デス・ア・ライブ   作:月牙虚閃

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皆さんお待たせ致しました。ついにあの人の登場です。
では、早速お楽しみください。


Time is pain ,and Fire reminds us
The trap of school road


今日は6月でまだ梅雨明けの宣言がされていないというのに空は快晴、気温は真夏日といわれる基準まであともう一歩の暑さである。こんなうだるような天気の日でも学校は休校にはしてくれない。学校側の決まりで先月から制服は夏服を着用している一護と士道なのだが、やはり暑いものは暑い。

 

 

五河家では登校の際、基本的に琴里が家を出てから一護と士道が一緒に家を出る。今日も例に漏れず一緒に家を出た。但し、いつも違うのはゲストがいるということだ。

 

 

「ったく、琴里のやつ跳び蹴りする必要はなかっただろ」

 

 

士道は尻をさすりながら先刻強襲してきた妹様に対して愚痴を言った。そんな様子の士道に一護は苦笑した。

 

 

『無駄口はその辺にしておきなさい。そろそろ、十香とゲストが来るわよ』

 

 

琴里が若干不機嫌そうな声でそんなことをインカムを通して言ってくる。新たな精霊が出ているというわけでもないのに何故インカムを装着しているのかといえば、また訓練をさせられるらしい。インカムは一護も装着しているので、勿論一護も強制参加だ。

 

 

「おーい、シドー」

 

 

「おはよう、十香」

 

 

「うむ、おはようだ。一護もおはようなのだ」

 

 

「十香、おはよう」

 

 

「ところで、シドーとイチゴをこの時間に見かけるとは珍しいではないか」

 

 

十香は一時期、五河家に宿泊していたのだが、そのときに一緒に登校してしまうと好からぬ噂を建てられてしまうため士道と一護が登校する時間とずらして登校していたのである。しかし、現在十香はお隣の精霊専用のマンションに越していったので態々時間をずらす必要はなくなり琴里の助言で一緒登校することになった。

 

 

「偶には一緒に学校に行ってもいいな…って感じかな」

 

 

「うん…それは…その…いいと思うぞ」

 

 

そんな青春の甘酸っぱい雰囲気を見せつけてくれる士道と十香に、精神年齢30オーバーの一護は微笑ましいと思えた。それと同時に、1度目の青春時代に大した恋愛をしてこなかったので士道に先に越されたと思えて少々複雑な気分だった。

 

 

「そうだ、2人は先に学校に行って来い。どうやら俺は邪魔ものみたいだしな」

 

 

士道と十香は一護が完全に空気なっていることに気づいた。

 

 

「そ、その悪い、つい話し込んじゃって」

 

 

「す…すまない。イチゴがそこにいるのにその…」

 

 

「大丈夫だ。出番が何週もないことなんてザラだし慣れてる」

 

 

遠い目をしてどんよりとした空気を纏わせているその姿は哀愁を漂わせてくれる。主人公なのに主人公していないということはあまり触れてはいけない。

 

 

『おっはよー…って一護くんどしたの?』

 

 

十香の出てきたマンションから出てきたのは同じく精霊の四糸乃だ。但し、今一護に話しかけているのは四糸乃の手に装着されているパペットのよしのんだ。

 

 

「大丈夫だ、なんでもない」

 

 

「一護さん、本当に大丈夫ですか」

 

 

四糸乃のそんな純粋な眼で見つめられてそんなこと言われてしまえば一護とて心の内のものを吐露したくなる。そんな思いを飲み込んで、これ以上この話題に触れさせないために一護は話題を変えた。

 

 

「まあ、俺のことは大丈夫だ。それよりもまだ挨拶をしてなかったな。おはよう、四糸乃、よしのん」

 

 

「おはようございますっ!」

 

 

「おお」

 

 

今までの内気な四糸乃とは思えない大きな声に一護は感嘆の声を漏らした。霊力を封印したことで他人を傷つける可能性がずっと低くなったので考え方が少しずつ前向き変わったのかもしれない。

 

 

それに続いて士道にも元気な声であいさつをして士道もそれに返した。最後に十香なのだが…

 

 

「あぁ…うぅ…」

 

 

十香によしのんを取り上げられた経験がある四糸乃はあいさつをするのを尻込みしてしまうのだった。その当の十香は全くそのことを気にしていないようだが。

 

