一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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最終回です。








第101話 コクハク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございましたー」

 

背後から聞こえてくる店員の声。その声が若干、震えてたように聞こえたのは気のせいだろうか。

 

小咲と陸はカップル専用パフェを食した後、それぞれ頼んだドリンクを一気飲みしてそそくさと喫茶店を出た。休憩するために入ったのに、全く目的を果たせなかった。

 

(うぅ…、まだ顔が熱いよ…)

 

目に入ったのは偶然だった。陸が開いたメニュー表を一緒に見ていた時、ふと小咲の視界に一人用にしては少々大きいパフェの写真が入った。その写真のすぐ下に書かれたメニュー名が、カップル専用パフェだった。

 

頼みたい、とは思ったが頼もう、とは思っていなかった。陸と一緒に同じパフェをスプーンで突く光景を想像したりもしたが、決して頼もうとは思っていなかった。

 

だがそんな時、小咲の様子を察した陸が「頼むか?」と聞いてきたのだ。

頭では断ろうと考えたのだ。何故なら自分達はカップルではないのだから。そこまでの関係には至っていないのだから。それなのに、気付けば陸にお願いします、等と口走り、本当に二人でパフェを突く事になった。

 

嫌だったわけではない。むしろ逆、嬉しかったくらいだ。想い人とカップルの真似事が出来たのだから。だがそれに反して、羞恥は小咲を容赦なく襲った。周りがどうとか微々たる問題。小咲にとって問題なのは、陸に()()()()()()()()()を食べたいとお願いした事なのだ。ぶっちゃけ、告白も同然の発言である。

 

まあ、陸は逆に自分達が周りからどう見られているのかを意識しすぎてその発言について深く考えられる状態ではないのだが。その事を小咲は知らない。

 

(大丈夫、だよね…?嫌だよ、告白はちゃんとしたいもん)

 

陸が先程の発言について気にしてる様子がないため安堵する。あんな何ともいえない形で告白を終えてしまうなんて嫌すぎる。

 

…しかし、どうにも残念に思えてしまうのは意志が弱すぎるのだろうか?

 

(…うわぁ、もう外暗くなってる)

 

陸と並んで歩きながら、ふと傍にあった窓から外を覗くとすでに陽は沈み、夜の闇が辺りを包んでいた。時計を見上げれば、もう7時を少し回っていた。。喫茶店を出てからまた当てのない散策を始めた小咲達。しかしもう大体の遊べる場所は回った事と、先程の喫茶店でほとんど休めなかった事もあり、二人はフードコートにて、窓際の二人用席で休憩を再開した。二人の間のテーブルには、陸の奢りで買ったフライドポテト。小咲も出すと言ったのだが、陸がこのくらい出すと譲らなかったため、お言葉に甘える事になった。

 

そうして談笑しながら休んで今、本当にあっという間に時間が過ぎていた。ここに着いたのが大体11時頃。それからもう8時間もここで過ごしていたのだ。

 

「…早いな、もう7時か」

 

「…うん」

 

陸も時間に気が付いたらしい。小咲と同じように時計を見上げて、ぽつりと呟いた。

 

「そろそろ、中庭に行かないとね。人たくさん来そうだし、早めに行かないと場所とられちゃうかも」

 

「…」

 

「…陸君?」

 

もうすぐこの幸せな時間も終わる。その事に僅かな悲しみを覚えながらも、小咲は笑顔を浮かべて陸に言う。だが陸は視線を伏せ、口元に手を当てながら何か考え込んでいた。そうして少しの間その体勢のまま固まってから、不意に顔を上げて小咲の方へ視線を向けた。

 

「なあ小咲。中庭に行く前にちょっと寄りたい所があるんだけど、良いか?」

 

「え?うん、良いけど…、どこに行くの?」

 

「まあ、それは行ってからのお楽しみって事で」

 

