デス・ア・ライブ   作:月牙虚閃

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今回の更新が前回よりも掛かってしまい申し訳ありません。
1か月間隔で更新するつもりでしたが、色々と立て込んでしまった結果前回から2か月も掛かってしまいました。本当に申し訳ありません。
さて、今回のテーマは士道は恐怖と目的、一護は過去との訣別となります。
それではお楽しみください。


absorber in the darkness ,deathberry in the rainy blood

折紙と狂三各々のデートから30回以上転送装置で移動してきた一護と士道はこれまでにないくらいに疲弊していた。30回以上移動して体力的に厳しいというのもある。それだけでなく、デートの相手が皆個性が強い子(それが全員の良いところであるが)なので、精神的にも2人は大きな負担を強いられていた。

 

 

そして、前のデートの相手がいた場所から次の相手のいる場所へ琴里の誘導の元、士道は移動していた。

 

 

「ここで本当に合ってるのか?」

 

 

『間違いないわ。学校にいたときの霊力と99.999%一致してるから、確実に狂三が近くにいるわよ』

 

 

「わかった。少し探してみる」

 

 

デートが上手くいっているかどうかは士道自身にはわからないが、狂三の好感度を監視しているはずの琴里たちからは、特に好感度が下がったという情報は入っていないので愛想を尽かされて、ご帰宅という可能性は小さい。とにかく、今は狂三を探す。

 

 

「どこに行ったんだ?」

 

 

「あらあら、士道さんが来てしまいましたわね」

 

 

「うおっ!」

 

 

いきなり声が聞こえて驚いた士道の視界に、数瞬前まで何もなかった空間に狂三が存在していた。これも精霊の力なのかと頭によぎったが、すぐにそれを捨て置いた。それよりも、今の狂三は…

 

 

「何で…こんなところで霊装を纏ってるんだ?」

 

 

士道の問いに狂三は言葉では返さない。その代わりとして、首をクイッと振って士道に顔を向けた方を見るように促した。すると、視線の先には柄の悪そうな見知らぬ男が腰を抜かして動けないでいた。そして、狂三は手に持っていた古式の歩兵銃でゆっくりとその男に銃口を向ける。

 

 

「や、やめ、ややっやめてくれ! 俺はまだ死にたくないぃぃ!」

 

 

「あなたがそんなことをおっしゃるなんて些かお門違いでございまして」

 

 

必死に助けを請う男に対して、狂三は何の躊躇もなく引き金を引いた。瞬間、男は一切の抵抗を出来ずに弾丸により脳漿が周囲の叢にぶち撒かれた。それは赤黒くとても見ていられるようなものではないことを士道が認識してから胃袋の中身がせり出してくる。

 

 

「おぁぁぁぁあああああああ!?」

 

 

精霊によって人がいとも簡単に殺された。頭蓋を突き破って死んだ。血飛沫をあげて死んだ。その場で倒れて死んだ。死んだ、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ―――

 

 

「うふふ、もう少しこの甘い学校生活を楽しみたくもありましたけれど致し方ありませんわね。士道さん、あなたを頂きましょう」

 

 

恐怖―――忘れていたこの感覚。十香と初めて会ったとき、ほんの一瞬だけ感じた感情(モノ)。ソレが全ての方向から士道を襲ってくる。

 

 

「あぁ…ああ」

 

 

狂三に今起きていることに対して何故だと問いたいのだが、恐怖で声を出すことがままならない。その中、狂三から正しく()が迫ってくる。アレが何なのかは分からないが、本能的に飲み込まれてはいけないということだけはわかる。士道は恐怖で凝り固まっている体に鞭を打って走り出す。

 

 

「待て、狂三!」

 

 

そんな制止を求める士道の言葉を無視して影は迫りくる。士道は分かっていた。動き出しの初動が遅れたため、どうやってでも逃げ切れない。そして…

 

 

―――ズサッ

 

 

何かが貫かれたような音がする。但し、士道が貫かれたというわけではない。それならば、誰が貫かれたのか。

 

 

「ふふふ…流石…ですわね……真那さん」

 

 

