孤高の白髪鬼~銀狼と鮮血嬢、魔女を添えて~   作:鎌鼬

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第13話

 

 

「さぁ、ってと」

 

 

そう言ってヴィルヘルムはノロノロと立ち上がる浮浪者と対峙する。背後には腰を抜かしたのか座り込んでいるマリーア、しかも袋小路に飛び込んだので逃げ場が無い。なのでヴィルヘルムは必然的に浮浪者の注意を自分に向けることにする。

 

 

「欲求が溜まったか?ならその手の店に行けよ。誰彼構わずに襲おうとしてんじゃねえよ。それともそう言うのが趣味なのか?だったらそう言うのをしてくれる奴を探せよ」

「ウゥ……!!」

 

 

ヴィルヘルムの目論見通りに浮浪者はヴィルヘルムに血走った目を向ける。それはさっきまでマリーアに向けていた色欲に塗れたものでは無く邪魔をされた事に対する怒りを含んでいた。

 

 

「ウガァァァァァァァ!!!!!!」

 

 

浮浪者がヴィルヘルムに向かって突進する。見たところ武術の心得がある様な動きでは無い。対するヴィルヘルムは自然体、ダラリと手をぶら下げたままの姿勢。これはヴィルヘルムが嘗めているからではなくこの姿勢がヴィルヘルムにとって行動しやすいという理由だからだ。

 

 

「おっ、らぁ!!」

 

 

足の裏で押し出す様な蹴りが浮浪者の腹部に突き刺さる。突進の勢いにヴィルヘルムの常人よりも高い身体能力から放たれる蹴りで浮浪者はヴィルヘルムとマリーアから距離を取らされる。

 

 

「先に謝っとく、悪い」

「ふぇっ!?ちょ!!」

 

 

その隙にヴィルヘルムはマリーアの首根っこを掴みーーー片手で浮浪者の後ろに向かって放り投げた。山なりになる様に投げたので浮浪者の手が届かない高さでマリーアは飛んでいく。

 

 

「ロートスゥ!!」

「あいよ!!」

 

 

投げられたマリーアは浮浪者の後ろにいたロートスに受け止められる。手荒な事をしたくは無かったのだがこの方法が一番安全そうだっだのだ。言い訳をするつもりは無いので後で謝って許してもらおうとヴィルヘルムは考えた。

 

 

浮浪者の目にはヴィルヘルムしか写っていない。欲求を満たそうとするのを邪魔したヴィルヘルムを睨みつける。それを見てヴィルヘルムは違和感を感じた。浮浪者が痛がる素振りを全く見せていないのだ。ヴィルヘルムの蹴りはかなり強く、本気で蹴れば憲兵の隊長でも胃液を撒き散らして悶絶する程の威力なのだ。それなのに浮浪者は口から胃液らしき液体を垂らしているものの痛がっていない。

 

 

「痛覚がねぇのか?」

「ウガァァァァァァァ!!!!!!」

 

 

観察をもう少ししていたかったが再び浮浪者が突進をしてきた。痛みが鈍い奴とほ何度か喧嘩をした事があるヴィルヘルムだったが痛覚が無い相手と戦うのは初めてなのだ。

 

 

掴もうと伸ばされた手を取って足払い、宙に浮いた浮浪者の背後に回る様にして頭を掴み重力で自然落下を行う。その結果、浮浪者は叩きつけられる様に顔面から路面に落ち、腕の関節を極められながらうつ伏せになる。痛覚が無いとは言えど人間、だからヴィルヘルムは組み技で相手を拘束する事を選んだ。こうなると自分も動かなくなるのだがその間にロートスに憲兵を呼んできてもらうつもりだったのだ。

 

 

そしてその考えは外れる事になる。

 

 

「ウガァァァァァァァ!!!!!!」

「マジっ、かよ!?」

 

 

浮浪者が滅茶苦茶に暴れーーーボクッと関節が外れる感触がヴィルヘルムの手に伝わる。関節が外れたことで拘束が解かれて力任せに振るわれる浮浪者の裏拳がヴィルヘルムに向かう。拘束が解かれたとわ言っても浮浪者の体制は未だうつ伏せ、苦し紛れの一撃で驚異は無いと判断してこのまま押さえつける事に集中する。

 

 

そして裏拳がヴィルヘルムのこめかみに当たりーーーヴィルヘルムは壁に叩きつけられた。

 

 

「グギッ!?」

 

 

壁に叩きつけられたことと殴られたことによる痛みと予想以上の力強さにヴィルヘルムは混乱して動きを止めることになる。立てないという訳ではないが頭を殴られた事で脳震盪を起こしたのか視界が揺れている。浮浪者は暴れたことで関節が外れた腕をダラリと下げているもののヴィルヘルムに向ける敵意は衰えていなかった。

 

 

「ヴィルヘルム!?」

 

 

