文学的表現や軍事的知識については至らない点が多々あると思いますが、皆様の御指導御鞭撻をお待ちしております。
※史実を参考にしたフィクションとなります。登場する国家、組織、人物、事件等は実在のものとは一切関係ありません。
※参考資料の掲載につきましては、一定数の投稿後にまとめて行いたいと思っております。
※SS投稿速報というサイトでも同名の作品を投稿しております。あちらのサイトとは違うペンネームになっていますが中の人は同じです。
《こちら司令部、第一次攻撃隊の損害は!?》
彼女はその時、肌を切り裂くような冷たい潮風の中にいた。
「未帰還三機、損害は軽微!」
ここは北方海域、キス島南西約百五十海里の鉄と油の香り漂う戦場。冷たい彼女らの仕事場。薄暗い墓場。墓守は彼女らの戦友、もしくは彼女らの敵だ。
無線の向こうの味方は混乱することなく、指揮官の統率のよろしきを得て自らの任務を忠実に実行しつつあった。
《こちら麻耶、水偵が敵艦隊に接触! まもなく砲戦距離に入る!》
彼女の名前は瑞鶴。正規空母として新たに艦隊に配属されたばかりの新兵だ。
背中の矢筒から一本の矢を取り出しつがえる。弦がキリキリと音を立てる。しかしまだ撃ち出さない。撃ち出せない。
《第一戦隊全艦に告ぎます。敵は我が方の航空機の攻撃により瓦解寸前です。各個射程に入り次第攻撃を開始し、これを撃滅してください!》
司令部からの連絡に内心で毒づきながら、瑞鶴はつがえた矢が撃ち出せないことにいら立っていた。宙に放たれたのちに航空機となる特殊な矢は、まだ発艦後に姿を変えるための準備が終わっていなかったのだ。矢羽に描かれた模様が、緑色を基調とし中央に赤い円があることから、この矢は零戦であることがわかる。
今までは上手くいっていたことが、いざ敵を前にしてまごついているという事実は彼女に焦りと緊張をもたらしたが、これが初めて深海棲艦を相手にしているということを思い出し、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
こんなことで手間取っていてはいけない。自分に言い聞かせる。
《了解! 戦艦榛名、砲撃開始します!》
《川内水雷戦隊、吶喊します!》
普段通りにやればいい。特別なことなんて何もない。冷静さを取り戻した瑞鶴は、つがえた矢の発艦準備が整ったことを確認した。
「第二次攻撃隊、発艦始め!」
瑞鶴はまだ知らない。
自分が戦争をしているということを。
この戦闘が始まりにも満たないということを。
地獄の苦痛をいうものを。
戦争、それは幾千幾万もの勇士たちが、自らの生命と祖国の誇りをかけてぶつかり合う、気高き魂の衝突。
戦争、それは何千年も積み重ねてきた過去から何も学ばぬ、人間たちの悲しき愚行。
繰り返される戦いの中で、人は武器を手にし、それらは兵器へと進歩を遂げた。
自らの命を守るため。一人でも多くの敵を殺すため。大切な人を失わないため。憎い者への復讐を遂げるため。さまざまな思惑が交錯しながら、兵器は人類の殺意の結晶と化してしていき、純粋な殺人マシーンへと変貌を遂げつつあった。
これは、兵器が感情を失い、人類が戦場から精神的美徳を捨て去ってしまうこととなる大きな大きな戦争の中の、ほんの些末な出来事のお話。