真那に貫かれた狂三は口元からドクドクと血を流す。だが、狂三の貌には不敵な笑みを浮かべ真那を挑発しているかのように思えた。

 

 

「でぇもぉ…こんなものでは…わたくしを殺し尽くせませんわよ」

 

 

「そんなことは、何度も聞きあきてやがります」

 

 

狂三はその科白だけを残して、今度こそ士道の目の前で絶命した。狂三を絶命させた張本人である真那は無感情に剣に串刺しにされている死体を乱暴に投げ捨てる。その行為がきっかけとなって止め処なく襲ってくる昂る感情に従い士道は詰問した。

 

 

「真那…何でだよ」

 

 

「お兄様には嫌なところを見せちまいましたね。けれど、何よりもお兄様が無事で良かったです。それと悪いことは言いません。今起こったことは全て忘れちまってください」

 

 

「忘れろって…今のこと全部忘れろってか…忘れられるわけねぇだろ!」

 

 

人が死んだ瞬間を見て、平静に保っていられる人間はそうはいない。尚且つ、その事実に目を瞑ってほしいといわれ、士道はそんなこと決して受け入れられる人間ではない。

 

 

「真那たちのASTの立場はわかる。けど、戦うだけが解決する方法じゃねぇだろ! 絶対に人間と精霊が手を取れる方法、お互いに今みたいに殺しあわなくて済む方法があるはずだ!」

 

 

「陸自の対精霊部隊を知っているとは…なるほど、折紙さんが話したんですね。こうやって話してる私が言えたことではないですけど、全くお兄様に甘いですわね。でも、それは無理でやがります」

 

 

武装を解除した真那の血塗られた手でそう言われ、士道は一瞬周囲が血まみれの狂三に闇に引きずり込まれるような幻覚を見てしまった。同じ殺害者の立場である狂三と真那だから見えてしまった、後に士道は考える。

 

 

人間(私たち)精霊()が分かりあえることなんてねぇです。お兄様も見ましたでしょ。最悪の精霊(ナイトメア)はその手で人を殺しやがるんです。だから、私は最悪の精霊(ナイトメア)が生まれ続ける限り殺し尽くす」

 

 

人の心の闇に敏い士道は分かってしまった。これは絶望と絶望の殺し合いだ。お互いに何かを失ってしまった者同士の死闘。心のタゲが外れしまった者の決して終わらぬ永劫の地獄が真実。士道はそんな夢も希望もない現実に真那が晒されているのが堪らなく嫌だった。

 

 

「俺は…!!」

 

 

「理解しやがったみたいですね、これが私の宿命です」

 

 

遥か彼方の過去に真の目的を消失させられた真那の瞳には狂三の亡骸しか映っておらず、ただの壊れた殺戮マシンにしかみえない。

 

 

「俺はこんなの認めねえぞ! こんな終わり方を」

 

 

「もうお兄様では私を止められません。いや、止められたとしても止まんねぇです。それが、私のたった一つの存在理由でやがります」

 

 

過去に何が起きたのかを推し量るには情報が無さ過ぎた。士道には空虚な真那にこれ以上何も声を掛けることができなかった。それは、経験してきたであろう凄惨な過去を潜り抜けてきた真那に理解もしないで軽々しい言葉を掛けるのは憚られた。今の士道にはそのような言葉しか持ち合わせていないからだ。

 

 

「本当だったらこんなことを見せたり、言ったりするつもりはねえんですが…っと」

 

 

「…ッ!」

 

 

士道に視界から真那の姿が消滅したかと思うと、その次の瞬間には視界が暗闇に包まれて最後にエコーかかった声で聞こえて意識が刈り取られた。

 

 

「今まで心配させてごめんなさい。そして今も…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士道が意識を取り戻したのは屋外なのではなく、フラクシナスの中で最初に入った部屋―――医務室のベッドに寝かされていた。真那に意識を刈り取られてその後どうなったのか全くわからないが、どうやら琴里達が拾ってくれたらしい。

 

 

「シドー!?」

 

 

目覚めたばかりで視界のピントがまだ合っていない中で、心配に彩られた可憐な声が聞こえてくる。その声でようやくピントが合ってきた目に映っているのは涙を目尻に溜めている十香だ。

