デス・ア・ライブ   作:月牙虚閃

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今回も皆様をお待たせしてしまって申し訳ありません。私もリアルの方で大学が始まり、今まで働いていたバイトを辞めて新しいところで働き始めたりでごちゃごちゃしてしまいました。
今回は琴里がどうなってしまうのかに注目です。白い虚は一体なんなのか?それでは、ご覧ください。


lightning speed phantom closed clock x1

「何よ、こいつ」

 

 

一度は消し飛ばしたかと思ったら、今度は噛みつき。この白い怪物の目的がわからない。最初はDEM社が開発した無人型の魔術師(ウィザード)かと思っていたが、それは違う。先ほど真那と二人きりで会っていた琴里にはわかる。

 

 

確かにDEM社は魔術師(ウィザード)の戦闘能力を大幅に向上させるために、脳を開発をして演算能力を高めることで顕現装置(リアライザ)が生み出す奇跡の質が向上する。だが、それは簡単に手に入れる代物ではなく重い代償が必要だ。脳は物事を認識したり計算したり表現するだけではなく、脳の中心の脳幹では命さえもコントロールする。それで、脳を半分近く開発した真那の体は精霊に匹敵するような戦闘能力と引き換えに、1年よりも昔の記憶が喪失し、命を削り、終いにはその命を落とす。そのことを強要されるどころか、真那本人にも通達されていない。

 

 

このような非人道的な計画を推し進めるDEM社が新たに白い怪物を開発しようとすることがあるのかもしれない。それも、一瞬で町を破壊するようなレベルで。しかし、それは不可能である。

 

 

DEM社の技術力はかなり高いが、それでもラタトスクの母体になっている企業のモノと比較してみればまだまだ発展途上だ。そのラタトスクの技術力をもってしても白い怪物は再現できない。顕現装置(リアライザ)は基本的に巨大であり、それが無人の魔術師(ウィザード)を作るとなると一定の演算処理能力を確保するためにも有人よりもさらに大きくなってしまう。ラタトスクが開発できないものをDEM社が開発できる可能性はほぼ皆無だ。

 

 

「このッ…琴里から離れろ!」

 

 

「止めなさい、士道。私なら大丈夫」

 

 

「でも…」

 

 

「いくら士道が頑張ったって、精霊をも簡単に屠れる怪物を相手に太刀打ちできるわけないでしょ。むしろ、私にとってこの状態の方がこいつを相手にするのに都合がいいのよ」

 

 

士道が白い怪物を琴里から引きはがそうとしている士道を噛まれているのと反対側の手で制する。それに次いで、噛まれている方の手に持っている戦斧を可変させる。

 

 

「散々あなたにはやられっぱなしだけれど、いつまでもやられっぱなしだと思わないでよ」

 

 

可変した天使は再度大砲となる。反撃の業火は砲門に収束し、零距離で白い怪物に押し当てる。全力の一撃を以て目の前の相手を粉砕する。一切の残滓さえ残らぬように。

 

 

「アアアァァァァァ…アアアアァァァァ!?」

 

 

そのときだった。今まで有利な立場にあった白い怪物が突然体をよろめかせ喘ぎ声を漏らしている。まだ、琴里に士道、狂三もまた何もしていない。一体全体白い怪物がそのようなことになっているのかわからないが、これは好機である。

 

 

「灰になって消し飛びなさい」

 

 

まるで白い怪物が放っていた虚閃(砲撃)のような業炎の柱。その温度は鉄を溶かすレベルでは留まらない。一瞬で蒸発するような超高温になっており、それを示すように炎の色が白みがかっている。その業炎に飲み込まれてしまえば、どのような生命体でも骨さえも残らないだろう。

 

 

「ガアアアァァァァアァァァアアアァァァァァァ!?」

 

 

業炎に飲み込まれ、戦斧の刃でさえ無傷で耐えきれそうな白い硬質的な肌が徐々に溶けていく。それでも、まだ意識はある。これだけの業炎に焼かれながらも生きているということに琴里は驚愕しながらも、確実に相手の生命を削っているのは確かであると確認する。それならば、全ての霊力を費やしてでも焼き倒す。

