デス・ア・ライブ   作:月牙虚閃

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Good bye my blood,good bye your soul

「なんで? 私は…あなたの…母親なのよ」

 

 

未だ斬月に貫かれている真咲が苦しげな顔をしながら言う。

 

 

すると、一護は突き刺した斬月を真咲の体から引き抜いた。引き抜いた後には体に大きな裂け目が走っており、そこから大量の血が流失している。普通の人間ならば、もうとっくに死んでいても可笑しくはない量だった。

 

 

「そうだな、あんたは確かに俺のお袋だ。けどな…」

 

 

真咲は気づいた。一護の向けている瞳には、唯々自分の姿しか映し出されていなかったということに。それは相手を斃すことに何の躊躇もない瞳。

 

 

「一度死んだ人間が生き返ることなんてねぇよ。現世から離れる魂魄はソウル・ソサイティに送られるか、因果の鎖が完全に侵食されて(ホロウ)に堕ちるしかない。あんたも(ホロウ)として長い間人の魂魄を喰ってきてるんだからわかってるだろ、グランドフィッシャー」

 

 

次に発した声は真咲のモノなどではなく、正しく(ホロウ)―――グランドフィッシャーらしいこの世の者とは思えない叫び声だった。それに続いて、苦悶に染められていたその顔も狂気に塗り替えられていた。

 

 

「先に尋ねるぞ、小僧。いくら母親ではないとわかっていたとはいえ、何故あの女を躊躇もせずに斬った?」

 

 

今までの経験則、そして過去の一護ならば、生きている限り誰か一人は刃を鈍らせる相手がいるはずである。それが一護にとっては母親の真咲だった。逸る(ホロウ)としての本能と因縁の死神に果たす復讐心を抑えて尋ねた。

 

 

グランドフィッシャーのその疑問は一護が母親を失ってからずっと抱えてきた重荷そのものである。父親である一心に母親の死の真の事実を打ち明けられたときも、(答え)は見つかったけれども自分の果たさなければならない責任(思い)は見つけることは出来なかった。けれども、壁にぶち当たった士道(昔の自分)を見せつけられて自分の果たすべきことが見えた。だから、その責任(思い)を刃に乗せて戦う。

 

 

「俺のお袋はアンタの人形の中にはもういねぇし、元々その中にもいない。お袋は生まれてきたときから俺を護ってきてくれた。それはお袋が死んでからも、今この瞬間でも」

 

 

一護は死覇装の袖を捲って腕を見せる。その行為がどういう意味を持つのかグランドフィッシャーにはわからなかったが、すぐに変化が現れた。

 

 

「何だ…その紋様は!? そんなもの、儂は1度も見たことがない」

 

 

グランドフィッシャーのいう紋様は一護の体に蜘蛛の巣のように伸びていく。そして、その紋様は青の鈍い輝きを放つ。

 

 

「俺はこの力を使っていてようやく分かったんだ。この力は俺を護ってくれただけじゃない。これは俺が望んだ大切な誰かを護る力なんだ。お袋はずっと大切な人を護りたかった俺に力を託してくれた、そんな気がする。だから、家族のために、この日常を護るためにてめぇと戦うんだよ!」

 

 

これまで一護が潜り抜けてきた出来事を思い浮かべて辿り着いた責任(思い)を宣言し覚悟を決めた。続いて、その責任(思い)の重さに比例するように霊圧が上昇していく。

 

 

「そんなわけがあるかぁぁぁぁぁ! 小僧、貴様の母は儂に全てを喰われた。肉体・力・魂魄の全てだ。貴様が戯言をこれ以上言えぬよう、貴様の力ごと踏み潰してくれるぅぅぅぅぅぅ!」

 

 

聞くに堪えない叫びを挙げながら真咲の姿をしていた人形(グランドフィッシャー)は腹部に負わされた裂傷から罅割れていく。それは頭上から足元へと達し、真っ二つに割れた。しかし、これで死んだわけではない。割れた体の中から悍ましい液体が次第に体を形作り、巨大な獣の体に整えられた。

 

 

「小僧、この姿になった儂から逃げられると思うなァァァ」

 

 

今のグランドフィッシャーの姿で特徴的な部分を挙げるとすれば、1つは天に聳えるほどの巨大な刀。そして、もう一つが(ホロウ)の特徴である白い仮面が割れていること。通常の(ホロウ)とは違うその容姿に一護はその名称をいう。

 

 

破面(アランカル)になってたのか…」

 

 

「知っておったのか、それならばその力も知っておろう。儂に斬られて死ねェ!」

 

 

―――ズドォォォン

 