浮浪者の強さか、ヴィルヘルムが一撃でグロッキーになっているからか、あるいは両方なのかロートスが驚いた声をあげる。

 

 

「ったくよ……明日は俺非番なんだぜ……?折角ロートスとメルクリウスと飲んでいい気になってたのによ……」

 

 

ぶつぶつと呟きながらヴィルヘルムは縋っていた壁から離れる。未だに視界は揺れているために足元が覚束ない。殴られた時に切れたのか、ヴィルヘルムのこめかみからは血が流れている。

 

 

「姉貴とアンナと買い物する約束していたのによ……ハハッ、怪我しちまったよ……二人にいらねぇ心配させちまうな……」

 

 

口元まで垂れてきた血を舐め取り、服の袖で顔を拭う。

 

 

「ーーーどう責任とってくれんダァ!!!!テメェ!!!!」

 

 

浮浪者に向けられたヴィルヘルムの顔はーーー怒り一色に染まっていた。そんなヴィルヘルムの姿を見てロートスは浮浪者に向かって心の中で黙祷を捧げる。もはやヴィルヘルムの心配などしていない。ブチ切れたヴィルヘルムの相手になる存在などロートスは一人しか知らないからだ。

 

 

「ウガァァァァァァァ!!!!!!」

「さっきからウッセェんだヨォ!!」

 

 

三度繰り返される浮浪者の突進、ヴィルヘルムは伸ばされた手をかわし、浮浪者の膝を本気で蹴り抜いた。バギィと湿った様な音を立てて浮浪者の膝が本来曲がるべき方向とは真逆に曲がる。それで浮浪者は体制を保てずに崩れる事になる。例え痛覚が無い異常者だとしても足がまともでなければ立つ事は出来ない。

 

 

「キッタネェ手で俺の事殴ったよナァ!!」

「ついでに追い打ち!!」

 

 

すかさずヴィルヘルムは追撃で浮浪者の外れている腕とは反対の腕を踏み抜く。さらにそれに便乗する様にロートスが浮浪者の足を踏み砕いた。両手両足が使えない様になり、浮浪者は芋虫の様にノソノソと動く事しか出来なくなる。

 

 

「ッテェ……」

 

 

過剰すぎる無力化をして怒りが治ったのかヴィルヘルムは頭を押さえながら壁にもたれかかり崩れ落ちた。怒りで忘れているが今ヴィルヘルムは脳震盪を起こしているのだ。

 

 

「ヴィルヘルム!!」

「騒ぐな……頭に響く……医者呼んでくれや……」

「分かった!!スゥ……お医者様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「頭に響く言ってんだろうが!!」

「ここにぃ!!怪我人がいまぁす!!」

「そんなんで来るわけないでしょ!!速く呼ばないと!!」

 

 

マリーアがヴィルヘルムの上着を羽織りながら駆け寄ってくる。自分の事を助けてくれたヴィルヘルムの心配をしているようだ。怪我をしているというのにふざけた事をしているロートスへの怒りを隠す事なく医者を呼ぼうと駆け出そうとした時だった。

 

 

ドタバタと騒がしい音がしてランプを片手に持った人たちがこちらに向かってくるではないか。

 

 

「患者はどこだ!!」

「私が医者だ!!」

「私も医者だ!!」

「私だって医者だ!!」

「ヒャッハー!!新鮮な患者だぜぇ!!」

「痛がる患者はただの患者だぁ!!痛がらない患者はよく訓練された患者だぁ!!」

 

 

彼らの正体は医者だった。ふざけた呼び方で本当に医者が来た事に唖然とするマリーアに向かってロートスがサムズアップをする。それにイラっとしたヴィルヘルムがそこら辺に落ちていた石ころをロートスに向かって投げた。

 

 

「……何よこれ」

「これがドイツだよ」

「わけがわからないわ……」

 

 

悪ふざけみたいなノリで本当に医者が来た事を認めたく無いマリーアをヴィルヘルムは笑う。初めてああいうノリを見たロートスもマリーアの様な反応をしていたからだ。

 

 

マリーアがロートスの様にドイツに染まるのか、それとも染まらずにいられるのかヴィルヘルムは気になったが頭痛が酷くなった事と、血を流しすぎた事で意識が朦朧としてくる。

 

 

「あぁ……悪りぃ……落ちるわ……」

「えっ!?ちょっと!!しっかりしなさいよ!!」

 

 

なんとか意識を保たせようと心配そうな顔をしながら身体を揺らしているマリーアの顔を見ながら、ヴィルヘルムは意識を失った。

 

 

そして、今夜のこの出来事がドイツを騒がせる事件の始まりとなる。

 

 

 






はじめに、ロリババァ!!の名前がアンナたんと被るのでルサルカと名乗る様になるまではマリーアとします。

この小説で初めての戦闘シーンとなりました……だけど相手は浮浪者です。なんか納得いかない……

ドイツ式タイホジツ、それは相手の四肢を粉砕する事である。


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