 

 

 

「もう少し耐えなさい灼爛殲鬼(カマエル)…必ずおにいちゃんだけは…お願い、力を貸して!」

 

 

業炎の柱がまた一段と太くなる。霊力の出し惜しみなどはしない。全力でいかなければ白い怪物は再び動き出し、大切な人、大切な場所を蹂躙してしまう。絶対にそんなことはさせない。その思いが炎の温度を指数関数的に上昇させていき、ついに熱運動による水分子の衝突で周囲にプラズマを発生させるところまで至った。

 

 

「ウォォォ…オォォォ…オォォッ!?」

 

 

明らかに誰の目から見ても確実に追い詰めているはずなのに嫌な予感がする。白い怪物が本当に世界を壊させるために開発されたのなら、態々精霊のいる天宮市、そしてこの場に降り立つ必要なんかない。そうした方が、自分が討伐される可能性が低いし、街中に放った方が余計に混乱を招くことができる。確かに白い怪物には理性らしきものもなく本能で動いているのかもしれない。だけれども、見たこともない精霊ではない白い怪物が降り立った場所が偶然精霊がいる町で、尚且つ精霊が現界しているときにやってきたというのはどうも偶然にしては出来過ぎている。この白い怪物は世界の蹂躙ではなく何か別の目的のために送られてきたのではないかと考えた方が自然のように思える。

 

 

「オオオォォォォォォォォ!!」

 

 

「これだけのことをやっても、まだ動けるっていうの……それよりも、体が膨らんでいる?」

 

 

業炎で焼かれた白い怪物の体は溶けて、黒く焦げて、膨らんでいる。その状況の中で動けるといってもほぼ死に近い状態だ。でも、体が膨張しているということに気になってしまった。普通、体の大部分が水分で出来ている生命体にとって体内から水分が蒸発でもしない限り体が膨張なんてすることなんてない。だというのに、白い怪物の体が膨張し続けている。

 

 

先述した通り、今日の人類が持つ最高且つ秘匿技術の顕現装置(リアライザ)でさえ白い怪物を再現することはできない。人工物ではない以上、生命体だと判断するしかない。これに加えて、生命体ではありえないような膨張している。もしかして、この膨張とこれまでの行動が何か一つの目的に繋がっているのではないか。そのような思案をしていた琴里はあることに気づいた。

 

 

「体が罅割れてる……ッ! おにいちゃん、伏s」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ドオオオオオオォォォォォォォォォォォォォンンンンンンンンンンンン

 

 

罅割れから黒い光が漏れだしていると気づいた時にはもう遅い。もうその次の瞬間には、先刻琴里が狂三と対峙していたときに巻き起こした爆発よりもさらに数段大きな爆発が起きてしまった。それは琴里のプラズマを発生させる程の業炎をいとも簡単に相殺し、それだけでは収まらず校舎の屋上の地面を崩壊させた…のではなく、原子単位から消失させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛たたた…今のは何だったんだ? それよりも、琴里と狂三だ」

 

 

あまりに現実離れした状況で発狂するというよりも逆に冷静に士道は落ち着けていた。先ほど繰り広げられていた精霊の範囲から逸脱した出来事を受け入れるよりも先に2人の安否の方が先に頭をよぎる。

 

 

爆発により吹き飛ばされ壁に打ちつけられて意識を失っていたみたいだが、目の前に未だ土埃が舞っていることから気を失ってからそう時間が経たずに意識を取り戻せたみたいだ。最も土埃のせいで見えている範囲が狭まり発見を困難にさせているのだが。そんな中、ここで一陣の風が吹く。

 

 

「ッ! 琴里ッ!」

 

 

風が吹かれて大砲型の天使の灼爛殲鬼(カマエル)とそれを握っている腕を見つけた。そこへ駆け寄ってみると、いつもとは違う羽衣の霊装を纏っているけれども、やはりいつもと変わらぬ士道が見知った姿の琴里が五体満足で眠っていた。

 

 