 

「!?」

 

 

鞘に納められていた斬魄刀の柄を掴み、それを一気に振り下ろされた。それがもたらしたものは、土手とその延長線上にある建物が真っ二つに切断された事象。たったの刀の一振りであまりに甚大なダメージをこの地域に与えている。現在のグランドフィシャーの力は精霊には及ばないものの、それに準ずる力を持っているかもしれなかった。

 

 

「よく避けた、小僧。じゃが、空中に離脱するとは短慮よのう」

 

 

「そうかよ」

 

 

振り下ろされて地面にめり込んでいる刀を大地を破壊しながら一護に目掛けて左斜め上へ振り上げる。だが、凶刃が迫りくる直前で一護は上空から掻き消えて、刀が一護がいた場所に届いた頃には地上にもう既に降りていた。

 

 

「また避けたか…運がいい奴め。じゃが、次こそは確実に殺す」

 

 

振り上げた刀を今度はまた振り下ろす。今回は確実に当たるようにしっかりと狙いを定めてから全力で振り下ろした。それがもたらす破壊は1回目に振り下ろした以上であり、振り下ろされた刀の刀身の範囲だけでなく周囲の建物を巻き込んで破壊し尽くした。もし常人が直撃してしまったら四肢がバラバラになるのは確実である。最悪、その四肢さえも消え失せるのかもしれない。

 

 

「どうした? 全く当たってねぇぞ」

 

 

「!? 小僧、舐めるなよ!」

 

 

渾身の力で振り下ろしたにも関わらず全くの無傷の一護。増々燃え上がる復讐心と殺意が刃を一護に向けさせる。一振り一振りに致死の力に込めるが、悉く一護に避けられてしまう。あまりにも当たらず、憤怒の感情を撒き散らした。

 

 

「…ハァ…ハァ…なぜ、当たらぬ。なぜ、奴に当たらぬ。儂は確実に奴に振り下ろしたはずじゃ。奴に当たらぬはずがない」

 

 

「あんたじゃ、俺に傷を負わせらんねぇよ。今まであんたの動きを見てたけど、やっぱあんたはギリアン級の大虚(メノス)と変わんない」

 

 

「儂をそんなものと一緒にするなァァァ!」

 

 

新たな境地に入ったにも関わらず、一護にその進化前と同一視されるという侮辱を受けて完全に怒りを任せて一護を突き刺そうとした。しかし、それは無意味に終わる。なぜならば、一護は回避や防御といった行動をとらずにグランドフィッシャーが突き刺した刀の鋩をただ手を翳し受け止めたのである。

 

 

「莫迦な!?」

 

 

「あんたの刀の振るスピード、威力、技術の全部が並の死神には通用していたとしても、席官の人達や隊長格にとってはどれも足りねぇ。それに…」

 

 

刀身を受け止めている手とは逆の手に握られている斬月で一閃する。それから遅れて風を斬るような爆音が聞こえてくる。そう、一護の斬速は音速の壁を遥かに超えている。重量級の刀で一護の繰り出した斬速で刀を振ればおのずと結果が導かれる。

 

 

―――バキバキバキッ…パリン

 

 

グランドフィッシャーの持つ斬魄刀がまるでガラス細工のように刀身の根元から鋩にまで罅が入っていき粉々となる。グランドフィッシャーはこの事象を目の当たりにして一瞬何が起きているのが分からない。自分の持つ自慢の武器を呆気なく破壊されたと認識したときには、一護が斬月をもう既に肩で抱えている程の時間が過ぎてしまっていた。

 

 

「霊子がただ単に形を成しているだけの刀だから、こんな簡単に折れる」

 

 

「こんな…こんなことが…こんなことがあるものかァァァァァ! 儂は50年以上死神を斃し喰らい続けたのだぞ。こんな小僧に倒されてたまるかァァァァァ!!」

 

 

斬魄刀による攻撃は刀が破壊されて行うことができない。刀が折れていなかったとしても、先刻刀を素手で受け止められているので斬魄刀による攻撃は無意味だ。ならば、グランドフィッシャーには打つ手がないのだろうか? いや、そんなことはない。

 

 

(ホロウ)大虚(メノスグランデ)へと進化することで現れる最大の違いはやはり力の増大であろう。その力の増大がよくわかるモノは自身が生み出す霊力を一点に収束させて撃ち出す砲撃―――虚閃(セロ)である。

 

 

それは大虚(メノスグランデ)へ進化した(ホロウ)が死神の力を手に入れた存在である破面(アランカル)虚閃(セロ)使えぬ道理はない。だから、グランドフィッシャーは斬魄刀による攻撃の威力の高い虚閃(セロ)の使用を決めた。

