デス・ア・ライブ   作:月牙虚閃

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夏休みに突入したということで短めの間隔で投稿することが出来ました。
今回の話はタイトルにもある通り『準備』です。どんなことにでも下ごしらえは必要なんです。
それと、この話で一護を狙っている奴がだれであるかbleachを読んでいる人ならわかるんじゃないでしょうか。
というわけ、今回もお楽しみください。


Preparing

真那が来襲してきた翌日の昼ごろ――――士道と一護は来禅高校の改造された物理準備室にいた。本来のこの時間は昼休みであり2人は弁当を頬張っているはずだった。

 

 

「こんな時間に集まってもらって悪いね。シン、苺」

 

 

「別にいいわよ。どうせ、2人ともぼっちで弁当を食べてるだけだし」

 

 

「お前が言うなよ!ついでに、兄貴と十香がいるから別にぼっちじゃねぇ」

 

 

相変わらずの琴里の毒舌だ。司令官モードの琴里に何を言っても無駄なのだが、士道は少なくともぼっちではないことは主張したかった。

 

 

「十香にも友達が出来たんだから、もう士道がぼっちでもいいでしょ。そう思うでしょ、一護」

 

 

「……」

 

 

「一護!」

 

 

「ッ!……わりぃ、聞いてなかった」

 

 

「どうしたのよ?いつもは気の利いたツッコミが来るのに今日はそれがないって」

 

 

「別に何でもねぇよ。ちょっと考え事をしてただけだ」

 

 

「そう…それならいいけど」

 

 

琴里は軽く流してしまったが、士道にしてみれば明らかにいつもの一護の様子と違うと感じられた。ここ最近、一護の憂鬱とした気持ちを感じ取れることが多くなってきた。それで、今のようにうわの空になることもよく見かける。ずっと誰かのことを考えているようだった。

 

 

(そういえば…)

 

 

士道は前にも同じようなことがあったのを思い出し、携帯を取り出して今日の日付を確認してみると6月○日だった。

 

 

(もう6月か…)

 

 

士道が五河家に招かれて以来ずっと6月の一護は毎年こうだった。士道が小さかったときは、梅雨で気分が憂鬱だと思っていたのだがそうではなさそうだった。結局、一護は何も話してくれなかったから何が原因でそうなっているのかは今でもわからない。ただ、毎年の6月17日には一護は誰にも言わずに何処かに行ってしまうことと関係はあるらしい、というぐらいしかわからない。

 

 

「このまま話していても時間の無駄だから、さっさとやることやっちゃいましょう。令音、お願い」

 

 

「ああ…」

 

 

一護と士道の目の前のメインディスプレイに光が灯る。そこに映し出されたのは、どこかで見たような紅髪の美少女――――というよりも、つい先々月ぐらいに画面の中で見かけた少女達だった。

 

 

――――マイ・リトル・シドー2 ~愛、恐れていますか~

 

 

「続編!?」

 

 

まさかの続編にSAN値がガリガリと現在進行形で削られていっている士道。以前の攻略難易度ナイトメアのギャルゲー訓練では大量の黒歴史を公に公開された。もちろん、士道は伝説の中二病(ダーク・フレイムマスター)と呼ばれ、恥ずかしくて悶えた。それでも、公開されたものは士道が生み出した黒歴史のほんの一部である。そのギャルゲー訓練がパワーアップして帰ってくるとなればたまったものではない。

 

 

「間違えた…見せたいのは、こっちだ」

 

 

「ちょっと、待ってください! 今さっき、非常に気になるものを見たんですけど」

 

 

「ふむ…」

 

 

「堂々としたスルーですか…」

 

 

「細かいことを気にしてたら、禿げるわよ」

 

 

はふぅ、と琴里はどうしようもない愚兄を見たかのようにため息をつく。士道にとっては社会的な評価がガタ落ちになるということもあって絶対にあのギャルゲーを破棄させたいところ。最後の望みを託して、一護に救いを求めるが…

