孤高の白髪鬼~銀狼と鮮血嬢、魔女を添えて~   作:鎌鼬

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第17話

 

 

「よっし、全員着替えたな?」

 

 

昨夜の飲み会から時間が経ち、ヴィルヘルムたちは裏路地に続く道の前に集まっていた。ただし昨日の様な軍服では無くボロボロになった布切れを被った格好になっているが。

 

 

「着たけど……本当にこんなの着る必要があるのかしら?」

「うへぇ……」

「……俺のだけ丈が短く無いか?」

「それはミハエルがデカイからだよ」

「ハイハァイ!!なんか俺の牛乳を拭いた雑巾みたいな臭いがするんだけど!!」

「あ、悪い。多分それ朝に溢した牛乳拭いたやつだわ」

「てめぇ!!」

 

 

殴りかかってきたロートスを腹パンで沈めるとヴィルヘルムは不満を零しているマリーアとベアトリスに説明をすることにした。

 

 

「今から行くのは貧困街だ、そんなところで綺麗な軍服なんか着てウロついてみろ。三十分もしない内に剥ぎ取られて路地に転がることになるぞ。まぁ男だったらそうなるって話だから……女だったらヤられるんじゃないか?」

「ボロ布バンザァイ!!」

「私ちょうどこんな布が欲しかったんです!!」

「おう、俺はお前らの手のひら返しに驚きだよ」

 

 

さっきまで不満を零していたマリーアとベアトリスが打って変わって布切れに賞賛を送り出した。ベアトリスに至っては布切れに頬ずりをする始末だ。だがまぁ仕方ないだろう。女としての尊厳を守るためなら小汚い布切れを着ることだって我慢出来る。

 

 

「まぁそれでも顔は隠しとけよ。女だってバレると最初っから強硬手段に出られるかもしれねぇからな」

「……無秩序だな」

「無秩序っつうよりも生きる為に必死なんだよ。死にたくないから他人から奪うってだけの話だ。それに慣れれば案外悪いところでも無いからな」

「グフッ……そういやヴィルヘルムは貧困街に顔出してたんだっけ?どんなところなんだ?」

「あ〜……一日に数度は殺し合いがあったな」

「げ、マジかよ……」

「んで、俺はそこで出来たダチとそれを煽って楽しんでた」

「外道過ぎやしませんか!?」

 

 

ベアトリスが過去のヴィルヘルムの行いに突っ込んだがヴィルヘルムはそれをスルーして布切れを被って顔を隠した。

 

 

「時間が惜しいからさっさと行くぞ」

「は〜い」

「……」

「無視?無視しちゃいますか?泣きますよ?」

「待って!!俺だけこの牛乳臭い布切れなの!?なんか代わりになりそうなの……!!コレでいいや!!」

 

 

裏路地に入ったヴィルヘルムにマリーアとミハエル、半泣きになったベアトリスと牛乳臭い布切れを捨てて落ちていた布切れを被ったロートスが続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裏路地に入りしばらく歩くと大通りから聞こえる喧騒は届かなくなり、張り詰めた空気が肌を刺す。石畳はボロボロのままで放置されており、酒が入っていたであろう空き瓶がそこら辺に転がっている。たった少し大通りから離れただけでここまで変わるのかとベアトリスとマリーアは驚いた。

 

 

「なんて言うのか……えらく変わったわね」

「本当に同じ街中なのか疑いたくなりますね……」

「まぁな、ここに来るのは本当に底辺の人間だけだ。すべてを失ったり奪われたり、出稼ぎに来たのは良いが働けなくなった奴とか、そういう人間が集まってるのがここだ」

「……あれを」

 

 

ミハエルが何かに気がついたのか指を指す。そこには……貧困街の住人と思わしき男が壁に縋りながらだらしの無い顔で座り込んでいるのが見えた。

 

 

「どうやら当たりみたいだな」

 

 

ヴィルヘルムはその男よりも奥の方を見ていた。少し先にある開けた広場では先ほどミハエルが見つけた男と同じ様にだらしの無い顔をした人間が数人いた。モクモクと上がっている煙は薬物を燃やしている物だと予想出来る。

 

 

「話を聞きたいところだけど……」

「辞めとけ、聞いたところで答えられそうに無い。それにあれに近づき過ぎたら俺たちもあぁなっちまうぞ」

 

 

