孤高の白髪鬼~銀狼と鮮血嬢、魔女を添えて~   作:鎌鼬

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第9話

 

 

深夜、そうは言っても夜明けが近づいているエーレンブルク家ではいつもならあり得ない光景があった。

 

 

「〜♬」

 

 

台所で予め用意していた鍋に入っているスープを温め直しているヘルガはいつも通りの光景である。スープはトマトとじゃが芋を使ったスープらしく、赤い液体の中にサイコロ状に切られたじゃが芋が浮かんでいる。

 

 

「ふぃ〜」

 

 

風呂場から出てきたヴィルヘルムもいつもと変わりない。まだ濡れている髪をガシガシと乱暴にタオルで拭きながら寝間着らしきシャツとズボンに着替えている。第三ボタンまでシャツは開けられていて、そこからは無駄な肉が付いていない大胸筋が見える。

 

 

「う〜……」

 

 

あり得ない光景というのは大きなタオルで身体を包みながらヴィルヘルムとヘルガのことを睨んでいる白髪の少女アンナ・シュライバーのことだった。路地裏で娼婦をしていた彼女はヴィルヘルムに拐われるような形でエーレンブルク家にやって来た。それだけでも警戒される理由にはなるのだがアンナは顔を真っ赤にして二人のことを睨んでいた。まるで辱められたかのように。

 

 

「アァン?まだこいつこんな格好してるのか?姉貴が服用意してくれてただろうが?」

 

 

部屋の隅から自分のことを睨んでいるアンナに気がついたヴィルヘルムは未だにタオルに包まっているアンナのことを見て素直に思ったことを口にした。アンナが初めに着ていた服は性交渉の後なのかよく分からない白い物が付いていたので速攻でヴィルヘルムが処分したのだ。そしてヘルガの服を貸すことになっていたのだがアンナはタオルに包まれたまま、つまりは服を着ていないことになる。サイズが合わなかったかと考えたがヘルガの体型は同年代の女性に比べて小さく、アンナよりも少し大きい程度なのだ。着れないことは無いはずだ。

 

 

「う〜ん、やっぱりヴィルが強引に洗ったから恥ずかしがってるのかしら?」

 

 

温め終えたのか煮詰まらないように鍋を火から下ろしたヘルガがそう告げる。家に連れて来たのは良いのだがアンナの身体からは凄まじい性臭がしたのだ。だからヴィルヘルムはアンナから服を引き剥がして風呂場に連れ込んで無理矢理洗った。ヘルガに任せることも考えたのだがアンナが抵抗して被害が出ることを考えるとヴィルヘルムが洗うしか無かったのだ。そしてその予想通りにアンナは抵抗し、悪戦苦闘しながら洗い終えた時にはヴィルヘルムは水浸しになっていた。

 

 

「ハッ、娼婦やってた奴が今更裸見られた程度で恥ずかしがるかよ」

「そ、それもあるけど……!!こんな…こんなフワフワしたような服なんて着れないよ!!」

 

 

正解は両方だった。娼婦をしていたアンナだったがそれでも恥じらいはある。行為の時には耐えられていたが素に戻っている時に見られるのは恥ずかしかったようだ。そしてヘルガが用意した服はこれでもかとフリルが付けられた今で言うところのゴシック服。娼婦の時には(おとこ)を誘う為に着ていたが本来のアンナはそういった服装を恥ずかしがっているところがあるのだ。

 

 

つまり、ヴィルヘルムとヘルガの二人の行動がアンナを警戒させていた。ちなみにヘルガの用意したゴシック服はヘルガお手製の物である。

 

 

「あぁ…そりゃあ悪かったな」

「なら別のを用意してあげるわ。それまではこれを食べてて待っててね?」

 

 

ヴィルヘルムは謝りながら椅子に座り、ヘルガも謝りながらテーブルに皿に盛りつけたスープを置く。トマトと香辛料の香りが部屋に充満して食欲を唆る。

 

 

ググ〜

 

 

「あん?」

「あらあら?」

 

 

