してしまった。なので、よしのんが十香に奪われたまま――――ということであるが、一護が見た感じであるが走り去ったときにはもう持っていなかったような気がする。ということは、ここで落とした可能性が高そうだ。

 

 

「俺も一緒に探すぜ」

 

 

「あり…が…とぅ…ござい…ます」

 

 

「とその前に、これを使ってくれ」

 

 

一護は先ほどコンビニで買ったビニール傘を四糸乃を渡した。傘が無くとも精霊の力を以てすれば雨をしのぐぐらいのことをできるが、少女をそのまま雨の中に放置しておくのは忍びなかった。

 

 

傘を受け取った四糸乃は迷いなく自分の頭上に開いた傘を持っていき雨を弾いてみせた。今まで、雨の中では傘を使ってこなかったので、傘を翳している四糸乃を見るのは少し新鮮だった。

 

 

それから30分ほどよしのんを探してみてみたものの、瓦礫が散乱しているこの場所で見つけるのは困難を極めた。

 

 

「よしのん…うえッ…うえッ…」

 

 

一度壊れたものは中々元には戻らない。よしのんを探していた最中は止まっていた涙も、ついにこぼれてしまった。止め処なく泣いている四糸乃にこれ以上探させるのは酷だと判断した一護は提案した。

 

 

「この雨の中でずっと探してたら風邪を引いちまう。少し休まないか?」

 

 

四糸乃は首を横に振って提案を断るが、空腹を訴える音が鳴った。

 

 

「えっと、腹が減ってるのか?」

 

 

四糸乃が再び首を横に振るがそれとは裏腹に可愛らしい音が再び鳴る。これで余計に休憩をさせなければならなくなった。それを見た一護は携帯を取り出してある人物に掛けた。

 

 

『もしもし、一護おにいちゃん?』

 

 

そう、一護が電話を掛けた相手とは琴里であった。今日は士道が買いだしにいくと言っていたので家に確実にいるのは琴里だけであった。ちなみに、機嫌を損ねている十香は令音に連れられて外食に行っている。だから、十香とエンカウントする可能性をなくす為に家に招待したいと思っている一護だが。

 

 

「ちょっと頼みがある」

 

 

『なに~?』

 

 

「四糸乃を家に連れてきたいんだけど」

 

 

一護がそう言うと電話口の奥から衣擦れの音が聞こえてきた。そして、そんな琴里から一言。

 

 

『バカじゃないの!?』

 

 

「いきなりそれとか酷くね!?」

 

 

いきなりの暴言にさすがの一護もたじろいでしまう。だが、電話越しの司令官モードの琴里が続けざまに説教を続ける。

 

 

『大体ねぇ、精霊と接触する前には連絡しなさいと言ったわよね。それなのに何で勝手に接触しちゃうの。カニみそ程度の脳の士道でさえ事前に連絡してきたのよ』

 

 

地味に士道を貶してることに内心少し苦笑した。ただ、何だかこれ以上会話を続けると面倒になりそうなので一護とりあえず話をまとめることにした。

 

 

「わーったよ、今度から連絡するから」

 

 

『何よその態度。ちゃんと作戦を練ってからでないと危ないのよ。ちゃんと、分かってるの?』

 

 

「そんなことを言ってもなあ…」

 

 

勿論一護も精霊と接触しているのでその危険性については重々承知しているのだが、十香のデート作戦の指示を思い出すと正直連絡しない方が良かったと思う。

 

 

『フラクシナスのクルーを信用してないわけ?』

 

 

「どう考えても不安しかねえよ!」

 

 

以前にフラクシナスのクルーを紹介されたが、早すぎる倦怠期(バッド・マリッジ)だとか藁人形(ネイルノッカー)などという非常に怖すぎる二つ名が付けられているクルーに任せられるだろうか。いや、任せられない。

 

 

『なっ!あなた言ったわよね。わたしの指示を聞くって!』

 

 

「それはなぁ、ちゃんとした指示だったらの話で「あああああああああああああああああああああ!!!」」

 

 

ヒートアップしていた会話の途中で四糸乃の叫びが響き渡る。一体何事かと思った一護だが、それと同時に代行証が鳴る。「もしかして…」と嫌な予感が走る。

 

 

「っ!」

 

 

そこには(ホロウ)がいた。しかも、悪態などつく暇もない、(ホロウ)はもう既に殴り飛ばす態勢に入っていた。四糸乃もあまりの精霊の力を暴走させて周囲を凍結させていく。無論、(ホロウ)も足元から凍らせているのだが、全てを凍らせる前に四糸乃は殴り飛ばされる。

 

 

