内容も少し酷いかな。
一護と士道は来禅高校の屋上にいた。しかし、屋上にいたのは2人だけではなかった。2人が屋上にいるのはある人物に呼び出されたからであった。
「鳶一、俺らを呼び出したのは昨日のことでだよな。」
一護は2人を呼び出した張本人である銀髪の少女―――――鳶一折紙に問いかけた。折紙は一護のその問いに頷いて肯定の意を示した。
「誰にも口外しないで。私のことも、それ以外のことも。」
「誰にも言わねえよ。逆に言ったとしても信じてもらえるとは思えねえしよ。」
一護は折紙に誰にも漏らさないと約束したが士道も同様に誰にも言わないと約束した。この後誰も話そうとしなかったので少しの間沈黙が場を支配した。それに耐えきれず士道は自分から話を切り出した。
「あのさ、何で鳶一はあの女の子と戦ってんだ?」
士道は紫の鎧を纏い長大な剣を持つ女の子―――――精霊を直接目にして、精霊としての力を持つ以外普通の女の子と感じていた。精霊をもたらす災厄から国民を守る為という大義名分はあるが、それだけであればあんなに身をすり減らすような戦い方をしないと素人目の士道でも分かった。何が原因であるか探る意味も込めて尋ねた。
「私の両親は5年前、精霊に殺された。」
「「ッ!」」
折紙にそう言われて士道と一護は息を詰まらせた。折紙のその言葉にはいつもの淡々とした様子が消え失せ、憎悪だけが言葉に載せられていた。
「そうか…」
士道は折紙の話したことを受け入れつつ心を落ち着けさせた。これ以上折紙の当時起こったことを踏みにじるわけにもいかないので士道はこれ以上追及しなかった。今度は逆に折紙の方から一護に質問をした。
「あなたは精霊?」
一護にとっては十分に予想できた質問だった。一護は昨日と同様の受け答えをした。
「昨日も言ったけど、俺は精霊じゃねえ。死神だ。」
折紙は一護が死神と宣言したとき、思わず後ずさった。だが、ここで怯んでいては一護の事情について知ることはできない。折紙は心に踏ん切りをつけて口を開いた。
「精霊じゃない。だったら、何で精霊を助けるの?」
一護は先ほど折紙の話した両親が精霊に殺されたという話を踏まえた上で精霊に対する思いを伝えた。
「鳶一にこんなことを言うのは不謹慎だと思う。けど、わかってほしい。精霊だって一人の人間なんだ、誰にも受け入れられなかったら人と同じように悲しむ。前に、俺はデカい力を持ったやつと戦ったことがあるんだけど、そいつは自分が神となって世界を創り変えようとしたんだ。」
ここで一拍置いて、過去に自分の死神の力を賭して戦った相手についての推測を話した。あくまで推測に過ぎないと断りをいれた上で自ら力を失ったという推測を…
「けど、俺がなんとか止めたけど本当は自分から力を捨てたから勝てたんじゃないかと思ってる。それは自分と同じ立場でいてくれる奴がいなかったんだと思う。精霊も同じように今は誰も同じ立場にいなくて苦しんでる。だから俺と士道が手を差し伸べて同じ場所に立つしかないんだ。鳶一も一回でもいいから精霊と話してくれないか?きっと、精霊のことが本当にわかると思う。」
折紙は実は自分と協力して精霊を倒してもらいたいと思っていた。一護には精霊を倒し全てを終わらせる力を持っている。が、一護には精霊を打ち倒す気はなかった。むしろ、それとは逆の方向へと進んでいる。さらには、自衛隊、そしてそれを統率している国は精霊の持っている力とは違うものの強大な力を持っている一護を精霊認定されている。折紙に残された道は一護と士道を精霊から遠ざけるしかなかった。
「ごめんなさい、あなたの思いに応えられない。でも、精霊と関わったら不幸になる。精霊と会おうとするならやめるべき。」
折紙は2人の前でペコリと頭を下げ、屋上から去っていった。
「「なんじゃこりゃーーーー!」」
一護と士道は思わず叫んだ。それも無理からぬことだろう。折紙が屋上から離れた後すぐに校庭の方から女子の悲鳴が聞こえたので見てみたら、昨日フラクシナスで出会ったいつも眠たそうにしている令音が倒れていたのである。その後、校内で琴里と合流し物理準備室に向かったのだが、かなり魔改造されていた。部屋の中は多くの液晶画面が置かれ、物理準備室の面影がもはやなかった。
「何ですか、この部屋?」
