デス・ア・ライブ   作:月牙虚閃

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更新が滞ってしまって誠に申し訳ありません。
前回の更新以来大学の課題とか風邪とかバイトとかが重なって中々更新をすることができませんでした。次は体調管理を気を付けますorz
では、今回の内容は狂三編…ではなく四糸乃の番外編です。
それではお楽しみください。


四糸乃ゲームセンター

四糸乃の精霊の力を封印後、フラクシナスの転送装置の機能が回復しすぐさま一護達は回収された。結局のところ誰も大きなダメージを受けた者はいなかったものの一人突っ込んでいった士道に琴里が抱き着き胸に抑え込んだ思いを爆発させた。その光景を少し離れて見つめていたが、その途中で令音に月牙天衝の破壊規模が隣町まで及びそうになったと報告され呆れられた。

 

 

これはその日から数日後の話である。

 

 

ゲームセンターに入場した一護は周囲から多くの視線を集めていた。髪の色が派手だといってもそれだけでは視線を集める要因にはならない。あくまでも、一護が一人であれば―――という話である。だが、今回はひとりではない。

 

 

「一護さん…っ!」

 

 

そう、一護は一人ではなく四糸乃も一緒にいるのである。傍から見れば不良と幼女―――混ぜるな危険と言われてもおかしくない。四糸乃は周囲の視線が増加していく度に怯え、それが一護に怯えてるように見えるから視線を集めるという悪循環を生み出しているのである。一護は藁にもすがる思いで装着しているインカムの向こう側にいる人たちに助けを求めた。

 

 

「琴里、こんな状況でデートするのは無理だ」

 

 

『確かにこれは上手くない状況だわ。本当はラタトスクの存在を表に出したくないけど背に腹は代えられないわ。それに四糸乃から希望したデートを邪魔させるわけにはいかないしね』

 

 

インカムから琴里が何やらクルーに指示しているような声が聞こえて1分もしないうちに一護と四糸乃の周囲にいた人たちは機関員と思しき黒服の男たちに追い払われた。というよりも脅迫されたのが正しいのかもしれなかった。

 

 

『いやー、四糸乃と一護くんのデートの邪魔をしようなんて無粋だね。それとも、ラブラブぶりを見せつけたかったかなー?』

 

 

「よしのん…!」

 

 

四糸乃は顔を紅くしながらよしのんの口を押え、一護は頬をぽりぽりと掻いた。余計なひと言である。

 

 

『ここの施設は私たちが貸切にしたわ。だから、もう人が寄ってこないはずよ』

 

 

「相変わらず、すげえことするなぁ」

 

 

『これぐらい出来なきゃ、精霊の面倒なんて見られないわよ』

 

 

一護と四糸乃の為だけにこれだけのことをできるラタトスクに脱帽である。まあ、ソウルソサイティにいる護廷十三隊の隊長の朽木白夜でも同じことが出来そうな気がするが。

 

 

「これで邪魔なやつはいなくなったし、遊ぶか」

 

 

「はい…っ!」

 

 

せっかく琴里が人払いをしてくれたのだから四糸乃と共に思う存分楽しまなければ。最初に何で遊ぼうかと悩みどころだが四糸乃でも遊べる難易度のものがいい。

 

 

「あれ…何ですか?」

 

 

四糸乃が指差したのは二つの太鼓とその前に大型の画面がついている筐体――――太鼓○達人である。それを置いていないゲームセンターがないほどの大人気の音楽ゲームだ。

 

 

「あれは音楽に合わせてバチで画面に出てくるマークに従って太鼓をタイミングよく叩いていくゲームなんだけど…やってみるか?」

 

 

「いいんですか!?」

 

 

「ゲーセンに来たんなら遊ばねえと」

 

 

『一護くんもこういってるんだし遊んでみなよ』

 

 

「やって…みます」

 

 

ということで、四糸乃が太鼓○達人に挑戦することになったのだがひとつ問題が起きた。

 

 

「…届きません」

 

 

「あー」

 

 

精一杯背伸びをしても四糸乃の身長ではゲームする上で肝心となるゲーム画面が見えない。これではゲームができない。

 