顔を上げてそう言った陸の案に小咲は同意し、少し前を歩く陸の後に続く。

陸について行ったそのフロアは、洋服や靴、バッグ等を売るブランドが並ぶ場所だった。

陸はその場所を迷いなくどんどん歩み進んでいく。一体どこへ向かっているのかという疑問を胸に抱きながら、小咲も陸に続いて進む。

 

「…ここって」

 

通路を進んでいた陸はその途中で曲がり、小さなショップに入っていく。

入口から中に入って視線を巡らせば、ここがアクセサリー類を取り扱ってる店だという事がすぐに解った。

 

いや、小咲は店内に入る前から、この店がアクセサリー類を売っている店だという事を知っていた。

 

「り、陸君…」

 

「この店の前を通った時、店内を見つめてただろ。気付いてたぞ」

 

まさか、と目を向ければ、そこには悪戯成功と言わんばかりに笑みを浮かべた陸が振り返っていた。

 

そう。この店の前をすでに小咲と陸は一度通り過ぎていた。その時小咲は店内にある可愛らしいアクセサリー達に目を奪われていたのだが、その事は陸に筒抜けだった様だ。

 

「今日はイブだからさ。誘いを受けてくれたお礼も兼ねてプレゼントを…」

 

「え?で、でも…」

 

「そんな顔すんなよ…。さっきも言ったけど今日はイブだぞ?プレゼントくらい遠慮しないで受け取ってくれよ」

 

陸の言う通り、今日はクリスマスイブ。友人にプレゼントを渡す事は至極自然な事といえるだろう。ただ問題なのは、陸自身が何の見返りを求めていない事だ。プレゼントをもらい、それだけで終わらせたく等ない。

 

「…私も陸君に何かプレゼントする」

 

「え?」

 

「今日はクリスマスイブだよ?プレゼントくらい遠慮しないで受け取って欲しいな」

 

ちょっとした意趣返しである。陸が悪いのだ。プレゼントをあげる事だけ考えて、貰う事などこれっぽっちも考えてない陸が。

 

「…あぁ、ありがとう。なら、ここで小咲へのプレゼントを選んでから――――――」

 

「それなら、良い商品がありますよ?」

 

「「っ!!!?」」

 

微笑む陸がお礼を言い、続けて何か言おうとしたその時、二人の背後から、それも至近距離から声がした。ビクッ、と体を大きく震わせながら振り返ると、そこには眼鏡をかけた女性の店員が眼鏡を指でくいくいさせながら立っていた。というか、いつからそこに立ってたのだろうか。

 

全く気配感じなかったぞ…。何者だこの店員…

 

「そんな事はどうでもいいのです!それより、付き合いたてと思われる二人にぴったりの商品があるのですよ!」

 

「いや、付き合ってないんですが…」

 

陸が何か呟いてたが、その言葉を聞き取ることは出来なかった。何を言ったか聞こうとする前に、店員が勢いよく小咲と陸に何らかの商品をプッシュする。

 

こちらです!と店員が手を伸ばした先にあったのは、隣同士に掛けられた二つのネックレス。

 

「この二つはペアになってまして。お二人にお似合いかと!」

 

それにしても、この店員はどうしてこんなにもテンションが高いのか。というか興奮してるように見える。顔が少し赤いし。

 

「…うん。小咲に似合いそうだな」

 

「そ、そうかな…?」

 

二つのネックレスには、それぞれチェーンに青、赤に表側が塗られたリングが掛けられていた。派手ではなく、かといって地味でもない。どちらかというと遠慮がちな性格の小咲にはかなりドンピシャな商品だった。

 

「…うん。これが良いな」

 

「…これ、ペアって言ってたけど?」

 

「?」

 

「いや、これ買うって事は、その…、俺とお揃いって事になるんだけど…」

 

あぁ、そういう事か。小咲がこれが良いと言った事に何やら戸惑っていると思ったが、そんな事を気にしていたのか。

 

「うん。それが良いの」

 

「っ…」

 

息を呑む陸。店内に沈黙が流れる。

あれだけテンションが高かった店員も、今は声を抑えている。

 

僅かに頬を染めた陸が、恥ずかし気に小咲から視線を逸らした。

…何か、陸が恥ずかしがるような事を自分は言ったのだろうか?

