それともう一つ謝らなければならないことが――――それはコミックを読んでいる方は若干のネタバレになってしまうのでご了承ください。
それでは今回お楽しみにしてください。
ここは地面の無い重力感覚を疑わせるような場所、建ち並ぶのは永遠の空へと延びる摩天楼。その中に一護はただ一人いた。
「久しぶりだな、ここに来るのは。」
そう、今一護が居る場所は自らの精神世界の中。ここは力が目覚めてから今に至るまで一護の力の成長に切っても切れない場所になっている。しかし、こちらの世界に来てからまだここには来ていないのだった。
「おーい、斬月のオッサン。いるんだろ、俺をこっちに呼び出したっていうことは。」
一護の呼びかけに応えるように、何もない空間から黒い霊圧が集まりだして無精髭のサングラスの掛けたオッサンを形成した。
「一護、しばらく見ない間に…」
斬月は一護の体を見て、言おうとしていたことを止めてしまった。どうやらこちらの世
界に来る前に会ったときとあまりにも容姿が変わっていないことに驚いているようだった。
「ああ、何でこの体が成長していないってことか?それだったら、俺にもわからねえ。」
「そうか…それと、まだ私のことを斬月と呼んでくれるのか。」
「あたりめーだろ。俺にとっての斬月はアイツだけの力じゃねえんだ。オッサンの力も俺にとっては斬月の一部だ。あの話を聞いたときはどうしようもないくらい悲しかったけど、俺を護ってくれた力なんだ。あいつも俺を護ってくれた。だから、オッサンの力もアイツの力も俺の力だ。」
一護は斬月が消えて以来、本当の自分の力を使役することが出来た。しかし、消えてなくなった斬月は同時に一護の中にも大きな穴を空けた。胸中をようやく曝け出せてこれ以上喜悦を感じたひと時はなかった。ただ、精神世界の中に入り込むときは必ず一護にとってはターニングポイントとなる時だ。
「何かあるんだろ。俺が
斬月は一護の言ったことに頷いて、今回呼び出した目的について話し出した。まず、この話の前提として今いる世界について説明をした。
「もうわかっているだろうが、ここは私たちのいた世界とは違う。この世界には
「ああ、知ってる。」
「私たちはここに来るのに謎の空間を使った。いや、巻き込まれたといった方が正しいか。」
「確かにそうだな。」
「一護、そのときにお前自身に埋め込まれたモノを見たはずだ。」
一護は視線を落とし自分の胸に向けた。そこには、こちらの世界に来た以来変わらずにそれは一護の胸に埋め込まれている。そのままの状態でなぜこれが自分に埋め込まれているのか思案した。今まで何度かそのことについて考えてはみたが、いくら考えてみてもその理由は見つからなかった。
「お前に会わせたい奴がいる。」
いきなり斬月に言われたので、このタイミングでかよ、と突っ込みたくなったがそれはいつものことなので何も言わなかった。それよりも、会わせたい奴というのは一護が思い浮かべたのはあの
「なっ…何で、なんでお前がここにいるんだよ!?俺に何をしたんだ?」
「黒崎一護だね。私と直接会うのは初めてだったかな。」
一護の前に現れたのは、かつてソウル・ソサイティを壊滅まであと1歩のところまで追い込み新たな世界の支配者になろうとした人物の姿と全く同じだったのだ。ただ、その人物は一護が自分の死神の力を代償として倒して地下の牢獄『無間』に投獄されているはずである。一護の思いを読み取ったのかその人物は一護に今の姿に関することを説明した。
「今のきみにはわたしのことを藍染惣右介のように見えているのだろう。わたしの性質は以前きみの父親の黒崎一心から聞いていると思うが、わたしは周囲の心を取り込みそれが実現可能なものであれば具現化する能力を持っている。」
「あんた、まさか崩玉なのか?」
「そうだ。きみの中にあるわたしに対するイメージを具現化した影響で、きみにはそう見えているだけでわたしはきみの言うとおり崩玉だ。」
まさか崩玉が藍染惣右介の姿で目の前に現れるとは思ってなかった一護だったが、これまでずっと疑問に思っていた崩玉が自分の胸に埋め込まれているのか尋ねてみた。対して崩玉はその質問がされるのを予想していたのかすぐさま一護に自身の推測で答えた。
「先ほどわたしは周囲の心を具現化させる能力を持つと言ったが、わたしが心を取り込める能力は藍染惣右介はわたしの周囲のみと結論づけていたがそれは違う。わたしの心を取り込める範囲は実質無制限だ。」