 

 

「十香…」

 

 

「シドー、目覚めてくれて良かったのだ。体も大事ないか?」

 

 

「狂三には攻撃を当てられてないし、真那には当て身を食らっただけで…」

 

 

自分で言葉にしてみて気づいた。覚醒してきた頭に先ほどの戦闘の映像がフラッシュバックする。何もできなかった…ただただ、恐怖に身を震わすことしかできなかった。

 

 

「どうしたのだ、シドー? もしかして、本当はどこか体が痛むのか?」

 

 

士道の体を確かめるために十香が手の甲に触れようとしたところ――

 

 

「ッ!?」

 

 

――手を払いのけてしまった。いつもの十香、そう普段と変わりのない十香なのに根源的な部分で刻まれた恐怖に苛まれる。

 

 

「何してるのよ! そんなことを女性に対してやるものじゃないわ」

 

 

「別にいいのだ。私は別に気にしてない」

 

 

最初から十香と一緒にいた琴里が抗議する。十香は気にしないといっているが、どんな精神状況でも女性に対する扱いを怠ればいつでも悲劇的な状況を引き起こされる。だから、あえて厳しく言った。

 

 

「俺たちのしてることは…正しいんだよな?」

 

 

「今更になって何言ってるのよ。精霊と平和的に対話して霊力を封印してそれでハッピーエンド。それの何に悪いことがあるの?」

 

 

「なら、俺は狂三の精霊の力を封印できない」

 

 

琴里は一瞬、自分の兄がそんなことを言うと思えなかった。何かの空耳なのかと思った方が自然だと思えた、5年前(・・・)の兄を思い出せば。

 

 

「自分が何を言っているのか解っているのかしら? 冗談でも言ってもいいことと悪いことがあるわ」

 

 

「俺にあんなの止められるわけがない。人を殺しているときの狂三は全然俺なんかに興味がなかった。あの眼は何を見ていたのか全くわからなかった。けど、俺なんかにできることは無かったんだ」

 

 

「黙りなさい! 士道、あなたがここまで腑抜けているとは思わなかったわ。5年前のあなたなら「5年前、5年前ってうるせぇっ!」…」

 

 

怒鳴って初めて気づく。今まで琴里にこういう風に感情を露わにしたことはなかった。その当の琴里もその衝撃に少し目を見開いて、すぐに俯きながら外へと出ていった。

 

 

「今のシドーは、シドーらしくないぞ。琴里が出ていくのも当然だ」

 

 

「そうだな…俺は最低だ。大事な妹にあんなことをいうなんて。十香、俺の代わり謝ってくれないか」

 

 

「シドーの願いでもそれは無理だぞ。シドーが直接行かなくては意味がない」

 

 

他人は誰も本人の気持ちに気づくことはない。その他人が親友や家族に置き換われたとしても、本人の思いというのはそれを生み出した本人にしかわからないのだから、十香に頼むのはお門違いもいいところである。だけれども、それほど狂三と真那の関係というものが永遠と過去から未来へと続いていくことは到底士道には想像することができなかった。

 

 

「ごめん、十香、俺を1人にさせてくれないか」

 

 

「…うむ。でも、調子が悪くなったらすぐにいうのだぞ」

 

 

「わかった。ありがとな、十香」

 

 

十香は声を荒げた士道のことを気になりはしたが、これ以上迷惑を掛けまいと素直に医務室から出ていってくれた。

 

 

はっきりいえば、今は十香や四糸乃の前にいられる状況ではなかった。特に、十香の前では視線を逸らして話すのがやっとだった。十香と折紙の関係は現在が崩れてしまったら、互いに相手を滅し尽くす狂三と真那と同じ関係になるに違いない。

 

 

そして、今の自分には霊力を封印した精霊たちを滅し合いから護れる自信なんてない。それでも、今のままではいけないというのはわかっている。

 

 

―――考える、考えろ、考えてる

 

 

だけど、何もわからない。自分のやれることが解らない。いや、そもそも自分自身がやれること自体そもそもないのかもしれない。

 

 

今の士道は駄々をこねる子供でしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「体の調子はどうだ?」

 

 