 

 

「士道、諦めろ」

 

 

妙に穏やか顔で死刑宣告をされた。本当に地球の裏側に逃げたい気分だった。

 

 

「そろそろおふざけは終わりにしなさい。ここからが本題よ」

 

 

これから起こると思われる地獄に目を向けたくないが、このまま現実逃避をしていても先に進まないので、士道は再びメインディスプレイに目を向けた。そこに映っていたのはギャルゲーの画面ではなく、どこかの建物が立ち並ぶ路地裏だった。

 

 

「この映像は昨日撮影したものよ。精霊の反応を感知したから観測用のカメラを飛ばしたわ。その撮影した映像がこれ」

 

 

「…狂三?」

 

 

その路地裏に走りこんだのは赤と黒のゴスロリ風の霊装の狂三。それに続いて大人数の影が狂三を取り囲むようにしている。恐らく、狂三を追い詰めているのはASTだろう。

 

 

「つまり、昨日狂三とASTが戦ったのか?」

 

 

「いいから、黙って見なさい」

 

 

琴里がこの映像を見せた真意について尋ねた士道に続きを見るように促す。今、映っている映像の先に答えがあるのだろうと士道は琴里に従った。そうすると、ASTと思われる影達から出てきた1人の少女がカメラの撮影範囲内に入った。

 

 

「あれって…真那だよな…」

 

 

「そうよ」

 

 

士道の疑問にあっさりと肯定する琴里。その少女は五河家に訪ねた崇宮真那で間違いない。その真那が身に纏っていたのは出会った時の服装ではなく、少々デザインは違うがASTのそれと同じCR-ユニットだった。

 

 

「真那がAST…」

 

 

「…」

 

 

真那がASTに所属していたことに士道が衝撃を受けていた中、一護はずっと静かに真那の眼を見ていた。その眼は一護が戦ってきた相手の中にはいなかった。その眼は戦いに臨む戦士の眼ではない。己の信念を通す為に戦う守護者の眼でもない。ただ、相手を殺すだけの人形の眼だった。

 

 

画面に映っている映像は更に先に進む。狂三は余裕のつもりなのか真那に対して口を歪めて笑う。一方で、真那は無表情で相対する。

 

 

先に動いたのは狂三だった。弾丸のように直接真那に迫る。狂三が何かを仕掛けてこようにも関わらず、真那は動かなかった。そして、狂三がその手に黒い影を収束させようとしたところで真那は一閃した。

 

 

「え…」

 

 

画面越しに見ていた士道は何が起きたか分からなかった。ただ、真那が一閃した瞬間に狂三の首がはね跳び、辺りに赤黒い生々しいを撒き散らしただけだ。

 

 

「うっ」

 

 

「士道!」

 

 

壮絶なもの見て、胃の中から不快感がせりあがってきた士道から一護はその殺されたというイメージから早く抜け出させる為に視覚を奪った。

 

 

「いきなり士道にその映像はまずいだろ、琴里」

 

 

「士道には酷だということは分かってるわ。でも、これを見てくれなきゃ先の話に進めないの」

 

 

「確かに琴里の言う通りかもな。今朝、狂三が学校に来れたことと関係があるんだろ。あと、士道のことももう少し考えてくれ」

 

 

「ええ、恐らく。士道のことは確かに私が少し焦っていたのかもしれない」

 

 

そう、画面の中で殺された狂三が今朝何事も無かったかのように登校してきたのである。普通に考えて、狂三自身に何か特殊な能力で蘇生した可能性が大きい。とはいえ、死亡シーンを見せつけられた士道へのショックは計りしれない。

 

 

「兄貴、ありがとう。少し、落ち着いてきた」

 

 

「本当に大丈夫か」

 

 

「何とか…大丈夫だと思う…」

 

 

一護は今の士道の状態に心配ながらも、士道の望み通り目を覆っていた手を退かす。

 

 

「士道、落ち着いてきたかしら」

 

 