 

『四糸乃!ファイト!』

 

 

よしのんが励ましてくれた四糸乃は勇気を振り絞ってこう言った。

 

 

「あめんぼあかいなあいうえお…!」

 

 

「発声練習…だと」

 

 

勢い余って発声練習をしてしまった四糸乃はあまりの恥ずかしさ顔を隠した。いきなり発声練習された十香は頭の上にクエスチョンマーク浮かび反応に困った。

 

 

再びよしのんに励まされ改めて挨拶をすることになった。

 

 

「おはよう…ござい…ます」

 

 

「うむ、おはようなのだ」

 

 

「はい!」

 

 

一護と士道のときのような大きな声ではなかったが、確実に自分の言葉で十香に挨拶をした。十香もそれに元気よく返した。

 

 

「この服、似合っていますか?」

 

 

四糸乃が着ている服はかつて水兵が着ていたとされているもので、半袖の白の上着に胸にリボンとスカート―――――所謂、セーラー服といわれる服である。しかも、それは琴里と同じ中学校の夏の制服だった。

 

 

『なんで何も言わないのよ。四糸乃が不安がっているじゃない』

 

 

一護は思わず見惚れていた。琴里がこうやって言ってこなければこのままじっと見つめていたのかもしれない。

 

 

「ああ、めっちゃ可愛いぜ」

 

 

「ッ…ありがとうございます」

 

 

可愛いと言われた四糸乃は耳から湯気が出そうなぐらい顔を紅潮させた。そしてよしのんはその横でガッツポーズを取っていた。

 

 

「うぅ…シドー、私のほうはどうだろうか?今までの制服とは違うのだが」

 

 

十香は四糸乃に触発されてか士道の目の前でくるりと回ってみせる。十香から溢れ出る甘い香りが士道の鼻をくすぐる。なんというか、いい香りだった。

 

 

「おう、似合ってるぞ」

 

 

「うむ、そうか…そうなのか」

 

 

『はい、駄目ー。これじゃあ、十香が嫉妬してしまうわよ』

 

 

琴里は兄のあまりの女性に対しての不配慮振りに呆れの声を漏らした。そう、琴里の言葉から分かるように一護と士道に課された訓練とは女性を嫉妬させないというものだった。精神状態が不安定になると精霊の力が逆流しやすくなるのだが、その逆流しやすい感情のひとつというのが嫉妬であるらしい。したがって、琴里は十香を嫉妬させないように訓練を課しているのだがこれでは前途多難のようだ。

 

 

「これじゃ、駄目なのか。十香はそんな気にしてないように思えるけど」

 

 

『全く、士道といい一護といい全然女心が解ってないわ。一護が四糸乃に『可愛い』って言ったのに、士道はそう言わなかったじゃない。そのせいでご機嫌メーターが下がっているのよ。いい、表面上はそのように見えなくても、心の中では少しは期待しているものなの』

 

 

「そうなのか…」

 

 

『とりあえず十香を褒めてみなさい』

 

 

その『可愛い』という一言が抜け落ちるだけで女性の受け止める印象がこんなにも違うのか、と士道は反省せざるを得ない。ここはとにかく機嫌を直させなければ。

 

 

「十香!」

 

 

「なんだ、シドー」

 

 

「その制服似合ってて、可愛いよ。本当、めっちゃ可愛い。可愛いって何度言っても足りないくらい…」

 

 

「もう…そのいいから黙らんか!」

 

 

さすがにこれはやり過ぎたと思う士道。その様子を見ていた一護は「やっちまったなぁ」と言いたげの表情をし、そんな士道をあざ笑っているように聞こえる琴里の笑い声が聞こえてきた。

 

 

「やっぱ、やりすぎて駄目だったのか」

 

 

『ぶははっははははっははは、最高よ。成功したかどうか知りたかったなら試しに十香の顔を覗いてみなさい。かなり面白いことになっているはずよ』

 

 

琴里に言われた通りに十香の顔を覗いてみると茹蛸のように真っ赤だった、全身が。そんな士道の視線に気づいたのか十香は慌てて取り繕った。

 

 

「な、何でもないぞ。士道に可愛いって言われたから嬉しいわけではないぞ!」

 