「十香から1人にしてくれって言われなかったのかよ、兄貴」

 

 

「その分だと体の調子はいいみたいだな。けど、十香と琴里がロビーで士道のことを話してた通りか」

 

 

士道のいる医務室に入ってきたのは一護だ。十香と琴里が話しているのを聞いた一護は(十香と琴里に気づかさせずに)ここに来たというわけだ。1人でいたかった士道にとっては、今はバッドタイミングである。

 

 

「で、何しに来たんだ?」

 

 

「俺は内容とかをオブラートに包むのはあんまし得意じゃねぇからストレートにいうぜ」

 

 

回りくどいことが苦手な一護ははぐらかしたりするのは出来ないし、むしろこうした真剣な話では余計な配慮をしてしまっていると思えて逆に相手に失礼であると考えている。人は相手の心に土をつけずに尋ねることなんてできない。だから、何も装飾をつけずに聞く。

 

 

「士道、お前は何を見たんだ」

 

 

これは琴里と十香に言ったように表面的なことを聞いているのではない。人の絶望に敏い士道の心に刻まれたモノを尋ねている。

 

 

「俺にあんなのをどうしろっていうんだよ! あいつらは本当に殺し合ってた。命のやり取りを平気でやってた。何の力もない俺に何が出来るんだ」

 

 

精神を根元からへし折られて己の無力感に打ちひしがれている。一般の人から見れば、尋常ならざる状況にあった士道を責める者はいないだろう。なのに、士道は自責の念に刈られている。それを理解した一護は問いただす。

 

 

「結局、お前自身は何がしたいんだよ」

 

 

「え?」

 

 

「『え?』じゃねぇよ。士道は狂三と真那を助けたいのか、助けたくないのか訊いてんだよ」

 

 

「…そりゃ、助けたいよ。2人が苦しんでる姿はもう見たくない。だけど無理なんだ。あいつらは俺のことなんて見てない。それに、俺の力じゃあいつらを助けられない」

 

 

本当の思いの根っこまでの部分は折れていなかった。一護としても、思いを完全に失ってしまっていたら諦めていた。でも、思いは残っていた。たとえ燃料が残り滓程度にしか残っていなかったとしても、火種さえあれば再び燃え上がる。

 

 

「助けたい気持ちがあるなら何を迷う必要があるんだ」

 

 

「さっきの話、聞いてなかったのかよ。俺には「戦う力がないっていうことをわからないってぐらい馬鹿じゃねぇ」」

 

 

精霊の霊力をその体に封印してその力を行使できる以外は戦闘経験のない至って普通の人間というのはとうに前から知っている。だから、今の状態(・・・・)の士道が人の領域を遥かに超えた世界の戦闘に対応できるなんて思っていない。だけど、士道の闘う舞台はそこではない。

 

 

「助けられないって思うだけで、何が出来るんだ。そんな暇があるなら助ける方法を考えた方がいいだろう」

 

 

「…だけど、俺は強くない」

 

 

「それなら強くなれ。相手が分かってくれないなら、解ってくれるまで強くなればいい」

 

 

ものすごいシンプルな(こたえ)に士道は呆気にとられた。確かに一護の言う通りだ。士道は自分自身で机上での理論だけを並べていただけで、自分自身で行動に移そうともしなかった。なんで、こんなにも単純なことに気づかなかったのだろうか。

 

 

「それに、勝手に1人で戦ってるんじゃねぇよ。お前には、俺と琴里と十香と四糸乃だっているんだ。士道には士道の役目があるし、俺には俺の役目がある。全員が上手くやれば、大抵はなんとかなる。生意気に1人で考え込むなよ」

 

 

「ありがとう、兄貴」

 

 

「礼なんて必要ねぇよ。弟が道に迷ってるなら、それを導いてやるのが兄貴の役目だ。俺も昔似たような経験が何度かあったしな」

 

 

己が精神世界に棲む内なる(ホロウ)に自我を喰われそうになったとき、崩玉と完全融合した藍染の前に立ったとき、正しく今の士道と同じだった。それを乗り越えられたのは、可能性を与えてくれたルキアと本当の父親である一心だった。今度は一護が士道に可能性を指し示す番であった。