「なんだよ…それ。」
もしそれが事実だとすれば、全ての世界の願いは崩玉によって叶えられる可能性があるということになる。その願いが破滅を導くものだったとしても。崩玉は一護の反応を見て、話を続けた。
「わたしは遥か彼方離れた願い聞き届け、その願い応じる為に願いを叶えられる可能性を持つ黒崎一護を力の拠り所としてこちらの世界へと誘った。」
「ということは、誰か分からない願いの為に俺は呼び出されたということなのか。」
「そうだ。」
ここで崩玉は態々嘘をつく必要はないので正直に答えた。崩玉は自分自身の勝手な意思によって巻き込まれた一護が憤慨して掴みかかってくると思っていたが予想に反して一護は冷静に話を受け止めていた。一度時間を巻き戻された体とは違って、多くの時間を費やして精神的に成長したということであろうか。
「なぜ、平然としていられる?」
「別に平然といれてるというわけじゃねえよ。俺はあっちに夏梨と遊子、ついでに髭親父を置いて来てるんだ。出来るなら今すぐにでも帰りてえ。けど、お前の言ってたことがもし本当なら俺はまだこっちの世界から戻るわけにはいかねえ。助けを求める声を見捨てるぐらいなら俺は帰れなくてもいい。困っている奴が居るなら、俺は迷わず手を差し伸べる。」
崩玉は一護の言ったことを聞いて、やはり黒崎一護に任せて良かったと感じていた。もし選ばれた願いが破滅をもたらすものだったとしても、彼ならそれでさえ覆してくれるだろうと。
「ところで、その肝心の願いって何なんだ?お前は願いを聞き取ったんだろ。」
「それはわたしにも知らない。」
「はぁ!?知らないってどういうことだよ。」
崩玉のあまりにも無責任な受け答えに一護は思わず叫んだ。願いを読み取っていると自分で言っていた癖に知らないというのは矛盾してるのではないか。
「きみがそう思うのは当然だろう。ただこれだけは分かっててほしい。わたしの意思は力によって支配される。これはどんな願いにもわたしの意思は断絶される。今回も同じだ。」
「つまり、どんな願いが叶えられようとしてもお前の意思は無視されるということなのか。」
「そうだ。わたしだって藍染との最後の戦いで好きで力を貸していたのではない。きみが力を賭しては止めてくれたことに感謝する。」
崩玉は頭を下げて一護に対して心から感謝した。一護は崩玉に頭を上げさせて、必ずその願いを叶えられるようにすると約束した。
「そろそろ時間のようだ一護。お前の弟がもうすぐ戻ってくる。」
今まで崩玉と一護のやり取りをずっと見ていた斬月が元の世界に戻るよう促した。すると、今まで青かった空が徐々に白くなっていく。
「本当はまだ聞きたいことがあったけどな。例えばウルキオラのこととか。」
崩玉は一護が小さな声で言ったのだが、それを聞き取っていたのか崩玉は一護の胸に指差した。
「それはきみが一番わかっているはずだ。その答えはもうとっくに知っている。あとはそれにきみが気づくかどうか、それだけだ。」
「俺の中に…」
一護が目覚めたら目の前に見ず知らずの目に隈を蓄えた眠たげな女性が一護の体に乗っかれていた。しかも、かなり顔を近づけられていた。
「ふむ、起きたかね。」
「起きたかね…じゃねえよ!ってか、あんた誰だよ。」
一護に指摘されて女性は今気が付いたかのようにして自己紹介をした。ここで一護は耳慣れないワードを聞くことになる。
「ここ『ラタトスク』の船の『フラクシナス』で解析官をやっている村雨令音だ。」
「ラタトスク?フラクシナス?」
一護と士道が謎の浮遊感を感じた瞬間、目の前の視界が破壊された町並みから無機質な鉄の壁へと変化した。どこかへと飛ばされたと瞬間考えた一護だが、いきなり士道の体が地へと崩れ落ちた。なので、考えるよりも先に体を休められる医務室であろう部屋を探して見つけて2人は体を横にして今に至る。
そういうことなので、一護はこの場所がどこだか分かっていなかった。
「私はどうも説明下手でね、君の弟ももう起きているようなので丁度良い。君たちに会わせたい人がいる。気になることは多くあると思うが、詳しい話はその人から聞くといい。」
隣のベットに寝ていた士道と共に令音の後に付いていき、その会わせたいという人の元へ向かうことになった。その道中、令音が30年寝ていないだとか睡眠導入剤をラムネを飲むが如くがぶ飲みしていた。士道は普通に命の心配をしていたが、逆に一護はある意味超人ではないかと思っていた。
