バイトと大学で2週間休みがないという鬼畜じみた日程のせいで更新が遅れてしまいました。
今回のお話はようやくあのキャラ出てきます。ここまで長かったなぁ。
ということで、今回もお楽しみください。
一護が狂三とデートをしていたころ、士道は自宅に帰宅してから十香と一緒にいつも利用している近くのスーパーに向かっていた。ちなみに、2人は私服に着替えてから出発している。
「なぁ、十香。今日の夕飯は何か食べたいものはないか?」
「ハンバーグがいいぞ」
即答で答えた。しかも、目を閉じながらシャドーナイフとシャドーフォーク使役してエアハンバーグを食べていた。見るからに幸せそうである。
「ハンバーグか…一昨日から肉料理が続いていたし、今日は魚料理にしようと思ってたけどな…」
「魚料理もいいと思うが、今宵だけハンバーグというのは…ダメか?」
十香の上目遣いに士道の心の内では今日の夕食戦争が激化した。十香に美味しいものをたらふく食べてもらいたい思いと食事の栄養管理をして十香に健康にいてもらいたいという思いが五分五分でぶつかっている。それも今の上目遣いで前者の方に傾き始めたが、完全決着というわけにはいかなかった。
「そうだな…今日のタイムセールで挽肉が安売りしてたらハンバーグしようかな」
「うむ、わかったのだ」
十香はそう言うと手を合わせて挽肉のタイムセールが開催されるように祈り始めた。どうしてもハンバーグを食べたいらしい。士道はそんな十香の様子に微笑ましく思っていると、目的のスーパーに辿り着いた。
「おぉ、ここには食べ物がいっぱいあるのだな!」
「まぁ、ここは食品を売ってる店だしな」
入口からずっしりと野菜や精肉などの生鮮食品が陳列されている光景に十香は圧倒されていた。序でにいえば、ヨダレを垂らしそうにもなっていた。
「十香、涎を垂らすのは店の人に迷惑を掛けるから……って、どこに行った!?」
士道ほんの少しの間に目を離しただけにも関わらず、十香は忽然と姿を消していた。初めて十香が訪れる場所なのでエスコートしながら買い物しようと思っていたらこれである。案外店内は広く、十香を見つけるのは骨が折れそうだ。
――――と思っていた士道だったが、「あぁ、やっぱりここだったのか」といった場所ですぐに見つかった。
「すごいぞ、シドー!ここにあるもの全部肉だぞ」
「言っとくけど、その手に持っているA5ランクの国産黒毛和牛をハンバーグには使わないからな」
「なん…だと」
十香はこの肉の希少さを知っているのであろうか。幻の牛肉といわれる100g数千円はくだらない肉など購入してしまえば、次の両親の送金日まで素麺生活になる可能性がある。
「とりあえず、そのフィレ肉を元の場所に戻そうか…え、フィレ肉!?」
フィレ肉といえば牛の中でも僅か数百gしか取れない部位。100gあたりの値段だと1万円を越える代物だ。そんな幻の牛肉の幻の部位が、今十香の手にある。幻の牛肉の幻といわれる部位、誰もが欲しがらないということはあるのだろうか。少なくとも料理に精通している士道にとっては1度食したいものだ。
「シドーがこんなに驚いているということは、それはすごい肉なのだな。これは人々がこの肉を巡って核戦争を行う前に確保しなくては」
十香のテンションが最高潮に達して件の肉を士道の持っている買い物籠に投入しようとしたところで、それはそれは断腸の思いで十香のその手を止めさせた。
「なぜ止めるのだ?私たちが食べなくては人々は核戦争を始めてしまうではないか」
「十香……そこにある値札にある数字を見てくれ」
「38950円……私が毎月令音からもらっているお小遣いの4倍近くあるのではないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
自分が買おうとしていた代物が毎月貰っている小遣いを軽く越えていくという高価なものであることをようやく理解した十香。何故士道が購入するのを躊躇うのかを知れた。
「済まぬ、シドー。確かにこれを買ってしまえば金子が無くなってしまう。これでは毎日シドーの料理を食べられないから、我慢するぞ」
「ありがとな、十香」
2人は幻の牛肉に後ろ髪を引かれながらもその思いを振りきってその場を離れた。そのまま別の精肉が置いてあるところに足を運ぶ。今度の精肉はお手ごろな値段の外国産の牛肉だ。
「おぉ、この値段ならば買えるのではないか。では、早速…」
「待てって、十香。その牛肉でどうやってハンバーグを作るんだ?」
「無論、このままフライパンで焼く」