 

『どうするの一護クン。このまま四糸乃がゲームできなかったら、どう責任を取ってくれるのかなー?』

 

 

よしのんが一護に迫ってそんなことを言ってくる。四糸乃はそんな態度を取るよしのんを窘めようとした。

 

 

「大丈夫だ。そういうときにはこれがある」

 

 

ゲームセンターというのはゲームを楽しむところである。日中ならば全年齢の人がそこでゲームを楽しむことができる。そんな場所で子供に配慮していないはずはない。こういう時の為に踏み台が用意されてある。

 

 

「これであそべます」

 

 

踏み台の上に乗ってみるとゲーム画面全体を四糸乃の視界で捉えることができた。一護にはなぜかよしのんが少し残念そうな感じに見えたのだがあまり気にしなくてもいいだろう。

 

 

無事に問題が解決したところで一護はコインを投入口にいれる。そうするとデモプレイの画面からすぐにタイトル画面になった。その画面で太鼓を叩き楽曲と難易度を決定してチュートリアルに突入した。そのチュートリアルで一護は流れてくる説明を補足して四糸乃に教えた。チュートリアルも終わりいよいよ演奏が始まるということで四糸乃は緊張した面持ちでゲーム画面を見つめた。

 

 

「そんなに気を張らなくても大丈夫だぜ。自分が楽しめればいいからな」

 

 

「はい!」

 

 

一護は緊張を和らげるために四糸乃に声を掛けたのだが、それが一護が期待していると思えて四糸乃は余計に緊張してしまった。若干手が震えている中で演奏が始まった。

 

 

ゲームを体験したことのない四糸乃が選んだ難易度は勿論『かんたん』。子供が初見でも充分にクリアできる程度のものだ。そして選曲した楽曲はとある声優が歌っているアニメのエンディングになった楽曲らしい。確か名前が『s○ve the world』だったような気がすると一護は思い出す。

 

 

伴奏が流れて少しすると最初に赤いマークが流れてきた。これは太鼓の面を叩くという符号である。四糸乃は近づいてくる符号をタイミングを見計らって太鼓を叩き見事に良判定を出した。

 

 

それに続いて一定間隔のリズムで赤い符号が流れてくるが、完璧とまでは言わないものの確実に得点にしていった。

 

 

「ッ!」

 

 

ところが赤い符号の途中で太鼓の縁を叩くように示す青い符号が出現してそれに対応しきれず叩くタイミングがずれてしまった。それが引き金になって続いてくる符号も打ち漏らしてしまった。

 

 

「あわわ、どうしよう…」

 

 

『むーむー』

 

 

よしのんはテンパっている四糸乃を落ち着かせようとするがバチを銜えているため言葉にして伝えられない。尚もゲーム画面では符号が流れていく。このままではゲームをクリアできない。

 

 

「え?」

 

 

「大丈夫だ。俺が一緒に後ろから手伝う」

 

 

一護はそっと四糸乃の後ろから両手の手首の辺りを掴みゲーム画面で示されている通りに四糸乃の腕を動かす。いきなりのことに思わず顔から火を吹き出しそうになったが、腕を一護に支えられながらも太鼓を叩いた。やがて曲が終わり結果発表の画面に移り変わった。

 

 

「…」

 

 

四糸乃は固唾を飲んで結果を待った。得点欄に次々に数が埋め尽くし続いて達成率の欄の発表となった。初心者にとっては達成率がノルマに達したかどうかで成功・失敗となる。

 

 

ついに達成率の欄のゲージが色に染められ、それはノルマを少し越えて止まった。

 

 

「やった!」

 

 

「クリア出来てよかったな、四糸乃」

 

 

ゲームをクリアできた四糸乃に祝福する一護。四糸乃は筐体に向けていた体を一護の方に向けて頭を下げた。

 

 

「一護さんありがとうございます。一護さんがいなかったら成功してませんでした。それと…後ろから支えてくれたときに」

 

 

四糸乃がそのときのことを思い出すと咄嗟に顔を隠してしまった。一護はその様子に少し不思議に思うも言葉を返した。

 

