8月は大学のオープンキャンパスのバイトをやっていたり、いつもの長期のバイトをやっていたり、ゼミ合宿があったり、簿記の勉強をしていたり、ディバインゲートをやっていたり(ェ、なんてことがあったりしたので更新が遅れてしまいした。
作品はちゃんと作りましたのでお楽しみください。
『全くどうしたらこんな複雑なデートをしようと思ったのよ、このバカ兄達は』
「「返す言葉もございません」」
一護は四糸乃と狂三と折紙で、士道は十香と狂三と折紙とのダブルトリプルブッキングデートという一種の世界記録を目指すようなデートの仕方を昨日生み出した2人のために琴里達ラタトスクはフル稼働でデートをサポートすることになってしまった。前代未聞のデートなのでラタトスク機関員は前日の夜から徹夜で入念なシミュレーションを行っていたらしい。それで、一護と士道は琴里に頭が上がらなかった。
『受けてしまったものはしょうがないわ。私たちが全力でサポートするから指示通りに動きなさい。タイムスケジュールはこっちで管理するから安心なさい』
「わかった」
「ああ、頼む」
士道・一護という順で言葉を返していく。その返事確認した琴里は2人の最初の予定を伝える。
『今、天宮駅を挟んで一護は西口にあるパチ公、士道は東口にあるパチ公に最初の相手が来るわ。それぞれ相手は四糸乃と十香よ。その30分後に2人とも次の相手のところまでフラクシナスで回収して転送するわ。この流れ頭に入っている?』
「「…大丈夫だ」」
『2人とも若干の間があったわね。まあ、いいわ。時間になったら自動で知らせるから。それよりも2人とも相手が来たわよ』
琴里の座っている艦長席の前にあるディスプレイが真ん中を境にして左側では十香が右側では四糸乃が各々の相手に手を振っている。この映像はいよいよデートが始まることを示唆している。
『さあ、私達の
「す、すげぇな」
「何がすごいのだ?」
今の十香の姿はチュニックにショートズボン姿である。いつもは制服姿や部屋着姿しか見ていない士道にとっては新鮮だった。特にショートズボンで生足が強調されて十香の魅力を増幅されている。
「その服と十香が合っていて可愛いなって」
「な、何を言っているのだ!…そんなことを言われたらシドーのことをまとも見られないのではないか」
士道には十香が後半の言葉を小さな声で呟くように言ったので聞こえなかった。十香は不機嫌になってしまったのであろうか。つい最近にも、同じようなシチュエーションがあった気がしないでもなかった。
『ちゃんと、私のしたアドバイスを実行してくれたわね。おかげで、今の十香の好感度がスタートから上昇しまくっているわよ。このままの調子でデートを続けなさい』
「はいよ」
琴里が好感度が上昇していると言っているならその通りだろう。士道には女心を完全に理解しているわけでもないので、そう信じることにした。
「…それよりも、水族館とやらという場所に行くぞ」
「わかったって。だから、そんな手を強く引っ張らなくていいから」
「早く行かなければ、私とシドーがデートする時間が無くなってしまうではないか」
堂々と士道とデートをしたいと言うあたり、先ほどまでの恥らう姿と同一人物なのか疑ってしまう。いきなりそんなことを言われた士道はそんな風に疑うこともなく気恥ずかしい感じがした。そんな士道が気恥ずかしさを感じていた最中、十香は立ち止った。
「水族館とやらはどこにあるのだ?」
「十香、お前場所が分からずに歩いていたのかよ」
「…すまない。亜衣からは説明を受けていたのだが、水族館がどこにあるのかは聞きそびれてしまったのだ」
「そうか…なら、チケットを貸してくれ……なるほど、天宮クインテットか」
士道自身も昨日誘われた時点で場所を聞いとくべきであったな、と反省しながら行くべき場所がはっきりとした。幸いにも、十香が分からずに進んでいた道が天宮クインテットへ進む道であった。
「よし、このまま真っ直ぐだ」
「うむ!」
しばらく道なりに進みながら十香とはこれから行く水族館について話していた。昨日、一護に水族館は魚類の料理に出てくるのではなく魚を鑑賞できる場所であると教えられていたはずなのだが…
「そのような珍しい魚を見られるのなら、その魚を使ってアクアパッツァや
「いや、水族館は生簀捕り出来ないからな。あと、そのマイナーな料理はどこで知ったんだよ」
「魚は見るだけで食べられないのか…それは…なんというか残念だ」
目に見えて落ち込む十香。以前、フラクシナスの艦内にいるある機関員が『さすがハングリーモンスター』と言ったのも頷ける。そんなことをとても本人に直接言えないが、このまま機嫌を損ねては困る。
「天宮クインテットの中にもフードコートがあるから、水族館にある魚使って調理してもらうとかは無理だけど色んな料理は食べられるから腹が減ったらそこに行こう」
「おぉ、それはいいな。すごい楽しみだぞ」
もう既に花より団子状態な気がしないでもないが、本人が喜んでいるのならばそれを害する必要はないだろう。
そうこうしている内に、2人は件の天宮クインテットを目で確認できるほどに近づいていた。ここまで何事もなく進んでいることに士道は安堵したものの、やはりある人物のことを考えればこの事態も頭に入れておくべきだった。
(折紙か!?)
