「どこだよ、ここ…ってか、俺の体が縮んでる!?」
空間に飲み込まれ、どこだかわからない場所に放りだされた一護の体は小学生の高学年くらいまでのサイズまで体が縮んでいた。しかも、霊体だった体がいつの間にか肉体の姿に戻っていた。
「ここが森に囲まれているような場所じゃないだけマシだな。とりあえず、ここがどこなのか誰かに聞いてみるか。」
ビルとビルの間の薄暗い細い路地から脱出した一護は表の大通りに出た。そこで通行人に聞いた結果、ここは天宮市という大きな町だということがわかった。ただ、今の姿が小学生ぐらいの体の大きさっていうこともあり、そんなことを聞く一護を迷子だと思われたかもしれない。
「ここが天宮市だということはわかったけど、ここから空座町までどうやって帰ればいいんだ?それに天宮市っていう場所、俺は来るまで聞いたことがないんだけどな。」
ちなみに、空座町までの道のりも何人かの通行人に聞いたが、収穫も無いうえに空座町という名を聞いたことが無いと全員が言った。
(こんなに聞いても手掛かりなしかよ…俺帰れるのか?)
そんな一護に見かねたのか近くにいた警官に保護され、交番に連れていかれた。
交番にて…
「まず君のお名前を聞いてもいいかな?」
今は体が縮んでいるので、そういう風に聞かれるのは覚悟していたが、このように子供扱いされるのは一護にとって非常に恥ずかしかった。それでも、答えないわけにもいかないので…
「黒崎一護です。」
「苺君でいいんだね。ずいぶんかわいらしい名前だね。」
「…苺じゃなくて、一等賞の一に守護神の護で一護です。」
一瞬、苺と言われてツッコミをしようと思ったのだが、年上の人間にそんなことをするわけにもいかないので普通に言った。
「ごめん、ごめん。一護くんだね。」
「はい。」
「それで一護くんはどこから来たのかな。」
「空座町という場所なんですけど…」
一護は町名だけでなく、詳しい地理についても説明した。それを踏まえて警官は地図帳を広げて空座町を探した。しかし、その地図帳の後ろのページにある索引には空座町は無かった。何度も見返したが、やはり、空座町はなかった。
「君が来た場所は空座町でいいんだね。」
「はい、そうです。」
それを聞いた警官は頭をかいて、困ったような顔をしながら一護に真実を伝えた。それを知った一護は、薄々思っていたことが今起きていると確信した。自分は恐らく空座町のある世界から違う世界へと飛ばされたということを。
「そうですか…。」
「ちょっと待っててくれないかな。僕の調べ方が悪かっただけかもしれないから、他のお巡りさんに聞いてくるから。」
一護の顔が非常に暗くなってしまったのであわてて付け加え、奥の部屋に入っていった。それを見計らって、この世界に帰る場所のない一護はこれ以上迷惑を掛けたくないと思いここから出て行った。
交番から出て行ったのはいいものの、これからどうすればいいのかわからなかった。しかも、いま差しあたって一番の問題になっているのは空腹だ。大学の授業抜け出したのは昼食前の最後の授業だったので、一護の腹の中は何も無い状態だ。
「腹へった~。やっぱ、さっきの交番で飯を頼んでおいた方がよかったな。」
一瞬そう思ったが、やはり交番でご飯を要求するのはおかしいと思い空腹を振るい落そうとした。だが、いくら強大な力を持つ人間でも空腹に抗える筈もなく…
「ああ、無理だ。もう歩けねえ。」
一護はついにへたり込んでしまった。まだ、意識を失う状態にはさすがにならないが、いろいろありすぎて大分体力を消費させてしまった。
「ん?」
車の行きかう大通りの中で、そこに似つかわしくない音を聞こえた気がした一護は空腹の体に鞭打って音のする場所へと向かった。
「おらぁ!」
向かってみると、一人の少年が数人のチンピラに殴る蹴るの暴行を受けていた。少年は無抵抗にただただそれを受けるだけ。周囲の大人は同じ目に遭いたくないので無視する。一護が助けなければ少年はこのまま死んでしまうかもしれない。
一護は何も考えずにもうすでにチンピラの一人を蹴り飛ばしていた。
「よって集って1人と喧嘩とは物騒だな。」
「何してくれてるのかな、お兄ちゃん。正義の味方気取りか?何にしても、俺の仲間に手を出したんだ。ただで帰れるとは思うなよ、ガキがッ。」
一護は空座町にいたときと変わらずこういう輩に関わってしまうことにうんざりしつつ、チンピラどもの中へ飛び込んだ。
結果だけを言えば一護の圧勝だった。ただのチンピラにさっきまで化け物退治をしていた一護に敵うはずもない。いくら一護の体が小学校高学年相当の体だったとしても、これまでの死闘で培われた並外れた動体視力と戦いの為の頭脳を以てすれば赤子の手を捻るようなものだ。
「もう大丈夫だぜ。」
「……。」
声を掛けた一護だったが、件の少年は無言でふらふらとどこかへと行こうとした。
「おい、待てよ!」
すぐに少年を掴んで、そのときに初めて少年の顔をはっきりと見た。あどけなさが残る女の要素がある顔だった。一護はその顔に見覚えがあった。
(会ったのは初めてなんだけど、なんだか何かで見た顔だったな。)
その次に一護と少年の瞳が合ったとき、この少年に言い知れぬ不安を感じた。なぜなら、少年の瞳は同年代のそれより黒く淀んで生きる目的を見失っているような人間がするような瞳だったからだ。一護はこのまま放っておいたら近いうちに最悪な形で死んでしまうとそう直感した。
「俺について来てくれ。」
そんなことを言われて、少年は目を点にして見つめてきた。何も考えずに完全に見切り発車で言ってしまったので、次に何て言えばいいのか分からず焦ったが自分らしく言うことにした。
「お前がついて来るか来ないかは聞いてない。ただ俺は…目の前で消えそうな命を見捨てるような屑じゃねんだよ。別に俺を信用しなくてもいい、変な人間だと思っていてもいい…俺はたった今お前を護ることに決めた。」
少年はそんなことを言われ慣れていないのか、完璧にオドオドしていた。そんな少年を見かねてか一護は手を引っ張った。
「俺の名前は一護だ。お前の名前は?」
見ず知らずの人間である一護に自分の名前を言おうか迷ったが、初めて会った人間にそんなことを言える人なら何か変えてくれると思い意を決して言った。
「…士道、それが僕の名前。」
そのときの士道の瞳は晴れているように一護は感じた。そして2人は町に消えて行った。