「ああ、兄貴のおかげで」

 

 

「それで、さっき一護と私が話してたことは聞こえてた?」

 

 

「所々分かんなかったところもあるけど、狂三が何で生きているのか、って話か」

 

 

「そうよ。だから、2人とも狂三とデートなさい」

 

 

「待て待て、あんなもん見せられていきなりデートとか―――」

 

 

「シャラップ!」

 

 

士道の言葉は最後まで続くことなく琴里に遮られた。一護は琴里の真意を読み取れた為に口出しはしなかった。

 

 

「今回は狂三は生き返った。でも、この生き返ったというのがあの時だけの奇跡だったかもしれないのよ。今度こそ、本当に死ぬのかもしれない」

 

 

「うっ…」

 

 

確かにそうだ。狂三が生き返ったのは今回だけの奇跡だったのかもしれない。だけど、まだ心の整理がついていない。

 

 

「今の士道には結構きついと思うけど…」

 

 

一護が琴里の説明を付け加えた。最も最悪な状況を仮定した場合の。

 

 

「もう真那と折紙には狂三が生きていることを知ってる。だったら、また殺しに来るはずだ。今度は生き返る可能性が全くないほどに。そんなのは嫌だろ」

 

 

「兄貴の言う通りだ。俺と兄貴が狂三を救える可能性があるんだな」

 

 

「そうよ」

 

 

「わかった。俺は狂三をデレさせる」

 

 

「一護は?」

 

 

「勿論、士道と同じだ」

 

 

一護と士道は必ず狂三を救ってみせると物理準備室で誓った。まあ、その方法は殺伐とした状況とかけ離れているものだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょうどその頃、教室にいる十香は昼休みが始まってから昼食を全くとっていなかった。士道と一護と一緒に昼食をとろうと計画していたのだが、その肝心な2人が昼休みが始まった途端にどこかに行ってしまったのである。

 

 

「あれ? どうしたの、十香ちゃん」

 

 

「何? まだお昼食べてないの?」

 

 

「もう授業が始まっちゃうよー」

 

 

いつもは大飯食らいの十香が全く昼食をとっていないということで、クラスで知らぬ者はいない亜衣・麻衣・美衣トリオが心配そうに声を掛けてきた。それに次いで十香は瞳を潤ました。

 

 

「本当にどうしたの!? 十香ちゃん」

 

 

「もしかして、誰かに嫌な思いをさせられたとか?」

 

 

「十香ちゃんを泣かしたやつ出てこいや! それと、私に泣かした野郎を斬滅する許可を!」

 

 

亜衣・麻衣・美衣トリオの猛獣の如き圧倒的な圧力に、クラスの中にいた男子は特に何かをしたわけではないのに何故か出来るだけ彼女ら目を合わさないように自然としていた。その男子の中には教室から逃げ出す男子もいた。十香は彼女らが敵意剥き出しにした男子が原因ではないこと、士道と一護と昼食を取れないことが寂しいだということを説明した。

 

 

「一護くんはいいとして、五河士道ぉぉぉぉ! 貴様は十香ちゃんを泣かしておいて何様のつもりじゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 

((あ、一護くんはいいんだ))

 

 

亜衣の叫びに、相変わらず一護のことが大好きなのだと察する麻衣と美衣。本人には自覚はないようだが、確実に自分で自分の墓穴を掘っていた。だが、十香は周囲をそんなことを思っていることに気づかずに必死に士道のフォローをしようとした。

 

 

「別に士道は悪くないのだ。私が単にわがままなだけなのだ」

 

 

「いいよいいよ、十香ちゃん」

 

 

「そうそう、十香ちゃんは何も悪くない。女の子というのは誰だってわがままなものなのよ」

 

 

「五河士道――――貴様の罪を数えろ!」

 

 

結果的に亜衣・麻衣・美衣トリオをよりエキサイトさせてしまった。周囲の人間は、今後士道に訪れるであろうと思いこの場にはいない士道に対して合掌した。

 