車道を挟んで反対側にある公園には白のノースリーブにミニスカートという出で立ちの折紙がどこか遠くを見つめながら佇んでいた。あまりに折紙が動かないので両肩と頭には鳩が乗っていた。
(まずい…このまま十香と折紙が鉢合わせしたら、俺がやばい)
だからといって2人が鉢合わせるのを防ぐためにおかしなことはできない。そこで、少しでも2人の視界にお互いの姿を映さないため、今までの十香との立ち位置を逆にした。その直後、警笛を鳴らしてきた車が通りすぎていった。
「助かったぞ、シドー。危うく他の人の車を壊してしまうところだった」
『やるじゃない、彼女の危機から救い出すのはなかなかできないから好感度は大きく上がるわ。この調子でデートを続けなさい』
本来の目的とは違うのだが、実際に危ないところだったのでこれはこれでいい気がすると思う士道。とりあえず、ここはそそくさと
―――少し時間を遡って士道が十香とちょうど出会った頃、一護のところには四糸乃とよしのんが来ていた。
『やっはー、今日は一護くんとの待望のデートだよ』
「もう、よしのんッ!」
「俺とのデート、そんなに楽しみにしてくれたのか、ありがとな。その期待を裏切らないようにデートを楽しもうぜ」
「はいッ!」
よしのんにからかわれてもじもじしていた四糸乃だったが、やはりそこは一護。無自覚なイケメン台詞で早くも四糸乃を魅了してきた。
『やるねー、一護くん』
「へ?何が?」
『こっちの話だから気にしないで』
「それならいいけどさ…四糸乃、おしゃれしてくれたんだな」
「はい!令音さんに手伝ってもらいました」
ゲームセンターに遊びに行ったときは白のワンピースを着ていたが、今日はまた違う装いであった。ピンクのカットソーにスカート、それにキャスケット帽。この前の姿は純粋な可愛さと言うなら、今日の姿は魅せる可愛さというべきか。
「とても似合ってるぜ」
「!! …ありがとう…ございます」
そんなことをストレートに言われ、動揺に動揺を重ねた四糸乃は結局キャスケット帽で赤くなった顔を隠すことしかできなかった。その照れまくっている四糸乃に代わって声を上げたのはよしのん。
『早く水族館に行こうよー。デートする時間が無くなっちゃうよ』
「そうだな。じゃ、行くか」
「え?」
いきなりの感触に驚く四糸乃。これは何なのか一瞬思ったがすぐにそれが手の感触だと分かり、そしてそれが一護のものである。
「!!」
「もしかして迷惑だったか?」
一護の不安そうな声に、もうそれは首が取れるんじゃないかというぐらい横に振った。
「そんなこと…ないです。初めて手を握られたから…びっくりしましたけど…一護さんの手…暖かくて優しくて…ずっと握っていたいです」
「そうか…それはありがたいな」
今度は一護が照れる番だった。これまでの人生で手を握ったのは母親ぐらいだったので、こういうのには全然慣れていない。とりあえず熱を冷ます為に天宮クインテットに向けて歩き出すことにした。少し歩くと折紙のいた公園とはまた違う公園が見えてきた。その公園には見覚えのあるシルエットが3つ。
「いきなり出てきて、お前ら3人は誰なんだよ」
「いいわよ。名乗りを上げるのは世の情け」
「世の中の悪を絶対に許さない」
「か弱き乙女の味方こそ我ら―――」
「「「亜衣・麻衣・美衣トリオ!!!」」」
亜衣・麻衣・美衣の3人は少年たち5人と相対していた。3人の後ろには少年たちと同じ年齢ぐらいの少女3人がいる。
「何してるんだ、あいつら」
一護までの距離はかなりあったので3人が何を言っているのかははっきりと分からなかった。ただ、3人が少年たちに向けて戦隊ものっぽいポーズしていたので余計に何をしようとしているのか分からなかった。
「どうしたんですか?」
「いや、別に何もないぜ」
一護がどこか別のところに視線を向けていたので四糸乃は何を見ていたのか少し気になっていたのを誤魔化したのだが、確か琴里にはデートをしている相手以外に気を逸らすのは不機嫌の元ということを思い出し心の中で反省をした。
「あの…水族館にはどんなお魚さんがいるんですか?」
