深夜のドイツ、軍の本部の中にある一室にはドイツ軍に所属している人間が集められていた。本来なら仕事は終わって各々の家で休んだり、酒場に繰り出して疲れを癒したりしている時間だ。普通なら時間外労働で不満が出てきても仕方が無いだろう……だが、ここにいる誰もが不満を持っていなかった。目の中に怒りを燃やして、少しの歪みも無く起立している。
そんな彼らの目の前に作られた急造の登壇台、そこを登る一人の軍人がいた。燃えるような赤い髪をポニーテールで纏めた女性。
「ーーー総員、
腹の底から出した声に、全員が一糸乱れぬ挙動で従う。
「諸君、親愛なる同胞諸君。知ってはいると思うがどこぞの薄汚い者らが我らの国で毒をばら撒いている。お前たち、それが我慢出来るか?私はそれが我慢ならん。腸が煮え繰り返る気持ちだ……!!」
彼女の目の中に燃えるのは憤怒の炎。どこぞの誰も分からない人間が、この国に害を及ぼしていることに対しての怒り。だがここに集められた人間全員が、彼女に負けないほどの怒りを燃やしている。
「故に、作戦を開始する!!!!すでに下手人の居場所は突き止めてある!!後は諸君らの意思だが……語るまでも無いか」
その顔を見て彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。目の前にいる全員が自分と同じ様に怒りに燃えている同志である事を再認識出来たからだ。もし怒りに燃えていない腑抜けがいたとしたらこの場で切り捨てていたところだ。その必要が無く、またそうする必要が無い事を嬉しく思っている。
「今回の作戦は私、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグが指揮を執る!!異論がある者は!?」
無音、一切の音が無い。それはつまり、彼らの中から一切異論が上がらなかったことに他ならない。
「ーーーそうか、なら今回の下手人の居場所を突き止めた者に説明を変わる。エーレンブルク!!」
「ーーーおう」
やる気の無い返事と共に登壇してきたのはヴィルヘルム。それが気に入らなかったのか上がったのと同時にエレオノーレから裏拳を叩き込まれるがそれを片手で受け止める。受け止められた事が気に食わないのか、不満そうな顔になりながらもエレオノーレは一歩下がり場所を譲った。
「今紹介されたヴィルヘルム・エーレンブルクだ。今回ドイツに薬をばら撒いてくれたゴミ屑共は地下……ドイツに張り巡らされた下水道を使ってばら撒いていやがる。分かるか?今この瞬間にも、ゴミ屑共は地下を走り回ってるわけだ……まるでドブネズミの様じゃねぇか」
薬をばら撒いている者たちをヴィルヘルムはドブネズミと称した。これはネズミが疫病の媒体となっている事にかけているのだろう。かつてペスト病をばら撒いたネズミの様に。
「俺としては下水道に爆弾放り込んでドブネズミの様に走り回ってる連中を焼却処分してやりたいんだが……そんな事したらこの町が崩れちまうから却下だ。おら、そこの今嬉しそうな顔してから走り出そうとして残念そうな顔してる奴ら、後でエレオノーレ様が扱いてくれるそうだ」
「ふざけた思考が出来ないような身体にしてやる。笑いながら蹴っている貴様らもな」
エレオノーレのその言葉に崩れ落ちた数名がいた。そして彼らを笑いながら蹴ってる者がいる。誰だか言うまでも無いだろうが憲兵達だった。その憲兵達も数秒後には泣き崩れる事になる。
「すでに下水道の地図は手に入れてある。そこから出入りする場所に四割、突入に六割
「「「「「「「ーーーォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」
深夜の軍部に、怒りに燃える
「ーーーアァ……済まないお前たちよ……」
ドイツの下水道、そこにある開けた空間。そこではーーーこの世の物とは思えない光景が広がっていた。香から立ち昇る煙に満たされたそこにはありとあらゆる縛りから解き放たれた
ある者は腹がはち切れ様とも腐った食料と汚染された水を詰め込んで食欲を満たし、
ある者は男女の区別無く己の力尽きるまで交わり性欲を満たし、
ある者は呼吸や鼓動がほとんど無くなっている程に深い眠りについて睡眠欲を満たしている。
そしてその
だが、彼こそがこの香の元である薬ーーー
彼はとある村で産まれた。だがそこは普通の村ではなかった。その村では麻薬の原材料を栽培することを生業としており、そして赤子から老人に至るまで村人の全員が重度の中毒者だった。
幼い頃からその村で育った彼は例に漏れず、麻薬に溺れて育った。そしてそこで狂った常識を教わった。
その村では誰もが笑顔で暮らしていた。麻薬の煙に包まれ、自分だけの世界に浸って、夢に酔い痴れて、この世界のありとあらゆる苦悩から解放されて笑顔で暮らしていた。彼はそれを当たり前のことだと思って生きていた。
だが、ふとした不注意からその村は火の手に包まれて焼け落ちる事になる。生き残ったのはまだ十になったばかりの彼だけ。そして彼は本当の世界を知る。その世界とは苦難と争い、そして悲哀に満ちた彼の思っていた世界とは全く異なる世界。それは彼が桃源郷と信じた世界から程遠い世界だった。
彼はその世界を見て思った。
ーーー何故だ、何故争っているのだ?自分だけの世界で閉じた夢に酔い痴れていれば幸せだというのに何故
そこで彼は奔走した。伝も、資金も、資材も何もかもが文字どおりに0からの始まり。それでもこの悲しい世界で生きている哀れな人間たちを救いたいと、彼はあの村で作っていた麻薬を再現しようとしていたのだ。
作り方など教えられていない。原材料の把握すらままならない。だが、それがどういった物なのかは身体が覚えている。
作り、失敗し、作り、失敗し、作り、失敗しーーーそう気の遠くなる程に延々と制作と失敗を繰り返している内に、彼の潜んでいる近くで戦乱の気配を感じた。それを察知し、起こるであろう悲しみを思うと彼には動かない理由は無かった。試行錯誤の中で最も出来の良かった薬を持ち、彼は戦乱の気配を漂わせている国ーーードイツに潜入した。
そして救済の薬となると信じた永夢薬をばら撒く。
ーーー哀れな人間たちよ、己の夢の中に閉じよ。それこそが救済に他ならない。自分の思い描いた夢の世界こそが幸せなのだから。
しかし、ここで想定外の出来事が起こる。彼は永きにわたる薬物の使用で常人よりも遥かに耐性が出来ていた。それを耐性が全く無い人間が使用すればどうなるのかーーー考えるまでもない。彼が思い描いた効果は現れず、狂った様に欲を満たそうとする亡者が生まれた。
それを彼は嘆き悲しんだーーー救済になると信じていたのにそうならなかったから。
それでも彼は止まらなかったーーー止めるなどあり得ない、ここで止めれば悲しむ人間を救えないから。
だから彼は泣いているのだ。救いになると信じて行った行動が、さらなる悲劇の引き金になり掛けている事を。
「済まない……済まない……」
地下に広がる
いつしか、全人類が夢の世界に酔い痴れている日を信じてーーー
ドイツ事変も佳境に突入。
そしてここで
さらに黒幕登場、薬中はぐう聖ってはっきりわかんだね(スパー)
この薬中さんは盧生薬中とは違い何処かの麻薬マフィアに引き取られること無く、自分の力で薬物作ろうとして頑張っている薬中です。だがその結果が三大欲求の暴走した中毒者……それでも薬中さんは止まらない、こうすることで救われる存在があると信じているから。
(゚∀。)y─┛~~ <愛い、愛い、愛い奴め
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