第6話
町が、燃えていた。
石造りでかつてどれ程繁栄したかを思わせるのに難しくない町が、まるで地獄を再現しているかのように燃え盛っている。
当然そこには生命などいれるはずがない。しかし…………一つ違和感があるとすれば、それは誰もが死に絶えているということだ。
今の世は戦乱の世、千年帝国を掲げて世界に戦いを望んだドイツの首都であるベルリンはドイツに大打撃を与えるために狙われる格好の的になっていた。
だとするのなら、誰もが死に絶えているのはおかしい。攻めるためにやって来た露助も、攻められて逃げ惑っていたドイツの民も、攻められている民を守るために立ち向かっていたドイツの兵士たちも、誰もが例外無く等しく死に絶えていた。
戦っていた二者の内のどちらかが皆殺しにされて滅びているのならば、どちらかを殺した一方が残っていなければおかしい。だというのに誰もが死に絶えていた。あるものは手にした銃で頭を撃ち、あるものは手にした刃物で喉を掻き切り、あるものは燃え盛る炎の中に飛び込み…………手段は違っているものの、誰も彼もが自らの死んでいるのがこの違和感の原因だった。
この異様な地獄の釜底で、戦っているものがいた。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
鬼だ。鬼が、地獄の釜底にいた。その姿は人と同じ物ではあるが、白髪を掻き分けて額から伸びる一本の角がその男が化生の身であることを証明していた。
「ライ■、ハ■■ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
鬼は慟哭のような、それでいて悲痛な叫びをあげながら黄金の男にへと向かっていく。髪、瞳、そしてその気配に至るまでのすべてが黄金の男は自分の名前を叫びながら迫る鬼を前にして恐れること無く、それどころか顔を喜色に染めて鬼を歓迎した。
「ーーーーーーーーーー素晴らしい、素晴らしいぞ、ヴィルヘルム・エーレンブルグよ」
黄金が鬼を見据え、その所業に賛辞を送った。黄金の手にしているのは最高位の聖遺物である聖人殺しの槍。生半可な魂を持つものではその姿を見ただけで蒸発してしまうその威光を前にして折れること無く、それどころか更に殺意を漲らせている鬼の姿は黄金が求めていた存在に近い存在だったから。
「卿のその渇望は、紛れもなく私と対等の位に至れるほどに強い。卿のような存在を私は心から待ち望んでいた…………私が全力を出しても、壊れぬような存在をっ!!!!!!」
黄金の振るう槍が鬼の体を抉る。抉られたのは右肩、脇腹、そして胸部。前者の二つであるならば程度によるだろうが致命傷に至るほどではない。しかし最後の一つは生物であるなら必要不可欠な臓器である心臓を潰す一撃だった。いかに鬼とは言えども生物であるなら心臓を潰されて生きているはずがない。
鬼が、まともな生物であるならば。
「■■、■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
三ヶ所を抉られながらも、鬼は左の拳を黄金にへと突き出した。自分の体を傷つけることを厭わないで行われた反撃は黄金の体に届き、黄金を砲弾のように弾き飛ばした。
「グハッーーーーーーーーーーハ、ハハッ、良いぞ!!これが痛みか!!」
血反吐を吐きながらも黄金はその顔を歓喜で歪ませながら鬼の一撃を称賛した。槍を持っていない手で口元を乱暴に拭い、体を抉られた鬼を見据える。鬼は黄金のことを睨みながらも槍で抉られた傷を高速で再生していた。胸部の傷は未だに残っているものの、肩と脇腹の傷は素手に痕も残さずに完治している。
「我が愛は破壊の慕情。すべてを愛そう、例外は無い…………さぁ、来るがいい!!復讐の鬼よ!!その身余さず
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
地獄の釜底と化した首都ベルリンで鬼と黄金がぶつかり合う。
彼らのことを語るには、鬼となった者の過去を語らねばならない。
これは水銀の脚本を逸脱した物語
夜の不死鳥を名乗っていた男が黄金の爪牙となることを拒んだ世界
禁忌によって生まれた男が歩んできた道のり
さぁ…………