 

「なッ!」

 

 

これには士道は顔を紅くした。恥ずかしいというのもあるが、こんなにもストレートに言われてしまえば何というか照れる。

 

 

「ラブラブだな」

 

 

一護のその言葉に同意するように四糸乃とよしのんは首を縦に振った。こんなにも甘酸っぱい成分をばら撒かれたら周囲の人間はどう対処すればいいのだおろうか。

 

 

「とりあえず、先に行くか」

 

 

「そうですね」

 

 

『レッツ・ゴー』

 

 

というわけで、甘い雰囲気の士道と十香をその場に放置して学校に向かうことにした。そして、四糸乃がマンションから出てきてからずっと気になっていることを一護は尋ねてみる。

 

 

「その服って中学の制服だろ。しかも、琴里の中学のやつ」

 

 

「はい。実は私も中学校という場所に通うことになりました」

 

 

『四糸乃、たくさん友達つくろうね』

 

 

「うん」

 

 

「そうなのか」

 

 

てっきり、四糸乃には悪いが性格上自宅で待機という形をとるのかと思っていた一護にとってその琴里の判断は意外だった。一応理由聞いてみるために装着しているインカムを軽く叩く。

 

 

『最初は少し内気な性格だったから様子を見ようと思ってたけど、意外にもゲームセンターでのデートがきっかけで自分の内気な性格を直さないいけないと思ったらしくて、それで私と同じ中学校に通わせることになったのよ』

 

 

「中学の方は大丈夫なのかよ」

 

 

『編入させるのは問題ないわよ。それに、私と同じクラスだからいつでもラタトスクのサポートを受けられるし、私が頼れる女の子もいるわよ』

 

 

「そうか、それなら安心した」

 

 

『そんなことよりも、さっさと会話を続けなさい』

 

 

「わーったよ」

 

 

四糸乃が通う中学校が琴里と同じならば通学路は途中までは同じでしばらくは四糸乃と話せる。最初に何を話そうかと悩んだ一護だが、四糸乃が先に話しかけてきた。

 

 

「あの…『プリキ○ア』と『ワルキューレ・ミスティ』って知ってますか?」

 

 

「確か…どっちも日曜の朝にいつもやってる美少女戦闘モノのアニメだっけ。見たことはないけど、一応名前は知ってる。四糸乃はその2つアニメが好きなのか?」

 

 

「はい、どっちも好きです」

 

 

『四糸乃はその2つのアニメのために早起きしてるからね』

 

 

「もう…よしのんっ」

 

 

「おいおい、四糸乃をあまりいじめるのはダメだろ」

 

 

『ぶー』

 

 

四糸乃を弄っていたよしのんを注意するとよしのんは若干不満そうであった。まあ、四糸乃はあまり弄られることには慣れていないのだからそこら辺は節度をもって接してもらわないと。

 

 

「それで、その2つのアニメっていうのはどんな話なんだ?」

 

 

「まずは『ワルキューレ・ミスティ』の方なんですけど…」

 

 

登校中、一護と四糸乃は『ワルキューレ・ミスティ』と『プリキ○ア』の話で盛り上がった。この2つのアニメを語っていた時の四糸乃は非常に細かい設定まで話してくれた。特に、『ワルキューレ・ミスティ』の登場人物の月島カノンについて話していたときは、ドン・観音寺のことを話している遊子のことを思い浮かべるぐらい熱く語っていた。一護は四糸乃が自分に話してくれることだけでも楽しいと感じていた。

 

 

その他にもテレビの話題を中心にして話していたらあっという間に時間は過ぎていき、もうすぐで高校と中学校へとそれぞれ続く分かれ道に差し掛かろうとしていた。

 

 

「もうこんなところまで来ちまったか。次の角で右に行けば中学だ。俺は左だから放課後に会おうな」

 

 

「はい!また『ワルキューレ・ミスティ』と『プリキュア』の話をしたいです」

 

 

「楽しみにしてるぜ」

 

 

その2人が別れる角に差し掛かった矢先に一護の高校がある方の道から爆音を伴わせながら爆走してくる人がいた。

 

 

「ぶつかっちゃう!?どいて、どいて!!」

 

 