 

亜衣は十香が満足させることができるようなものを探した。すると、自分の制服の胸ポケットにあるもののことを思い出した。もし、これを渡せば十香はきっと士道を手に入れることが出来る。しかし、これを渡せば自分の千載一遇のチャンスを逃すことになる。

 

 

「亜衣、どうしたのだ?胸を抑えて…もしかして胸が痛いのか」

 

 

十香の言葉にいつの間にか苦しんでいたのかと自覚する亜衣。このまま純粋な十香を亜衣は見ていることが出来なかった。そして、亜衣は覚悟する。胸ポケットにしまっているものを伝説の宝刀を抜くが如く十香に突き出す。

 

 

「亜衣それは…」

 

 

「それはずっと自分のためにと、取っておいた…」

 

 

麻衣と美衣は亜衣が取った行動に驚愕した。2人は亜衣がそれを手に入れるのにどれだけの苦労をしたのか知っている故に驚愕した。だが、事情の知らない十香はそれが亜衣にとってどれだけの価値があるのかはわからない。

 

 

「これは天宮クインテットの水族館入場チケットよ。これで士道くんと一緒にデートしてきなんさい」

 

 

「!?」

 

 

デートという言葉に大きく反応した十香。その反応に笑顔を浮かべる亜衣。このまま十香がチケットを受け取ってくれれば万事解決だ。しかし、砲撃は思わぬところからやってくる。

 

 

「それって、一護くんと水族館デートするために手に入れたチケットじゃないの」

 

 

「ちょっと、麻衣!?」

 

 

「それは本当なのか?」

 

 

「ついで言うと、このチケットを手に入れるために一護くんみたいに何でも屋のバイトをしてたのよ。でも、亜衣って不器用だから一護くんみたく稼ぐことが出来なくて、ようやくついこの間に手に入れたチケットなの」

 

 

「美衣まで、そんなことを言わないでぇぇぇぇぇ!」

 

 

その強烈なダブルパンチに亜衣はその場でへたり込んで、十香と同様に瞳を潤ませた。しかし、手に持っているチケットはしっかりと十香に向けたままだ。さすがにこれだけのことが起こったのだ。今さら十香がチケットを受け取るのには躊躇いがある。

 

 

「何だかわからないのだが、わたしはチケットとやらを受け取らない方がいいのだろうか」

 

 

それでも亜衣は止まらなかった。自分の幸せよりも十香の幸せのほうが亜衣にとっての本望なのだ。

 

 

「十香ちゃん、これは士道くんとの関係を一歩先に進むのに必要だから。私は十香ちゃんが喜ぶ顔をみることが一番の幸せだから」

 

 

十香は亜衣の猛烈プッシュに押され、ついにチケットを受け取った。それで燃え尽きたのか亜衣はその場で後ろに倒れた。

 

 

「「亜衣ぃぃぃぃぃ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れ、HR終了直後の放課後――――先に動いたのは一護だった。

 

 

「狂三、ちょっといいか」

 

 

「あら、一護さんから声を掛けてくださるなんて嬉しいですわ」

 

 

「そりゃ、どうも」

 

 

一護にとっても映像の中で殺されたとは思えないほどの様子だった。あまりにも狂三がケロッとしすぎている。ただ、狂三が全く何も感じていなかったはずはないと一護は考える。

 

 

「それで一護さん、何か用がありますの?」

 

 

「ああ、この学校に転校してきたということは、最近ここら辺に越してきたということだろ。だったら、町を案内した方がいいと思うんだけどさ、どうだ」

 

 

一護のいきなりのお誘いに狂三はパァっと笑顔になった。

 

 

「まぁ、それはありがたいですわ。是非ともお願いしますわ」

 

 

「なら、良かった。明日の10時半にパチ公前でいいか」

 

 

「はい、承りましたわ」

 

 

狂三は制服のスカートを捲くって高貴なお嬢様のようにお辞儀をする。そして、一言。

 