「おい、琴里起きろ。ここで眠ってたら風邪を引くだろ」

 

 

体を揺すりながら声を掛けても起きない。そのため今度は強めに揺すってみたが、それでも起きない。まさかとは思いつつ、顔を琴里の顔に近づけてみた。だが、その心配は杞憂に済み、ちゃんと息はしていた。あれだけ大規模な爆発だ、狂三の方も心配である。かといって、琴里をこのままにしておくことも心配である。

 

 

「しょうがない…」

 

 

士道は琴里の肩と膝裏のところに腕を回して抱え上げた。そうやって抱え上げれば自然と密着する形になるわけで…

 

 

(琴里…いつもは家でも一杯はしゃいで、中学の友達と一緒に遊んでいたりずっと妹って思ってたけど…身長も大きくなって、それにこんな顔も出来るなんて…って、俺は何を考えてんだよ、こんなときに!)

 

 

こんなにも近くで琴里の顔を見るのは久しぶりだ。ずっと子供だと思っていたら、さっきの闘っていた後ろ姿に逞しさもあったりで、この年で妹だけれどもまるで娘を持つ保護者の気持ちを体感することになろうとは。

 

 

「…」

 

 

でも、まだお兄ちゃんを止めるわけにはいかない。それは、料理も洗濯も家事が出来ないのに琴里を放っておくことはできないからだ。それに、琴里がまだ小学生の中学年の頃は父親と母親は家にいないし、士道自身や一護は中学生で部活に強制的に遅くまで家に居なかったので寂しい思いさせてきた。だから、これからは琴里にそんな思いさせたくはない。

 

 

―――ドッ

 

 

「?」

 

 

―――ドッドッドッドッドッドッ

 

 

「どうした、琴里!?」

 

 

今まで腕の中で静かに眠っていた琴里が何かを拒むように体を震わせている。明らかに痙攣の症状が出ている。これまでずっと健康体の琴里がいきなりこんな症状が出るなんて可笑しすぎる。これまでのことを勘案して、琴里にこんな思いをさせている元凶は1つしか思い当らなかった。

 

 

「ガッ……ガァァァァァアアアァァァアアアァァァァァ」

 

 

琴里の様態に更なる変化が現れる。それは、琴里の瞳と口から黒い粘性の液体が溢れ出て顔を覆い始めた。その正体は何なのかは士道には分からないが、そこにいるだけでそれに触れてはいけないという警告が体中から発せられて士道という存在ごと喰らい尽くされそうである。だが、このまま妹の苦しむ姿なんて見たくない。だから、覚悟を決めて顔に貼りついている黒い液体を払い除けようとした。

 

 

「ッ!? 何だ…うっ」

 

 

触れた瞬間―――妬み、恨み、執念、無念、邪念、強欲、殺意―――幾百の負の感情が士道を喰らい、抱えていた腕から力が抜け落ち、それが全身にまで広がり体を埋めて、それを拒否するように体内にあったものが全て口から出ていった。

 

 

地面に叩きつけられた琴里の体は先ほどまで静かに眠っていたとは思えないぐらいに俊敏な動きで起き上がった。その動きは人間のようなものではなく、物事を本能で判断している獣。それを象徴するかのように、顔を覆っている黒い液体は白い怪物のように硬質的な仮面を形成し、爪も鉤爪のように長い。どんどん琴里かけ離れていく。

 

 

このままにしてはいけない。このままにしたら確実に琴里がいなくなってしまう。その思いだけで立ち上がる。

 

 

「琴里…絶対にいk…ガッ…ハッ」

 

 

一瞬だけ全てが止まった。呼吸も脳も心臓も。その次の瞬間には、口からドバドバとドロドロとした液体が出てくる。もう激痛でほとんどの感覚が失われているが、背中に何となく固い感触があることから士道はコンマ一秒よりも更に小さな世界で壁に投げつけられたということなのであろう。

 

 

「アアアァァァァァァァァアアアァァァァ!!」

 

 

「ウッ…ウアアアァァァアア…アアア」

 

 