士道はいろいろと間違っている十香に頭を抑えた。確かに某ファストフード店のようにハンバーガに挟む肉は牛肉を使う場合もあるが一般的には豚肉を使う。仮に牛肉を使うにしても、ミンチにせずにこのまま調理をしてしまえばただのステーキになってしまう。まぁ、それはそれで十香は喜びそうな感じはするが、ハンバーグとは確実に違う。
「いいか、ハンバーグに使うのは豚肉で今持っている牛肉じゃないからな。あともうひとつ言うと、ハンバーグはミンチにしないといけないんだ」
「う…ということは、これはダメなのか…」
十香はしょんぼりとしてその間違った品物を元の場所へと戻す。不覚にもその落ち込んだ仕草が士道は可愛いと思えてしまった。もし今の状況でインカムを付けていたら琴里から『何そこで突っ立てるのよ。もしかしてミイラにでもなりたいの?だったら私が直々に巻いてあげるわ』なんてことを言われそうである。
「そうだな、ハンバーグに使うんだったらこっちだ」
十香に見せるように手に取ったのは100g98円の豚のひき肉。普段とそこまで変わらない値段で五河家の財布を握る士道にしてみれば、ギリギリ購入しないと決めていた値段だった。それを見た十香はハンバーグにいつも使われている肉だとようやく分かった。
「ハンバーグにはひき肉をつかうのだな」
「牛肉でも作ろうと思えば作れると思うけど、普通は豚肉を使うな。けど、今日は値引きされていないみたいだから、悪いけどハンバーグは…」
「そんな…」
「うっ…」
ハンバーグがお預けになりそうということで十香は潤んだ目でこちらを見てくる。再び士道の心を揺らしてくる。毎回この潤んだ目で押しきられてしまう。しょうがない、今日だけだと思ったところで店内放送を知らせるチャイムが鳴った 。
『只今からタイムセールを開催させていただきます。対象商品は精肉コーナーの全ての商品で、その割引額は半額です』
「シドー、半額なのだ。お肉が半額なのだ!」
「そうだな。じゃ、約束通り今日はハンバーグにするか」
「うむ!」
十香が満面の笑みを見せてくれる。食べられないと思われていたハンバーグが食べられるということになったことで相当テンションが上がっているのであろう。そして、士道が豚の挽肉を買い物かごを入れたところで何やら叫び声が聞こえてきた。
「まずいっ!」
「まずいとは、なんな…うわぁ!この人だかりは一体全体なんなのだぁ」
タイムセールが好きなのは士道だけではない。品物を定価よりも安く買えるということは他の品物を買えるということだ。そんな機会を主婦が見逃すはずがない。つまるところ、大安売りされていたら人々は獣のように狙いの品物に殺到する。
「シ、シドー、助けてくれー」
「十香、とにかく俺の手を握れ」
人混みに巻き込まれて助けを求める十香に手を伸ばした。しかし、お互いに手を掴もうとするのだが人が邪魔で中々掴むことができない。むしろ、圧倒的な数で2人は引き離されてしまった。
「うわあああああああああああああ!」
これで十香の思い出に人混みの中の恐ろしさというトラウマが刻み込まれた……ということはなかった。
「十香とははぐれたけど、とりあえず挽肉は確保したからよかった。これで挽肉が売り切れとかいったら、この地域が大変なことなりそうな気がする」
何とも大げさに聞こえることの言う士道。それもあの非日常の光景を見たら冗談とは笑い飛ばすことはできない。
「もしかして、士道さんですの?」
「え?」
後ろから声を掛けられたので振り返ってみると、来禅高校の制服を着た少女が立っていた。しかも、その少女は今朝に教室で出会ったばかりの転校生である。
「時崎か」
「ええ、そうですわ。でも、わたくしのことは狂三と呼んでくださってもいいですわよ」
「それじゃあ…狂三」
「それでいいですわ。ところで士道さんはなぜここに?」
「お隣さんの分も含めて夕食の買い出しをしに来たんだけど、もしかして狂三も夕食の買い出しに来たのか?」
「それもありますけれど、一番は士道さんに会いに来たのですのよ」
「お、俺にか?」
まさか、自分に会いにきたとは露とも思わなかった士道。十香並の美貌を持つ少女にそんなことを言われてしまえば胸がときめいてしまう。この狂三という少女は琴里曰く精霊らしいので士道又は一護が恋に落とさなければならないが、逆に取って喰われそうだった。
「あれ?でも、狂三って兄貴に学校の案内してもらってるんじゃなかったか」
確かに今は午後5時前なので普通にスムーズに校内の案内が進めば狂三がここにいるということに不思議はないが、あの<ラタトスク>の面々からの指示の元に一護は行動しているので途中で狂三の機嫌を悪くさせて帰ってしまったということも考えられた。