 

 

自分自身の持つ膨大な霊力を口元へと集める。それと並行して虚閃(セロ)本来の威力を持たせる為に集めた霊力を収束させる。その集めた霊力の総量は収束させなければ1立方キロメートルの広さを全て埋め尽くす程のモノである。それを高層ビル1棟分にまで収束させている。しかし、それを目の前で展開されているにも拘らず一護はその場を動こうとはしなかった。

 

 

「この光景を目にして動かぬとは短慮よのう…だが、都合は良い。このまま世界の塵になるがよい」

 

 

収束させたソレを撃ち出す。今まで収束された霊力が一気に解放されたことで大気を振動させながら周囲にあるものを蒸発させて一護に迫る。対して一護はソレが間近にあるという状況の中でも未だ回避の動作するどころか、防御の動作もしていない。そしてこの地を焦土にする破滅の光が一護を飲み込み―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆散した。大地がではない。また、一護の体でもない。その証拠に一護の体は左手からほんの僅かな煙を上げているだけで全くの無傷である。

 

 

爆散したのはグランドフィッシャーから発射された虚閃(セロ)そのものがである。大気を揺るがすほどのエネルギーを真正面から受けて無傷どころか虚閃(セロ)自体をもこの世から完全に消失させた。

 

 

「バ…ババババ、バケモノめッ!?」

 

 

斬魄刀を折られただけでなく大虚(メノスグランデ)の最強の砲撃である虚閃(セロ)までもがいとも簡単に止められた。今度こそグランドフィッシャーの為せることは何もない。全ての牙をもがれた者は恐怖に怯え絶望に堕ちていく。そして、現在絶望から逃れるために取り得る選択肢はその場からの離脱しかない。それをすぐに行動に起こして地を蹴り、一護に背を向けて逃亡をしようとした。

 

 

「逃がすわけねぇだろ」

 

 

「ッ!?」

 

 

この場から離れることも出来ず、背を向けた時点でもう肩を掴まれていた。グランドフィッシャーは理解した。背を向けて逃亡を図る選択肢も間違いだったのだ。最初からグランドフィッシャーの取れる選択肢など用意されていなかった。

 

 

「あんたは俺のことを『バケモノ』っていってたけど…」

 

 

一護は肩を掴んでいた手で勢いよくグランドフィッシャーを地面に引き倒す。引き倒されたことで地面を押しつぶす爆音生み出されて、気づいた頃には仰向けとなった相手に言葉の続きを言い放った。

 

 

「確かに俺は『バケモノ』なのかもしれねぇ。というよりも、実際に化物にもなったこともあるしな」

 

 

ウルキオラとの最終決戦のときの出来事を思い出して、一護が自身に言い聞かせるように言う。あの暴走した姿は正しく化物であるに違いない。自分がまたあの姿にならないように自戒を掛けながらも更に言葉を続ける。

 

 

「それでも破壊を撒き散らす化物からたくさんの人を護るためにその化物を斬る『バケモノ』になってやる。今までとやるべきことは変わらない死神としての俺の責任(思い)だ」

 

 

「あああああァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァああああァァァ!?」

 

 

圧倒的な力量差ので尚且つ逃亡をすることも許されず消滅しか残されていないという事実にあまりの恐怖で錯乱したグランドフィッシャーは再度虚閃(セロ)を放つ。通じないのはわかっている。だが生き残れるならば何でもやる。そしてもう一度機会があれば黒崎一護を殺す。

 

 

「悪いな。今まで俺が弱かったからあんたが罪を重ねることになってしまって。けど、それも今日で終わりだ」

 

 

肉薄してくる虚閃(セロ)に向かって真正面から立ち向かい斬月を両手を握りしめ真上に持ち上げる。霊圧を一段と上昇させて次の行動へと移す。

 

 

「月牙天衝ォォォォォォ」

 

 

紅の砲撃と比べれば極小の刃から生み出されたとは思えない天を覆い尽くす三日月の閃光は新たな決意。それは恐怖で震えた破壊の砲撃を容易く砕き、そしてその向こうにいるグランドフィッシャーを昇華させた。

 

 

グランドフィッシャーの残骸が消滅していく最中、地上に降り立った一護は今は止んでいる雨を降らしていた雲の切れ間から日差しが差してきているということに気づいた。ようやく自分自身の言葉で直接言える。

 

 

「お袋、今までありがとう。これからどんな絶望が待っていようが、俺は大切な人たちを護り続けていく。だから…今度こそ安らかに眠ってくれ」

 