この場でこの事態を対処できるのは一護だけであった。対処をするための死神化のためには代行証を胸に当てるというワンアクションが必要だ。しかし、もう殴り飛ばされる直前でそれをしては間に合わない。

 

 

それでも一護には四糸乃を助けられる方法がひとつだけあった。一護は一切の躊躇なく(ホロウ)の方へと走っていく。そして、代行証を胸に当てることはせずに刀で斬るように振るう。

 

 

「おおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

裂帛の気合いと共に代行証を完現術(フルブリング)をし、刃を顕現させて(ホロウ)の腕を両断した。腕を両断し終えたところでちょうど完現術(フルブリング)が完全に展開されたらしく、一護の姿が自分の身を護るように骸が体を覆っていた。

 

 

「四糸乃、大丈夫か?」

 

 

一護は四糸乃の前に立ち、尋ねる。四糸乃は涙ぐみながらもコクリと首を前に倒した。

 

 

「すぐ片付けるからな。こっから先は一縷でも攻撃は通さない」

 

 

片腕を両断されたことで苦悶の叫び声を挙げる姿は正しく化物。もはや倒す他にこの場を切り抜ける方法はない。一護は構えた刀を握りなおす。

 

 

「いくぜ」

 

 

地面を完現術(フルブリング)して一気に(ホロウ)の仮面の辺りに移動した。そして、刀を横に傾けて紅に縁どられた一転に黒い霊圧が収束していく。ようやく、一護がどこにいるか把握した(ホロウ)が腕で防ごうとする。

 

 

「遅せえ」

 

 

今の状態の速力は死神化の時と遠く及ばないが、それでも相手を倒せる程度の力を溜めることはできた。一護は霊圧が収束していた刀を横に降り抜いた。そうすると、黒い霊圧で作られた回転翼が仮面を砕いた。

 

 

「怖かったか?」

 

 

「怖く…ない…です」

 

 

四糸乃は両手で被っていたフードを更に目深にしてしまった。言葉ではそう言ったものの、今の見られて四糸乃に怖がられたかな、と一護は思い悩むことになった。

 

 

 

「ッ!」

 

 

そんな一護の様子に真意が伝わっていないということに気づいた四糸乃は慌てて言葉を補った。

 

 

「そう…じゃなくて…助けてくれて…ありがとう…ございます!」

 

 

「どういたしまして」

 

 

怖がられていたと思っていた一護はそれを聞いて安堵感を得た。四糸乃は一護に助けられた時を振り返り言葉を紡いだ。

 

 

 

「よしのんは…ヒーローです…私の理想です…強くてかっこいい」

 

 

「強くてかっこいい…か」

 

 

四糸乃ともよしのんとも対話したことのある一護にとってはそれぞれが個性があってどっちもかけがえのない存在だと思っている。四糸乃がよしのんに憧れることも自由だし、それになろうとするのも自由である。ただ…

 

 

「別によしのんみたく無理してなろうとしなくてもいいじゃねえか」

 

 

「でも…私は弱くて…よしのんがいないと…傷つけて…人を…傷つけてしまいます。だから…」

 

 

「それなら、よしのんがいないときは俺が全部受けとめる。四糸乃に誰も傷つけさせない」

 

 

「え…」

 

 

四糸乃は一護の言葉に驚いた。一護は四糸乃がもたらすであろう全て理不尽な不幸を全てこの身ひとつで受け止めると言っているのだ。だが、そんなことを他者が傷つくことを嫌う四糸乃が許容できるはずもない。

 

 

「それじゃ…一護さんが…」

 

 

「俺は傷つかない」

 

 

たった一言、誓うように言った。四糸乃を安心させたいというのもあったが、それ以上にこの絶望の連鎖のから四糸乃を助けたい。そのためであったら、この身は決して傷つかないということを一護は知っている。別に一護はよしのんではないからよしのんみたく支えることはできないかもしれない。それでも、一護には一護のやり方がある。

 

 

「俺が言うのもあれなんだけれども、四糸乃はもう少し誰かに甘えるっていうことをしてもいいんじゃねえか。もし、甘える相手がいないっていうなら俺がなってやる」

 

 

「一護さんは…うぇ…英雄(ヒーロー)…うぇっ…うぇ…です…うぇっ…」

 

 

「お、おい!?なんで泣くんだよ。俺、何か変なことでもいったのか?」

 

 

「ち…ちがいます…今まで…だれにも…そんなこと言われたことがないから…」

 

 

四糸乃は泣きながらも嬉しさを爆発させた。一護は最初はいきなりの涙に戸惑っていたが四糸乃の言葉を聞いて四糸乃とそして自分が手の届き得る範囲の全てを護ることを改めて心に刻んだ。

 

 