 

「…じゃあ、これでお願いします」

 

「…あー、毎度ありがとうございました。ごちそうさまでした」

 

陸の同意も得られ、ペアのネックレスを買える様になったのは良いが、店員の言った『ごちそうさま』とは一体どういう意味なのか。何故か陸の頬の紅潮がさらに広がったが、その理由も解らず小咲は首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

◇   ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 

アクセサリー店で会計を済ませた後、店を出てから陸と小咲はそれぞれの首にネックレスを着け合った。陸の胸元には青いリングが、小咲の胸元には赤いリングが二人が歩く度に揺れている。もう完全にお揃いのリングを身に着けたカップルの完成である。この光景を目撃した人に付き合ってないと教えても信じてもらえないレベルである。

 

そんな初々しさとアツアツっぷりを見せつけながら二人は中庭へと辿り着く。時刻は八時になる十分前。時間的には丁度良いと言えるが、中庭にはすでに多くのカップルが集っており、幸いツリーのサイズが大きいから良かったものの、陸と小咲が立っている位置はかなり後方の場所になってしまった。

 

「悪い。あの店に寄らずに真っ直ぐ来てたらもう少し前で見れたかも…」

 

小咲がこちらを向く。

もし中庭に来る前にあのアクセサリー店に寄らなければ、もう少しマシな場所でイルミネーションを見れたかもしれない。陸は少し悔やんでいた。イルミネーションを見た後に行くという選択肢もあったのに。

 

だがそんな陸の後悔を余所に、小咲は微笑みながらこう答えた。

 

「ううん。むしろ、このネックレスを着けてイルミネーションを見れるから。謝らないで?」

 

「っ…」

 

本当にこの女の子はいつもはとても恥ずかしがり屋の癖に、変な所で鈍感で、そんな勘違いしそうになる言葉を口にして。先程のアクセサリー店でもそうだった。きっと自分が言っている言葉が他人にどう聞こえるかなんて考えてないのだろう。ただ、自分が思ってる事を素直に口にしている。

 

だからこそ、陸の心はどうしようもなく揺るがされ、勘違いしそうになってしまうのだ。

 

それが勘違いだとも気付かずに。

 

「それにしても凄い人だね…」

 

「あぁ。…ホント、もう少し早く来れたら」

 

「もう、気にしないで良いのに。早く来すぎても退屈だっただろうし、このくらいの時間に来て正解だったんだよ」

 

「…そう言ってくれると気が楽になる」

 

小咲の天使の如き優しさに触れ、感激しながら小咲と談笑する。

今日、このショッピングモールに来て起きた出来事を思い返し、振り返る。

本当に色々な事があった。…思い出したくない恥ずかしい出来事もあったが、そのほとんどが楽しく、胸を満たすものだった。

 

そうして小咲と会話を続ける内、その時は訪れる。

 

陸の視界の端で強烈な光が輝き、同時に歓声が沸く。陸と小咲は話していた口を止め、視線を輝きの方へと向ける。

 

「…きれい」

 

隣の小咲がぽつりと呟いた。

ツリーのライト全てが輝き、葉に取り付けられていた装飾を照らす。小咲はその光景に魅了されていた。

 

かくいう陸もその光が彩る芸術に魅せられ、目を奪われていた。

ただ告白のシチュエーションとして丁度良い程度にしか思っていなかったイルミネーション。だが今は、この光景を見る事が出来て良かったと心の底から思えた。

 

「メリ~クリスマ~ス!ただいまよりこの場に居合わせたお客様限定に特製のぬいぐるみをお配りしま~す!」

 

「どうぞお受け取りくださ~い!」

 

