デス・ア・ライブ   作:月牙虚閃

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非常に申し訳ありません。また投稿するのに1か月程掛かってしまいました。しかし、今回はようやく精霊を出すことができました。すこしその精霊の口調と少しずれているかもしれないのでご了承ください。それと今回の話は予想以上に長くなってしまいましたが、是非楽しんでいってください。


First contact

「ウゥゥウウウウウウウウウウウウウウウ――――――これは訓練では、ありません。これは訓練では、ありません。前震が、観測されました。空間震の、発生が、予想されます。近隣住民の皆さんは、速やかに最寄りのシェルターに、避難してください。繰り返します――――――――――――」

 

 

地方自治体の防災無線から避難の勧告が流れてくる。聞き取りやすいように言葉を分けて流れてくる。これから間もなく空間震が発生することを意味する。

 

 

だが、この世界で生きている現代の人間はそれを聞いて狂乱状態に陥る者はいない。なぜなら、ここ天宮市は空間震の被害を受けたのを踏まえて、対策の一環としてこの町に住む者は小さい頃から空間震の発生に備えた避難訓練を地震の訓練と同様に行っているからだ。そのため士道、一護、殿町の3人は一瞬呆けてしまったが、すぐに避難行動に移れた。

 

 

「早く地下のシェルターに避難するぞ。」

 

 

「「お、おう」」

 

 

一護の声に応える士道と殿町なのだが、士道は少し気になることがあった。避難しながらそのことに頭の容量を使っていた。それで前を歩いていた一護に止まったのに気付かなくてぶつかってしまった。

 

 

「った!いきなり止まってどうしたんだよ?」

 

 

「あいつ、なんでシェルターと逆の方向に走ってるんだ?」

 

 

「あいつ?」

 

 

一護の示した方向を見てみると、シェルターへと繋がる廊下が避難している大量の生徒で満たされているなかでその中をかき分けて逆走している折紙の姿があった。士道が声を掛けるが「大丈夫」と返されてしまった。

 

 

「大丈夫って、何が…」

 

 

折紙がどこかへ行ってしまったことに気になりはしたが、シェルターに徐々に近づいてきて間延びした声で焦りながら避難の指示しているタマちゃん先生に促され中へと入った。

 

 

「お、落ち着いてくださあーい。だ、大丈夫ですから、ゆっくりぃ!おかしですよ、おーかーしー!おさない・かけない・しゃれこうべーっ!」

 

 

他の一般の生徒よりも断然焦っていた。そんな可愛らしい部分に周りからは若干の笑いがあふれ出した。

 

 

「自分よりも焦ってる人を見ているとなんだか落ち着くよな。」

 

 

「ああ、それわかるかも。」

 

 

士道の少々失礼な発言に殿町が納得した。しかし、それは致し方ないことでタマちゃん先生は天然な部分が多いので生徒からそういう風に思われるのも自然である。

 

 

士道もタマちゃん先生の様子を見て少し和んだが、先ほどから気になっていること―――――――琴里がちゃんと避難をしているのかなんだが、普通なら先生に連れられてシェルターに避難しているはずだし、仮に学校からもうすでに下校していたとしても町の至る所に公共のシェルターがあるので心配する必要はないはず。だが、琴里のことを考えてみると不安が拭えないのだった。最悪の場合を考えてスマホで地図アプリを開いてGPS機能を使って琴里の居場所を調べた。

 

 

「ッ!」

 

 

士道の予測した最悪のシナリオが現実に起こってしまった。琴里の居場所を示すアイコンが件の約束したレストランを指し示していた。

 

 

「あんにゃろ、普通こうなったら避難するだろうがッ!」

 

 

士道はそのことに毒づきながらシェルターを飛び出していった。それに気づいた一護も人垣をかき分けて士道に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!どこに行くんだよ?」

 

 

「兄貴も来てたのか…」

 

 

 

士道は琴里がまだ避難していない可能性が高いということを伝えた。それを聞いて士道をシェルターに戻させて自分が探しに行くと1度一護は考えたが、謎の正体からもたらされた情報―――――――――士道には精霊の力を吸収する――――――――を思い出し、本当は危険な現場に近づかないようにさせたいが今の精霊がどういうものなのか精霊のことを理解してもらおうということで警報が鳴り響く街中を一緒に琴里を捜索することになった。

 

 

GPSで示されていたファミレス前へ向けて2人は全力で疾走した。そこそこ距離が離れているので全力疾走した士道は足を前に進めるのも辛いのだが泣いている琴里の姿を思い浮かべると足を止めるわけにはいかなかった。