低く、それでいて可愛らしい音が聞こえた。ヴィルヘルムとヘルガでは無い、そうなるとこの音はアンナの物だ。空腹のあまりに腹の音がたってしまったことが恥ずかしかったのかアンナはタオルで包んでいた身体を更に丸くしていた。

 

 

それを見て楽しそうに微笑みながらヘルガは隣の部屋に移動した。恐らくアンナの為に別の服を探しに行ったのだろう。そうなるとこの部屋にはヴィルヘルムとアンナの二人きりになる。いつまでしても動こうとしないアンナに痺れを切らしたのかヴィルヘルムがスープを盛り付けられた皿とスプーンを持ってアンナに近寄る。

 

 

「おい」

「……なムグッ!!」

 

 

アンナが顔を出した僅かな隙にヴィルヘルムはスプーンでスープを掬い、アンナの口にねじ込んだ。スープが僅かに溢れてタオルの上に落ちるがヴィルヘルムは気にしていなかった。スープがすべてアンナの口の中に入ったことを確かめるとスプーンを引き抜く。スプーンにアンナの唾液が絡まって糸を引くがヴィルヘルムはそれを気にすることなくスプーンとスープ入りの皿をアンナの前に置く。

 

 

「恥ずかしがるのもいいが今は喰っとけ。安心しろ、ここにいる間は誰もお前を傷付けやしないし、お前の物を盗ろうともしねぇよ」

 

 

ヴィルヘルムの言葉を聞いたアンナは何度もヴィルヘルムとスープ入りの皿を見て恐る恐るスプーンに手を伸ばした。そしてスープを掬い、口に運ぶ。

 

 

「……美味しい」

 

 

ポツリと溢れたスープの感想。それが皮切りになったのかアンナは貪るようにスープを飲み始めた。まるで何日も何も食べていなかったかのように猛烈な勢いで食べる。スープが無くなりそうになるとヴィルヘルムは何も言わずに新しいスープを入れてアンナに差し出す。アンナはそれを抵抗無く受け取ってまた猛烈な勢いで食べ出した。

 

 

「美味しい……美味しいよぉ……!!」

 

 

スープの味か、それとも食べられたからか、アンナはいつの間にか涙を流して泣いていた。ヴィルヘルムはそれに気づいても何も言わなかった。別の服を見つけて戻ろうとしていたヘルガも、空気を読んでか戻らずに隣の部屋で待っていた。

 

 

そしてヘルガの用意していたスープが無くなるまで、アンナは泣きながらスープを飲み続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

泣き疲れて満腹になったからか、アンナはヘルガが新しく用意したシャツと丈の短いズボンに着替えると眠ってしまった。ヴィルヘルムはそれを見て苦笑しながらアンナを自分のベットに連れていってそっと横にした。

 

 

「悪りぃな、急に連れて来ちまってよ」

「良いのよ、様子を見る限りあの子訳ありなのでしょ?」

 

 

ヴィルヘルムの謝罪をやんわりと断りながらヘルガはアンナの頬を撫でた。余程眠りが深いのかアンナはそれに気がつくこと無く眠り続ける。

 

 

「……帰ってくる途中によ、そいつに客引きされたんだ。それを見てたらなんだかムカムカしてきてよ、んで気がついたら連れて来ちまってた」

「ムカムカ?ムラムラじゃなくて?」

「姉貴よぉ……俺のことどう思ってんだぁ……!!」

 

 

姉が自分のことを少女趣味(ロリコン)に仕立て上げようとしていることに戦慄しながらヴィルヘルムは溜息を吐き、どかっとソファーに腰を下ろした。

 

 

「見た所俺よりも年下ってところか……そんな餓鬼が娼婦なんぞやってるって言ったら生きる為だよな……」

 

 

アンナの身の上を考えていたヴィルヘルムだったがその予想は当たっていた。

 

 

アンナは父を早くに亡くし、それで精神を病んでしまった母親に虐待されていた。眼帯をしているのはその虐待で潰されてしまった目を隠す為である。そしてその母親は流行病にかかって死んだ。虐待されていたとはいえど幼いアンナは生きる手立てを失った。そして生きる為に思い付いたのは身体を売ること。しかし娼婦館などのそういう組織に所属しているならまだしもアンナは一人で行っていたので一般的な価格を知らず、子供の小遣いよりも安い値段で買われていたのだ。もしもヴィルヘルムが拾っていなければ近い内にアンナは最悪の結末を迎えていたであろう。

