屍山の慟哭   作:のんぽりおじさん

6 / 11
1942年6月7日-1944年4月15日 キス島を巡る戦い

 北方海域に浮かぶキス島。この島は新大陸の“合衆国”北部州西岸から連なるアリューシャン列島の西に浮かぶ島である。1942年夏、中部極東洋で大規模な作戦が実行され、その陽動として実施された北方海域作戦において、海軍陸戦隊と陸軍が共同で進出し占領。しかし1943年の深海棲艦発現で本土から孤立、救援を求めていた。

 先述の通り四方を海に囲まれた“皇国”も深海棲艦の影響は大きく、海軍は著しく損耗しており、ちっぽけな北の島の救援どころの話ではなかった。そこで名乗りを上げたのが陸軍である。

 敗戦を重ねるも対深海棲艦対策として予算の大部分を獲得する海軍に激しい対抗心を燃やす陸軍は、北方海域の深海棲艦が活発でないことや、同海域の制空権が失われていないことを理由とし、独自のキス島支援作戦を敢行した。ここで陸軍の威厳を見せつけ、海軍の怠慢を証明することで予算を取り返すという、戦略性を度外視した政策的な作戦であった。

 作戦は空輸によって行われ、まずは臨時編成のキス島守備隊3000名を派遣。続いて物資や砲火器を輸送し、残存兵と協同でキス島を要塞化する計画であった。

 作戦は順調に推移し、新聞は久方ぶりの戦果を祝うように騒ぎ立てた。

『皇国陸軍 キス島に守備隊を輸送』『深海棲艦の海に楔を打ち込んだ陸軍』『すごいぞ陸軍! どうした海軍?』

 そして、陸軍の目論見は最悪の形で失敗した。キス島守備隊を派遣し終え、第二段階の物資輸送に移ろうとしたその矢先、深海棲艦の活動が突如として活発化したのだ。特にアリューシャン列島最東部のダッチハーバーにいると思われていた『北方棲姫』がアダック島まで進出していたことは戦局に大きな影響を与えた。食糧弾薬を満載した輸送機は敵航空機によりことごとく撃墜され、空輸能力に甚大な損害を受けた陸軍は守備隊をキス島に残したまま作戦の中止を決定した。

 やがて、陸軍によって面目を潰されていた海軍がここぞとばかりに反撃を始めた。

『陸軍守備隊キス島に孤立!』『無茶な作戦 兵の命は木の葉の如く』『海軍 陸軍の尻拭いを渋々ながら受諾』

 新聞の見出しを飾る無責任な軍高官の発言は、“皇国”陸海軍の不仲を語るに有り余る証左だった。

 

 瑞鶴がこのニュースと出会ったのは、内地で着任する鎮守府を探している時だった。国家の最終兵器である艦娘には、特別に配属先の希望を出すことが許されていたのだ。もっとも、必ずしも『希望』通りになるわけではないが。

 北方鎮守府については、最初は姉である翔鶴の配属先だったことから気にかけていたのだが、ニュースを耳にし、味方を見捨て尻尾を巻いて逃げてきた陸軍に対する怒りが、そして自分こそがキス島に置いて行かれた友軍将兵を救うのだという決意が、彼女を北端の鎮守府へ誘った。

 彼女は陸軍が嫌いだった。憲兵は支配地域で威張り散らし、大陸方面軍は皇帝陛下の裁可なしに大陸で戦争を始め、揚句の果てには大陸内部では良からぬ実験をしているとの噂もある。しかも、深海棲艦という未曽有の危機に際し、自分たちだけが利する戦車や重爆撃機のために海軍から予算を奪おうとする。艦娘たる瑞鶴の目には、自分勝手極まりない集団にしか映らなかった。

 故に、陸軍出身の葛木を嫌うのも当然と言えば当然であった。おまけにこの提督は、部下であるはずのキス島守備隊の救出作戦を練ろうとする素振りさえ見せない。瑞鶴にとって葛木は、仲良しの秘書艦と司令室にこもってデスクワークに励んでいるだけの腑抜け上司でしかなかった。

 着任初日、翔鶴に、なぜ陸軍出身の彼が海軍で提督という重役を担っているのか尋ねた。翔鶴の答えはこうだった。

「深海棲艦との戦いで艦隊指揮官が足りなくなったからだとよく言われているけど、本人に直接聞かないと本当のところはわからないわね」

 翔鶴は、この艦隊の最古参メンバーの一人だ。彼女に知らないことを知っている可能性のある人物といえば唯一、秘書艦を務める伊8しかいない。しかし、瑞鶴は葛木同様この秘書艦のことも嫌っていた。

 着任から一か月が経過した今も、二人との仲は険悪だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。