色んな作品で悪役にされ、地下世界に引きこもる。
でも、神話を読み解いた筆者は考えた。
ハデス、いいヤツじゃ……?
これは筆者が独自解釈して小説風に書いたハデスの唯一の失敗である嫁取を
おもしろおかしく書いた短編である。
ハデスという男が居た。
生まれは長兄だというのにその男は、とある偉い人のせいで末弟となってしかし、健気に生きていた。
支配する世界を決めようと言うのにクジ引きがいいなどと言い出す偉い人にしかし、平等に決めるため貴方が選んで欲しいとは言い出せない内気な性格でもあった。
兄で弟のゼウスは天を。
結局次男で落ち着いたポセイドンは海を。
クジ引きで文字通りの貧乏クジを引かされてしまったハデスは冥を治める事と成った。
かわいそうなハデス。
しかしこの冥府、またとんでもない。
紅い空に玄い雲に紫の大地を持つ地下の世界。
死者を審判し、正しくエリュシオン(俗に言う天国)とタルターロス(同じく地獄)に分け、時にハデスの住むエレボスに暮らす事を赦す。
と、ここまでが皆の知る冥府の世界であろう。
実際のところは仕事がクッソ忙しく審判待ちの魂で溢れかえり天からも海からも遠いため神々は敬遠し誰も遊びに来ないと来る。
彼を補佐するカロンやタナトスやヘカテーやミノスやラダマンテュスやアイアコスが休むように必至に頼み込んでもハデスという男はマジメなので激務でも休むと周りに迷惑が掛かると一度も休んだ事はない。
もう休めハデス。
そんなハデス、癒しを求めてペットを飼っている。
三つの狼の首を持ち、鬣は幾数種類もの蛇で出来ており、竜頭の尾を持つ黒曜犬である。
名をケルベロス。かの有名な多頭竜ヒュドラや合成獣キマイラ、二つ首の黒曜犬オルトロスと兄弟だ。
ハデスの命令に忠実で、冥府に無断で入ろうとするものを拒み、冥府から抜け出そうとする悪しき者を食い散らす番犬だ。
甘いものが大好きで賄賂に菓子を与えられて眠りこけたり、音楽が大好きであまりの心地よさにうたた寝して無許可で人を冥府に通してしまったりするが別に寝不足ではない。複数の頭が交代で寝ているからだ。
ただ、ちょっと……おっちょこちょいなだけで。
このおっちょこちょいな所が癒されるのだとハデスは言う。
また、シュミとしてガーデニングを行う。これも癒しなのだ。
ずっと癒されてろハデス。
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色々と端折ってしまった。
しかたないことだ。
突然だが本題にうつろう。
そう。この小説のタイトルにもある嫁の話だ。
そこ、メタ発言禁止とか言わない。
割と重要なんだから。
ハデスはその日も仕事をしていた。そう、過去形だ。
横で補佐するヘカテーに、ちょっと外の空気でも吸ってきたらどうですかと背中を少女のような女神であるにも拘らずぐいぐいと力強く押され、ケルベロスの手綱を持たされて散歩と相成った。
なお冥府の入口は別の人たちが大わらわで対応します。ケルベロスが抜けた穴は大きい。
さて、冥府が地下の世界とはいえ人の住む地上は眼の下である。
コレについてもいろいろとあるのだが割愛させてもらうとしよう。
散歩をして、そろそろ仕事に戻ろうかなと思ったハデスはふと冥府の地の裂け目から愛らしい声が聞こえた気がする。
疲れてるんだ。もっと休めハデス。
何てわけはなく、実際に声が聞こえたのだ。
地上の世界ではある女が花を摘んでいた。
少女から女性へと移ろい行く年のころだろうか、地に咲く花を無駄に摘み取ったりなどしていない。
彼女は神と同じ力を使い、地に力を与え、そこに咲いた花を摘んでいる。
女神であった。
名をコレー。兄弟であるゼウスの娘である。
ハデスはその場に立ち尽くした。
ケルベロスが心配そうに鳴く。
その声にハッとしたハデス。その日は仕事に戻りしかし、手につかなかった。
従者や部下は仕事以外に興味を持ったハデスに対し狂喜乱舞した。
それから数日思い悩んだ。ある時ハデスは結論付ける。そうか、これが一目惚れかと。
マジメか。
愚直で堅物で内気でマジメな青年であった。
しかし行動力はあるほうであり、彼女に直接会いに行く勇気は無いにしろ何とか現状をすすめなくては仕事が進まないと考えたハデスは相談する事にした。
誰に?兄弟でありコレーの父親であるゼウスに。
あのゼウスに。
ゼ ウ ス に 。
大事な事なので三回言った。
ゼウスと言う男は天を治める。
変幻自在の能力を持ち、破壊神と創造主を兼ねた偉大な存在である。
世界に正義と秩序をもたらす名実ともに最高の神とされている。されているのだが……。
この男、かなりの浮気性であった。
実の姉ヘラを嫁として娶り永遠の愛を誓い合ったにも拘らず、地上をして女を見ては想い人に変身して抱き、海をして女神を見ては憧れの神に変身して抱いた。
