一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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第11話 オミマイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぴぴぴ、ぴぴぴ

 

無機質な音が鳴る。楽は、その音の正体を腋から取ってその液晶に映る数字を見る。

 

 

「…8度6分。完っ全に風邪だな」

 

 

「くそ…。何でこんな休日に風邪なんか…」

 

 

楽が持つ、先程の音の正体。体温計の液晶を覗き込んだ陸は、映された数字を読む。

 

今日は学校が休日な日であり、そして朝食の当番が陸だった。

陸は朝食を作り終え、楽の部屋の前でその旨を伝えた。

 

その時、確かに部屋の中から楽の返事が返ってきた。

だから、陸は早くしろと釘を差してから居間に戻って朝食を済ませたのだが…。

何時まで経っても楽がやってこない。早くしなければせっかく作った朝食が冷めてしまう。

 

陸は食器を片づけた後、もう一度楽を呼びに行ったのだが、今度は返事すら帰ってこない。

イラッと来て、陸はノックもせずに楽の部屋に乗り込む。

 

そこで見たのは、布団の中に潜って震えている楽。

さすがに様子がおかしい。そして体温を計らせた結果…。

 

 

「今日は寝てろ。その味噌汁、だけは飲め。後でお粥作ってやる」

 

 

楽は完全に風邪を引いていたのだった。

 

陸は安静にするように楽に言ってから部屋を出る。

 

 

(食欲ないだろうから、無理に食べさせない。味噌汁は飲ませたから少しの間は大丈夫だろ)

 

 

そう考えながら陸は居間へと向かう。

とりあえず、ポカリを部屋に持っていって、後は…。

 

と考えていると、家のチャイムが鳴る音が響く。来客だろうか。

 

 

「あ、俺が出るからいいよ」

 

 

「す、すいやせん」

 

 

何か書類を運んでいる男が出ようとしたのだが、それを制して陸が玄関へと向かう。

 

 

(誰だ?こんな朝から)

 

 

来客にしてはやけに時間が早い。とはいえ、この家の中にチャイムを鳴らして入るような人はいない。

どう考えても、来客しかあり得ない。

 

 

「あ…、おはよう。もやしのお見舞いに来たんだけど…」

 

 

「…桐崎さん?」

 

 

扉を開けて出迎えると、外で立っていたのは見舞いの品を持った千棘だった。

僅かに頬を染めて唇を尖らせている。どこか不貞腐れているように見えるのだが、恥ずかしがっているようにも見える。

 

 

「べ、別に来たくて来たわけじゃないんだからね!?うちの皆が行けって言うから!」

 

 

「わかったわかった。とりあえず上がって」

 

 

いきなり言い訳し出す千棘を家の中へと上がらせる陸。

そのまま先導して千棘を楽の部屋へと案内した。

 

 

「な…、桐崎!?何でここに…」

 

 

「何でって、お見舞いに来たに決まってるじゃない!あ、別に来たくて来たわk(ry」

 

 

また言い訳を始める千棘を呆然と眺める楽に微笑ましげに見守る陸。

そんな二人の視線に気づいた千棘は、これ見よがしにごほんごほんと咳払いして、楽の部屋の中へと入っていく。

 

 

「そ、それより!体は大丈夫なの?」

 

 

「おお。熱はあるけど、大したことはねえよ。放っときゃ治るって」

 

 

「そう。それは良かった」

 

 

「…」

 

 

黙って二人の会話を聞く陸。

会ったばかりの時とは違い、顔を合わせれば口論という法則はすでに法則として働かなくなっている。

今では、少しの間普通の会話ができるようにまで成長している。

たまに二人で笑い合っている場面まで見れるようにまで。

 

 

(成長したなぁ、二人とも…)

 

 

二人の成長に心の中で、ほろりと涙を流す陸。

 

そんな陸の前で、仲睦まじく話す二人。…本当に、仲良くなったものだ。

 

 

「あ、そうだ。リンゴ持ってきたんだけど、食べる?」

 

 

「…お前、本当に桐崎か?」

 

 

「うっさい!!失礼なこと言わないでよ!」

 

 

あ、始まるかも。と思った陸だが、その予想に反して特に何も起こらない。

それどころか、千棘はそのままリンゴの皮をむき始める。

 

 

「…じゃあ、俺は外すから。ごゆっくり~」

 

 

「あ、陸!?」

 

 

「え、ちょ…」

 

 

このままいれば、何か邪魔しているような気がする。

陸はそっと立ち上がり、一言残してから楽の部屋を出て行った。

 

 

「桐崎さんも来たし、特に楽に関しては問題ないな。…昼食を作るって言い出すかもしれないから、その時は見てやろう」

 

 

千棘がいるから、楽の世話は問題ない。だが、唯一の問題、食事作り。

千棘は、料理が壊滅的に駄目だ。風邪を引いている楽に、純粋な千棘の料理を食べさせるわけにはいかない。

その時は、陸も一緒に手伝わなければならなくなるだろう。

 

 

「…?また?」

 

 

そんなことを考えながら居間へと向かっていると、再び家のチャイムの音が響く。

陸は再び玄関へと向かい、お客を迎えるために扉を開けた。

 

 

「はーい、どちら様…?小野寺?」

 

 

「あれ…、一条君…?」

 

 

千棘と同じ場所に立っていたのは、小咲だった。

小咲は目を丸くして、ぱちくりさせながら陸を眺めて…、急に慌てた風に口を開いた。

 

 

「い、一条君!?寝てなくて大丈夫なの!?」

 

 

「え…?俺?」

 

 

いきなり陸の心配をし出す小咲。しかし、別に陸の体に異常はない。

 

 