「士道さんのお兄様…一護さんのことですわね。そうですわね、
「え!?でも、俺はちゃんと兄貴が狂三と教室から出ていったところを見たし…」
「ふふふ、それは他人の空似かもしれないですわね」
全くわからない。もしも狂三が言うことが本当ならば一護は精霊ではない誰かを案内したことになる。しかし、<フラクシナス>にある観測装置が精霊だと判断したと琴里が言っていたのでそんなことは無い筈。考えてみても益々分からないので、それらは全て琴里にあとで報告するとしよう。
「このひき肉は何に使いますの?もしかして今日の夕食はハンバーグでございまし?」
「ご名答。まぁ、ひき肉がメインの料理でハンバーグが真っ先に思うよな。でも、しくじったなぁ。十香のことを考えるとこれだけじゃ全然足りないな」
「それでしたらこれをどうぞ。ついつい半額という言葉に引き寄せられてしまってかなりの量を買ってしまいましたの。一人で食べるには多すぎて、おひとつ如何でしょう」
「すまん、助かった。さすがにまたあの人混みの中に入るのはきつい」
差し出されたひき肉を受け取ろうとしたところ、うっかり狂三の手に触れてしまった。『狂三の手って、とても柔らかかったなぁ』という感想が頭の中で蹂躙していく。そして次に羞恥の感情が襲い掛かってきて、急いでひき肉を受け取り手を離した。
「その、ごめん!つい」
「あらあら、もうその手を離してしまうのですの?わたくし、士道さんにならずっと手を掴まれても構いませんのよ」
「ッ!?」
狂三が悪戯っぽく微笑んでくる。それは甘い蜜のように士道の全てを引き込んでくる。狂三の美しさ、愛しさ、可愛さ、妖艶さ―――――数え切れない魅惑の要素が士道の五感を支配していく。意識が揺らいで、このまま狂三のものになってもいいという風にさえ思えてきた。
「さぁ士道さん、こちらへ」
目の前にはただただ漆黒の影しかなかった。いつもの士道ならばこの闇の影に恐怖し中に入ることを拒絶していたのかもしれない。しかし、現在士道は狂三の掌の上であり、その影に恐怖しようもなかった。そして、士道は狂三に導かれて歩を進めた。
「おーい、シドーォ!今、どこにいるのだ?」
士道はハッと自分を取り戻した。今の独特なイントネーションで士道の名前を呼んだのは十香。これによって全て抜け落ちていた思考を取り戻すことができた。
「わるい、狂三。今、十香と一緒に来てるんだった。それじゃ、狂三また学校でな」
士道は十香の声が聞こえた方へ急いで向かった。狂三は「うふふふふ」と含み笑いしながら士道の後姿を見つめていた。
「士道さんったら、忙しい方ですわね。あともう少しというところで逃げられてしまいましたわ。でも、まぁいいですわ。お楽しみの
「十香、大丈夫か?」
「うむ…なんとか大丈夫だ」
安売り戦争に巻き込まれた十香は士道に気丈そうに振舞おうとするが、やはり多大なるダメージによりもうフラフラだった。
「タイムセールとは過酷なものだな。限られた肉を皆が百虎の如く奪い合う。何て恐ろしいのだ。今度はしっかりと霊装と天使を持ってこなくては」
「いや、ダメだからな!そんなことしたら、買い物どころじゃなくなるからな」
精霊の力を完全に解放してしまえばスーパーだけでなく、その周囲に住んでいる人々にも迷惑を掛けてしまうということを2人の頭の中から抜け落ちている。これも士道がやや非日常な慣れ始めた現れなのかもしれない。
「ん?」
誰かの視線を感じた士道は反対側の歩道に目を向けると、パーカーにジーパンといったボーイッシュな格好でポニーテールの女の子が士道を凝視していた。あまりにも見つめられていたので気になって足を止めた。それとは他に、足元のスニーカーに付いて間もないと思われる血があったことにも気になった。
「に…兄様!」
「は、はい!?」
「おぉ、あの女子はシドーの妹2号なのか」
狂三を学校の案内をし終えた一護は例の失踪事件のこともあって狂三の自宅まで送ろうとしたのだが丁重に断られた。恐らく、あの後四糸乃とリリネットが一緒に付いてきたということでそちらを優先してもらったのだろう。確かに、四糸乃とリリネットだけで帰らせるのは不安であった。
ということで、一護は途中で『喫茶
四糸乃を隣の精霊用マンションに送ってから家に着いた。一先ずシャワーを浴びてから何かしようと思っていたけれども、今日の狂三のことが頭から離れなかった。
(どういうことだ…狂三は俺と士道のことを事前に知っていた。俺はともかくにしても士道はそこまで目立つようなしていない。あいつはどうやって俺たちのことを知ったんだ?)