令音に連れられた一護と士道はある扉の前で立ち止った。するとすぐに、扉は自動で左右に分かれ中には軍艦のような大部屋があった。中に入るととても日本人とは思えない人物が待ち構えていた。
「…連れてきたよ。」
「初めまして。私はここの副司令官、神無月恭平と申します。以後お見知りおきを。」
「は、はあ…」
いきなり知らない人物からあいさつされたのもあるのだが、士道はなんで今自分はこんな本格的な軍事施設のような場所にいるのか戸惑っていた。一護も同じように戸惑っていたが、こういう類のものは多少の耐性があるので士道よりかは落ち着いていた。
「ようやく来たわね。待っていたわ。」
不意にそのような声が聞こえた。その声は目の前のこの艦の艦長席のような場所に座っていた人物のものだった。その人物はいつもは可愛らしい雰囲気なのに、今いるその人物はそれとは違って凛々しかった。そして、2人にとってはとても身近な人物だった。
「歓迎するわ。ようこそ、『ラタトスク』へ」
そう、その声の主は2人の妹の琴里のものだった。
「なんでそこにいるんだよ?」
士道は琴里に尋ねるが、それはそのままスルーされた。その理由は琴里が一護と士道に説明するよりも先に聞かなければいけないことがあったのだ。
「―――――で、これはどういうことよ!?一護、答えなさい。」
琴里が指し示した先にあったのは、先ほどまでASTと精霊でさえ圧倒してしまう一護の姿が映し出されていた。そして仕舞いには剣圧で折紙と燎子を吹き飛ばすという荒業でさえ成し遂げた。そのときになるべく街への被害を出さないように斜め上に飛ばしているが、それでも延長線上建っていた建物は全て切断されていた。
「あ、それなんだけどな…」
一護が本当のことを話そうか話すまいかと迷ってしどろもどろになっていると、琴里を援護するように言った。
「兄貴さっき全部説明するって言ってたじゃねえかよ。とりあえず、俺が知らないところで何が起きてんだよ。」
士道の言葉でいよいよ自分自身のことを言う覚悟を決めた。一護は心のどこかでこのときをいつか迎えるのだろうと分かっていた。ただ、それでも元居た世界のことをこちらの世界に持ち込むのは余計に士道と琴里を苦しめてしまう。だから、別の世界からこちらの世界に来たという事実は伏せて自分の力のことだけを話すことにした。
「そうだな。話すの約束したんだし、それに俺のあの姿を見られた訳だしこれ以上隠す必要もねえな。まずは、言っておく。俺は精霊じゃねえ。」
一瞬、艦内の中の全ての音が止まった。あれだけの出来事を見せられて琴里は恐らく一護が精霊だという風に思っていたのだろう。士道はそれすらも分かっていないのだろう。そこで士道は最も初歩的な質問をした。
「そもそも精霊って何だよ?」
何も知らない士道にとっては当然の疑問なのだが、琴里はやれやれというような仕草を見せた。説明をしないと前に進みそうになかったため、一護がその説明も行った。
「精霊ってのはさっきの女の子のことだ。それで士道は精霊はどんな風に思ったんだ?」
士道は先ほどまで繰り広げられた戦闘のことを思い出して恐ろしくて受け入れられなかった。しかし、精霊といわれる女の子に士道は惹かれていた。好きとかそういう感情ではなくて、女の子が危うげでいずれ全てを無くしてしまうではないかと思った。そう思ったのは、士道が1度同じような経験しているのかもしれない。
「何であの子はあんなに心をすり減らしてるんだ。兄貴のおかげであの子とかなり話すことが出来たけど、話の内容よりもその女の子の眼がどうなったらあんなすべてを諦めたかのような眼になるんだ?俺はあのままにしておくのは絶対に嫌だ!」
「そう言ってくれるのなら、俺のことを話しても良いな。」
「勿体つけてないで早く言いなさいよ。」
琴里はいよいよ我慢できないというような様子で一護に早くするように促した。一護はいつもと全然違う琴里の様子に気圧されしながらも言った。
「俺は精霊じゃねえ、死神だ。」
「「「死神いいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」」」
艦内にいた者全てが絶叫した。琴里もある程度の予想を立てていたが、それを斜め上どころか真上の宇宙空間を通り過ぎた。
「死神…って、あの鎌を持った死神?おにいちゃん。」