その場から掻き消えたかと思えば、士道の首を掴まれ体ごと持ち上げられた。どうにかして琴里を元の状態に戻さなければならないというのに、このままでは琴里を取り戻す前に天に召されてしまう。だが、黒い何かに呑まれている琴里はこのままでは終わらない。

 

 

「琴…里…嘘…だろ」

 

 

先ほどまで琴里が倒れていたところに放置してあった灼爛殲鬼(カマエル)が消滅した。その代わりとして灼爛殲鬼(カマエル)は琴里のその手に顕現する。大砲の形態になっているソレは砲門を士道に向けて確実に殺しにきている。もう黒い何かに呑まれた琴里は誰が味方なのか敵なのかの判別は意味はない。ただ、本能で己の障害となるか否かで殲滅をする獣に成り下がっていた。

 

 

「琴…里…」

 

 

校舎の屋上を焦熱の地と化した大砲に再び炎が灯る。いや、それだけではない。破壊の権化たる白い怪物があらゆるモノを塵とさせた紅の光線もが砲門内で生じ、2つは混じり合わさる。もし、これが砲門から解放されてしまえば先の2つの砲撃以上の威力を持つことは確実だ。そうすれば、この天宮市や、もしくはそれ以上の範囲で尋常ならざる被害がもたらされるだろう。

 

 

それでも、士道は信じている。琴里は強くて心優しい子である。士道を喰らおうしている炎がおぼろげな過去を伝えてくれる。炎の海の中で泣いていたあの日から士道を護るために、滅茶苦茶な力と向かい合って抑えてきた、そして士道が危機に陥った今、力の封印を解いて護ろうとした。その大きなモノを抱えている少女がこの程度で負けるはずがない。

 

 

「俺は…信じ…てる…琴里…が…必ず…戻って…くる…の…を…」

 

 

その言葉とは裏腹に砲門にエネルギーが急速に蓄えられている。そして間もなく、それは灼爛殲鬼(カマエル)の砲門に罅が入るほどの臨界状態となる。普通に考えれば、希望も何もないクソみたいな状況だけれども、士道は黒い何かと琴里が最後の最後まで戦っていることが解っていた。弱々しくとも、灼爛殲鬼(カマエル)を持つ手とは反対の手で腕を抑えようとしているというのが何よりの証明だ。

 

 

「俺が…知らない…間に…強くなった…琴里…なら…できるはず…だ……もし…これが…終わったら…琴里…が…大好き…な…ハンバーグ…でも…何でも…作るから…もう一度…おにいちゃん…に…その…かわいい…顔を…見せてくれ」

 

 

残されている最後の力を振り絞って手で琴里の顔に触れる。再度凄まじい負の感情が襲ってくるが、今度は背けない。どんな絶望の中でも護らなくてはいけない人がそこにいるから。溢れゆく紅の光と共に、そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ズズズズズズズズズズズズッ

 

 

「俺たちの世界の事情を勝手に持ち込んだ上に、士道と琴里にこんな苦しい思いをさせて…ごめん」

 

 

業火に焼かれる覚悟を持った士道を救ったのは3人。ウルキオラ、スターク、そして一護。絶大の砲撃を完全に抑え込んだからか、左手は焼けただれていた。そして、暴れる琴里を抑えるために3本の刀が首を固定している。

 

 

「兄貴…どういう意味なんだ?」

 

 

「説明している暇はない。わかっている(・・・・・・)だろ、一護。お前の妹が喰われる前に剥がしてやれ」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

「それだけじゃないぜ。面倒なことに、さっきまで随分と暴れてくれたおかげで色々と余計なモノが入ってきたみたいだからな。手短に頼むぜ」

 

 

スタークが示している通り常識ではあり得ないことが起こった。それは今まで連続していた空が裂け、中から先ほどの白い怪物とは逆に巨大な仮面を被った黒い異形―――ギリアンがその顔を覗かせる。

 

 

「どうせ、あれだけで終わりってことはないだろ。アジューカスに近いぐらいの霊圧が撒き散らせやがったらな」

 

 

