「「「「「乾パァイ!!」」」」」
ビールが並々と注がれたジョッキを叩きつけ、中身を零しながら口に運ぶ。キンキンに冷やされた液体が苦味と共に胃に落ちる感覚は何とも心地良かった。
「ぷっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「おぉ、上がったと思ったら一気に下がったぞ」
「上がり下がりの激しいことで」
ビールを一気に飲み干したベアトリスが落胆と共にテーブルに沈むのを見てロートスとマリーアは冷静にそう言った。
「そこまで落ち込むことか?ベア子」
「ベア子言わないでください!!そりゃあ落ち込みますよ!!一日聞き込みしてひとっつも有力な情報が出なかったんですから!!」
口の周りについたビールの泡を拭いながら二杯目のビールを注文しているヴィルヘルムにベアトリスが噛み付く。今日彼らが酒場に集まったのは親睦を深めるためという理由だが張り切っていたベアトリスは何も情報を入手できなかったことに落ち込んでいる様だ。
「まぁまぁ、たった一日聞き込みした程度で簡単に情報集まるなら苦労しないわよ。元気出しなさいって」
「うぅ〜マリーアさぁん……ぐあぁ!!」
マリーアが励ますことで半泣きになっていたベアトリスは何とか気を取り直してツマミに頼んでいたソーセージに手を伸ばした。しかしソーセージを口に運んだ瞬間に椅子から転げ落ちて悶絶し始めた。原因はベアトリス以外の全員が分かっている。ベアトリスが食べたソーセージにマリーアがコッソリとタバスコをかけていたからだ。不意打ちで辛い物を食べさせられたら悶絶でもしたくなるだろう。
ベアトリスの悶絶している姿を見て笑みを浮かべているマリーアの顔をヴィルヘルムは見た。どうやらマリーアも見事にドイツの芸風に染まったようだ。
「すまない、お代わりを頼む」
「ミハエル飲むの速ぇえよ!!」
「もう五杯目かよ……!!」
「負けてられないわね……!!すいませーん!!コッチもお代わり!!」
「無視っ!?無視ですかぁ!?」
生還したベアトリスが見たのは悶絶している自分のことを無視してビールの飲み比べをしている四人の姿。男衆はまるで水でも飲んでいるような勢いでジョッキを開けているし、マリーアに至っては両手でジョッキを二杯ずつ持っている。
「ーーーんで、今日の事についてだが」
ベアトリスを除く全員がジョッキを十開けた所でヴィルヘルムがそう切り出す。真面目な話になったと分かったのか三人は真剣な表情になった。ベアトリスは変わり様についていけなくて困惑しているが。
「成果をまとめると、下層から上層の住民に聞いてもそれらしい物には心当たりがないって事だよな?」
「おう、ぜんぜんだったな」
「こっちもダメね、そんな話は初めて聞いたって反応されたわ」
「……すまない、口下手で話を聞けなくて……」
「何も情報を得られなかった私よりも良いじゃないですか……」
ベアトリスは情報を得られなかったことに気落ちしており、ロートスとマリーアは大して気にしていない様に感じられる。ミハエルに至っては全くの別問題であるように感じられるが。
「あぁそうだ、情報が手に入らなかった。だからこそ、それが情報となる」
「何か分かったんですか?」
したり顔で笑うヴィルヘルムにベアトリスが食いつく。
「多分憲兵連中なら分かると思うぜ?あとロートスとか」
「まぁ、確かにヴィルヘルムの言いたい事は分かるが……ちょっと信じられなくてな」
「嘘……ドイツ随一の問題児の集まりと言われている憲兵に関わってる人が分かるだなんて……」
「本当の事だが張っ倒すぞ!!」
「そうだ!!確かにキチガイの集まりだが言って良い事と悪い事があるだろう!!」
「イヤイヤ、二人とも怒るのなら否定しなさいよ……」
ベアトリスの言った酷いことをさらりと肯定する二人に頭を抱えながらマリーアは突っ込む。
「で、一体何が分かったのよ?」
「あぁ、今日聞いたのは下層から上層の住民だ。そいつらが知らなかったって事はそこにはまだ薬はバラ撒かれてないって事だ」
「……そうなるな」
ヴィルヘルムの言葉をミハエルは肯定した。彼らが今日聞き込みをしたのはこの街に住む一般的な生活階級の住民たち。彼らが嘘を吐くとは思えないので本当に彼らの生活階級の内では薬は蔓延していないのだろう。その事実からヴィルヘルムは一つの仮定を思いついた。
「だったらバラ撒かれているのはそれよりも下か上だ」
「下か上って……貧困層や上流階級の人間って事ですか?」
ベアトリスの言葉を頷きで返す。言われてみれば簡単な話だ、そこに無いのなら他の場所にあるはず。消去法的な考えを思いつかなかったベアトリスは自分の事を殴りたくなった。どうやら張り切り過ぎて視野が狭くなっていたらしい。