 

 

「俺は狂三と真那を助けたい。だから、2人を引きずってでも助ける」

 

 

「そうだな。外で琴里と十香が心配してるはずだから早くいってこい」

 

 

「おう」

 

 

士道は今まで身を預けていたベットから離れて立ち上がり部屋の外へと向かう。そして、自動扉の前でふと思ったことを一護に尋ねた。

 

 

「兄貴、今度その昔似たような経験っていうのを聞いていい?」

 

 

「…わかった。今回のこれが終わったら話す」

 

 

今までは士道をかつていた世界の事情に巻き込みたくはなかったのでずっと黙っていた。だけれども、一護自身は隠し事をするというのは苦手だ。一護の戦い(経験)が士道のデート(経験)に必要だとしたら喜んで話そう。

 

 

「ありがとう。楽しみにしてるよ」

 

 

自分のやるべきことを見つけることができた士道は部屋を飛び出していった。一護はその後ろ姿を見て、そろそろ自分自身のケジメをつけること決める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日―――6月17日

 

 

「あら、これはこれは士道さんでございまして」

 

 

「よう、狂三」

 

 

「今日はてっきり恐怖に震えて士道さんは学校に来ないかと思いましたわ。逆に、一護さんが来ると思ってましたのに」

 

 

本人を前にして中々に酷いことを言ってくれるが、それは事実であったのでスルーしておく。狂三から話しかけてくるとは余裕のつもりかわからないが、士道はもう覚悟を決めている。

 

 

「そうかい。でも、ちょうどよかった。俺も狂三に伝えたいことがある」

 

 

「それは何ですの?」

 

 

「俺に狂三を助けさせてほしい」

 

 

その科白を口にした瞬間、日常に流れている空気が急変した。日常に溶け込んでいる狂三から悪意のある精霊へと変貌する。

 

 

「…おかしなことを仰いますのね、士道さん」

 

 

「もうそういうのはいいだろう。狂三がどんなことを考えているのかは兄貴みたいに剣や刀から思いを読み取れるわけじゃないからわからないけど、俺は誰かを殺させたり死なせたりもうさせない」

 

 

「価値観を押し付けないでくださいます? わたくし、そんな甘っちょろい理想論は嫌いですの」

 

 

「そうかよ。でも、生憎俺は本気だ。その甘っちょろい理想論というのでも、それで誰かが助けられるというなら俺は救うよ」

 

 

「それなら試させていただきますわ。放課後に屋上に来てくださいませ。そこで絶望(・・)を教えてあげますわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日もあのときと同じように雨が降っていた。この日の雨は嫌いだ。それは自分自身も含めて家族を引き合わせてくれた燦々と輝くお袋の姿を見られないからだ。だから、今日だけは雨は降ってほしくない。それと今日は訣別の日でもあるから。

 

 

「お久しぶりだね、一護くん」

 

 

「お久しぶりです、和尚さん」

 

 

訪れたのは寺院。ここにはお袋の御骨はない。だけれども、墓地はある。1年の内のこの日だけはお袋に近づきたかった。だから、無理を承知でここの和尚に墓地を建てさせてほしいとお願いした。今の自分からすればそのときの自分はまだお袋に依存している部分もあったに違いなかった。お袋の望み、今の自分自身の考える『一護』からは離れていた。墓地を建てさせてほしいと頼んで当然の如く拒否されると思っていたけれども、少しの間幼かった俺の顔を見て快く許可してもらった。和尚が何を読み取ったのかはわからないのだけれども、どういう事情なのかを詳しくは知らない和尚が許可してもらったことには返すべき恩が見つからない程に感謝している。

 

 

「今年もお世話になります」

 

 

「そんな畏まらなくともいいですよ。この寺院は西洋の教会と同じように迷える方がいるのならば、その人たちを受け入れる場です。ここで迷いが消えたならば、それで良し。来ても消えなかったのなら、また来るのも良し。とにかく、ここはそういう場所です」

 

 

「ありがとうございます。おかげで、今年で区切りを付けられそうです」

 

 

「そうなるとしたら、それは良かった。時間は十分ありますから最後のお墓参りは思う存分してきてください」

 

