孤高の白髪鬼~銀狼と鮮血嬢、魔女を添えて~   作:鎌鼬

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日間ランキング一位を見て心臓が止まるかと思いました。

そして隊長の人気に草不可避、みんな隊長大好きね……




第15話

 

 

「いよっす、隊長お久っス。生きてたんすね」

「拘束がキツかったら死んでたところだったけどな……」

 

 

休養を終えたヴィルヘルムは三日ぶりに詰め所に顔を出していた。話しかけられた隊長は火炙りにされたことを思い出して遠い目をしている……だけども火傷一つ残っていない辺り、人の枠組みからはみ出しているのでは無いかと思われる。

 

 

そんな憲兵の詰め所だったが……今日は隊長以外に誰もいなかった。いつもなら事務仕事をしている憲兵がいるのだがこの日に限っては机の全てが空席、上には途中で投げ出したと思われる書類が残っている。

 

 

「やっぱりあの浮浪者関連っすか?」

「あぁそうだよ、他に話には出てないが薬物が絡んでるとなると早期発見が好ましいからな。百年位前に起きた清とイギリスのゴタゴタを知ってるか?」

「……あぁ、阿片戦争」

 

 

阿片戦争、それは要するに阿片を売り込んだイギリスと阿片を持ち込まれた清との間で起こった戦争である。イギリスが阿片を清に輸出した結果、下層民に阿片が広まり、健康を害する国民が増えた。その事で清は商人たちに阿片の持ち込みを禁止させたがその事でイギリスの怒りを買い戦争へと発展することになった。

 

 

「もしもこの国が清みたいなことになってからでは遅い。だから上層部も緊急の任務をしている者以外を総動員でこの事件を解決しろとさ」

「ふ〜ん……ま、それには俺も賛成っすよ。薬物中毒者になってアヘ顔晒してる街なんて住みたく無いっす」

「つーわけでヴィルヘルム、休養明けで悪いがお前も情報集めてくれ。最悪薬物の出所を見つけてくれたら上がどうにかしてくれるらしいからよ」

「なんか隊長が隊長に見えるっす」

「俺は隊長だからな……!!」

 

 

隊長が隊長らしいことをしていることに違和感を拭いきれなかったがそれでも薬物中毒者が増えるよりはマシだと割り切ってヴィルヘルムは情報を集めるために見回りに向かおうとする。すると隊長がヴィルヘルムのことを呼び止めた。

 

 

「あー待て待て、言い忘れてたことが二つある。一つは今回は単独行動が認められていない。何人かで組んで動くことになるがドタバタしていてな、色々と部署がごちゃ混ぜになってる。そいつらとの顔合わせが昼にあるから」

「先に言えや駄隊長が……!!で、もう一つは?」

「なんでも科学者さんが被疑者と対峙したお前と話したいんだとよ。確か名前はーーー」

「失礼、ヴィルヘルム・エーレンブルクはおられますか?」

 

 

隊長が科学者の名前を告げようとした時に詰め所を尋ねる者がいた。声をかけられた事で隊長とヴィルヘルムの目線が入り口に向けられる。そこに立っていたのは色白で手足の長い痩躯の男。

 

 

「ヴィルヘルムは俺ですが……」

「おぉ!!貴方が今回のアレと対峙したという憲兵ですね!!あぁ、申し遅れました」

 

 

その男はヴィルヘルムのことを見ると興奮した様子で詰め寄って来たが自己紹介をしていないことに気がつき、演技がかった礼をした。

 

 

「私は軍属の科学者のシュピーネと申します。以後お見知り置きを、ヴィルヘルム・エーレンブルク」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「安モンのコーヒーですがどうぞ」

「これはこれは、ありがとうございます」

 

 

詰め所にある応接室でヴィルヘルムはシュピーネと対峙していた。隊長も人手不足なのかヴィルヘルムに必要な事だけ告げて見回りに向かってしまっている。

 

 

ヴィルヘルムはコーヒーを飲んでいるシュピーネのことを密かに観察していた。第一印象としては痩せすぎているので髑髏のような印象を受けたのだが役者染みた物言いの割には礼儀正しい人物だった。話し合いに移る時にもヴィルヘルムが病み上がりだという理由で座れるところで話そうと言ったこともあってヴィルヘルムの中でシュピーネの印象は割と良かったりする。