 

 

「琴里がここにいるんだな。」

 

 

「携帯を落としただけだということもあり得るけど、琴里がまだここにいるかもしれない。ここは手分けして探そう。」

 

 

「そうだな。」

 

 

一護は士道の考えに応じたものの気になることがあった。一護は霊圧の細かい操作をするのが苦手だ。それでもこの霊圧が誰のものなのか識別するくらいのことはできる。五河家に養子に入って数年、こんなに近くで一緒に暮らしてれば士道と琴里の霊圧が自然とわかる。その肝心な琴里の霊圧なのだが確かにファミレスの前にあるのだが、その霊圧のある高度がおかしい。琴里の霊圧が地上にあるのではなく上空にある。普通の人間ならば遥か上空にいるという馬鹿げた話はないのだが、琴里に限っては精霊の力を宿しているので上空にいられるという可能性を否定できない。ただわからないのが、現在琴里の精霊の力は本人が知っているかわからないが士道によって封印されている。なので今の状況はありえないはずである。

 

 

そしてもうひとつ――――――何もない空間から霊力がどんどんあふれ出す。そして空間が歪み出しゆらゆらと揺れている。次の瞬間、2人の視界を塗りつぶすほどの真っ白な光に包まれ猛烈な爆風が発生し災厄を振りまかれた。士道は吹き飛ばされそうになったがなんとか踏みとどまった。対して一護は「来たか」と思い、憮然として立ったままであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士道はもう何がなんだかわからなかった。妹の琴里を探しに来ていきなり目に映ったのは空を縦横無尽に動き回っている機械を纏った人影。何なのか気になって近づこうとしたのだが、それは猛烈な謎の爆風によって妨げられた。視界がクリアになって目の前にあった文明の象徴である町が消えていた。

 

 

「ひッ!」

 

 

何の比喩もなく目の前にあったはずの街が丸ごとクッキリ消失していた。もう思考が追いつかない、処理できない。明らかに普段の日常生活では起きることがまずない現実が今起きている。今の状況をまだ全然理解できていないのだが、先ほどの異常な爆発よりも目を奪われる人がいた。その人は絶世の美女だった。少女は神秘的に光るドレスのようなものを着ているのだが、そんなものが霞むほどの美しさを持つ少女だった。この少女を一言で表すならば、暴力的にまで美しい。そんな少女が後ろに聳えていた玉座から長大な剣を抜きだした。

 

 

「なんだ…」

 

 

確かにその剣は光り輝き幻想的なものだと思わせたが、なぜ今その剣を抜いたのか分からなかった。少女は剣の切っ先の方向を士道の方に向けて振り上げた。そして一息ついた後にはもう剣は振り下ろされていた。振り下ろされた剣の軌跡が士道の方へと迫ってくる。それに触れた者は人体を真っ二つにされることは理解できた。だが、体は動かなかった。今ここで己の命は鎖すであろうと士道は覚悟した。琴里に会える前に死んでしまうのが心残りだったのだけれど。

 

 

「させるかよ!」

 

 

一護の叫びと共に剣の軌跡が完全に消滅させるほどの暴風が荒れ狂った。暴風が止むと士道の目に飛び込んできたものとは、漆黒の和装に体の至る所にあるX字の刺青のようなもの、そして圧倒的な破壊をもたらすと予想される身の丈程もある出刃包丁の形をした柄に鎖が繋がっている巨大な刀。どれも士道は見たことがないものだったが、唯一つだけ見覚えあるものがあった。今しがた少女の急襲を防いでみせた人はオレンジ髪の人間で、士道の身の回りに1人だけいた。

 

 

「兄貴…だよな。」

 

 

「ああ、そうだ。気になることがいろいろあると思うけど、全部俺が説明する。いつかはこんなときが来るに違いないと思ってたからな。ただ今は、そこにじっとしてあの女子のことを見ていてくれ。」

 

 

「それって…どういう…」

 

 

士道が全て言い終える前に一護は先ほど士道の命を刈り取ろうとした少女の元へと向かった。そんな少女相手に一護は驚くべきことに自らの得物の刀を地面に突き刺して手放した。これには士道も先ほどのように命を刈り取られしまうんじゃないかと思われたが、その一方で先ほどからずっと少女の美貌は憂鬱に穢されていて気にかかっているのだ。あの少女は本当はこんなことを望んでないないだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一護は何も武器を持たずに少女の元へと歩み寄っていく。一護を殺すべき敵だと認識して少女は剣を強く握り直し再び剣を振り剣圧を飛ばしてきた。