 

「いや、これは四糸乃が頑張ってやった結果だよ。俺はほんの少しだけ手伝っただけだ」

 

 

とここで、よしのんがひと言。

 

 

『一護くん、相変わらず鈍いねぇ』

 

 

「鈍いって、何がだ?」

 

 

『それは…むぐっ』

 

 

よしのんが何かを言おうとしたところで四糸乃によって口を塞がれた。よしのんは抵抗するものの四糸乃は全力で阻止する。

 

 

「よしのんがすげえ苦しそうなんだけど」

 

 

「!大丈夫です」

 

 

「でも「大丈夫です」」

 

 

四糸乃がこんなに言うのだから大丈夫だろう、多分。一悶着が終わったところで今度は四糸乃が一護のプレイが見たいというふうに頼んだ。一護は快く引き受けて鞄からmyバチを取り出した。

 

 

「一護さんこれは?」

 

 

「俺の手に合った専用のバチみたいなもんだ」

 

 

「そうなんですか」

 

 

四糸乃は興味深々に瞳を輝かせながらまじまじと見つめてくる。正直にいえば非常にやりにくい。

 

 

「むずかしいをやるんですか?」

 

 

現在のゲーム画面でカーソルはむずかしいに合わせられている。だが一護が挑む難易度はこれではない。

 

 

「むずかしいじゃ少し物足りないんだよなぁ。いつも俺がやってるのはこいつなんだけれど」

 

 

カーソルがむずかしいに合った状態で太鼓の縁を素早く数回叩く。そうすると、新たな難易度のおにが出現した。おに出現の演出に四糸乃は一護の後ろに隠れた。

 

 

「ひっ、なんですか…これ?」

 

 

「ああ、これはむずかしいよりも難しい難易度なんだけれど難しさは比べものにならないぐらいやばい」

 

 

一護はそう言いながらもまた新たな操作を行い3倍速の設定にした。自分で難しいと言っている癖にとんでもない設定にしていることに一護は気づいてるのだろうか。続いて演奏する楽曲を『さ○たま2000』に決定した。

 

 

楽曲のロードが終わり、曲が始まると同時に超高速で符号が流れていく。それでも一護はひとつも打ち漏らすこともなく全て良判定を叩きだした。

 

 

「え…」

 

 

『なんなのよさー!?これは』

 

 

あまりの一瞬の出来事に四糸乃は茫然、四糸乃から解放されたよしのんは口をあんぐりと開けた。だが、ゲームはまだ始まったばかりである。難易度おにの3倍速の脅威はこれから始まる。

 

 

「フッ…」

 

 

超高速で流れる符号の流れが途切れたところで一息吐く。体が楽曲のリズムに乗り始めたその後にゲーム画面の譜面を一点に見つめる。

 

 

ドドドドドドガガガガガガドガドドガ―――――再び譜面に滅茶苦茶の数の符号が超高速で流れている。そんな中で一護は次々と良判定を量産していく。太鼓を叩いているその腕はもはや残像が見える程の速度で動かしている。

 

 

「す…すごいです…でも…うぅ」

 

 

ゲーム画面で符号が超高速で流れている譜面と一護の動かしている腕を注視していた四糸乃は目がそれらについていくことができずにややめまいのような症状がでてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしっ、これで終わりだ…って四糸乃、どうしたんだよ!?」

 

 

ゲームを終えた一護が驚くのも当然で現在の四糸乃は床に横になっていた。しかも、少し顔色が悪い。一体何が原因なのかと思案しようとしたところでフラクシナスからの通信が入った。

 

 

『なにひとりでゲームに夢中になっているのよ、このダイオウグソクムシ』

 

 

「これって俺のせいなのか?」

 

 

『誰のせいというよりも、この場にはあなたしかいないでしょ』

 

 

ゲームセンターの店内には一護と四糸乃のみで他には誰もいないという状況だ。何にしても四糸乃に何かあれば対応できるのは一護だけだ。しかし、なぜこうなってしまったのかと状況が掴めない一護。

 

 