 

 

「で、俺に何を聞きたいんすかね?シュピーネセンパイ」

「っ!?貴方!!今私のことを何と呼びましたか!?」

「え?いやセンパイって呼んだんすけど……不味かったすか?」

 

 

シュピーネのことをセンパイ付けで呼んだ瞬間にシュピーネはクワッと目を見開いてヴィルヘルムに詰め寄って来た。憲兵ノリで話したことが不味かったかとヴィルヘルムだがそれは杞憂だとすぐに分かる。何故なら……シュピーネが涙を流しながら理由を語り出したからだ。

 

 

「……科学者として働いて早二十数年間……その間誰からも避けられて、新入りから『あの人って何だか小物臭いよね〜』なんて陰口を叩かれていた私のことをセンパイと呼んでくれるとは……!!」

「あー……苦労してたんすね……」

「えぇ……!!分かってくれますか!!」

 

 

ヴィルヘルムからすれば自分よりも先に軍へと所属しているのだからという理由でのセンパイ付けだったのだがシュピーネからすれば感涙するレベルで嬉しかった事らしい。その姿を見て隊長が隠していた茶菓子をそっと差し出したヴィルヘルムを誰が責められようか。

 

 

「愚痴なら幾らでも聞くんで先に話を済ませましょうや?こんな事をして時間を無駄にしたくないっすから」

「おっと、失礼しました」

 

 

涙を拭っていたハンカチをしまうとシュピーネの顔付きは真面目な物に変わっていた。ヴィルヘルムも同じ様に真面目な表情になる。下手をすれば国を根幹から揺るがしかねない事態なのだ。いつものようにふざけている余裕など無い。

 

 

「ヴィルヘルムは浮浪者と対峙したと聞いています。その時に感じたことを聞かせてもらえますか?」

「その話ならロートスとマリーアがしたと思うっすけど……」

「直接対峙した貴方から聞きたいのです」

「はぁ……あの日は夜にロートスと飲んでて、それで帰る時にマリーアが息を荒くしてる浮浪者に追いかけられてたんすよ。で、それを不審に思って追いかけたら襲われそうになってたんで割り込んで、そんで鎮圧したっす」

「その時の浮浪者の様子は?」

「正気とは思えなかったっすね。目なんて血走ってて、しかも痛がってる様子もなし、おまけに普通じゃ考えられないくらいの馬鹿力で殴られたっす。それが俺の休んでた原因なんすけど」

「ふむ……そうなるとやはり……」

 

 

ヴィルヘルムから話を聞いて何かを確信したのかシュピーネは凄まじい勢いで紙にペンを走らせている。

 

 

「話せる範囲でいいから考えを聞かせて貰ってもいいっすか?」

「いいでしょう。遅かれ早かれこの事は報告するつもりでしたからね。貴方が対峙した浮浪者は恐らくこの薬物の重度の中毒者だったと思われます」

 

 

シュピーネが懐から出したのは葉っぱの状態で乾燥されている物とその葉っぱを粉末上にしたと思われる粉末。どちらも厳重に封をした状態で瓶に入れられている。

 

 

「罪人の何人かにこの薬物を服用させたところ誰もが無気力になりました」

「人体実験っすか……」

「お気に召されませんでしたか?」

「……いや、必要な事だと分かってるんで」

 

 

罪人による人体実験をしたと聞いてヴィルヘルムは僅かに眉を潜める。この薬物が如何様な効果を持つのか知らなければならないとは分かっているが罪人とはいえども人体実験をしたと聞いて喜ぶ者は少ないだろう。不快ではあるのだが必要な事だとヴィルヘルムは無理矢理に自分を納得させる。

 

 

「話を続けましょう。その罪人たちを調べましたが誰もが貴方が仰っていたような症状の者はいませんでした。強いて言えば痛覚が鈍くなっているようにも思えましたが叩いた後にその部位をさすっていたので痛みを感じていたと思われます。恐らく、あの薬物を何度も服用を繰り返すことで副作用により脳の機能を麻痺するのだと思います。人は脳によって身体を動かし、痛みを感じ、本能を抑制します。その機能が壊されて常識外れの怪力や無痛、それに制欲などをさらけ出すなどをしたのでしょう」