その後も泣き続けた四糸乃は徐々に意識を薄れさせていった。つまり、今までにないくらいに泣いてしまい泣き疲れでそのまま眠ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠りが覚めて、まず視界に飛び込んできたのは天井だった。ということは屋内にいるということになるが、それにしてもこの天井は最近…というよりもほんの数時間前に見たような気がする。

 

 

状況を把握するために上体を起こし瞼を擦りながら周囲を見回した。その周囲には確かテレビというものがある。ちなみに画面は破壊されて水浸しだ。

 

 

ここまでで四糸乃が目にしてきたものは全て既視感があることに首を傾げる。もっと視界を広げてみるとやはりどれもこれも既視感があるものばかり。と、ここで一護と出会う前のことを振り返ってみた。

 

 

(確か最初は…よしのんを探してて…士道さんと会って…士道さんが一緒に探してくれて…おなか減って…士道さんの家に入って…テレビを壊しちゃって…)

 

 

四糸乃は再びテレビが置いてある方を見る。そのテレビは画面が壊れていて、しかも水浸しである。ということは…

 

 

「士道さんの家…ッ!」

 

 

「四糸乃、起きたのか」

 

 

その四糸乃の大きな声に反応したのか男性の声が聞こえてくる。

 

 

「一護さん…でも…ここ…士道さんの家…」

 

 

「あれ、言ってなかったっけ。士道は俺の弟だって」

 

 

一護は顎をさすりながら自分がその事実を言ったような時のことを思い出してみる。そうすると、よしのんの前では言ったが四糸乃の前では言っていなかったことに気がついた。

 

 

「そうだったな。四糸乃にはまだ言ってなかった。まあ、そういうことだから俺が士道の家というか俺の家でもあるんだけど、ここに住んでる」

 

 

ひとまず一護がここにいる理由がわかり納得した。と、ここで再び四糸乃のお腹から『コロコロコロ…』と可愛らしい音が鳴る。その音に四糸乃は近くにあったクッションに紅くなった顔を埋めた。

 

 

「ちょうどよかった。今、カレーが出来たからこっち来いよ」

 

 

一護に言われた通りに椅子を引いて座る。机上に鎮座していたのは白いご飯と焦げ茶色の液体に肉やら野菜が入っていた。これを初めて見た四糸乃にしてみればこの焦げ茶色の液体に生命の危機を感じた。

 

 

「…えっと…これ…」

 

 

「見た目はアレだけどかなりうまいぜ」

 

 

一護にこう言われてしまえば食べないわけにはいかない。スプーンを手に持つがガクガクと震える。その震える手で白いご飯を多め、ルー少なめですくう。口のある位置まで持ち上げるが、そこから先に行程の口に運ぶことができない。

 

 

「もしかしてカレーダメだったか?だったら、別の作り直すけど」

 

 

「ッ!」

 

 

一護が皿を取り下げようとしたところ四糸乃は空いている方の手でガッシリと掴み、スプーンを一気に口の中に放り込んだ。

 

 

四糸乃は目を見開いた。少量ながらも口の中に入れたルーが舌に触れた瞬間に凝縮された旨味が解放される。肉や野菜の成分が溶け込んだルーは見事に米粒にコーティングして米の一粒一粒がしっかりとした美味さを感じる。こんな美味い食べ物食べたことが無い。

 

 

ペチペチペチペチ…

 

 

あまりの美味さに四糸乃は机の端を叩いていた。それを見た一護は作った甲斐があるというものだ。まあ、これで冷蔵庫にあるものは大体無くなってしまったのだが。

 

 

その四糸乃の感じた美味さにより、ますますスプーンを動かすスピードが増していった。ついにはカレーが入っていた皿がきれいになってしまった。

 

 

「ごちそう…さま…です」

 

 

「お粗末様でした」

 

 

「士道さんの親子丼も美味しかったですけど…一護さんのカレーも美味しかったです」

 

 

「ありがとな」

 

 

感謝の言葉をもらえれば誰もが嬉しくなる。とはいっても、ここまで美味しくできるのはこのカレーだけなので士道には遠く及ばないと一護は思っている。少し複雑な気分になってしまった。と、ここで四糸乃の言ったことに引っかかることがあった。

 

 

「さっきはスルーしたけど前に家にきたことがあるのか?」

 

 

「はい…そのときは…士道さんに親子丼を作ってもらいました。美味しかったです」

 

 

「士道の作るやつはホントにうめえからな。別に将来、主夫になっちまってもいいんじゃねえか」

 

 

まあ、四糸乃は主夫と聞いて頭の上にクエスチョンマークが浮かんだだけであったが。

 

 

「「……」」

 

 