マリーアの考えをヴィルヘルムは即座に否定する。見たところ彼らは薬物を使った直後の様でその意識は現実を見ておらず夢の中に向けられている、話しかけたところで答えなど返ってこないだろう。それにその為には彼らに近づかなくてはならない。つまりあの薬物の煙の中に入れということ。そんなことをしたら彼らの仲間入りしてしまうだろう。

 

 

「ここは避けて他の奴を探すぞ」

 

 

ヴィルヘルムの提案を全員が頷いて答えてその場から離れた。出来るのなら放置はしたく無いのだが現在ヴィルヘルムたちに命じられた任務は薬物の出処と首謀者を探し出すこと。それにあの中にはあの日に出会った浮浪者程に重度に堕ちている者は居ないと判断して放置する事にしたのだ。

 

 

「おいおいおいそこの派手な格好した兄ちゃん待てぇや」

 

 

薬物パーティーの会場から離れた場所で、ヴィルヘルムたちはアヘッていない男三人に絡まれた。陶酔していない人物を探すことがヴィルヘルムたちの目的であるので彼らの登場は好ましい展開なのだが男の言った派手な格好というのが引っかかる。

 

 

「派手な格好?」

 

 

ヴィルヘルムが用意した布切れはボロボロでどこからどう見ても派手な物とは言い難い。それが気になったヴィルヘルムは後ろを振り返った。

 

 

マリーアとベアトリス……小柄なこともあってスッポリと身体を隠せている。派手とは言い難い。

 

ミハエル……丈が足りないのか膝の辺りまでしか無いがやはり派手とは言い難い。

 

ロートス……星条旗

 

 

「ーーー」

 

 

頭を振って目を擦り、深呼吸をしてもう一度見直す。

 

 

マリーアとベアトリス……布切れ

 

ミハエル……布切れ

 

ロートス……星条旗

 

 

「オラッ!!」

「膝蹴り!?」

 

 

星条旗を被っていたロートスの顔面に迷うことなく膝蹴りを叩き込む。咄嗟に後ろに飛び退いたのかロートスは捻りを加えながらバク宙をして立ち上がる。

 

 

「なんでテメェ星条旗なんか被ってんだよ!!俺が用意した布切れどうしやがった!!」

「臭かったから捨てた!!ってか星条旗かよこれ!!」

「気づいてなかったのかよ……」

 

 

今更ながらに自分が被っている布切れが星条旗であったことに驚くロートスにヴィルヘルムは呆れるしかなかった。ベアトリスは唖然とし、マリーアは渇いた笑いをあげ、ミハエルは気まずそうにしている。

 

 

「んで、お前らは何か用?」

「へへへ……全部置いてけ!!そうすれば命位は残しといてやるぜ?」

 

 

男たちが懐からナイフを取り出す。彼らの目的は非常に分かりやすい物盗りだろう。まともな手段では稼ぐ事が出来ない貧困街の住人はこうして稼ごうとしていることを知っているヴィルヘルムは特に驚く事はなかった。

 

 

「ロートス、ミハエル」

「へいよ」

「……ああ」

 

 

マリーアとベアトリスを守る様にしてヴィルヘルムたちは前に出る。軍属であるとは言えど二人は女性、それに彼らを相手にして手加減出来るかどうか怪しかったのでヴィルヘルムはこうしたのだ。

 

 

「一応言っておくが加減はしろよ?話聞かなきゃならねぇからな」

「分かってるよ」

「……努力はしよう」

「ミハエルが不安な事を言ってるが……まぁいいか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ずびまぜんでしだ……」」」

 

 

数分後、そこには顔をほとんど球体の様にに腫らせている男三人と大して疲れた様子を見せずに立っているヴィルヘルムたちの姿があった。

 

 

「勝利!!」

「ヒャッハー!!」

「ぬぅん!!」

「何やってるのよ……」

「あはははは……」

 

 

勝利したことを喜んでいるのかそれぞれ思い思いのポーズをとっているヴィルヘルムたちにマリーアは呆れる。ベアトリスに至っては虚ろな目で渇いた笑いをしている始末だ。

 

 

「おい、テメェラに聞きたい事がある。そうすりゃあ命位は残しといてやるよ。ただひ正直に答えなかった場合にはミハエル……そこのデカイ男が本気のパンチを食らわせるからな」

「ミハエル」

「ああ」

 

 

ロートスの指示に従いミハエルが石畳に向かって拳を振り下ろす。人に向けてではなく石畳に向けてなのだからか加減無しで振り下ろされた拳は石畳を砕き、くっきりと跡を残した。