士道が令音に恐る恐る尋ねると、明らかに考えたフリをしてから答えた。
「…部屋の備品さ?」
「なんで疑問形なんですか!ついでに、嘘が下手すぎるでしょ!それと、この部屋にいた人はどうなったんですか?」
確かに物理準備室に名前までは覚えてないが先生が住んでいるという噂を一護は思い出した。本人の弁によると自宅の便所以外で唯一安らげる場所だったはずだが。
「うむ…」
再び令音は考える仕草をしたのだが、案の定…
「そこで立っていてもしょうがない、とりあえず座りたまえ。」
「うむ、の次は!?」
見事にスルーされた。これはこれ以上このことについて言及するなということであろう。どうせ話を蒸し返らせたとしても、きっと無視されるだろう。
そんなやり取りがあった間、琴里は今まで髪を結んでいた白いリボンを解き、代わりに黒いリボンで髪を止めた。そして、気だるそうに首元のリボン緩めた。
「さっそく始めるわよ。」
琴里のそのセリフに士道は「何をだよ?」と返すのだが、琴里はため息ついた。
「昨日、訓練をするって言ったじゃない。もしかして、もう忘れたのかしら。今後の為に老人ホームの申し込みをしておこうかしら。」
いつもとかなり違う様子の琴里に一護と士道が辟易した。昨日1度見ていた2人だが、まだ琴里の高圧的なモード―――――司令官モードに慣れていなかった。ただ、いつもの無邪気な琴里―――――妹モードから司令官モードに変換するときのマインドコントロールはリボンの付け替えで行ってるらしかった。
「令音、今日の訓練について説明してちょうだい。」
「シンと苺、今回2人でやってもらいたいことがある。」
そう言うと、令音が液晶ディスプレイに電源を点けると画面には『恋してマイ・リトル・シドー』というロゴが躍った。所謂ギャルゲーだった。ついでにいうと、令音から士道は『しんたろう』を略した『シン』と、一護は『苺』となぜか呼ばれている。2人は散々そのことについて指摘したが、諦めた。
「デートを行うにあたって、クリアしてもらわなければいけない課題がある。それは女性の接し方さ。」
「女性の接し方ですか…」
それぐらい出来ないわけがないという雰囲気を士道は醸し出していたが、琴里に後ろから蹴られ令音の左バストに飛び込んだ。それに続いて、完璧に油断していた一護も蹴られ右バストに飛び込んだ。
「「何しやがるッ!」」
士道も一護も顔を紅くしながらこのような事態を引き起こした張本人の琴里を糾弾した。
「士道はまだしも何で俺までこんなことをされななきゃいけねえんだよ!」
一護の言ったことに士道は批難しているが、それは無視して琴里に尋ねる。琴里は『分かんないの?』というような様子で答えた。
「精霊をデレさせて解決しようというのに、武器を持ってデートに行くわけ?この世紀末脳筋!もうちょっと脳みその無い頭で考えなさいよ。」
「脳筋って…」
士道は一護がこの間の定期テストで上位に食い込んでいるのにその一護が脳筋と呼ばれるのなら、自分はなんと呼ばれるのだろうかと少し落ち込んだ。一方、一護は琴里の返答を聞いてとりあえず納得した。令音の胸にダイブしたことには腑に落ちなかったけれど…
「話は纏まったみたいだね。女性の接し方を学んでもらう為に、今回2人にやってもらうことはこれだ。」
今までのやり取り傍観していた令音は液晶画面の電源をつけた。画面が立ち上がるとやけにピンクな色彩を基調とした映像が映った。
「「ギャルゲーかよ!」」
今日何度目と思える一護と士道の声がハモッた。それは無理からぬことで、どうみてもエロゲーだった。しかもご丁寧に士道の方の画面には『恋してマイ・リトル・シドー』、一護の方には『恋してマイ・リトル・イチゴ』というタイトルが映っていた。
『やってられるか!』と思った2人だが、琴里から破滅的な一言が発せられた。
「もし選択肢に間違えたり、途中で逃げ出したりしたらこれを誰かの下駄箱の中に入れるから。」
「いやああああああああああああああああああああ!」
耳をつんざくような断末魔の声を発したのは士道だった。なぜならば、琴里の持っていたものは士道の黒歴史時代に作ったオリジナルキャラの設定集だった。
「うん…まあ、頑張れ。」