「……薬物で人を操ろうとしているのか?」

「それは無いでしょう。薬物を使用した者は誰もが無気力になってとてもじゃないですが命令を聞けるような状態ではありません。しかし気になるのは薬物の効果ですね。幻覚作用があると思われますが薬物の効果が切れた罪人から話を聞いたところ、夢を見ているようだったと陶酔した様子で話していました」

「……夢を見られる薬、か」

 

 

聞けば聞くほどに恐ろしい薬である。使えばどこでもどんな状況だろうとま夢の中に浸る事ができる。そしてそれを何度も使っている内に脳の機能が壊れて痛みを感じずに欲望のままに動く廃人が完成する。

 

 

ただ気になるのはこの薬をばら撒いた人物は何を考えているのか分からなかった。阿片戦争の時のように誰かが利益を求めてばら撒いているのか?それならば始めに見つかった中毒者が浮浪者というのがおかしい。浮浪者は日々の生活費を稼ぐのも難しいくらいに逼迫している、そんな存在に薬物を売ろうとしても食料を買う事を優先して利益が望めると思えないのだ。

 

 

「……っと、もうこんな時間ですか。なかなかに話し込んでしまったようですね」

「ん?……もう昼前っすか……」

 

 

応接室にかけられている時計を見れば時刻は11時半、昼には調査の同行者たちと顔を合わせる事になっているのでいい時間ではある。

 

 

「お互いに忙しい身なのでこれで私は失礼させてもらいましょう。ヴィルヘルム、もし何か相談事があるならこの私が乗りましょう。何故なら私は貴方のセンパイなのですからね!!」

 

 

よほどセンパイ呼びをされたことが嬉しかったのかシュピーネはセンパイの部分を強調しながら胸を張ってそう告げた。その様子が道化のようで可笑しかったヴィルヘルムだったが今回の調査をするにあたって必要になりそうな物が出来たことを思い出す。

 

 

「なら早速で悪いんすけど……丈夫な警棒の手配とか出来るっすか?あんなの相手にするなら木製だとどうにも心細くて」

 

 

憲兵たちには銃と警棒が支給されている。銃ならばいくら小型でも当たりどころによって相手を殺す事ができる。しかし木製の警棒だとそれは厳しいだろう。通常ならこの装備で大丈夫なのだが相手は痛みを感じない薬物中毒者、人を殺す事には一応の忌諱を感じているものの自分の命が危ないとなればそんなことを言っていられなかった。

 

 

「ふむ、確かに支給されているのは木製。それでは重度の中毒者のあいては厳しいですね。分かりました、センパイであるこの私が!!丈夫な警棒の手配をして差し上げましょう!!」

「いよっ!!流石センパイ!!」

「ムハハハハッ!!」

 

 

たった数時間話しただけであるが、シュピーネの扱い方が何となく分かってきたヴィルヘルムだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12時、ヴィルヘルムは詰め所前に立っていた。隊長からの話によるとヴィルヘルムと組む人物たちがここに集合するらしい。細巻きのタバコを吸いながら待っているとそうだと思われる人物たちがやって来た。その先頭に立っているのはヴィルヘルムも知っているロートスとマリーア、その後ろには軍帽を被った筋骨隆々とした身体の男と金髪の長髪をポニーテールで纏めた少女の姿があった。

 

 

金髪の少女は兎も角、筋骨隆々の男は自分よりも階級が上の人物だと分かる風格を持っている。吸っていたタバコの火を踏んで消して男に向かって敬礼をする。すると笑顔でやって来たロートスに腹パンされた。

 

 

「グエェ……!!」

「敬礼なんて似合わねぇよぉ!!」

「……殺す!!」

「……」

「えぇ……」

「慣れなさい、この辺りのは大体こんなノリだから……」

 

 

腹パンしてきたロートスに切れたヴィルヘルムが取っ組み合いを始める。筋骨隆々の男は黙って見ていたが金髪の少女は明らかに二人の姿を見てドン引きしていた。それを諭しているマリーアだったが遠い目をしているのは仕方の無い事だろう。

 

 

「オラオラオラァ!!」

「チョ!!タンマ!!謝るから許して!!」

「ほらほらもう止めなさ〜い。この子ドン引きしてるから〜」

 