 

 

「「「な、何でもお聞きくだせぇ!!」」」

 

 

それを見た男三人はもうガクブル状態。後少し押せば失禁でもしてしまいそうである。

 

 

「よし、俺たちが聞きたいことはこの辺りで出回ってる薬についてだ。さっきもそこでアヘッてた連中がいたが……」

「ああ、その事ですかい」

 

 

それを聞いて三人のうちの一人が気まずそうに声を出した。

 

 

「俺らもあの薬には迷惑してるんでさぁ。アレが出回る様になってからこの辺りのあちこちで薬吸ってる奴がいて……個人でするなら問題無いんすけど周りの奴を引き込もうとしてこの辺りも前に比べると乱れてんすよ」

「出処とか分からないか?」

「俺らは下っ端なんで何も……あ、もしかしたら姉御なら知ってるかもしれねぇっす」

「姉御?おい待て、ここの頭はフリードじゃないのか?」

「変わったんすよ。ほんの二月位前に姉御がフリードの旦那を倒して」

 

 

自称下っ端の言葉を聞いてヴィルヘルムは考える。ヴィルヘルムが当てがあると言っていた人物はフリードという男なのだが言葉を信じるならすでに代替わりをしている様なのだ。それでも旦那と呼ばれていることからまだ慕われているようだが。

 

 

「……よし、俺たちをその姉御とかいう奴のところに案内しろ」

「えぇ!?で、ですけど……」

 

 

ヴィルヘルムの提案に渋る下っ端。それはそうだろう、身元が分からないか奴を自分たちのリーダーのところに連れて行ってもしものことがあったらいけないのだから。

 

 

「俺たちを案内するのが良いか、それともミハエルのパンチの方が良いか選ばしてやるよ」

「へい、こちらです」

 

 

下っ端はノータイムで答えを出した。それはそうだろう、ヴィルヘルムの後ろで風切り音を出しながらシャドーボクシングをしているミハエルの姿を見たら誰だってそうするに違いない。

 

 

未だに顔を腫らせている男三人に先頭を任せて、ヴィルヘルムたちは姉御と呼ばれている人物の元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……」

「廃工場でさぁ。広くてまだ使えるんで俺らが集まる場所にしてるんすよ」

 

 

案内された先にあったのは廃工場。窓に嵌められているガラスは殆どが割れているがそれでも建物としてはまだまだ使えそうである。

 

 

「変わってねぇな、ここも」

「ヴィルヘルム、ここを知ってるのか?」

「ああ、餓鬼の頃よく来てた」

 

 

ヴィルヘルムはこの廃工場を懐かしそうに見ている。憲兵になってから来ていなかったがヴィルヘルムにとってここは大切な場所の一つだったからだ。

 

 

「姉御!!姉御ぉ!!客を連れてきましたぜぇ!!」

 

 

下っ端が廃工場の扉を開けて呼びかける。現れるのがどんな人物かは分からないが荒くれ者たちを束ねる存在、それを踏まえてヴィルヘルムは警戒しながら顔を隠していた布切れを退ける。

 

 

「ヴィル!!」

「ブフォ!?」

 

 

すると廃工場の奥から誰かが飛び出して来てヴィルヘルムの顔に張り付いた。予想外の出来事にヴィルヘルムは押し倒される。

 

 

その人物は小柄な身体で髪は白髪、右目を医療用の眼帯で隠している。そして彼女のことをヴィルヘルム、ロートス、マリーアは知っていた。

 

 

「アンナ!?」

 

 

その人物はアンナ・シュライバー。ヴィルヘルムにとって妹の様な人間だった。

 

 

 






貧困街突入開始。そしてすぐに薬物パーティーの場面に邂逅。彼らはまだ軽度の中毒者なので浮浪者の様に暴れたりはしないでアヘっているだけです。

そしてすぐに現れる下っ端たち。彼らは薬物のことを調べながら追い剝ぎをしていた健全な貧困街の住人です……健全ってなんだぁ!!(ガチギレ)

だけどマッキーパンチを見て手のひらクルーするのは仕方無いですね、私もマッキーのシャドーボクシングを間近で見たら間違い無く手のひらクルーしますから。

そしてまさかの登場アンナちゃんprpr

アンナ!?どうしてアンナがここに!?まさか自力で脱出を!?(黒咲感)

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