空間の裂け目はさらに広がり、ギリアンの体の全体が露わになる。更に、その背後にはそのギリアンの姿らしき影が複数見受けられた。それに加えて、そのギリアン達の間から小型と中型の(ホロウ)まで溢れ出ている。

 

 

「俺とスタークは塵どもの掃除をしてこよう」

 

 

「頼んだ。俺は琴里と狂三を何とかしねぇとな」

 

 

「まあ、そっちはあんたの領分だからな。俺も偶にはその手伝いをさせてもらうぜ」

 

 

ウルキオラとスタークは地面に突き刺した刀を抜いて、予備動作なしで猛烈な速度飛んで行った。解放されて少し経って意識もはっきりしてきた士道は多数に無勢だと思うのだが、一護にしてみればあの2人ならば全く問題ないであろう。むしろ問題として重いのはこちらの方だ。

 

 

(琴里が虚化(ホロウか)…そして破壊された学校周辺…精霊同士のぶつかり合いでもこうはなるかもしれねぇが、ここに蟠っている霊圧が精霊たちと違ぇ。むしろ、(ホロウ)と死神もそれと似ている…ここで何が起きたのか気になるところだけど、今はそんな時間はねぇ)

 

 

「一体何なんだよ、これ…琴里の仮面だったり、あのでかい怪物だったり、そんでもって人間と同じぐらいの大きさの白い怪物が出てきたり、もう訳がわかんねえ」

 

 

一護が現れた途端に緊張の糸が切れたのか、先ほどまで連続して起こっていた日常を超越した出来事に対する疑問が湧き出す。明らかに精霊の類などではないし、琴里が白い怪物について知らないということが何よりもの証拠だ。

 

 

「そうだな…あんまり説明してる暇はねえけど…今琴里が被ってる仮面っていうのが、前に話した(ホロウ)っていうやつだ」

 

 

(ホロウ)…ということは、琴里は悪霊に憑りつかれているということ…なのか?」

 

 

「ざっくりいえば、そういうことになるな」

 

 

「悪霊なんてどうすればいいんだよ…実体もないし、原因だと思う仮面も外れないし」

 

 

「だから、俺がここに残ったんだ。こんなことを招いちまった俺が取るべき責任だ」

 

 

一護も今の琴里と同じような症状に何度も悩まされてきた。その原因は(ホロウ)であり、一護は精神世界でその(ホロウ)との内在闘争を勝ち抜き、力を御してきた。それが一護の死神の力のルーツになっているということも今は昔の記憶となっている。

 

 

(くっ…お前の気持ちは分かる。でも、お願いだ。琴里を許してくれ。お前が俺の中から見てきた通り、琴里は俺の大切な妹だ。だから、俺に琴里を殺させないでくれ)

 

 

実は、一護がこの場にいる琴里を見たときから、体が自分の思う通り動かせないでいたのだ。それは、死神の力の根源たる内なる(ホロウ)の逆鱗に触れる存在が琴里、厳密には憑りついている(ホロウ)がここにいるから。そのことがどうしても許せない。それでも、内なる(ホロウ)を御している一護はその気持ちを汲みながら仮面に手を掛けて語る。

 

 

「こんな苦しい思いをさせたくなかったのに、俺がしっかり護れなくてごめん。きっと、そいつは琴里にこれから何度も襲い掛かるのかもしれない。琴里の存在を喰らい尽くすのかもしれない。だけど、琴里の中にいるそいつはある意味じゃ被害者なんだ。難しいことを言ってるのはわかってるけど、中にいるそいつから逃げずに向かい合ってほしい。いつかそいつと分かりあえたのなら、きっと琴里の力になってくれるはずだから」

 

 

仮面を一気に引き剥がす。地面に抑えつけられてから幾度も絶え間なく悲痛な叫び声が続いていたが、仮面を剥がされた時の叫び声は今まで以上のモノで、それは正に断末魔の声と評するのに十分だった。

 

 

「…」

 

 

ぐったりと力なく眠っている琴里。おそらく、狂三との戦闘と白い怪物との外と内の闘争を連続で行ってきたからであろう。そのせいで、身に纏っていた霊装が解除される程まで霊圧が弱々しくなっている。それでも、失われた霊力を取り戻すかのように新たに霊力を生成し始めている。