幼女が食パンをくわえながら走ってきていた、しかも一護目掛けて。このままぶつかってしまえば恋愛ゲームでよくあるシチュエーションになることは分かりきっている。だが、その幼女はもう既に常人では避けることが不可能な距離にまで迫りきっていた。

 

 

「しょうがねぇ」

 

 

避けれないのはあくまで常人だった場合だ。一護は人であって人外たる存在。この程度の事象で回避することは容易い。一護はその場で軽く(・・)跳躍する。そうすると、幼女は見事に一護の下を通りそのまま突っ走り石塀に激突した。

 

 

「うへへ…」

 

 

「大丈夫か、…って何てもん見せてんだよ!」

 

 

幼女は完全に伸びているはずなのに一護に向けて下着を見せつけてきた。おかげで、一護は羞恥心で一杯である。

 

 

「一護さん、どうしたの…で…す…か?」

 

 

一護がいきなり幼女に対して大きな声を挙げたので駆け寄ってみたらご覧の有り様である。これには言葉を失ってしまう。そして、よしのんがトドメの一言。

 

 

『一護くーん、いくら浮気でも幼女はいけないよ?』

 

 

四糸乃は目の前が真っ白になった。浮気――――確かお昼にやっていたドラマでは結婚している人とは別に他の女性と付き合うことだ。もしかして一護は自分のことなんかよりもこの幼女の方が好きなんだろうか。そう思うと徐々に自分が真っ白になっていくことを自覚した。

 

 

「おい、四糸乃!大丈夫か!?」

 

 

真っ白な思考から呼び戻されたのは一護の声を聞いたからであった。だが、一護は四糸乃のことなんかよりもあの幼女の方が好んでいるように思えた。

 

 

「一護さんは私なんかよりもあの女の人の方が好きなんですよね」

 

 

「へ?」

 

 

一護は何のことを言っているのか解らなかった。あの女っていうのは突っ込んできた幼女のことであろうか。

 

 

『はい、駄目―』

 

 

「まさか、これで四糸乃が嫉妬したっていうことか?」

 

 

『その通りよ。例え突っ込んできた女性が壁に激突してパンツ丸見えになったとしても女性に対して紳士的に振る舞わなければならないわ』

 

 

「そんなの無茶だろ!」

 

 

『無茶でも何でも対処しなければ、いざという時に精霊の力が逆流するわよ』

 

 

「確かにそうなんだけどさ…俺、女心とかよくわかんねえし」

 

 

『だから、それに慣れさせようとする為に訓練をさせてあげてるでしょ。まあ、いいわ。とにかく四糸乃の機嫌を直しなさい』

 

 

「へいへい」

 

 

『む、その返事は気に入らないけど、今は許してあげるわ。とりあえず、私の言った台詞をそのまま直接四糸乃に言ってみて。』

 

 

「断る」

 

 

『なっ!なんでよ』

 

 

琴里は驚きと同時に四糸乃の対応で四苦八苦している今の状況でよくそんなことを言えるものだと非難の声を挙げる。だが、一護はそんな琴里の非難さえも意に介さず我が道を進む。

 

 

「こういう言葉っていうのは、誰かが考えた言葉をただ言うよりも自分の言葉で伝えた方が良いに決まってる」

 

 

『そんなことを言うのは女心を理解してからしておきなさい。データから見ても今のあなたが何を言っても悲惨なことになるわよ』

 

 

「相変わらずひでぇこと言うじゃねぇかよ。確かに琴里が言ってることは正論なんだけどよ、四糸乃の心を乱しちまった責任が俺にあるんだったら、落ち着かせるのも俺の役目だ」

 

 

それだけを言うと、一護は四糸乃の目の前でしゃがんで四糸乃の瞳をじっと見つめた。四糸乃は先ほどの出来事がかなりショックで一護に目を合わせられず視線を逸らした。

 

 

「ごめんな、四糸乃。いくら事故だといっても、あの状況で見られたらいろいろと思うことがあると思う。でも、違うんだ」

 

 

「違う…?」

 

 

「ああ、四糸乃が考えているような疾しい関係じゃなくて、そもそもあの子と一切関係がないし」

 

 

「そうなんですか?」

 

 

「嘘偽りなく、本当だ」

 

 