この場の誰もがイルミネーションに魅了される中、マイクで拡声された声が響き渡った。声が聞こえて来た方へと視線を向けると、赤いサンタの衣装を着た二人の女性店員が大量のぬいぐるみが入った箱と一緒に中庭の端に立っていた。

 

「あっ!私、春とるりちゃんのぬいぐるみ貰ってこなきゃ!」

 

「あぁ…、そういえば二人に頼まれたって言ってたな。なら、一緒に行くか」

 

二人でぬいぐるみを貰うための列に並び、順番を待つ。そして陸と小咲が一つずつ、二つのぬいぐるみを貰って列を離れたその時、丁度イルミネーションが終わる時が訪れた。たった5分の幻想の時間が終わりを告げる。

 

「あ…。イルミネーション、終わっちゃったね」

 

「次はまた来年、か」

 

また来年。その時、自分はまたここに来ているだろうか。もし来てるのなら、その時は誰と一緒に?

 

…叶うのなら、また小咲とが良い。

 

「…なぁ小咲」

 

「ん?」

 

ふと少し先の未来に思いを馳せた途端、陸の胸の奥から想いが溢れた。

そして溢れた想いは、振り返った小咲に今度こそ告げられる。

 

「好きだ」

 

「…え?」

 

一言、短く口にされた言葉を受けて小咲は固まった。

 

「小咲が好きだ」

 

「…」

 

小咲の顔がみるみる内に赤く紅潮していく。それでも視線は陸から逸らさず、信じられないといった表情で陸を見上げていた。

 

「…悪い、いきなり言われても困るよな。別に今すぐ返事が欲しいとか、そんな事は思ってない。ただ、今言いたかった」

 

正直な気持ちを嘘偽りなく吐露する。これはただの身勝手だ。小咲の気持ちを考えずに先走ったただの自分勝手な行動。だからすぐに返事を求める事はしない。小咲だっていきなり告白なんてされて、混乱しているだろう。

 

「…帰るか。イルミネーションも終わったし、あまり遅くなるのも心配するだろうし」

 

遂に顔を真っ赤にして俯いてしまった小咲に声を掛ける。もうイルミネーションを見るために集まっていたカップル達の一部は帰るために中庭を出て行っていた。恐らく帰りの電車はまた行きの電車の様に混む事が予想される。ここに留まり過ぎて、中々帰れなくなるという事態は避けたい。

 

陸は一歩、二歩と小咲の様子を見ながら歩き出す。続いて小咲も歩き出した事を確認してから視線を前に向けた。

 

(…やっぱいきなり過ぎたかな?でも我慢できなかったし…)

 

先程の小咲の様子を思い返しながら、告白を急ぎ過ぎたかと後悔の念が湧き始めた。

 

もう少し落ち着くべきだったか、そう頭の中で考え出した、その時だった。

 

「…小咲?」

 

「…」

 

右手に温かい何かが触れた。その何かが小咲の手だと気付いたその時には小咲の手は陸の手を握り、陸の手もまた小咲の手を握っていた。

 

「…私も」

 

「え?」

 

「私も…。陸君の事、ずっと好きだったから…」

 

もっと顔を赤くしながら、絞り出すように言った小咲の言葉は、周りの喧騒に掻き消される事なく確かに陸の耳に届いた。

 

「っ…!」

 

何も返事を返す事が出来ない。言葉が出ない。小咲が勇気を出して口にした想いに、返す事が出来ない。

 

だから言葉の代わりに、陸は小咲の手を握る右手に力を込めた。小咲に痛みを感じさせない様に、それでも確かに小咲に伝わるように。

 

「ぁ…」

 

どうしようもなく顔に熱が籠り、小咲の顔を振り返る事が出来なかった陸には見えなかった。

 