 

 

「もう大丈夫なのか? 兄貴」

 

 

「ああ、今は安定してる。それと来るのが遅くなっちまって、すまねぇ。俺がもっと早く来てりゃ…」

 

 

「いや、そんなことはないよ。俺だけじゃ何もできなかったし、もし兄貴がいなかったらもうとっくに肉体的にも精神的にも打ちのめされてたかもしれない。それに、妹のピンチなのに兄貴が来ないわけないだろ」

 

 

「確かにそうだな」

 

 

これは一護の兄としての責務を果たしたに過ぎない。これは当然である。だが、世間一般ではその責務が出来ない人は多くいる。一護や士道のように命を賭けられる人は本当は尊い。だけど、まだ一護にはやるべきことがある。

 

 

「琴里は任せた。それといろいろと俺に聞きたいことが…「ないよ」」

 

 

まさか、士道から否定の言葉が出るとは。精霊という存在の範疇から外れるような存在が現れたというのに、これには一護は戸惑った。

 

 

「もちろん、あの白い怪物が(ホロウ)っていう存在以上に何かあって、それを知りたくないっていったら嘘になる。けど、今はそんなことはどうでもいいんだ。それよりも、あの駄々っ子を救ってほしい。俺の力だけじゃ足りないんだ。多分、兄貴じゃなきゃ抱えている絶望を打ち砕けないと思う。だから、早く狂三のところに行ってやってくれ」

 

 

「…一端の言葉を言うじゃねえかよ」

 

 

いつの間にか士道がこんなにも成長していたということに感慨を受けた。いつまでも弟の士道だと思っていたら、昔の自分を追い抜いていた。成長が嬉しいと同時に、一種の寂しさも感じる。まだ懐古趣味に入り浸る年ではないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょっと」

 

 

「あら一護さん、こちらにいらっしゃたんですのね」

 

 

何事も無さそうに振る舞う狂三。だが、彼女が士道と琴里と相対してこの場にいたのならば、琴里の内側にいる存在について見ているはずだ。もし、一護の精神に棲む力と琴里の内側に眠るモノが同種なら、到底精霊の手でどうにかなるような存在ではない。先刻まで繰り広げられていた蹂躙の恐怖を無理やり抑えているのかもしれない。

 

 

「ケガしてねぇか?」

 

 

「まあ! こんなわたくしにそんな言葉を掛けて頂くなんて光栄ですわ」

 

 

「その様子だと大きなケガとかは無いみたいだな」

 

 

「ええ、わたくしならば問題ないですわ。それよりもご自分の心配をした方がよろしくて」

 

 

「!」

 

 

一護の体を支えてきた地面が一気に沈みゆく。下を見ると影と何本もの白い腕。これは封じ込められた霊力を取り込もうとして士道を捕らえようとしたものと同じ影。一度完全に飲み込まれたのなら、ブラックホールの如く霊力と生命の時間を吸い尽くされるまで外へは脱出できない。永遠の死を表す影から一護の体を絡め取るその白い手は冥府へと誘われる者のに対しての手向けなのかもしれない。

 

 

「わたくしがここに来た目的は、一護さんと士道さんを食べるためですわ」

 

 

「…」

 

 

「本当に多くの精霊の力を溜めこんだ士道さんの霊力もそれを軽く超えている一護さんの見たこともない莫大な霊力も美味しそうですわ。それこそ喉から手が出そうなぐらいまでに。ついに、それを手に入れられますわっ!」

 

 

「そうかよ」

 

 

「!?」

 

 

一護の体をずっと引きずり込んでいた影が突如として爆散した。狂三の展開する影は確かにそこまでは強度は高くないが、それでも真那が使用しているCR-ユニット程度の攻撃ぐらいでは壊すことはできない。それなのに、一護は何もしていないにも関わらず跡形もなく消し飛ばされた。精霊とは隔絶した霊力をもつ一護と戦闘となれば厳しい戦いになるとは覚悟はしていたが、まさかここまで力の差があるとは思わなかった。しかし、狂三はここで退くことはしない。