一護の真剣な言葉に四糸乃は自分の早とちりだったなのかもしれないと認識を改めていく。そのおかげで一護の顔を直視できるようになった。それに気づいて、四糸乃の気持ちが上向きになってきていることがわかった一護は頭をかいて照れくさそうに四糸乃に対する思いを伝えた。

 

 

「それにさ、俺は四糸乃のことを1度も大事じゃないって思ったことなんてねえよ。今の四糸乃がいなかったら、こうやって話すこともできねえし今日みたいな経験も出来なかった。だから、四糸乃が俺の側にいるだけで嬉しいんだぜ。これ以上の幸せなんてねえよ」

 

 

「一護さん…」

 

 

四糸乃はまさかそんな言葉を掛けられるとは思っておらず、あまりの感情の昂ぶりに一護の胸に飛び込んだ。一瞬何が起きたのか解らなかったのだが、その四糸乃に一護は頭を撫でてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたぞ――――黒崎一護…必ず儂の手で貴様の全てを殺してやろう」

 

 

少し離れた民家の屋根の上で怪物はそう呟いた。だが、目立つ場所にいるはずの怪物のその姿は誰も拝むことはできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、一護は四糸乃と別れて高校へと続く道へと歩を進めた。それで、学校の下駄箱がある場所に辿りついたときにはもう既に士道と十香は一護に追いついている。その下駄箱で一護の下駄箱に大量に入っているラブレターという現実に人生この方十数年でもらったことのない士道はこの格差に打ちのめされることと琴里の仕掛けたトラップだと思い込み初めてのラブレターを拒否して士道が絶望したこと以外はいつもの日常だ。

 

 

――――ズーン

 

 

前の席に座っている士道から暗黒物質のようなオーラを撒き散らせてくれる。まあ、あんなことがあれば当然そうなる心地はわかるが。

 

 

「大丈夫か、シドー。もしかしてお腹が痛いのか?」

 

 

士道の右に座っている十香が心配してくれるのだが、士道が落ち込んでいる理由とは違うけれども実に十香らしい心配の仕方だ。

 

 

「――大丈夫だ、十香。少し時間をもらえれば治るから」

 

 

それに十香に手を挙げて返す士道。士道の言葉と裏腹にどう考えてもすぐに立ち直りそうにないことが一護にはわかる。心の中で合掌する他になかった。

 

 

「大丈夫。士道と一護は私が癒す」

 

 

士道の左の席に座っている折紙が何かを取り出しながらそんなことを言ってくる。取り出したものは瓶のようであった。

 

 

「私特製の精力……ゲフンゲフン……ジュースを飲んで」

 

 

「鳶一折紙ッ!またワケのわからぬものを」

 

 

一護と士道が――――完璧に精力剤を飲ませようとしてんじゃねぇか――――とツッコミをする暇もなく十香と折紙はいつもの如く口喧嘩を始めた。

 

 

それから少しして、タマちゃん先生が教室に入ってきた。いつもと変わらぬ朝のSHRが始まろうとしていた。それと同時に十香と折紙は矛を収めた。

 

 

「おはよぅございますぅ。今日はみんなにお知らせがあるんですぅ」

 

 

タマちゃん先生は外にいる誰かに話しかけて中に入るように指示した。そして、教室の中に入ってきたのは女子。それがわかった途端、クラスの男子が歓声を挙げてしまう、これぞ男の本能。但し、一護は無関心を貫き、士道は苦笑していた。

 

 

しかし、男どもが叫びを挙げるのも分からなくはなかった。恐らく転校生だと思われる冬服を着ている女子生徒には人々を惹きつけるような妖艶な魅力で溢れていた。だが、そんな中でも一護は長い髪で隠している左眼に何か違和感を感じていた。言葉では上手く表現しきれないが、霊力に生気のようなものをそこから一護は感じた。もしかしたら、もしかしかするのかもしれない。

 

 

そして、タマちゃん先生に自己紹介を促されて少女は黒板に『時崎 狂三』と縦に書く。そして、黒板に名前を書き終えた狂三は皆の前へと立つ。

 

 

「わたくしは時崎狂三と申しますわ」

 

 

ここで一護は狂三という少女が完全に自分と士道に目を向けているということを自覚する。まるで最初から狙っているかのように。

 

 

「実はわたくし、精霊ですのよ」


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