 

 

一護はそれに動じることなく少しの動作で避けていくのだが、このままでは目的を達することはできない。一護の目的は精霊を力で倒すことではない。攻撃を受けたままでは少女と話すことができない。なので話を聞いてもらうべく次なる行動を起こした。

 

 

「なにッ!?」

 

 

少女はあまりの常軌を逸した状況に目を見開いて驚愕した。それは普通の人間がやろうとしたら体のパーツが飛ばされてしまうだろうし、それ以前に一般的な常識を持った人なら決してやろうとはしないはずだ。

 

 

「痛え…久しぶりに素手で剣を受け止めたけど、こいつはやるもんじゃねえな。」

 

 

そうは言いつつも全くの無傷で少女の剣を受け止めた一護。そんな彼に己の最強の矛―――――――――天使を素手で受け止められた少女は手足が震えるほどの恐怖を感じた。そんな少女の様子を見た一護は剣から手を放して、落ち着かせるように言った。

 

 

「わりい、怖かったよな。けど、話をするにはこれしかなかったんだ、許してくれ。」

 

 

「話…だと。」

 

 

手足の震えは小さくなったものの、少女は未だに一護を警戒していた。一護は武器を持っていなくて、対して少女は長大な剣が自分の手の中にある。しかし、先ほどのこともあり決して少女の方の有利とは言えなく警戒するのは当たり前だ。その状況の中で少女は話をすることに応じるしかなかった。

 

 

「話の要件はなんだ?もしつまらぬことだったらこの場で斬り捨てる。」

 

 

少女は一護に向けて剣の切っ先を向け、頭上に黒い球体を5つほど発生させ臨戦態勢で一護の話に臨んだ。それに一護は一瞬自分が話した後にボロ雑巾になってないか心配したが、そんな思いを捨てて少女に向けて話を始めた。

 

 

「まずは名前はなんて言うんだ?」

 

 

「名か……そんなものはない。」

 

 

「そうか…」

 

 

名もなき少女は淡々と答えた。物憂げの様子だった少女はその質問を答えるときに顔を歪ませて今すぐにでも泣き出しそうな顔で答えた。それが一護に伝わったのか目をつぶって先ほど剣を受け止めたときの心を感じ取ったのと照らし合わせてそれに対する自分の思いを率直に少女に伝えた。

 

 

「なんでそんなに諦めているんだ?」

 

 

一護の言ったことに少女は若干反応して眉を寄せて何も言わずに顔を下に向けた。どうやら何か少女の心に掛かることがあるらしい。

 

 

「俺は刀を交えたり、直接刀に触れたりすると相手の考えてることがわかるんだけど、お前の剣からはどこか危うげで絶望して孤独で諦めているんじゃないか?さすがに何を諦めているのかまではわからなかったけど。」

 

 

「貴様に何がわかるッ!」

 

 

少女は思わず語気を強めて叫んだ。その叫びは少女の中にずっと閉じ込められていた様々な感情が籠っている心からの叫び。だが、一護は少女に対して予想外な答えを返した。

 

 

「そんなの俺にはしらねえよ。」

 

 

「貴様あああああああああああああああああああああ!」

 

 

一護の言葉に少女は怒り狂い、頭の上に浮かばさせてあった黒い球を飛ばした。一護はそれを素手でかき消すのだが、少女は最初からそんなことは分かっていた。この男は確実に自分よりも格上ということは剣を止められたことで証明済みだ。ならば、避けられない速度で渾身の力で振り下ろせばいい。倒すことは出来ないかもしれないけど、傷ぐらいつけられる。

 

 

だが、少女が大振りになっている分動きに大きな隙ができる。今の一護ならば斬魄刀を持っていなくても少女に霊圧の籠った拳を振りぬけば少女の堅固な鎧は意味成すことなく崩れてしまうだろう。しかし、一護はそういう人間ではない。一護は何もせずに目を閉じて少女の刃を受け入れた。刃は皮を裂き、一護の胸から一筋の血が滴り落ちた。

 

 

「どういうつもりだ、なぜ避けない。貴様ならば私がこの一撃を浴びる前に完全に避けられたはずだ。」

 

 

一護が避けなかったことで、少女の怒りが少し落ち着いて一護に興味持ち始めた。それに一護は少し前に言ったことと同じことを繰り返した。

 

 

