孤高の白髪鬼~銀狼と鮮血嬢、魔女を添えて~   作:鎌鼬

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第19話

 

 

二階付近の窓ガラスが割れてそこから落ちてきたのは浮浪者と思わしき三人の人間。彼らは着地ではなく墜落するように現れて何事もなく立ち上がる。

 

 

それに対して反応出来たのはマリーアとベアトリス以外の全員。ヴィルヘルムは近くにあった木箱を浮浪者たちに向かって投げ、ロートスは懐から拳銃を抜き出して浮浪者たちに向け、ミハエルは地面を蹴って前進する。アンナは即座に物陰に隠れ、フリードはナイフを取り出し、下っ端は一目散に廃工場から飛び出した。

 

 

反応出来なかったマリーアとベアトリスに落ち度は無い。予想外の出来事が起こったら硬直するのが普通の人間として正しい反応だ。即座に反応出来た彼らはその正しい反応が出来なくなる程に経験を積んでいるだけだ。

 

 

まず始めに、ヴィルヘルムの投げた木箱が浮浪者の内の一人を押し潰す。普通の人間なら動けなくなるだろうがヴィルヘルムの中で想定しているのはあの夜に戦った重度の中毒者。普通なら動けなくなるだろうがあれらはこの程度では足止めにしかならないと考えている。

 

 

そしてロートスが拳銃の引き金を引く。飛び出した弾は二発、それらは浮浪者の内の一人の両膝を撃ち抜く。処刑人としての家系に生まれたロートスであるが才能があったのか銃の扱いも上手い。的が小さいというのに的確に撃ち抜いた。

 

 

さらにミハエルが無傷の浮浪者に迫る。それに浮浪者が反応する素振りを見せた瞬間、ミハエルの剛腕から放たれた拳が浮浪者の顔面にめり込んだ。ミハエルはその体軀から分かるように膂力は並外れている。そして無駄な争いは好まず、無益な殺しを嫌う性格なのだがその一撃には遠慮も加減も見られずに本気で放った物だった。何故なら重度の中毒者は害を及ぼす存在であると知っていたから。

 

 

ミハエルに顔面を殴られた浮浪者は頭蓋骨を砕かれたことで死ぬ。幸いなのは彼らは予想をしていた通りに重度の中毒者たちで、痛みを感じずに逝けたことだろう。

 

 

ロートスに膝を撃ち抜かれた浮浪者がミハエルに襲いかかろうとするがそれは下から放たれたヴィルヘルムの掌底によるカチ上げで遮られる。木箱を投げると同時に身を低くして移動していたヴィルヘルムが浮浪者の視覚外に潜り込んでいたのだ。

 

 

薬物により正常な判断が出来なくなった浮浪者にそれを避ける考えは無い。顎の骨を砕かれて宙に浮きながら自分に攻撃してきたであろうヴィルヘルムに手を伸ばす。だがヴィルヘルムはそれを払い除け、浮浪者の服の襟を掴むと加減無しで地面に顔面から落とした。自分の体重すべてとヴィルヘルムの力に痛みを感じないとはいえどただの人間の身体では耐えられるはずが無く、浮浪者の首はへし折れる。

 

 

ここで、始めにヴィルヘルムの投げた木箱に押し潰された浮浪者がのしかかっている木箱を跳ね除けて立ち上がる。そしてーーー背後から音も立てずに現れたフリードのナイフに首を切り裂かれる。

 

 

この貧困街には何をしてはならないというルールは存在しない。ゆえに如何様な卑劣な手段も許容される。それをしない方が、対処出来ない方が悪いのだ。それはこの貧困街のリーダーであったフリードも例外では無い。

 

 

首を切り裂かれたことで噴水のように血が噴き出すが重度の中毒者である浮浪者はそれに気が付かない。近くにいたフリードに狙いを定めて手を伸ばそうとしーーー横から投げられたワイヤーに引っ掛けられてバランスを崩す。

 

 

下手人は物陰に隠れていたはずのアンナ。彼女は逃げたわけでは無い。非力な自分では正面から立ち向かえないと理解したからサポートをするための道具を取りに行っていたのだ。

 

 

幾ら重度の中毒者が脳のリミッターが外れていて人並外れた力を出せたとしても知覚外から力を加えられると脆い。それこそ、アンナ程度の小柄な少女に引っ張られてよろける程に。

 

 

そしてその隙を逃さずにミハエルが接近、背後から鉄拳を振るい浮浪者の頚椎を殴り砕く。

 

 

時間にしてみれば一分にも満たない間に、現れた浮浪者三人は全員死亡した。

 

 

「襲撃されたか……俺らのせいか、それともお前か?」

「どちらもだろう。元々嗅ぎ回っていた俺のことが目障りだった、そこに現れたお前たちが邪魔だった。どちらも理由にはなる」

 

 

物言わぬ骸になった浮浪者たちを見下ろしながらヴィルヘルムとフリードは淡々と話を始めた。今回の襲撃はタイミングが良すぎる。元々フリードが監視をされていたと言われれば納得出来るし、昨日の調査でヴィルヘルムたちが目を付けられていたと言われても頷ける。だがそうだとしても襲撃は別々になるはずだ。なのにまるで準備していたかの様にヴィルヘルムたちがフリードに会った時を狙って襲ってきた。

 

 

「こいつらの拠点、案外近くにあるのかもな」

「そうかもしれんが……この辺りは既に調べてあるはずなんだがな……」

「うっ……」

 

 