まだ罰が実行されるわけでもないのに、一護はもう既に罰が実行されることを前提で士道を憐れんでいた。士道は士道で葬ったはずの黒歴史が再び顕現するとは思わず放心するばかりであった。
そんな士道を無視するかのように令音に勝手にコントローラのボタンを押されゲームを始められた。それを見ていた一護は無駄な努力だと知りつつ影を薄くするが、琴里に強制的にボタンを押されこちらもスタートさせられた。
『おはよう、おにいちゃん!今日もいい天気だね!』
2人の真ん前にある画面が暗転したかと思えば、いきなり妹キャラと思われる琴里と同じような歳の女の子が主人公の腹の上でパンツ丸見えで踊っていた。
「「ねえええええええええええええええええよ!」」
一護と士道はこんなギャルゲーでしかありえない、いや、ギャルゲーの世界でもないかもしれないシチュエーションに批判の声を挙げた。士道が何か言葉を続けようとしたが、何かを思い出し言葉を発するのを止めた。
何があったのか不審には思ったが、気にしないことにした。
そうこうしている内に、2人の画面に選択肢を映し出された。そこには…
①『おはよう!愛してるよリリコ』と抱きながら言う
②『起きたよ。ていうか、思わずおっきしたよ』妹をベットに引きずり込む
③『かかったな、アホが!』妹にアキレス健固めを決める
どれも正気じゃない。どれを選んでも罰を決行されるではないだろうか?
「さあ選びなさい。言っとくけど、もうすく制限時間が切れるわ。」
琴里の言うとおり制限時間が残り3秒と画面で示されていた。士道は慌てて1番を選択し、一護はコントローラーを見ずに適当にボタンを押した。
すると士道の画面では主人公が選択された台詞を言うと、リリコに本気で引かれた。一方で、一護が適当に選択した行動は…
『かかったな、アホが!』
主人公はリリコの足を掴んでアキレス健固めを決めた。すると、リリコは悲鳴を挙げることなく体の動きを止めた。そして、次に映し出された画面は両親が部屋に入室し父に殴られ牢屋閉じ込められた。最後にエンドロールが流れゲームオーバーとなった。
「「「……」」」
何とも重たい空気だ。士道が出してはいけない結果を出してしまった一護をジト目で見て、琴里は涙目で一護を見ていた。なぜか髪を結んでいた黒いリボン解けていたが…
コントローラーを見ずに最悪な選択肢を選んでしまったのは一護自身なのだが、あの選択肢を選んで妹の死という結末を作ったのはそちら側ではないかと理不尽さを感じる。だが、琴里を涙目にしてしまった以上謝らなければいけない。一護は膝をつき、頭を下げた。
「こんな乱暴なやつ選んでしまってすいませんでした。今度からコントローラーをちゃんと見てやります。」
一護が必死に頭を下げた甲斐があって、琴里の涙のダムが決壊することはなかった。涙を抑えた琴里は顔をぺちぺちと叩いて、解けた黒いリボンを結びなおした。
「次はチャンスは無いわよ。でも、失敗は失敗だからやってちょうだい。」
ゲームの画面とは別のテレビ画面に来禅高校の下駄箱がある場所にラタトスクの機関員と思われる人物がいた。そしてその人物の手に持っていたのは例の士道製作の設定集だった。
「なんであれが…」
士道が体をわなわなさせながら琴里に目を向けた。琴里は先ほどまで泣きそうになっていたことが嘘だったかのように、妖しい笑みを見せた。
「さっき言ったわよねえ、ぺナルティがあるって。一護か士道のどちらかが失敗したら、士道の黒歴史を公共の場を流す。」
「いやああああああああああああああ!」
再び士道の悲鳴が響く。さすがに一護にもこの仕打ちは酷いように思えた。
「それはやりすぎなんじゃねえか。」
「あら、もしかして同情?それならやめておきなさい。実はさっきの土下座、令音に撮ってもらったのよ。もし、邪魔したのならわかるわよね。」
一護は本能的に琴里には逆らってはいけないことを身を以て感じた。少し思考して、体を窓の方へと向けた。
「わりい、俺がいたら士道の古傷を余計に広げちまうから、じゃあな。」
一護はやや焦った様子で窓から合法的に逃げ出した。琴里は額に手を当てて、『やられた』というポーズを取るが、すぐに一護を追うことを諦めた。
このあとも士道には訓練を課されたらしいが、それが原因で高校で『ダーク・フレイムマスター』と呼ばれるのは、また別のお話。