『一護の選んだ難易度設定が異常なのよ。おにの3倍速なんて誰が出来るのよ。ゲーム画面が目まぐるしく変化してたのとあなたの残像が残るほどの腕の動きに酔って気分を悪くしたの』

 

 

「そ、そうなのか」

 

 

琴里の怒涛の言葉のマシンガンに怯んでしまった。確かにあれだけのものをゲームに慣れていない者が画面を見れば酔ってしまうかもしれない。もしそうであれば謝罪しなくては、と床に寝転んでいる四糸乃を抱える。

 

 

「ッ!」

 

 

四糸乃が一護に抱えられると顔を紅くして体温が上昇した。四糸乃がそういう反応を見せたのはその一護の抱え方に問題があった。そう、一護は所謂お姫様抱っこをしていたのである。

 

 

「熱があるのか、四糸乃がこんなに無理してたのに気づけなくてすまん」

 

 

一護が謝罪すると猛烈な勢いで四糸乃が顔を横に振って必死に否定した。そこでなぜかよしのんが『ヒューヒュー』と言っていた。本当に何故だろうか。

 

 

「大丈夫です。デートを続けてくださぁい…」

 

 

『よしのんからもお願いするよー』

 

 

四糸乃はこのままデートを続けたいということを一護に伝えた。体調が悪いせいなのか言葉の最後の方は声が消え入りそうになっていた。それに重ねてよしのんからもお願いをされた。

 

 

「いや、あまり無理をして体を壊したら元も子もないだろ。デートはまた今度でもやれるからそのときにしねえか」

 

 

一護は具合が悪そうに見える四糸乃を考慮してデートの延期を提案したのだが四糸乃は首を横に振った。純粋で健気な四糸乃であるからせっかくの一護が受けてくれたデートを途中で止めさせたくないのだろう。

 

 

恐らく一護がこれ以上説得したとしても四糸乃はデートを続けようとするだろう。一護は琴里から知恵を借りようとしたところ、琴里から話しかけてきた。

 

 

『お姫様抱っことかやるわね…確かに四糸乃の体調を考えるとこのままデートを続けさせたくないけれども致し方ないわね。このままデートを続けなさい』

 

 

「本当に大丈夫なのか」

 

 

先ほどまでの四糸乃の苦しそうな様子を見ると心配になってしまう。

 

 

『デートが終わったらすぐに医療用顕現装置(メディカルリアライザ)が使えるように手配しておくわ。それと、万が一四糸乃の体調が更に悪化したらこちらからドクターストップをかけて機関員に連れてきてもらうから、そこは心配しないでいいわよ』

 

 

「そうか。なら、もしもの時は頼むぜ」

 

 

これまで懇願するように一護を真っ直ぐ見ていた四糸乃デートの再開をすることを伝えた。

 

 

「わかった、デートを続けよう。だけど、これ以上悪化したら家に帰すけどいいか?」

 

 

「はい!ありがとうございます」

 

 

とりあえずデートは続行することになった。そう、続行することになったが次は何で遊ぶのかを決めかねていた。

 

 

『一護、選択肢よ』

 

 

一護は一瞬選択肢とは何の選択肢なのかが解らなかった。だが、士道からこのインカムを通してフラクシナスのAIが提示した選択肢の中の1つをクルーで選び、その決定したものを実行するということを士道から聞いたのを思い出しすぐに言葉の意味を理解した。それで提示された選択肢は…

 

 

1.クイズゲーム、2人で協力プレイ

2.相性診断で2人の絆を再確認

3.プリクラで思い出を残そう

 

 

フラクシナスのクルーの投票の結果、3番のプリクラが選ばれた。その投票の最中に神無月がプリクラで床に寝て下着の覗きをすればご褒美という名の蹴りと足を振り上げる際に写真に下着が映る的なことを言ってパラシュート無しのスカイダイビングの刑が執行されたことは一護は知らない。

 

 

「なあ、次はプリクラをやってみないか?」

 

 

「プリクラ…ですか」

 

 

『なにそれ?なにそれ?』

 

 