「そうだな…俺もよく行ってるわけでもないからよくは分からないけど、天宮クインテットの水族館には小さいのはイワシから、大きいのはイルカとかラッコとかがいるみたいだな」
「イルカさんはうさぎさんの次に大好きです。テレビで見ていて、海でイルカさんが飛んでいたのがすごくきれいでした」
『四糸乃ったら、イルカが出てくるとテレビにかじりつくぐらい大好きだからね』
「じゃ、それなら最初はイルカを見に行こうぜ」
「はい!」
四糸乃は一護と一緒に大好きなイルカを見ることができるということもあって、水族館に向ける足取りは非常に軽やかだった。
5分もしない内に件の天宮クインテットの水族館の入場口に着いた。入場口の係員に3人はチケットを見せて(よしのんは除く)中に入ると、早速目当てのイルカのいる水槽を探した。しかし、その探索は難航した。
「イルカさんのいる水槽はどこでなんでしょう?」
「水族館の中でも結構人気があると思うし、すぐに見つかると思ったんだけど…ん?」
一護が気になったのは、他の水槽とは一際異彩を放つ水槽。異彩とはいっても色彩のことではなくその形状のことだ。通常の水槽は横長のガラス張りのものなのだが、例の水槽は円柱であり360°周囲から中の様子が見える。
「丸いです」
『丸いねー』
「丸いな」
3人とも滅多に見たことのない水槽に正直な感想を言う。皆が水槽に食いつくのはその水槽の中に未だ生物の存在が確認できていないからだ。とはいっても、完全に何もいないというわけではなく水槽も上部にぼやけた何かだけは見て取れた。
「イルカさんいないです…」
「いや、ここで合ってるみたいだ…ほら、これ」
一護が指し示したのは水槽の脇にある説明文であり、この円柱の水槽にはイルカが通り過ぎることがあると書かれている。
『でも、イルカさんがいないじゃないのー』
「そうなんだよなぁ…」
この円柱の水槽を通過することがあるということは、ここからイルカを見ることが出来るのは運次第ということになる。しかし、折角水族館に来たのだからこのまま見られないということにはしたくない。
「そうだ! 2人とも少しここで待っててくれ」
「い、一護さん!?」
『どこにいくのさー』
思い立ったら即行動を具現化したかのように一護は駆け足で何処かに行ってしまった。いきなりの置いてけぼりを喰らった四糸乃とよしのんは初めてこの天宮クインテットに訪れたこともあり、2人だけでどこかに移動することもできない。
「どうしよう、よしのん」
『んー、一護くんはここで待ってって言ってたからまた戻ってきてくれると思うけどー…』
「よしのん、どうしたの?」
『四糸乃ー、あれ見て! アレアレ』
「わぁ、すごい!」
四糸乃とよしのんが釘付けされた光景とは、水槽の中で上から落ちてきた青魚に目掛けて白い巨影が降下してきた。だが、それは荒々しいものではなく一種の優雅さを兼ね備えていた。
『イルカさんだよー、イルカさん』
「うん! とてもきれいだったよ。でも、一緒に一護さんとイルカさんを見たかったなぁ」
『そうだねー、全くこんなときに一護くんはダメだなー』
「そんなこと言っちゃ、めッ」
いつもは大人しくて慕ってくれている四糸乃がこんなに強く言ってくることなんてあまりなかった。それだけ四糸乃にとって一護の存在が大きくなっているということだ。まあ、当の本人は今まで見ている限りそんなことを気づいてはいないように思える。
『冗談だよー、冗談。よしのんもそんなこと全然思ってないから。それよりも、何でいきなりイルカさんが来たんだろー?』
「良かった…ちゃんと見れたんだな」
「一護さん!」
『遅いよー、一護くん』
ようやく2人の元に戻ってきた一護。何故か少し呼吸が乱れていた。
「すまん。ちょっと準備をするのに時間が掛かってな」
『準備?もしかして今のは!?』
「イルカのエサを上から円柱の水槽があるところ投げ入れてくれたんだけど上手く行って良かったぜ」
「すごいです! それと、ありがとうございます。イルカさん…とてもきれいでした」
「ああ、そうだな」