一度しか抱かなくても何故か百発百中で子供が出来た。
もちろんヘラにぶん殴られたり愛想を付かされかけたりするがそれでも懲りない。
フェニキアという王は可愛らしい娘をもつが、牛に変身した彼がそれを誘拐。もちろん抱いた。
神にしてあるまじきやつだと恐れ娘を隠したアルゴス王も雨に変身した彼を止められず、娘が抱かれた。
おそらくは書ききれぬほど女を抱き、子供を生ませているのでここら辺で割愛しよう。
筆者のSAN値も死ぬ。
さて、近親相姦でヘラを娶っているがなんと三人いる姉のうち二人を嫁にしているうらやまけしからん男でもある。
コレーの母であるデメテルもまた彼の姉であった。
手を出していない姉はヘスティアという。この姉に対しては誰お前状態のシスコンを見せ付けるので語らないほうがいいだろう。
筆者が一時的狂気に陥る。
ゼウスに恋愛相談をした、という事を上記でどういう意味か理解していただけただろうが。
ハデスにとっては大切な兄弟であり、たくさんの妻を娶った()百戦錬磨の達人である。
ハデスは正直に話した。兄弟の娘に一目ぼれしてしまった。私はどうしたらいいのか、と。
ゼウスは豪快に答える。兄弟よ、お前の好きにすればいいだろう、と。
ハデスはその答えに心底困ってしまった。婦女子を好きにするなんてとんでもないと考えたのだ。
しかしゼウスは言う。男は多少強引なほうが良い。女をものにするには必要な事だ。
この言葉にハデスは……なんというか兄弟に対してやたらと信頼感MAXだったので信じ込んでしまった。もしかしたらケルベロスのおっちょこちょい、ハデスに似たのかもしれない。犬は飼い主に似るというから。
結婚の許可をもらい、コレーの元へ向かったハデスはゼウスの言う通りに誘拐を実行した。
幸いにして未だ地上にいたため、冥府に近いとされる美しい花、水仙楽を使い誘拐することが出来たハデスは意気揚々と冥府に帰る。
自宅に丁重に招き、さあ告白だという段階になって、気が付いた。
コレーの様子がおかしい。
コレーは自分がどうして冥府にいるのか理解していないようだった。
恐る恐るハデスは聞く。現状を理解しているか、と。
案の定理解していなかったコレー。ハデスが事情を説明する。
コレーは母が恋しいと泣き出してしまい、ハデスは自分の何がいけなかったのかを悩み、膠着状態に陥ってしまった。
さて地上ではコレーがいなくなってしまったと大騒ぎ。
デメテルはハデスが娘を連れ去ったと聞き、疑問に思う。
あのマジメで内気な兄弟が、こんな強引な手に出られるだろうか、と。
そして同時に気づいていた。こんな手をよく使う、バカの存在を。
あとは、わかるな?
ゼウス、ぼっこぼこ。
しかもゼウスは説明責任を怠っており、妻どころか娘にすら話していないという体たらく。
ダメおやじである。
ぼこぼこにされても抗議の声を上げられても俺許可出しちゃったしー?と何吹く風のゼウスに対して怒り心頭のデメテルは豊穣神としての役割をボイコットした。
地上では人間たちが神々の壮絶なお家騒動によって大飢饉に見舞われることとなる。
さすがのゼウスもこれには抗えずハデスに娘を返してもらうよう頼み込むのだった。
そんな事になっていたとは、とハデス。驚くと共に納得する。
コレーが泣くのも仕方が無い。しかし同時に困ってしまった。
泣きやまない彼女に対し彼がとった行動は餌付け。
柘榴を手渡し目の前で食べて見せ、彼女を泣き止ませようとした。
おずおずと手を伸ばし一粒、二粒、三粒、四粒と柘榴を食べたコレーに笑顔を見せたハデスは直後固まった。あれ?冥府の食べ物って冥府の住人しか食べちゃいけなかったような……。
そう、おっちょこちょい。住人以外が冥府の食物を食べた場合、地上は愚か天にも海にも帰れない。
気が付いたが時既に遅し。規則で帰れなくなってしまった彼女を何とか地上に帰してやりたいハデスは考えた。そうだ、神々の裁判で彼女に権利を与えれば良い、と。
元々マジメな彼だ。行動も早い。
コレーに対し、一時的に女王の権利と妻としての名「ペルセポネ」を与えた上で裁判を起こした。
ペルセポネを冥府の柘榴を食べた数につき一月を冥府にて過ごし、それ以外は地上に住むよう出来ぬかと。
神々の掟は強く、神はもちろん人や動物、植物を縛る。
そのための裁判である。裁判にて神々の掟を破らずに済むならそれでいいと考えての事だった。
裁判にからくも勝利したハデスは、今までの行いを侘び、正式にプロポーズ……できなかった。
ここでも悩むのだ、彼は。兄弟の教え通りに事を運べなかった私が、彼女に告白していいものかと。
しかしコレーは、ペルセポネはハデスと結婚する事を望んだ。
彼の誠実さに惹かれ、この人となら結婚しても良いと。
ハデスが幸せを手にした瞬間である。
ハデスお前やっぱいいヤツだよ!