プリクラとはどういものか分からず首を傾げる四糸乃と興味津々のよしのん。一護はそんな二人に筐体を示してざっくりとした説明をした。

 

 

「すっげえ簡単な説明だけど、可愛い写真撮れる機械って感じ」

 

 

「しゃ…写真!!」

 

 

『ナ、ナンダッテー!』

 

 

写真と聞いて四糸乃とよしのんの2人は愕然とした。確かに写真に映ることを嫌う人もいるがそういった反応と違っていた。ただ今の姿を映すだけの写真に何か他の要素があると一護は思えなかった。

 

 

「写真…というのは…ぬ…ぬが…」

 

 

何かを言おうとしていた四糸乃は顔をボンッと爆発させた。そして、それを隠すようにしゃがんで顔を埋めた。このような事態に陥った原因が分からずこれには一護は動揺するしかない。

 

 

「お、おい!?一体どういうことだよ」

 

 

『一護くん…よしのんもさすがにこれはフォローできないよ』

 

 

いつも陽気なよしのんにも呆れられる始末、これには一護は手を床につけるしかなかった。

 

 

とここで、インカムから眠たそうな令音の声が聞こえてきた。

 

 

『ふむ…これは……なるほど』

 

 

「令音さん、何かわかったんですか?」

 

 

一護は床に手をついたままどうにかこの状況を打開したいと藁にも縋る思いで令音に頼るしかなかった。

 

 

『十香のときも同じだったが、四糸乃を検査する際に写真を撮らせてもらった。詳細なデータを得るため為に四糸乃にも裸になってもらった』

 

 

「裸って…」

 

 

一護とて健全な男子(実際は成人男性)なのだから裸というワードに反応しないわけがない。裸というワードを聞いて、今四糸乃が着ている服が透けて未成熟な裸体が見えてきてしまい色々な意味で半狂乱状態になりかけた。

 

 

『エロいこと想像してんじゃないわよ!』

 

 

琴里の一喝により何とか妄想が止められた。その当の琴里は野獣を解放した一護が四糸乃を襲い掛かるところまで想像が至って息が上がっていることは悟られてはならない。

 

 

「助かった、琴里」

 

 

『別にいいわよ…とりあえずイメージを切り替えるために別のゲームを選びなさい』

 

 

「ああ…わかった」

 

 

上がった息を整えて琴里の言う通りに兎に角四糸乃の注目をプリクラから別のもの移しかえすために行動を起こした。

 

 

「とりあえずプリクラはやめにしよう。代わりにというのも少しおかしいけど、あれならどうだ?」

 

 

そんなに恋愛に関する知識を持たない一護は完璧に自分の勝手なイメージだがデートの締め括りといえばクレーンゲームという感じで時間もそろそろ頃合いでもあったので四糸乃に勧めてみた。

 

 

『!?』

 

 

「ま…待って…よしのん」

 

 

「お、おい。いきなり走ると転ぶぞ」

 

 

いきなり駆け出した四糸乃に一護は後ろからついていった。最初はなぜいきなり駆け出したのか解らなかったものの四糸乃が釘付けになっていたものを見て駆け出した理由を理解した。

 

 

筐体の中に陳列されていたのは各種動物を模した人形である。しかしその中には放送に包まれているよしのんと瓜そっくりな黒のウサギのパペットが鎮座していた。

 

 

『よしみん…』

 

 

「え、えーと、どういうことだ、これ?」

 

 

よしのんに似ているパペットであるから駆け寄ったことは理解できたが、一体どういう関係なのかが分からない一護。唯一知っているかもしれない四糸乃にも尋ねてみたがわからないらしい。四糸乃は最初からよしのんしか持っていないので、よしのんがなぜこういう反応をしたのかはわからない。

 

 

「お願いです…一護さん、あれを取ってください」

 

 

「ああ」

 

 

『一護くん、いいの…』

 

 

「任せろ。それに四糸乃もあいつを助け出したいみたいだしな」

 

 

「いつもよしのんには助けてもらってるから…今度は私がよしのんを助ける番だよ。私も『よしみん』さんと話してみたいです」

 

 

『四糸乃まで…それじゃあ、お願いしようかな』

 