 

 

「……なぁ、姉貴」

「良いわよ」

 

 

幸せそうに眠っているアンナの顔を見ていたヴィルヘルムがヘルガに何かを聞こうとしたがヘルガはそれを遮ってあろうことか了承の意を示した。ヴィルヘルムがまだ何も言っていないのにだ。

 

 

「ヴィルのことだからこの子の面倒を見たいとか言うつもりだったんでしょ?私は構わないわ」

「まぁそのつもりだったけどよ……良いのか?」

「えぇ、だってヴィルったら怖そうな見た目しているのに優しいんだもの。私が嫌だって言ってもこの子が自立出来るように色々と手を焼くつもりだったのでしょ?」

「正解だよコンチクショー」

 

 

弟の考えていることなど分かっていると言いたげな笑みを浮かべるヘルガにヴィルヘルムは両手を挙げながら降参の意を示した。

 

 

ヴィルヘルムは髪の色や目付きが鋭い事から怖がられる事が多いのだが、その本質は面倒見がいいお人好しな性格だ。困っている者がいたら助け手伝うし、友人が喧嘩をしていると聞けば迷う事無く参戦する。ヴィルヘルムと交友を持つ者たちはその事をよく知っていた。

 

 

だけど、ヴィルヘルムがアンナの事を気に掛けていたのはそれだけでは無い。初めてアンナと会った時に感じた既知感、アンナ・シュライバー(こいつ)が娼婦紛いのことをしている姿など見たくなかったと思ったから無理矢理にでも連れて来たのだ。どうしてこんなことを思ったのか疑問に思うが行動したことに後悔は無い。

 

 

「くはぁ〜……もう朝になっちまうが寝るか。俺はソファーで寝るから姉貴はベットで良いぞ」

「えぇ、そうさせてもらうわ。おやすみなさい、ヴィル」

「あぁ、おやすみ」

 

 

夜明けが近づいてきて強くなってきた眠気に逆らおうと考えることなくヴィルヘルムはソファーに横になって眠ることにした。アンナのこれからについては起きてから本人に伝えれば良いと考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーふむ、今回の脚本はいささか番狂わせが起きているようだね」

 

 

夜明けが近づいてきたドイツの街、その中心にそびえ立っている塔の上に人影があった。その人物は若者であり老人であり、男であり女である。目の前にいるはずなのにハッキリと認識することが出来なかった。

 

 

「些細なことと言ってしまえばそうなのかもしれぬがそれでもこのような展開は私は知らない。これは近い内に接触してみるのも一興やもしれんな」

 

 

その人物の向いている方向にあるのは眠りにつくためにかあかりがけされた古ぼけた家ーーーヴィルヘルムとヘルガの住まう家があった。

 

 

そして夜が明け、朝日が昇りドイツの街を照らす。

 

 

すると塔の上にいたはずの人物の姿はどこにも見え無くなっていた。

 

 

 






久々に書いたから雰囲気が怪しいですけど投稿です。

今回の話を整理しますと

1 ヴィルヘルム、アンナ(幼女)の服を剥ぎ取って洗う(事案)
2 ヴィルヘルム、アンナ(幼女)の口に無理矢理物をねじ込む(事案?)
3 ヴィルヘルム、躊躇うことなくアンナ(幼女)を家に泊める(事案)

ほとんど事案じゃねぇか……!!現代ならタイーホ待った無し。ヘルガ姉さんからロリコン扱いされてもおかしく無いですわ。

アンナちゃんの過去ですけど、
1 旦那亡くした母が発狂
2 アンナちゃんに虐待を行い、目が潰れる
3 母死亡
4 生きる為に春売開始

てな感じです。ベリーとまではいかないですがハードな人生であることは間違いないです。もしヴィルヘルムに出会ってなかったら精神が壊れるか、性病にかかって死んでいました。

そして最後に出てきた人物……イッタイ何クリウスナンダー?

感想、評価をお待ちしています。

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