何故、琴里がこんなにも性格が変わっているのかは分からないが、それでも怖いものが苦手というのは同じで根っこの部分では琴里だった。
「死神って聞いたら、そういうイメージを想像するのが普通だよな。でも、俺はそっち死神じゃねえよ。俺のいう死神っていうのは魂を刈り取る死神じゃなくて、世界中にいる霊を管理する存在のことを言うんだ。」
「霊、って幽霊のこと…よね。」
琴里は少し時間経って落ちつきを取り戻しものの、霊というオカルト的ワードが出てきたことで再び琴里は恐怖に襲われた。
「確かに幽霊は琴里にとっては怖いかもしれないけど、多分想像しているのと違うと思うぜ。これ以上姿については何も言わねえけど、俺の仕事はその幽霊を成仏させるというのが俺の仕事だ。」
琴里と士道は一護のあまりにも常識から外れた話に信じられなかったが、一護の力を見たからこそ一護のその話に現実味が増している。それでも士道はまだ気になることがあった。
「ちょっと待ってって、何で幽霊を成仏するのにそんな出鱈目な力が必要なんだよ?」
士道が思っている幽霊の成仏に関するイメージは幽霊の前に立って霊媒師が儀式をやるというようなものだった。これが成仏に関する一般的なイメージだ。
「多分、士道がイメージしている霊じゃねえと思う。確かに士道の言ってる霊は
「「…ッ!」」
人を喰うと一護が言った瞬間、琴里はこれまでにない程の恐怖に襲われた、泣き出しそうな状態になるまでに。士道までも一護の言ったことを胸を締め付けられるほど恐怖した。
「俺はそいつらの罪を洗い流して襲われる人が誰もいなくなるようにこの死神の力を手に入れたんだ。っつても、俺は死神代行だけどな。」
一護は話を締めくくったが、あまりに想像を越えた話に士道も琴里もフリーズしてしまった。それでも、この艦の司令官である琴里は誰よりも早くフリーズ状態から抜け出した。
「わ、わかったわ。一護の力はそこから来ているのは。」
「わりい、一気に俺のことを言いすぎた。俺の力は怖いかもしれないけど、これだけは言わせてくれ。俺はどんなことになっても必ず琴里と士道は護る。そして親父もお袋も。」
この世界での自分の力について自嘲しながらも護ると2人の前で改めて宣言し、琴里と士道は先ほどまでの恐怖感が薄れ一護はやっぱり一護だということに気づいた。琴里も少し照れながらも宣言した。
「…そう言ってくれて、ありがとう。でも、一護はいつも頑張りすぎなのよ。少しは休みなさい、今度は私と士道が前に立つ番だから。」
とても感動的な雰囲気になっている今の状況だが、すぐにぶち壊された。
「というわけで、士道、そして一護も精霊とデートしてもらうわよ。」
「「待ていッ!」」
琴里が何の脈絡もなく精霊とのデートを勝手に決められたことに思わず2人は声を挙げた。一体どうなったらデートという単語がでてくるのであろうか。
「それじゃあ、こっちのやり方が良いっていうの?」
琴里は画面にリモコンを向けてボタンを押すと一護の映像からそれ以前に精霊が顕現したときだと思われる映像へと変わった。その映像はたった一人の精霊に機械を纏った人の兵団が集中的に攻撃しているものだった。
「な…なんだよ、これ。」
今回は一護が介入して精霊が攻撃されずに済んだが、いつもこんな憎悪に晒されていることに愕然とした。
「これがASTのやり方よ。士道、あなたはこのやり方でいいの?」
「そんな訳ねえだろ!」
「そうよね、ならもう一つのやり方――――――対話によるはどう?」
「もちろん、そっちの方が良いに決まってるじゃねえか。」
「ならデートしなさい。私たちも全力でサポートするわ。」
「だから、何で俺がデートすることになるんだよ。」
「黙りなさい、このフライドチキン。」
結局デートをするという話にもどってしまって士道は自分の髪の毛をワシャワシャとした。しかも、なぜか可愛い妹に罵倒されてしまった。
「この方法以外に何か良い方法があるっていうの?」
実際、士道にはASTのようなやり方以外で良い方法を思いつけなかった。これはもう琴里の言葉を信じるしかなさそうだ。
「…わかったよ、精霊とかASTとかわからないけどあんな絶望してる子を放ってはおけない。手を貸してくれ、琴里。」
その士道の答えを聞いた琴里は少し嬉しそうだった。
「それでこそ、私のおにいちゃんだわ。さっそくだけど、明日から訓練を始めるわよ。もちろん一護もね。」