まずは、どんなことよりも疑問に思ったのはその事だった。最初から一護と士道に会うつもりなら、一護と士道をキーとして活用する何かしらの目的を持っているということになる。何が目的なのか分からなかったが、ヒントに成り得るようなことが今日の学校案内の中にあった。とは言いつつも、これは一護の感覚的なものでしかないが。
「狂三は本当に俺を見ていたのか?」
琴里からは順調に一護に対しての好感度が順調に上がっていたと言っていたが、それは表面的な部分に関してだけだと思えた。少なくとも階段での出来事よりも前まで、市丸ギンのようにはいわないが本心がどこか別の場所に向いていたと思える。その市丸ギンとは違うところは、もう狂三の精神が限界を迎えているのかもしれなかった。
どんなに隠そうとしていても、一般の人との抱えているものが絶対的に重くて疲れ果てているように見えた。それは石田雨竜の
――――バタン
呼び鈴も無しに玄関の扉の開閉音が聞こえてきたということは、恐らく買い出しに行っていた士道が戻ってきたのであろう。そこで、一護は狂三に関して考えるのを打ち切って下に降りた。
「士道戻っ…た…か」
言葉が途切れてしまうほどの一護の見た光景は士道が両脇に美少女を挟み込んでいるのだ。片方は十香でそれはまあいいのだが、もう片方が見知らぬ琴里と同じくらいの年齢の女の子。そこから導かれる一護の結論は…
「もしもし、警察ですか――」
「待って兄貴、誤解だ!?」
士道は必死に携帯を奪おうとするが、一護は士道の頭を押さえつけて近づけさせなかった。このままでは、本当に逮捕されてしまう。
「実は家の弟が―――って危なっ」
一護はこのまま通報を続けようとしたところ、件の少女が一護の意識を刈り取ろうとジャブからフックで顔面を狙うも寸前のところで外した。
「一発で
「
「だから、あなたは何者でいやがりますか!」
「お前こそ誰だよ」
こうやってみると普通に会話しているように見えるが、少女が的確に一護の急所を狙い、一護は体を捻って回避したり腕でガードしたりで少女の攻撃を完全に防いでいる。そして、このままでは埒が空かないと思い互いに名乗りを挙げた。
―――「俺は五河一護。士道の兄だ」
―――「私は崇宮真那。兄様の妹でやがります」
「「え?」」
これが奇妙な義兄妹の初ハモりだった。
「本当に驚いたのだ。シドーにはもう一人妹がいたのだ」
「本当にそうらしいな」
最初は本物の兄妹なのか半信半疑なのだったのだが、真那の持っていたロケット型のペンダントのようなものの中にあった写真を見て一護は確信した。その写真とは小学生サイズの真那がこれまた小学生サイズの士道が一緒に映っていたのだ。十香の言うように真那が士道の妹であることが解ったが、十香にはそのことを早めに言ってほしかった。先ほどまで警察に電話を掛けていたため誤解を解いていた。
「申し訳ねーです。ついつい頭に血が上ってしまいして」
「こちらこそ悪かった。ちゃんと確認もせずに疑っちまったからな」
と、ここで士道が神妙な顔をしながら言った。
「でも、俺が昔、真那と一緒にいた記憶が無いんだけど。その写真に俺が写っているから多分真那が俺の妹なのかもしれないけど」
「絶対にそうでいやがります」
「……」
多分士道が真那の兄なのであろうが、わからないことがある。もし、本当の兄妹ならば小学生まで士道が真那と一緒にいたことを忘れていたとは考えにくい。でも、辻褄は合ってしまうのだ。何故なら、士道が一護と初めて出会った時点で心をすり減らしていたことのショックで過去のことを名前以外の全てを失っていた。ということは、やはり…
「へぇ、あなたが士道の妹ね…」
「琴里ではないか。今、シドーの妹2号が来ているぞ」
「分かっているわ――――私は五河琴里。実は私も士道の妹なんだけれど、これは一体どういうことかしら」
士道と真那の間で仁王立ちしている琴里が尋ねる。その姿は一種の阿修羅のようにも見える。そんな中、真那はふむふむと現状を把握して、琴里の手を握った。
「もしかして、姉様!?」
「違うわよ!?」
今度は琴里の頭の上に手を置く。
「ごめんね。お姉さん、てっきり自分が妹かと思っちゃった」
「そうでもないわよ!?」