小咲が握り合う自分と陸の手を見ながら、小さく微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

◇   ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 

陸の予想通り帰りの電車は混み合っていたが、行きの時の様に一本電車を逃すという事態にはならず、陸と小咲は順調に帰路に着く事が出来た。車両内ではイルミネーションについて話すカップル達の話し声で満ちていたが、陸達は気恥ずかしさで会話する事が出来なかった。

 

想いは一緒だった。それはとても嬉しい事で、喜ぶべき事だ。だが、それでも想いが通じ合っていた事を確かめ合ってすぐ、会話を盛り上げるなど二人に出来る筈もなく。電車が凡矢理駅に着き、二人が駅を出るまでほとんど会話はなかった。

 

(…昼は曇ってたのにな)

 

口から白い息を吐きながら空を見上げる。周りの明るい光のせいで星を見る事は出来ないが、夜の闇に包まれた空には雲一つ存在しなかった。きっと、町中から離れた場所でなら見事な星空が見られる事だろう。例えば、陸の家の縁側とか、後は―――――――

 

(…そうだ。そういえば、約束したよな)

 

そこまで考えた時、陸の脳裏でとある場所で小咲と交わした約束を思い出した。

小咲もきっと忘れてしまっているだろう小さな約束。

 

「小咲。帰る前にさ、最後に寄りたいとこがあるんだけど」

 

「え?良いけど…、どこに行くの?」

 

「それは行ってからのお楽しみって事で」

 

ついさっきしたやり取りをしながら陸は小咲に手を差し出す。差し出された陸の手を小咲は目を丸くしながら見つめ、陸は差し出した手を引き戻そうとする。

 

だがその前に陸の手は小咲によって引き止められていた。

 

「小咲…?」

 

「…」

 

顔を真っ赤にして陸の方を見ようとしない小咲。それでも何を思っているかは握られた手を見れば明らかだった。

 

「…」

 

陸は何も言わずに歩き出す。小咲もそれに続いて歩き出す。モール内で手を繋いだ時は陸が僅かに前を、小咲が僅かに後ろを歩いていたが、今は隣同士並んで歩いている。二人は駅前の広場を横切り、そのままイブの日に盛り上がる繁華街から離れていく。繁華街から離れていくと、次第に辺りを照らす光が減って行き、何時しか道を照らす明かりは街灯と周りの家の中から漏れる電灯の光だけになった。

 

陸と小咲は繁華街の賑わいも届かない住宅街を歩いていく。手を繋いだ先で歩く小咲が時折何やら聞きたげな視線を向けて来るが、見て見ぬふりをして足を進める。ここで行先を教えるのは面白くない。もう少しで着くんだし、小咲には驚いてもらおう。

 

まあ、ここまで来ればどこへ向かってるのかそろそろ気付きそうなものだが。

 

歩道の途中にあった狭い路地を通り、長い階段を上る。

 

「陸君、ここ…」

 

「覚えてるか?前に約束したの」

 

階段を上った先には少し開けた空間。左側を見れば、そこには夜の闇の中に散らばる多数の光が。地上に広がるまるで星空の様な絶景が広がっていた。

 

「ここで一緒に夜景を見ようって言ったよな」

 

「あ…」

 

目を見開いた小咲。ようやく、いつかのやり取りを思い出したらしい。

 

そう、その約束をしたのはまだ夏の暑さが残った九月の頃だったか。小咲に教えてもらってから、陸はたまに学校帰りにここへ夕焼けに照らされる街並みを見に来ていたのだが、あの時は丁度偶然小咲も来ていた。その時は小咲は進路に悩んでいて、その事について相談に乗ったのだが…、何故かそういう約束をしたのは覚えていた。どういう経緯で約束したのかは忘れたが。

 

「うん…、思い出した」

 

「まあ忘れてるよなー。俺も思い出したのは偶然だったし」

 

二人は地上で輝く星座を見下ろしながら言葉を交わす。

ショッピングモールで見たイルミネーションは見る人の心を沸き上がらせるような光景だった。

今、目の前にある光景はイルミネーションとは逆で、見ていてどこか心が安らいでいく光景。

 