四糸乃の食事が終わった後、沈黙が生じた。一護は食器を洗っているにしても、このまま沈黙が続くのはまずい。とりあえず、何か話題を切り出そうした結果…

 

 

「あー、さっき見たアレだけどさ…」

 

 

「ッ!」

 

 

やはりこの話を振るのはまずかった。それを示すように四糸乃の肩がビクッと揺らした。誰もがあんな体験すればそのときのことを思い出したくないはずだ。だが、自分からその話題を振った手前、この話を最初から無かったことにすることはできない。

 

 

「大丈夫か?もしアレならこの話やめるけど」

 

 

「大丈夫…です。一護さんが…護ってくれましたから」

 

 

「…わかった。あれは(ホロウ)って言うんだ。そいつを説明しようとするとかなり長くなるんだけど、っていうか士道と琴里にもかなり軽くしか説明してないんだよなあ」

 

 

「…ほろ…う?」

 

 

「そう。かなり簡単に説明すると、生きている人間とかを襲うめちゃくちゃ怖い化物ってことかな」

 

 

「う…」

 

 

誰にも傷ついて欲しくないと願う四糸乃にとっては辛いものである。これでもかなりのアバウトな説明なのだが、(ホロウ)が霊力の高い人を襲って捕食するなんてことを言ってしまったら町中が凍結してしまいかねない。だが、四糸乃にはひとつだけ伝えなければならないことがあった。

 

 

「もし、またアレに会ったら全力で逃げてくれ。どこにいたって俺が必ず護る」

 

 

「はい!」

 

 

今まで聞いたことのない大きさで返事をしてくれた。しかし、やはり伝えなければならないこと――――霊力の高い精霊は一般の人よりも狙われやすい――――を声にすることはできなかった。

 

 

「一護さん…少し聞きたいことがあって…いいですか?」

 

 

「あ、あぁ」

 

 

本当に言わないことが正解だったのか思い悩んでいた一護が尋ねられた反射的に返した。そのいつもとは違う一護の様子に四糸乃は気になりながらもあることを尋ねた。

 

 

「キス…って…何ですか?」

 

 

「……へ?」

 

 

いきなり四糸乃からそんなワードが飛び出すとは思わなかった一護は思わず素っ頓狂な声を発した。「キスって、接吻のキスでいいんだよな」と頭の中で整理する。そんな一護を尻目に四糸乃が言葉を続けた。

 

 

「確か…士道さんは…唇を近づけてするものだ…っていってました」

 

 

四糸乃が何故キスのことを知っているのか一護は納得した。精霊の力を封印するためにはキスは欠かすことのできないプロセスだ。そのことを士道が言うということもあり得る話だ。

 

 

「このキス…普通の人にはしたくありません……でも…なぜかわからないですけど…一護さんになら…キス…したいです」

 

 

「な…!」

 

 

四糸乃は自分の言っていることがわかっているだろうか、と疑いたくなるほど一護は衝撃を受けた。このかた2度の人生に恋愛遍歴などの無い一護。このことから一護の受けた衝撃は相当なモノであることがわかるはずだ。そんな一護に更なる一撃。

 

 

「キス…いいですか?」

 

 

一護と四糸乃の身長差からか上目遣いで一護を見上げながらその一言を言う四糸乃。如何に戦闘面でメンタルが鍛えられていようとも、このように見つめられたならば顔が熱くなって申し出を拒むことができない。

 

 

「わ、わかった」

 

 

動揺しながらも一護は唾液をゴクリと飲み干すと顔を四糸乃の顔が位置がある場所にまで下した。だが、ここから先に一護が進むことができなかった。鼓動が速くなり息も浅くなっている。このまま何をすればわからない一護の代わりに四糸乃から唇を近づけてきた。

 

 

「……」

 

 

一護は何も言葉にできなかった。その間にも四糸乃の唇が近づいていき距離を縮める。その距離はみるみると詰まっていき…30cm……20cm……10cm………5cm…もう唇はすぐ目の前にある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ

 

 

「何をしているのだ…」

 

 

リビング前の扉を開けた者がそんなことを言う。一護は石像のように固くなった首を声の主の方に向けてみると、案の定、そこには般若のような顔をした十香がいた。それに釣られて見た四糸乃は「ひっ!」と、顔を蒼くした。

 

 

「ち、違うんだ、これは!」

 

 

別に何も違くはないのだが必死に弁明をしない体が粉砕されてしまいかねない。しかし、一護の努力の甲斐もなく…

 

 

「イチゴもかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

もうそれは家の基盤自体がダメになってしまうぐらいの振動で階上にある仮の自室へと駆けて行った。それと同時に精神が大きく揺らいだ四糸乃は隣界へと消失(ロスト)してしまった。リビングにはただ一人一護が残されるだけであった。


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