 

「それにしても、2人でお出かけというのは何だか…デートみたいですわね」

 

 

「ぶふっ!…俺が敢えて言わなかった言葉を言いやがったな」

 

 

「いいではございませんの、何か減るものではございませんし。やはり、一護さん初心なのですね」

 

 

「うるせぇ」

 

 

「それでは、明日楽しみにしてますわ」

 

 

「ああ、じゃあな」

 

 

終始狂三に振り回されっぱなしだったが、取り敢えずはデートの約束を取り付けることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ふふ、いいですわね。まさか、一護さんから誘ってくるとは。こちらから誘う手間が無くなりましたわ。ということは、次は士道さんですわね。任せましたよ、わたくし(・・・・)

 

 

狂三はきひひ、と狂ったようにわらいながら狙いを定める。その様相は弱者を頂くために準備している強者さながらだった。そして影から這い出した狂三(・・)が狂三の思惑を実行する。

 

 

「士道さん、ちょっとよろしくて?」

 

 

「あ、ああ、大丈夫だけど」

 

 

狂三に声を掛けられた士道は懇ろ自分から声を掛けようと思っていたのでそういう意味では助かったのだが、主導権を握られてデートに誘う心の準備が整っていなかった。

 

 

『わーお、一護からデートの誘いを受けたのに自分から士道に声を掛けるなんて大胆ね』

 

 

「関心してないで、俺に知恵を貸してくれ」

 

 

内心物凄いテンパっている士道に狂三は自分の目的を告げる。それも、若干照れながら。

 

 

「明日、わたくしを町に連れ出してくれませんこと。何分、まだこの天宮市に慣れていませんので」

 

 

「え…えっと、それって平たくいえばデートしたいということでいいのか?」

 

 

「ええ、その通りですわ」

 

 

「!?」

 

 

恥らいながらそれがデートだということを認める狂三にもう士道は頭の中の全てがシェイクされてノックアウト寸前になっている。

 

 

『戻ってきなさい、士道。意識が戻ってこなかったら、一護が前に使った'月牙天衝'に影響されてまた自分だけの必殺技を考えてたのクラス全員の机の中に入れておくわよ』

 

 

「!? それだけを勘弁をぉぉぉ!」

 

 

「いきなりどうしましたの?」

 

 

さすがの狂三でも会話の途中でいきなり奇声を上げるのには困惑する。何かを懇願するような感じであることしか狂三は奇声から読み取れなかった。

 

 

「いや、なんでもない。ただ、嫌なことを少し思い出しただけだからッ!」

 

 

「は、はぁ」

 

 

社会的な信用が失墜してしまうんじゃないかという危機に必死になっている士道は余計に頭の中が真っ白になっている。それでも、その鬼気迫る士道の様子には狂三もどうすればいいか分からなかった。

 

 

「ごめん。今、ようやく落ち着いてきた」

 

 

「大丈夫ですわよ。今の出来事、誰にも言いませんわ」

 

 

「すまない」

 

 

気を取り直して、脱線してしまった話を元に戻した。

 

 

「さっきの話ですけど、パチ公前と云われる場所で11時でよろしくて」

 

 

『…一護が誘った時刻に近いわね。しかも、場所は全く一緒だし。一体どういうつもりかしら。でもまあ、狂三から提案してきてるのだから何か考えがあるんでしょうね。それなら、その考えとやらに乗ってみましょ』

 

 

「わかった、その時間にいくよ。何かわからないことがあれば、遠慮しないでいってくれ」

 

 

「ありがたいですわ。それでは、また明日」

 

 

「また明日」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――更に1時間後、一護は自分の部屋に十香を招いていた。

 

 

「イチゴ、これは一体どういうものなのだ?」

 

 

十香が見せてきたものは亜衣から貰った件のチケットであった。亜衣が実は一護とデートをしたかったために手に入れた物であったが、一護はそんなことを知る由もない。そんなチケットが今一護の前にあるということはある意味奇跡なのかもしれない。