その時、ベアトリスが浮浪者たちの死体を見て顔を青くして口を押さえていた。ベアトリスは士官学校から調査の為に回されてきた人員で、知識はあれど本物の死体を目にしたことは初めてだったのだ。気分が悪くなったとしても責めることは出来ない。マリーアがそれに気が付き背中を摩る。

 

 

「大丈夫か?」

「……大丈夫です。でも、殺すしかなかったんですか?」

 

 

ミハエルが聞き、ベアトリスがそう返すものの口から出たのは本当に浮浪者を殺す必要があったのかという疑問。ベアトリスも重度の中毒者の危険性のことは聞いているがヴィルヘルムらの強さなら逮捕出来たのでは無いかと考えてしまうのだった。

 

 

「あぁ、捕まえることは出来なくも無いがそうなると俺たちが余計な被害を被る事になる。一人捕まえるために一人死んだら割に合わん。だったら最初から殺すつもりで行った方が良い。その甘さは否定するつもりは無いがちゃんと見極めろ、でないと後悔する事になるのはお前だからな」

 

 

その疑問にヴィルヘルムは真面目な口調で答えた。捕まえること自体はヴィルヘルムたちなら出来ない事も無い。だがそうすれば余計な被害……良ければ傷程度だが最悪誰かぎ死ぬ可能性が出てくる。それを嫌っていたからヴィルヘルムたちは浮浪者たちを速攻で殺しにかかったのだ。それに重度の中毒者たちは生かしていても害しか生まない。それならば殺した方が安全だという事もある。

 

 

ベアトリスの甘さをヴィルヘルムは否定しない。それは大切な事だと理解しているから。だが、その甘さをかける相手を見極める事も大切だと説くのも忘れない。

 

 

「……了解しました。ご指導、ありがとうございます」

 

 

珍しく真面目な口調のヴィルヘルムに何か感じるところがあったのかベアトリスは青い顔だが背筋を伸ばし、敬礼をしながら礼を言った。

 

 

「戻りやした」

「おう、どうだった?」

 

 

現れたのは浮浪者たちが襲撃をした時に真っ先にこの場から逃げ出した下っ端。実は彼はここから逃げ出したわけでは無い。襲撃を指示した者がいるかもしれないと思って周囲を偵察していたのだ。

 

 

「へい、アジア系の奴がいたんでそいつの後をつけやしたが報告にあった通りに袋小路で姿を消されやした」

「本当か?嘘だったら……」

「本当でさぁ!!だからズボンに手をかけてこっち来ないでくだせぇ!!俺は掘られたく無いんでさぁ!!」

「おい、俺らをそこに案内しろ。もしかしたら何か見つかるかもしれねぇからな」

 

 

下っ端にフリードがズボンに手をかけてにじり寄っているのを無視してヴィルヘルムはそう言う。今まで調べてた奴らが見落としただけで何かあるかもしれないと思ったからだ。

 

 

「掘るなら調べ終わってからにしてくれ」

「そんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

助かったと思って安堵していた下っ端を突き落とす事を忘れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここでさぁ……」

 

 

絶望した表情でフリードに尻を撫でられている下っ端の案内の元に辿り着いたのは貧困街にある廃工場からそう離れていない所にある袋小路。ガラクタ同然の荷物が置かれているだけでおかしなところは見られない様に見える。

 

 

「横は壁、上は高さがあるから道具なしじゃ無理そうだな……となると」

 

 

そう言ってヴィルヘルムはガラクタを退かし始めた。ロートスたちは何をしているか分からなかったが、大き目のガラクタを退かしたところでヴィルヘルムの行動の理由を知る。

 

 

ガラクタの影から現れたのは地面に空いた穴……地下水路に続く道だった。本来なら蓋がされているはずのそれは無理矢理こじ開けた様に壊されている。

 

 

「なるほど、地下か」

「多分他のところも地下に逃げられたんだろうよ。幾ら捜しても見つからないわけだ。俺たちが汗かいて探しているその下で悠々と歩いてやがったんだからな」

 

 

地下水路は迷路の様に張り巡らされていて備えも無しに入れば迷う事になる。それにこの中にいるであろう薬物の配布人と遭遇する可能性もある。

 

 

「フリード、俺らはこの事を本部に伝える。見張り立てるのも良いがあまり刺激しない様にしろよ。あとアンナは家に帰れ、巻き込まれて怪我でもしたら俺は悲しくて泣いちゃうからな」

「ヴィルヘルムが泣く……見てみたいけどやだなぁ。分かった、ヘルガと一緒に待ってる。だから怪我しないでね?ヴィルヘルムが怪我したら僕もヘルガも悲しいから」

「分かった……じゃあ、巡るめく快楽の世界に誘ってやろうか……」

「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

股間をモッコリさせているフリードに引きずられる下っ端に合掌しながらヴィルヘルムはこの情報を伝えるために軍へと帰る事にした。

 

 

 





下っ端=サンオタッシャデー

今回はヤク中撃退。突然乱入してきたヤク中たちをあっさり制圧。ドイツ汚染の浅いマリーアとベアトリスは反応出来なかったけどよく訓練されたゲルマン人なら余裕で反応してみせる。やはりドイツは素晴らしい……(恍惚)

マッキーがワンパンで仕留めて、ヴィルヘルムが投げて、ロートスが銃撃って無傷で勝利。事前に情報を得てメタするのは当たり前。

そしてベアトリス、一つ成長する。まだ幼いから命のやり取りには抵抗があります。だけど他の面子は無い模様。

ようやくヤク中の巣窟を発見。郊外の廃墟とどっちにするか迷ったけど地下にしました。


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