 

今、ここによしみん救出作戦が実施することになった。まず、一護がコインを投入する。続いて、四糸乃とよしのんがクレーンを操作する。ちなみに、最初は一護が操作するつもりだったが、四糸乃とよしのんは自分たちで助け出したいということで簡単にクレーンの操作方法を教えてある。

 

 

「「……」」

 

『……』

 

 

四糸乃とよしのんは1番のボタンを押してクレーンを奥へと動かした。一護は筐体の真横からクレーンの動きとよしみんがある奥行きを見計らう。ゆっくりと動くクレーンの動きは非常に緩慢だと思えた。それでも着実に進んでいく。

 

 

「よし、今だ」

 

 

一護の言葉と同時に四糸乃とよしのんはボタンから手を離す。そうするとクレーンの動きも止まる。クレーンが止まった場所は一護が予定していた場所とほぼ同位置だった。とりあえず一段落ということで息を吐く3人。

 

 

「そろそろやるか?」

 

 

四糸乃とよしのんは頷いて一護に返した。そして二人は2番のボタンを押そうとしたが、あともう少しというところで手を先に進めて押すということができない。頭の中でよしみんを救うことができないイメージ映像が流れて勇気が出ない。だが、その映像を打ち消すような暖かさを手の甲に感じた。

 

 

「大丈夫だ、絶対に助けられる」

 

 

その強い一護の言葉と手の甲にある温もりで四糸乃とよしのんはすべてを吹っ切ることができた。ついにボタンは押され、賽は投げられた。

 

 

今度はボタンを押し続けている間は奥ではなく右方向へとクレーンは動いていく。その動きは最初のボタンを押したときよりも更に遅く感じた。だが、ここで集中を切らすわけにはいかない。

 

 

そして徐々によしみん近づいていくクレーンはその視界に捉えた。よしみんの真上を陣取るまであともう少し…

 

 

グラグラ―――

 

 

「こんなときに地震かよ!」

 

 

「ああ!」

 

 

地震が一護たちの体と筐体を揺らした。揺れ自体はそこまで大きなものではなかったが不運なことによしみんが横に傾き、クレーン自体も振り子のように揺れてしまっている。だが、もうボタンから手を離さなければよしみんがいる場所を通り過ぎてしまう。

 

 

「しょうがねえ、手を離すぞ」

 

 

全員がボタンの上から手を離すと横方向への移動が止まり、クレーンは降下を始めた。正直いって場所取りはよしみんが倒れたことによって微妙である。それでも、よしみんが包装されている袋についている紐にクレーンを引っ掛けなければならない。

 

 

よしみんへと近づいて行っているクレーン。全ての操作を終えた一護たちはただ願うことしかできない。そして運命のとき…

 

 

「「『掴めええええええええええええええええええええええええ』」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に…ありがとうございます」

 

 

よしのんがよしみんを抱き合っている代わりにお礼を言った。よしみんはクレーンの腕のギリギリのところで引っかかりそのまま取り出し口のところまで落ちずに済んだのである。

 

 

「いや、これは俺じゃなくて四糸乃とよしのんが頑張った結果だ。俺はただ手伝っただけだよ」

 

 

一護は今日は感謝されるよりも反省しなけれなならない点があるということを感じていた。だから、一護は四糸乃に頭を下げた。

 

 

「ごめん。今日は四糸乃とデートだったのにあまりデートらしいことをしてやれなくて。今日の俺とのデートは楽しくなかったか?」

 

 

四糸乃は一瞬呆気にとられてしまったが、一護の胸に飛び込んだ。

 

 

「そんなことはないです。一護さんがいなかったらゲームセンターに来れませんでしたし、そして何よりも一護さんと話したり、こうやって抱き着くことなんてできませんでした。私は一護さんと遊べて本当に楽しかったです」

 

 

「そうか、ありがとな。俺も四糸乃と遊べて楽しかった」

 

 

2人は夕日に隠されお互いの紅の顔を知ることはなかった。そして一護はいつかまたデートをする機会があるのならば四糸乃が満足するようなデートをすると誓った。


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