終始引き回されっぱなしの琴里は現在のイライラを表現しているかのように髪を掻き毟る。そんな琴里の様子に真那は笑って誤魔化した。
「いやぁ、てっきり兄様の他に私の知らねー姉様がいやがると思って。ということは、琴里さんと一護さんは本当に兄妹でいやがりますか?」
あまり言いたくないことをズバズバと質問してくる真那に琴里は琴里は苦虫を噛み潰した顔をする。対して一護はこの特徴的なオレンジの髪と琴里のを比べてみればそう思う人も少なくはないと思っていた。
「何でそう思うの?」
「ちゃんとした証拠とかはねーですが、琴里さんと一護さんがお互い全てを教えてねー気がして」
「「……」」
実際その通りだった。2人は余計な心配を掛けさせまいとして、琴里は自身が炎の精霊だということを、一護はこの世界の住人ではなく本当の家族を知っていることを隠している。しかし、琴里が精霊だという事実は一護が5年前の真実を知っている時点で分かっていた。それを踏まえて一護は知らないフリをしている。
「確かに俺と琴里は血の繋がった兄妹じゃねぇ。勿論、士道とも血がつながってねぇ」
言葉の詰まっている琴里の代わりに一護が答える。その言葉に反応して琴里が一護のことを見つめる。
「けどな、血が繋がってないからって家族の愛情までも偽物なわけないだろ。琴里と士道は俺のれっきとした妹と弟だ。楽しいことがあれば一緒に笑って、悲しいことがあれば一緒に泣いて、苦しいことがあれば苦しみを分かち合う。そういうのって、普通の家族と同じだと思うぜ」
「一護おにーちゃん…」
「兄貴の言う通りだ。家族の形は色々あるかもしれないけど、お互いのことを思いやってるんだったら、それは普通の家族と変わらねぇよ」
「士道おにーちゃん…」
これには司令官モードの琴里でもその鋭い瞳から涙が流れそうになるが、今は司令官モードの強い自分。だから涙はぐっと堪えた。
「羨ましいです。兄様の今の家族がこんなにも暖かいなんて。もし、兄様と一緒に暮らしていたときがこういう暖かい家族でやがったら…」
「ちょっと、待ってくれ!俺と真那の両親はそんなに酷かったのか?」
真那の言葉を素直に受け取れば士道と真那の両親は2人に対して酷い扱いしていたかのように聞こえる。しかし、真那はそれに急いで首を横に振る。
「それは違げーです。実は両親に関する記憶というか昔の記憶がスッパリねーです」
「それって、まさか記憶喪失?」
「まあ、有り体でいえばそうでやがるでしょうけど。でも、ここ数年の記憶は残ってるんですがね」
記憶がない。何も覚えていない。――――そういう状態に成り得るのは外部からの何かしらの強いショックがなければ記憶喪失という状態には陥らない。だけど、記憶が無いというならばそれを問い質しても意味はない。それでも、真那が実際の家族だというならば少なくともどこに住んでいるのかを士道は聞かなくてはならない。
「あの真那、今どこに「兄様が琴里さんと一護さんのところにいて安心しました。兄様を預かってくれたことに感謝しています」」
そんな屈託の無い笑顔を見せてくれた真那に士道は何も言えなくなってしまった。ちゃんと生活しているのだからきっと引き取り手はいるのだろう。だから、士道は真那がどこで生活しているのかはまた今度会ったときに尋ねることにした。
「真那にも色々苦労があると思うけど、そういうときは俺に頼ってもいいからな。結構経験があるから大体のことは解決できると思う」
「ありがてーです、一護さん」
「ふん、私を士道の妹ということをわかってるじゃないの」
「琴里さんには兄様を救ってくれた恩がありますからね。でも、本当の妹は血の繋がった妹に違いねーです」
ブチッ―――琴里から血管が突き破れたかのような音がする。これには一護と士道でもこれからやばいことが起こるということがわかる。
「へぇ…でも、遠い親戚よりも近くの他人とも言うわ」
今度は真那から不吉なオーラが湧き出してくる。一護と士道は顔を見合わせて頷いた。
――――ガシッ
その場から抜け出しそうとしたところで琴里と真那はそれぞれ2本の腕を使って一護と士道の肩を掴む。
「「2人は実妹と義妹どっちがいいの?」」
「「えっと…」」
どちらを選んでも悪い結果しか起こらないような気がすると悟る一護と士道。必死に逃げ道を探す中…
「
十香はやはり十香であった。