実は一護が少しの間2人の元を離れていた理由とは、現在いる場所には飼育員がイルカを管理する部屋があるのだが、その中にいる飼育員にお願いして円柱の水槽の中に餌となる魚を入れてもらったのである。イルカのエサの時間にはまだ早かったのだが、快くやってもらえたことに心の中で飼育員さんに感謝する。
「イルカさん…輪っかを出しました。何だか…天使みたいです」
「確か…これって、バブルリングとかいうやつか」
バブルリング―――イルカが他のイルカと遊ぶ際に噴気孔から空気を吹き出して作る水中のリング。自然の中では人間の眼ではめったに見られないもの。今、ここでそれを見られるということは僥倖といえるだろう。
そのイルカが息を吐き出して作ったバブルリングは上に上がっていく度に直径が増していき大きくなっていく。それと同時に水槽の中にいたイルカも上昇していく。その姿が上から照らされた陽光で天に昇る幻想を創り出した。3人はあまりの美しさに言葉を失ってしまった。
「お、イチゴと四糸乃によしのんではないか」
「十香か。ここで士道とデートするとか言ってたな。まあ、ばったり会うということもあるか。それで士道は一緒にいないみたいだけど、どうしたんだ」
一護に尋ねられて、十香は思い出したかのように困惑した顔になった。
「それがだな、突然シドーのお腹を壊してしまってトイレに行ってしまったのだ。やはり、琴里に伝えた方がいいだろうか」
「私も…心配です」
『もう、十香ちゃんとのデートなのに不用心だなぁ』
ついさっきまでフラクシナスの艦内で元気な士道の様子を見たんだけど…、と一護が思ったところで気づく。館内の時計で時刻を確認するともう間もなくデート開始から30分が経とうしていた。そして装着していたインカムから久方振りの通信が届いた。
『一護、時間よ。フラクシナスで回収するわ。四糸乃は十香と一緒に行動させなさい。その方が2人の不安が和らぐでしょうから』
本当はまだ四糸乃とのデートを続けたいところだが致し方ない。今回の最重要攻略対象である狂三を放置するわけにはいかない。
「あ、やべぇ…俺もだ」
「まさか、イチゴのお腹も痛くなったというのか!?」
全くもって一護自身でも士道に乗っかった上に酷いと思う演技なのだが純粋な十香はそれでも信じて心配そうに見てくる。四糸乃に至ってはウルウルと瞳を潤まして心配している。それとよしのんは涙ぐみそうな四糸乃を窘めている。すごい罪悪感だ。それでもやらなければならない。
「俺もトイレに行ってくるから、みんなで水族館を回ってきてくれ」
「…うむ、わかったぞ」
「はい、わかりました」
一護は罪悪感を置き去りにするかのようにその場から駆け出して、人目が無くフラクシナスが回収できる場所へと移動した。ただ、子犬のように心配そうに見つめてくる2人に心の内でそれは丁寧に土下座をした。
「それで、何で俺はこんなところにいるんだ」
フラクシナスの転送装置を使って狂三が待っているパチ公前に移動した後、狂三が行きたいところがあるということなのでそこに行こうとおいうことになったのだが、それがまさかランジェリーショップだとは。
「いいではございませんか。女性の下着は神聖な聖域。その下着を一緒に選べるということは男性にとって素晴らしいものではありませんか」
「お前は、男性全員を獣だと思ってんのか」
狂三の男性に対するかなり偏ったイメージに呆れた一護。だが、そのような発言をする辺り、一護が女性に臆病であるイメージを与えているのは理解していないようだ。
『何を言っているのよ、彼女から積極的になっているのに、とんだチキンね。少しは男気を見せなさいよ』
妹様にも男気がないと言われる始末。だが、これは会って間もない相手ではハードルが高すぎるのではないか。そういう抗議の意味を込めてインカムを小突く。
「ほら、そこに立ち止っていませんで中に入りましょ、入りましょ」
全く一護には気が進まないことだが、嬉々とした表情をした狂三に後ろから押されてランジェリーショップの中に押し込められた。