 

境内の左奥へと進むと墓地の立ち並ぶ地帯がある。その地帯の奥にお袋の墓地がある。その墓地の石で出来た仕切りの向こう側には川と河川敷がある。ここの寺院に頼み込んだのも、お袋が河川敷で殺されたということと重ねていたかもしれない。俺はしゃがんで線香に火をつけて手を合わせる。

 

 

「また来たぜ、お袋」

 

 

もしお袋が今の自分の姿を見ていたのなら、微笑みながらその身を貸していたのかもしれない。それで、自分のことを気にさせずに心を前に向けさせるに違いない。だから…

 

 

「今日は大事な話があるんだ。これで俺なりのケジメをつけようって思う。俺が言いたいことってのが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一護』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

この声は覚えがあるっていうものじゃない。子供の頃の俺と遊子と夏凛をずっと護ってくれたその人―――黒崎真咲の声。俺はとっさに境内の隣にある河川敷を見ていた。

 

 

「…お袋か」

 

 

河川敷にいるその存在を追いかけて、仕切りを乗り越えそこへと降り立った。やはり、そこにいるのはお袋の姿だった。

 

 

『一護』

 

 

「…」

 

 

河川敷に降りて、はっきりとその姿がわかる。その体のシルエットとその声、そして何よりも自分自身と同じオレンジの髪、どれをとっても同じだ。

 

 

『一護、こっちに来て』

 

 

目の前には待ちに焦がれていたお袋がいる。当の昔に死んでいたはずのお袋がいる。

 

 

『お願い、成長した一護の姿をよく見せてほしいの』

 

 

お袋からの言葉―――体が引き込まれる。母に対しての謝罪の気持ちと再び出会えた感謝の念で。俺は歩いていた、その手に代行証を握りしめて。

 

 

「さあ、こっちにおいで。いつまでも一緒にいよう」

 

 

失われたお袋と永遠に一緒にいることができる。この世界いた頃だけじゃなくて前の世界からずっと思っていた。お袋が生きていたときには俺が空手の練習試合でたつきに負けたときにいつも俺を包み込んでくれる。それだけでどれだけ前に進もうと思ったのだろうか。あのときは、お袋が一緒にいてくれるだけで幸せだった。だから、ここからはその恩返し。

 

 

現世で死んだ者は肉体は滅び、その魂魄はそのままの形で現世に留まることはできない。つまり、1度死んだ者は現世で生き返ることなんてできない。だから、お袋が生き返ることなんてないし、ここにいるはずがない。それで、その死んだ魂魄の罪と業を洗い流して成仏させることが今できる最大の恩返しだ。だから―――

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

―――死神として俺は斬月でお袋の体を貫いた。




精霊図鑑ゴールデン


―――12月30日


七罪「四糸乃、こっちこっち」


四糸乃「ちょっと待ってください。まだスタークさんが来てません」


七罪「何してんのよ、あのグータラ親父」


よしのん『おお、七罪ちゃん黒いねぇ』


四糸乃「七罪さん、落ち着いてください。大丈夫です、本は逃げませんから」


七罪「なにいってるの? コミケは戦士たちが集う戦争なのよ。そんな悠長なことを言ってらんないわよ。ほら」


よしのん『すごいねぇ、人がごみのようだ』


四糸乃「本当だ、いっぱい人がいます。…って、七罪さんどうしたんですか?」


七罪「おぇぇ…私…人混みの中…ダメだった…うぇっぷ」


四糸乃「七罪さん!?」


スターク「なんか面倒なことになってんなぁ」


四糸乃「大変です! 七罪さんが体調が悪くなったみたいです」


スターク「そうだな。医務室に連れてくか」


七罪「ダメよ。せっかくここまで並んだのに、ここまできて薬○石鹸が手に入らないなんて嘘よ」


四糸乃「でも…」


スターク「しょうがねぇな。さっさと行って、さっさと帰るか。七罪と四糸乃、俺に掴まれ」


「「ふぇ?」」


スターク「一番最初に並ぶぞ。よいしょっと」


「「響転はだめぇぇぇぇぇぇぇえええ!」」


※コミケでの響転と割り込みはいけません

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