 

空はまだ雲に覆われているはずなのに一瞬だけ青空が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ソウル・ソサイティ 無間

 

 

暗闇…どこも光差す隙など一切ない場所。そこは今は亡き最強の死神の元で侵入を許されない場所。それ故に地獄の鎖を除外すれば、そこからの脱出難度は地獄さえも凌駕する牢獄。それが無間。

 

 

その檻の中で拘束されている人物はソウル・ソサイティにとって重罪人または危険人物ばかりであり、獄内は並の死神ならば1秒たりとも意識を保つことができないほどの霊圧で満たされている。

 

 

―――カツカツカツカツカツ

 

 

獄内で足音が響いている。牢獄といえば囚人を監視するために看守が配置されているのが一般的だ。だが、先述の通り、元来脱出が不可能の檻であるので看守は不要。その前にソウル・ソサイティが重罪人や危険人物と判断した人物を監視する看守に務まる人物など前総隊長ぐらいしかいない。よって、足音が響くということなど本来ありえない。

 

 

しかし、実際には獄内に足音が鳴り響いている。この無間にいる人物に何か目的を持って侵入している何者かがいるということは確実であろう。こんな危険地帯に侵入できていること自体、侵入してきた者は相当に特殊な人物であることがわかる。そして、その人物はある人物が投獄されている牢獄の前で立ち止まった

 

 

鉄格子越しにいる人物は強制的に椅子に座らさせている上に体のほとんどを黒い包帯状のモノに巻かれている。これは力を行使させない為にそのような措置を取られている。これ以上なく無間にて拘束されている人物とは霊王をその手で殺めようとし神になろうとした人物。

 

 

―――藍染 惣右介

 

 

「ここに客とは珍しい。最近あったとすれば更木剣八と卯花八千流ぐらいだったが…」

 

 

侵入者が被っていたフードを降ろすとその顔を窺い知れると同時に微かに驚いた。だが、すぐに理解する。

 

 

「…成程、理解したよ。何故君たちがこんなにもすぐに戻ってこれたのかを」

 

 

「……」

 

 

「ほう、私。いや、正しく言えば私の中にあるモノが目当てか。しかし、生憎だけれども今のコレ(・・)は完全体ではないんでね。機能が半分失われているモノに君たちに渡しても無駄に…いや、そうでもないか」

 

 

2つに分裂したソレはただ力が半分になっているわけではない。機能が分裂しているのである。今、自分が握っているその半分の機能を目の前の人物が狙っているということであろう。

 

 

「前に言った通り、君に渡す気も着いて行く気もないよ」

 

 

「……」

 

 

「!? 成程、そこまで知っているのか。態々、こんな辺鄙な場所まで来ずともコレ(・・)の力を奪い取ることができると。ならば、私に知らせずに力を奪い取ることもできるはずだが」

 

 

「……」

 

 

「無駄な殺生を嫌うか…全くどの口で言っているのか」

 

 

目当ての人物に要望を出したものの拒否されたにも拘らず素直に引き下がる侵入者。最初から当てにはしてなかったのだろう。これには藍染も若干の不満がある。それが引き金になっているのかは分からないが、侵入者に面白い情報をもたらす。

 

 

「私のモノは渡すわけにはいかないが、不愉快なことに分裂した2つ以外にもコレ(・・)が作られている。最も分裂した私と()が持っているモノとは完成度は程遠いがそれでも力を蘇らせるには十分かもしれないぞ」

 

 

藍染が情報を言い終えた頃には侵入者は消えていた。その情報を元にして蹂躙に乗り出すかは不明だが、全世界蹂躙し得る力は持っている。侵入者はいつでもソレを手に入れることができるだろう。

 

 

「さて、黒崎一護。君が倒し力を失った私は何もする気はない。ただ、私に見せてくれ。同じ立場に立った君が望む世界を私に」




精霊図鑑ゴールデン


琴里「むー」


狂三「どうしましたの、琴里さん」


琴里「どうしたもこうしたもないわよ! 七罪が2回もここに出演しているのに何で私たちは今回まで出番がなかったのよ」


狂三「いきなりのメタ発言ですわね…まあ、そういうわたくしも今回が初めてですけれど」


琴里「あなたはいいじゃないの。本編じゃメインになってるし」


狂三「そういう琴里さんだって、このあと出番があるのではないですの」


琴里「それはそうだけど…そこが終わったら出番がほとんどないのよ」


狂三「…頑張りましょ、琴里さん」


琴里「うん」











折紙「私も出番がない。この場での士道とのチョメチョメデートを要求する」


士道「チョメチョメって何!?」

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