店内はやはりというか、一護以外は全員女性だった。狂三がいなければ即通報されそうと店内にいる女性が一護の方へと顔を向けてくれないことからそう感じてしまう。しかし、実際はランジェリーショップという名の乙女の宮殿の中にただ一人イケメンがいるということはそれは歓喜という感情と本能に置き換えられている。要するに、メロメロである。
「せっかくですので、一護さんに選んでもらいたいですわ」
「何で俺なんだよ。っていうか、そういう下着とか男性が選んでいいのかよ」
「殿方が女性の下着を選んではいけない決まりはどこにありまして」
どうやら逃げ道はどこにもないみたいだ。確かにこんな乗り気な狂三の気分を害するのは得策ではない。とりあえず、ここは無難に乗り越えようと決める。
「一護さん、この2つ下着のどちらがよろしくて?」
「そうだな――」
『ちょっと待ちなさい。選択肢が出たわ』
タイミングを計ったかのようにフラクシナスのAIから選択肢が提示された。
1.右手側。ピンク地に黒レースの妖艶なデザインの下着。
2.左手側。淡いブルーの爽やかなデザインの下着。
3.「俺はもっと露出度が高い方が…」後ろに掛かっている下着。
『一護、後ろに掛かっている下着を選びなさい』
「俺は後ろ掛かっている…って、こんなの選べるかっ!」
一護はAIから提示された選択肢を知っている訳ではないので、琴里から指示が来て初めて措定された下着がどういうものなのか知った。指示された下着はシースルー素材で狂三が着たら色々と食い込みそうだった。
「これがいいですの…」
さすがの狂三も動揺した。一護の言った下着の
「なん…だと」
『なんですって!?』
一護と琴里が驚嘆したのは、狂三が選んだ下着が指定したものよりも更に布面積が少なく本当に大事な部分しか隠していない下着であり、もはや紐の下着としか言いようがなかった。
「いや、そのだな…」
「一護さんだけなら…このことは他の人には言わないでくださいまし」
何とか狂三が手に持っている下着から選ばせようとしていた下着に注意を向けさせようとした一護だが、もう手遅れだった。そして、こんなことを他人に言おうとすものだったら、色んな意味で何回も殺されるのではないかと思う。
「早速着替えてみますわ。少々お待ちくださいませ」
「お、おう」
狂三はそう言って、試着室の中へと入っていった。こんなところを知り合いの誰かに見られようならば、一生治らない心の傷を負うかもしれない。
「え!? 嘘!! 本当に一護くんなの」
「ん? 山吹に葉桜と藤袴か」
亜衣がいるところには麻衣と美衣もいる。一護ははっきり言えばあまり人の名前と顔を覚えるのはあまり得意ではないが、この3人のインパクトの強さは半端ではなく一護の脳内にしっかり記憶されている。
「こんなところで会うなんて奇遇だね」
「というよりも、こんなところに男子がいるって何かおかしくない? どうしてこんなところにいるの」
麻衣は普通に話しかけてきたが、美衣はやはりランジェリーショップに一護が1人でいる(ように見える)ことを怪しんでいる。しかし、ここで3人に素直に事実のみを言ってしまえば後々ロクでもないことになると知っているので、ここはすこしぼかすことにした。
「連れと一緒に来たんだけど、途中ではぐれちまって探してる途中で偶然お前らに会っちまったという感じだな」
「なるほどね。それじゃ呼び止めちゃってごめんね。わたしたちは買い物が終わったからもう行くね」
その連れを探すのを邪魔するのは悪いと思い、亜衣は麻衣と美衣を連れてその場を離れようとした。
「ちょっと待ってくれ」
「!?」
亜衣は一護に呼び止められて脳内が高速に回転していた。亜衣の脳内では――――
『ちょっと待ってくれ』
『え?どうしたの、一護く―――』
『実は俺、前から亜衣のことが好きだ。だから、これを受け取ってくれ。俺の初めてだ』
『…うん』
――――という妄想が沸き立っていた。そして、実際にはどうなったかというと…
「え?どうしたの、一護く―――」
「さっきまで公園に居たろ。何してたんだ?」
「…うん…う?」
返ってきた言葉は妄想と全然違っていた。しかも、あまり見られたくないやつが。