「さっき言ったろ、俺はお前に話があるって。俺が言い終わる前に攻撃されたから本当に言いたいことを言えてねえ。」

 

 

「ならば、貴様は何を言いたかったのだ?」

 

 

「さっき言った通り、俺はお前のことは知らねえ。」

 

 

少女は先ほど自らを怒らせた言葉に不快感を感じたのだが、これでまた剣を振ってしまえばまた同じことになる。それに、全力ではないとはいえ刃を素手で止めた。実際の力はこんなものではなく少女の力を遥かに超えているのかもしれない。そうなれば、今度は少女自身が追いつめられることに成りかねないと予想して我慢した。

 

 

「ただ、今わかったことがある。1回目はお前は諦めていた。そして2回目は誰も受け入れられずにずっと孤独だという状況を諦めてたのを感じた。ただその上で、俺はお前がこれまでどんな辛い経験や思いをしてきたのか一緒にいた訳じゃねえから分からねえ。それで俺にはその思いを踏みいじらずに上手く話を聞いてお前に信じてもらう方法を知らねえ。だから、俺は1番最初にお前を受け入れる。いきなりそんなことを言われて信じろというのは難しいかもしれねえ、けど俺はいつか信じてくれるのを信じてぜってえお前を否定しない!」

 

 

少女は一護の言ったことに驚いて固まったが、いきなり笑い出した。

 

 

「ははははは、今まで私は何だったのであろう。私の刃まで受け入れて信じろと言うやつこれまでにいただろか?貴様に聞く、その言葉に嘘偽りは無いな。」

 

 

「ああ、もちろんだ。」

 

 

「わたしは貴様を本当に信じてもいいのか。」

 

 

「ああ。」

 

 

「絶対だな?」

 

 

「絶対だ。」

 

 

少女がひとしきり確かめ終わると、今までにない笑顔を一護に見せた。まるで自分の存在を認めてくれたことに対し感謝しているようだった。

 

 

一護はこの少女を存在を知り、尚且つこの世界から排除される理由を知っていたためこんな対応ができたのは否定しない。それでも、こんなことを知らなくても護るべき絶望した人がいるならば一護は迷わずに救ってみせただろう。

 

 

少女はその闇色の髪を掻き毟って自分を受け入れてくれるかもしれない一護に言った。信じるべき存在はここにあってほしいと思いながら言った。

 

 

「ふん、そんなの信じるかバーカ、バーカ。でも、こんなこと言われたのは初めてだ、少し嬉しかったぞ。少しだが、貴様のことを信じてやってもいいぞ。」

 

 

今までにない少女の笑顔に思わず顔を赤くしてしまった一護なのだが、ひとまずは少しは気を許してもらったのかな、と思ったのだった。ここで一護は士道を呼ぶことにした。瓦礫に紛れて隠れていた士道は恐る恐る近づいていったのだが…

 

 

「む、敵か!?やはり貴様謀ったな!」

 

 

急に出てきた士道を敵だと勘違いして剣を振りかざそうとした。これでは剣に斬られて2人揃って切り身になってしまう。

 

 

「待て!こいつは敵じゃねえ。っていうより、俺の弟だからその剣を降ろしてくれ。」

 

 

「そうなのか?」

 

 

少女は怪しげに士道を見た。一護の言っていることをまだ疑っているようだった。士道本人から本当の弟だと言ってもらわないと信じてくれなそうだ。それを察したのか士道は少女に一護の弟だと必死に訴えた。

 

 

「ほ、本当だ。だから、その剣を降ろして!」

 

 

まだ納得しきれない様子だったが、なんとか少女に剣を降ろしてもらうことに成功した。

 

 

「とりあえず、弟ということにしてやるぞ。何か変なことをしたら命がないと思え。」

 

 

「ああ、わかった。でも、俺と士道は本当に兄弟だ。それと、お前をどうこうするつもりもないし、士道もそう思っている筈だ。そうだよな、士道。」

 

 

まさか自分にフラれると思っていなかった士道だったのだが、最初にしていた少女の顔のことを思い出したら自然と言葉を発せられた。

 

 

「もちろんだよ。俺は誰にだって悲しい顔をしてもらいたくない。君の顔を見ていてなんでそんな悲しそうな顔をしていたのか分からなかった。兄貴と話していたときの会話を聞いてて、俺は絶対に君を…」

 

 

士道が全て言い終わる前に上空からミサイルが飛んできた。この兵器には一護は覚えがあった。精霊を武力で以て殲滅を目的とする組織。

 

 

「ASTか…」


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