 

 

「こいつは天宮クインテットの水族館チケットだな。しかも、ペアだな」

 

 

「???」

 

 

現実世界での生活が短い十香には施設の名称を言われただけではどういう場所か理解できなかった。よって、一護はもう少し噛み砕いた説明をした。

 

 

「このチケットというのは、天宮クインテットというところの中の色んな種類の魚を見れる場所に入れるもので、ペアチケットだから十香自身の他に好きな人と一緒に入れるものだ」

 

 

「魚を食べるのではないのだな」

 

 

「食べるじゃなくて観るだな」

 

 

十香らしい言葉に一護は苦笑いしながらも、あの絶望しかけていた十香がこんなにこの世界を楽しんでくれていることを嬉しく思った。それならば、十香をより楽しませてあげよう。

 

 

「もう一人十香と一緒に水族館行けるんだったら、士道を誘ってこい。あいつも絶対喜ぶから」

 

 

「うむ。亜衣もそう言っていったぞ。今から誘ってくる」

 

 

そう言って、十香は一護の部屋から駆け出していった。十香の言葉からあのチケットは亜衣から貰ったみたいだが、亜衣・麻衣・美衣トリオがいつも十香を気にかけていることを一護は思い出しいつか感謝の言葉を言っておこうと決めた。

 

 

―――コンコン

 

 

十香と入れ替わるように新たな来客者がやってきた。一護が入るように促すと、扉を開けたのは四糸乃とよしのんだった。

 

 

「四糸乃とよしのんじゃねぇか。何か用か?」

 

 

「は…はい…えと…その…」

 

 

四糸乃はいつもは十香のようにハキハキとした少女ではないが、今の四糸乃はいつもよりも歯切れが悪かった。

 

 

『四糸乃、言っちゃいなよ。折角のチャンスなんだからさぁ』

 

 

「でも…」

 

 

『もぉ~ 、四糸乃ったら恥ずかしやがり屋さんなんだからぁ。こうなったらよしのんに任せて』

 

 

2人で何やら話した後、よしのんが四糸乃が抱えているバッグを開けて何やら紙片を取り出して一護に突き出す。

 

 

「えっと…これを受け取れと」

 

 

一護の言葉によしのんが頷く。それを受け取り詳細を見ると、それは先程十香が見せてくれたものと全く同一なものだった。こんな奇跡がよく起こるものだと内心は普通に驚いていた。

 

 

「あの…その…一緒に行ってくれませんか」

 

 

せっかく四糸乃が勇気を出して誘ってきたお誘いだ。特に断る理由もない。

 

 

「あぁ、いいぜ」

 

 

『やったね、四ー糸乃』

 

 

「うん!」

 

 

一緒に遊びたいというだけで、こんなにも喜んでいる四糸乃を見ると何だか心が穏やかになってくる。しっかりと楽しませる為にも準備はしておかないといけないな、と友達として思う一護。若干の認識違いが起こった瞬間だった。

 

 

「明日の10時にパチ公前で待ってます!」

 

 

四糸乃は慌てて言うとそのまま急いで部屋を出ていった。

 

 

(明日の10時か…ってか明日かよッ!)

 

 

このままでは狂三との予定と被ってしまう。急いで追いかけて日程を替えてもらおうとしたのだが、もう既に家の中にはいなかった。それに、今さらそんなことをすれば四糸乃が悲しむことが分かる。いずれにしても一護自身が2つの予定をどうにかする他なかった。

 

 

ーーーードタドタ

 

 

全くもって嫌な予感がする。その一護の嫌な予感が示す通りに士道が汗を垂らしまくりながら部屋に入ってきた。

 

 

「ごめん、俺と兄貴が折紙にデートしてほしいって誘われた」

 

 

「まさか、明日とか言わないだろうな」

 

 

「…そのまさかです」

 

 

士道が申し訳そうに敬語で言う。これで2対4の変則デートを行われることが決定した。


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