「…綺麗だね。ずっとこの場所を知ってたけど、夜に来たらこんな景色を見られるなんて」

 

「そうだな、綺麗だ。でも…」

 

この幻想的な景色に目を奪われている小咲の横顔に目を向ける。

 

確かに眼下に広がる夜景も美しいものだ。でも、陸にとっては隣にいる女の子の方がよっぽど美しく、綺麗に見えた。

 

「小咲の方が綺麗だよ」

 

「―――――――」

 

バッ、と勢いよく振り向いた小咲の顔は真っ赤に染まり、両目は潤み、形の良い唇はパクパクと開閉していた。何か言いたいのだろうが、恥ずかしさで何も言えない、といった所か。

 

「り、陸君!」

 

「何だよ、ホントの事だぞ」

 

「ほ、ほんとって…!」

 

顔を真っ赤にして大声を出す小咲に素直な本音を返してやれば、更に小咲は狼狽する。これ以上ないほど真っ赤に染めた顔が更に赤くなったように見えた。

 

「も、もう…」

 

耐え切れなくなったのか、陸から視線を逸らして俯いてしまった。

 

…嫌だ。もっとこっちを見てほしい。

 

「小咲」

 

「あ…」

 

小咲の顎に親指と人差し指を添え、視線がこちらを向くように軽く押し上げる。

俯いていた小咲の顔は上がり、視線が陸の目を見上げた。

 

視線が重なる。空気が静かになる。周りには誰もいない。時間的にここに来るような人は自分達以外には誰もいない。

 

三度目だ。

どこか他人事のように、陸は頭の隅でそう思った。

去年の夏祭り、先月の家の縁側。そして今日、小咲と一緒にいてこんな空気になったのは三度目だ。

 

二度ある事は三度あるという諺がある。

そして三度目の正直という諺もある。

これらの諺はまさに、今この瞬間の為にあるものではないのか。

 

小咲が目を瞑る。それを見た陸もまた目を瞑る。

これまでと同じ流れ。前回、前々回はここまで来て邪魔者が入ったが、今回は違う。

 

「…」

 

「ん…」

 

夜空に浮かぶ月が照らす中、二つの影が一つに重なった。

たったの数秒。だが二人にとってとても長い数秒の後、二人は離れる。

 

「…はは」

 

「…ふふ」

 

そして、至近距離で目を合わせながら同時に笑みを零してから、もう一度唇を重ねた。

今度は先程より長く。それぞれの身体に両腕を回し、抱き合いながら。

 

「…好きだ、小咲」

 

「うん。…私も、陸君が大好き」

 

唇を離してから、もう一度想いを告げ合う。

 

このままずっと抱き合っていたい、という気持ちは抑え、陸は小咲の身体を離す。

もうさすがに小咲は家に帰らなければ家族が心配するだろう。…母親はどうも逆に興奮しそうな気もするが、あの常識的な父親と姉が大好きな妹は今頃まだ帰らない小咲を心配しているはずだ。

 

「…帰ろうか。家まで送るよ」

 

「え?でも、そしたら陸君の帰りが…」

 

「彼女くらい送らせてくれよ。彼氏の役目だろ?」

 

「か…。かのじょ…」

 

また顔を真っ赤に染めて俯いてしまう小咲。だが今は先程のように嗜虐的な気持ちは湧いてこなかった。逆にその姿に微笑ましさを覚える。

 

「ほら。今頃春ちゃん心配してるぞ?」

 

「う、うん」

 

小咲の背を軽く叩きながら促す。小咲は頷いてから、陸と一緒に地上で輝く星々に背を向けて二人で歩き出した。

 

数歩歩いてから、二人はどちらからともなく手を伸ばした。

伸ばした手は一度軽く触れ合ってから、二人の間で繋がった。

 

二つの星空に挟まれながら、二人の男女は階段を下りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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