 

 

「…今のは、何をしたんですの?」

 

 

「別に難しいことはしてねぇよ。ただ単純に俺の霊圧を狂三の影にぶつけただけだ」

 

 

霊圧という言葉をここで狂三は初めて知ったが、字面から考えて、霊力を力という形に押し固めて変換したモノだと予想する。元々が実体のないもので、このような芸当ができるということから厳重警戒すべき相手から規格外という認識へランクアップさせた。

 

 

「俺や士道に琴里の霊力を狙うからには何かしらしたいことが狂三にあると思う。けど、俺にも護らないといけない奴らがいる。今、この世界にいる人たちを失っちまったら、そこで悲しむ人たちがいる。ここで俺が倒れたら俺の背負ってるもの全てが無くなっちまうから、ここでお前の前に俺が立つんだよッ!」

 

 

「いいですわね、その覚悟。ならば、わたくしが一護さんの抱えているモノすべてを喰らい尽くしますわ」

 

 

その言葉を聞いても、一護の思いは決して揺るがない。もうこれ以上失うものなどない狂三は格上の一護を乗り越えることにより最果てのゴールへと限りなく近づく。それ故に、その手に長短二丁の歩兵銃を握る。

 

 

「俺は狂三を斬らない」

 

 

「それはどういうことですの?」

 

 

「言葉の通りだ。いくら護るべきモノがあるって、その代わりに誰かを犠牲にしていいっていうわけじゃねぇよ。誰かを失えば、その悲しみは失った人だけのものじゃないんだ。俺はそういう奴らを嫌って言うほど見てきた。ここに住んでいる人たちにはそんな思いをさせたくないんだ。だから、俺は狂三を斬らないし、苦しい思いをしてるんだったら助ける。命を落としそうになっているんだったら、俺が護る」

 

 

「一護さんも士道さんと同じことを言うなんて、全くもって余計なお世話ですわ」

 

 

「全力で来いよ。俺がお前の全てを受け止めてやる」

 

 

精霊とは遥か違う高みにいる最強の死神代行と幾銭もの自分を持つ最悪の精霊の戦いの火蓋は切って落とされた。




デート・ア・大百科


ギン「みんな、お久しゅう。ボクのこと覚えてるかな?」


一護「覚えてるも何も、あんたもう死んでるだろ」


ギン「確かに原作だとそうやけども、ここはメタ空間やから生きていても死んでいても関係ないんや」


一護「言ってることが全くわかんねぇ…」


ギン「きみはわかんなくていいんや。そんなことよりも、今日はプリンセスの十香ちゃんのお話や」


一護「ってか、さっきまで何もなかった空間に液晶がいきなりあるんだ!?」


ギン「それは、ここがご都合主義で成り立ってるみたいやしなぁ。ここに液晶があっても読者に伝わらんから意味がないんやけどな」


一護「???」


ギン「それはそれとして、続きいくで。十香ちゃんの霊装は神威霊装・十番(アドナイ・メレク)で天使は鏖殺公(サンダルフォン)。ただの剣圧だけでも建物を真っ二つにできる威力を持ってるみたいや」


一護「ただの人間がそこにいたら、本当に危ないからな」


ギン「といっても、きみはそれを素手で受け止めてたみたいやけど」


一護「俺のことはいいから…なんか恥ずかしい…」


ギン「ほんなら、続きいくで。その鏖殺公(サンダルフォン)の必殺技が玉座を剣のエネルギーとして合体したモノをそのまま振り下ろすという最後の剣(ハルヴァンへレブ)。その威力は大地を真っ二つにできるほどや。ボクやったら、受け止めるのは難しいかもね」


一護「嘘言え。俺の月牙でも大したダメージ受けてなかっただろうが」


ギン「買い被りすぎや。なぁ、十香ちゃん」


十香「う、うむ。そうだぞ。決してギンのなでなでが気持ちいいからではないぞ」


一護「完全に手懐けられてるんじゃねぇかよ!?」

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