「そしてあの時の被疑者は浮浪者……つまり貧困層の人間だった。ならそこを調べれば良いだけの話しだ」
「うわぁ……言われてみれば確かにそうね」
「ま、当たってるかどうか怪しいんだけどな」
「……しかし、貧困層か」
貧困層という言葉にミハエルは顔を顰める。そこに住まう住民は今日を生きる賃金を得るのがやっとの生活を営んでいる。それなのに言い換えれば嗜好品とも言える薬に手を出す余裕など無いはずだ。
「言いたい事は分かる、でも他に心当たりが無いからそこを調べるしか無いだろう」
「でもどうやってそこに潜入するつもりですか?」
ベアトリスの疑問は最もだ。貧困層と言われてまず思いつくのはそれよりも上の階級との絶対的な溝だ。自ら堕ちたのか誰かに蹴落とされたのかは知らないが貧困層の住人が上の階級、しかも自分たちのような軍属の者に協力をするとは考えられない。もし行ったとしたら間違いなく敵対行動を取られるだろう。情報を集めるだなんて出来るわけがない。
「フッフッフッ……実は俺はガキの頃、というよりも憲兵になる前までは貧困層にちょくちょく顔出してたのよ。その縁を使えば情報を集められるはずだ」
「……この人なんで軍人なんてやってるんですか?」
「おい」
「姉を養うためだとさ。泣かせる話じゃないか」
「えっ!?……似合わない……」
「ドン引きする程か!?」
「……苦労したのだな、ヴィルヘルム」
「ミハエルさぁん、ガチトーンの同情は心に刺さるからやめてくんないか?」
「ふーん……へーん……」
「マリーアが何考えてるのかわからねぇ……!!」
ドン引きするベアトリス、同情して肩を叩くミハエル、何かを考えているマリーアと若干混沌とした空気になりつつあった。ひとまずヴィルヘルムは立ち上がってベアトリスに腹パンして、ついでにロートスの顔面に膝蹴りを入れといた。
「ぐぇ……」
「鼻がぁぁぁぁぁぁぁ!!なんで俺まで!!」
「何となくだ」
「それじゃあ、明日は貧困層を調べるって事で」
「ちょい待ち、貧困層に入るについてしなくちゃいけない事がある」
神妙な顔付きになったヴィルヘルムに吊られるように自然とその場の空気が張り詰める。ベアトリスが腹を抑えながら席に着いたのを見てヴィルヘルムは切り出した。
「ーーー服を脱げ」
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「フッ……」
ヴィルヘルムの切り出した脱衣命令に一切の躊躇なしにしたがう
「ちょっと!!何いきなり脱いでるのよ!!ヴィルヘルム!!貴方も何を」
「この無駄なき身体を見るが良い……!!」
「ってあんたもかいっ!!」
言い出したそばから自分も脱ぎ出すヴィルヘルムにマリーアは突っ込む。彼が言った通りにヴィルヘルムの身体には無駄が無い。服の下に隠れていた身体はミハエルには劣るものの、ロートスよりも鍛えられた筋肉が付いていた。
「(うわぁ……ヴィルヘルムって着瘦せするんだ……ってそうじゃない!!)」
「ヴィルヘルム……!!お前それ卑怯でしょ!!」
「いやーごめんねーモヤシロートスくぅん!!自信満々に見せたのに一番貧相な身体しているロートス・モヤシくぅん!!もちっと鍛えてから出直して来てねモヤシくぅん!!」
「てめぇ……!!モヤシモヤシ連呼するなよぉ!!」
「……モヤシ、か……クッ」
「ミハエルゥ!!てめぇもコッソリわらうなよぉ!!」
「うぅん……スヤァ……」
ヴィルヘルムの裸体を見て顔を赤くするマリーア、三人の中で一番貧相な身体をしていたロートスを弄り笑うヴィルヘルムとミハエル、酒ビンを抱いて夢の世界に旅立っているベアトリス。
中々に混沌としているものの、彼らの親睦が深まった事には変わりないだろう。
仕事終わりにみんなで一杯、そしてそのまま仕事の話へ……社畜は辛いなぁ……
そしてベア子を慰めるフリしていぢめるマリーア……それはドイツに染まってますわ(ウットリ)
憲兵が問題児の集まりというのは士官学校でも有名な事らしい。しかもそれが事実だからベア子からディスられても肯定して庇う。本当の事を否定しても意味無いからな……それにしてもやはりドイツというべきか(恍惚)
そして薬物の散布予測。
・所謂一般市民に話を聞いたが情報を得られなかった。
・じゃあそこ以外に薬あるんじゃね?
・よし、浮浪者が薬中だったから貧困層探してみよう
という流れ。
そして酔っているのかヴィルヘルムの言葉に迷う事なく従って服を脱ぐロートスとマッキー……衆道はありえません(半ギレ)
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