 

いつの間にかマウントポジションを陣取って顔面にパンチをしていたヴィルヘルムと下になりながら必死にパンチを捌いているロートスをマリーアが仲裁に入る。躊躇いも無く顔面を殴りに行くヴィルヘルムも、開幕で迷う事無く腹パンをしたロートスもなかなかに染まっていると言える。

 

 

「チッ……」

「お前ガチの舌打ち止めろよ……」

「……仲が良さそうだな、ロートス」

「そらもう!!俺とヴィルヘルムは親友だからな!!」

「あ、自分男色趣味の方とはちょっと……」

「……」

「だからそれはもう止めろよぉ!!あとミハエルはさりげなく俺から離れるなぁ!!」

 

 

男色疑惑のあるロートスから離れた事でヴィルヘルムは筋骨隆々の男を見てサムズアップをする。すると彼もサムズアップで返してくれた。どうやらお堅い思考の持ち主では無さそうだ。

 

 

「はいは〜い、話が進まないから私が仕切るわよ〜。まずは自己紹介でもしましょう」

 

 

話が進まないことに業を煮やしたのか強引にマリーアが修正に入った。それを見たヴィルヘルムたちは何事も無かったかのように集まりだす。それを見た金髪の少女は一層困惑する。

 

 

「私はアンナ・マリーア・シュヴェーゲリン、遺産管理局で事務仕事をしているわ」

「俺はロートス・ライヒハート、マリーアさんと同じ遺産管理局だけど俺は収集と整理の方の所属だな」

「俺はヴィルヘルム・エーレンブルク、ここの憲兵の所属だ」

 

 

マリーアとロートスはそこそこに交流があるので然程重要では無いが残る二人は初対面、どの様な人物か知るためにヴィルヘルムは集中することにする。

 

 

「……ミハエル・ヴィットマンだ、この班の指揮を任されている。喋るのは得意では無いが……よろしく頼む」

 

 

筋骨隆々の男ーーーミハエルが軽く頭を下げる。班の指揮を任されているとだけあって階級が上な事は明らかなのだがこうして迷う事無く頭を下げる姿を見て悪い奴では無いと分かる。

 

 

「ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼンです!!士官学校に在学中の身ではありますが粉骨砕身努力します!!よろしくお願いします!!」

 

 

金髪の少女ーーーベアトリスが背筋を伸ばして綺麗な敬礼をした。表情が堅いところを見ると緊張しているようだ。しかし、ヴィルヘルムにとって注目すべきところはそこでは無かった。

 

 

「士官学校?在学中?マジなの?」

「はい!!」

「……そこまで人手が無いのか?」

 

 

将来的には軍属になるとはいえ、未だ学生の身であるベアトリスまで調査に引っ張り出しているのを見てヴィルヘルムはドイツの将来が不安になった。

 

 

 





シュピーネ、マッキー、ベア子登場です。

シュピーネはwikiに元科学者とあったので科学者として登場。今回の事件でばら撒かれている薬物の効果や副作用を調べています。そしてヴィルヘルムからのセンパイ呼びに気分を良くしてくれる扱いやすい人です。

マッキーはミハエルとして登場。ロートスとはすでに友人はありますが所属している部署の違いからヴィルヘルムは交友はありません。最近の悩みはロートスのホモォ疑惑を否定しきれない事。

ベア子はまだ在学中、つまりは正式には軍属では無く、また赤騎士ことエレオノーレお姉様と出会っていません。そしてドイツ汚染のされていない数少ない存在彼女は一体いつドイツに染まるのだろうか……

薬物の効果のまとめ
・服用すると無気力になる。その間のことを服用者は夢を見ていたようだったとアヘ顔で語る。
・重度の中毒者になると脳の機能が一部麻痺する。その結果無痛症、脳のリミッター解除による怪力、欲求の肥大化が見られる。
・なお、薬の効果が切れるとそれらの症状が緩和される。その時に怪我をしていると一気に痛みが襲ってきてショック死する。


この先、ヴィルヘルムはこの四人と一緒に事件の調査に向かいます。なんだろうか、ヴィルヘルムとマッキーがいるだけですごく安心する……

感想、評価をお待ちしています。

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