「えっと…それは…その」
亜衣が一護を真似てやっている何でも屋のバイトで公園にいた男子5人と女子3人に依頼されて麻衣と美衣と戦隊ものごっこしていたなんてことを言えるわけがない。そんなことを言ったら子供から金を毟り取っている思われて軽蔑される。何としてもそのような事態は避けたかった。
助けを求めたく麻衣と美衣に目配せをするが、逆に目配せされた。打つ手なし、絶体絶命。と、ここで…
「一護さん、やはり恥ずかしいですけれどいかがでしょうか」
「「「「!!」」」」
そのときこの場にいる4人は時が止まったような気がした。もう色々とアウトである。
「そんな…一護くんが…転校生さんとそんなR‐18指定に入るような下着を選ぶような関係だったなんてッ!」
「「あ、ちょっと、亜衣ぃぃぃ!」」
亜衣は乙女の涙を流しながら何処かへ走り去っていった。それを追うように麻衣と美衣も駆けていった。
『一護、時間よ。それにしても派手にやったわね』
一護の装着しているインカムから移動を告げる琴里の声が聞こえてきた。しかも、大爆笑された。これからの社会的信用どうしよ、と真面目に悩む一護を差し置いて。
「こういうときは―――イヤン(はぁと)―――でよろしくて?」
「うん、そのポーズとその下着はすげぇ可愛い。だから、色々な意味で痛いからトイレに行かせてくれ」
変則デートはまだまだ続く…
精霊図鑑デート・ア・ゴールデン
※本編未登場キャラが出てくる可能性有
「士道、何やってるんだ?」
「ディバインゲートだよ、兄貴」
「ディバインゲート?」
「ほら、これ」
士道が見せてくれたのはスマホ。その中の画面には普通の人型のようなキャラクターから、それこそドラゴンの姿をしたキャラクターもいた。
「スマホのゲームか…俺には縁のない代物だな」
「あれ、兄貴やってないんだ…殿町からP○3の格闘ゲームのソフトとか借りてたから、てっきりやってるかと思ったんだけどな」
「スマホでゲームやるよりは、ゲームを大画面でやりたい派だからな。それで、気になったんだけど結構キャラクターを集めてるみたいだけど課金とかしてんのか」
「いや、俺は無課金でやってる。条件を満たせば課金スクラッチをやるためのチップを貰えるから、それで何とかやってる」
「そうなのか。まぁ課金とかしてたら親父とお袋とかに申し訳ないしな」
士道は苦笑いで返しているけれども、きっと課金していないだろう、多分。
「そうだ。今、限定スクラッチがあってさ、ちょっとやってみる」
画面を操作して、どれを選ぶか品定めした後1つ選ぶと…
「十香?」
士道が訳が分からないという様子であったので画面を覗いてみると、そこには十香の姿があった。
「シドー!」
「十香!」
「シドー、でぃばいんげぇとをやっているのか」
「ああ、やってるけど…って、なんで十香がスクラッチから出てきてるんだよ」
「それはだな、でぃれくたーとかいう人からモデルをやってみないかと頼まれたのだ」
確かに十香は誰もが羨むような美貌の持ち主なのだが、以前にも同じようなことがあった気がする。
「いいか?今回は良かったけれど、知らない人にそんなことを言われたらついて行っちゃダメだ。危ないからな。分かったか?」
「うむ…わかった」
若干しょんぼりとした顔をした十香だが、間もなくいつも通りの様子に戻りスマホの画面を一護と士道に見せてきた。
「どうだ、すごいだろう」
画面に映し出されたのは、十香・四糸乃・狂三・琴里・八舞姉妹・美九・折紙だった。一護と士道が最初に思ったことは『何してんだよ、こいつら』だった。とここで、嫌な予感が一護を走った。
「十香、お金いくら使った?」
「ゆきちが2人だ」
一護と士道が同時に頭を抱えた。十香はどうしてそんな反応しているか分からなかったが、その間にもう一人やってきた」
「甘いわね、私は月に10万円よ」
そんなことを堂々というのは七罪。これにはもう『こいつ早く何とかしないと』と一護と士道は思うしかなかった。
「私だけ出られなかったんだから、この借りは課金して返すんだから」