「小野寺、何か勘違いしてないか?風邪ひいてるのは、楽だぞ?」

 

 

「え…?でも、さっき会った舞子君が、『陸が風邪引いてるから、お見舞い行ってやってー』て…」

 

 

「集…」

 

 

どうやらいつもの集の悪戯だったらしい。陸は小咲の誤解を解いてから家の中に上げる。

 

 

「ごめんな小野寺。集にはあとで灸を据えておくから」

 

 

「い、いいよ…。そんなことしなくても…」

 

 

頭から煙を吐きながら憤慨する陸を、苦笑を浮かべながら宥める小咲。

陸は先程と同じように小咲を先導して、楽の部屋に案内する。

 

 

「おい楽。小野寺が見舞いに来たぞ」

 

 

「お、おはよ」

 

 

「小野寺?」

 

 

「あれ?小咲ちゃんも来たの?」

 

 

小咲を楽の部屋に入れると、楽と千棘が小咲に話しかける。

何でここに来たのか、見舞いの品に何を持ってきたのか。楽と千棘が問いかける。

 

 

「そうだ。私、お粥作ろうと思うんだけど、台所借りていいかな?」

 

 

「あ!それ私も作る!!」

 

 

「「なっ!?」」

 

 

小咲は持ってきた袋の中を二人に見せた後、袋を持って台所を借りていいか問う。

すると、千棘も一緒にお粥を作ろうと手を上げて言う。

 

瞬間、陸と楽は視線を合わせるだけで会話を始める。

 

 

(り、陸!頼む!)

 

 

(任せろ。俺が見てるから、安心してくれ)

 

 

アイコンタクトを交わすと、同時に頷く二人。

そして、陸が立ち上がって口を開く。

 

 

「ああ、いいよ。でも、うちの台所、結構変わったところあるから俺も一緒に作るよ」

 

 

「え…、ホントに?」

 

 

「ありがとー!なら、早く行こう!」

 

 

もちろん、この家の台所に変なところなどない。だが、そうでも言わなければ二人…特に小咲が遠慮して一緒に作らせてくれないだろう。

 

思いの外簡単に二人を納得させた陸は、内心で謝罪しながら二人をキッチンに案内させる。

そして二人にエプロンを貸し、自分もエプロンを着てから食材を出していく。

 

 

「あれ?これだけ?もっと体に良いのとかないの?ほら、サプリとか」

 

 

「レバーとか、黒酢とか入れなくていいのかな…?」

 

 

二人のこの質問を聞いて、陸は心の奥底から一緒に来てよかったと安心する。

もし二人だけで作らせたらどうなっていたことか…。

 

 

「そんなに入れなくていい!入れるのは…、これでいいだろ」

 

 

陸は、冷蔵庫の中に入っていた材料を取り出す。

取り出したのは、市販の七草セットに卵。

 

 

「え、これだけ?」

 

 

「ああ。これから作るのは七草卵粥だ。体に良いし、胃腸にも優しい逸品だ」

 

 

「おぉぉぉ…」

 

 

 

冷蔵庫の中から出した材料の少なさに唖然とする千棘に、陸が作ると言った品目。

何を凄いと思ったのかはわからないが、感心したように拍手をする小咲。

 

そして、早速調理が始まった…。

 

 

 

 

 

 

「あー!桐崎さん!なに塩全部入れてんだーーーーーーー!!?」

 

 

「え?つ、つい…」

 

 

「あー!小野寺!納豆を入れるんじゃなーーーーーーーい!!!」

 

 

「あ、ごめんなさい…」

 

 

「あー!桐崎さん!味噌は入れなくていいんだあああああああああ!!!」

 

 

「え?」

 

 

「あー!小野寺!明太子をそのまま入れるなあああああああああ!!!」

 

 

「え?」

 

 

「あー!あー!あーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どーよ!なかなかの出来じゃない!?」

 

 

「お口に合うか分かんないけど…」

 

 

「おー…」

 

 

千棘は堂々と、小咲は恐る恐ると作り上げた一人前のお粥を楽に差し出す。

そのお粥の出来栄えに、楽は感嘆の声を漏らした。

 

三人がキッチンに向かってから三時間も経っていることが唯一気になるが…、おいしそうにできていて何よりと結論付ける楽。

 

楽はスプーンでお粥を掬い、口に入れる。

アツアツのお粥の味が、楽の口いっぱいに広がっていく。

 

 

「…っ、美味い!」

 

 

「っ、ホント!?」

 

 

「よかったぁ…」

 

 

楽は、本当に風邪を引いているのかと疑いたくなるほど勢いよくお粥を食べ進めていく。

その食べっぷりに、気分を良くした小咲と千棘は、笑みを交わしながらハイタッチをする。

 

 

「ん…、そういえば、陸はどうした?」

 

 

「え?あれ?そういえば、あいつどこ?」

 

 

「い、一条君?」

 

 

食べる前は、できばえへの恐怖で、食べてからはただただ食べるのに夢中で気が付かなかったのだが、ここでようやく楽が陸がいないことに気づく。

小咲と千棘も、出来栄えを心配していたのか陸がいつの間にかいなくなっていたことに気づく。

 

 

「わ、私、探してくるよ!二人はここにいて!」

 

 

「あ、小咲ちゃん!?」

 

 

「小野寺!迷うなよ!」

 

 

小咲が楽の部屋を出て陸を探し始める。

だが、この家は相当に広い。来たばかりの人は、案内なしにこの家を歩くとかなりの確率で迷う。

それは当然、小咲も例外ではなく…。

 

 

「…あれ?ここ、どこだろう?」

 

 

気付けば、今いる場所がどこなのかわからなくなってしまった。

頬を一筋に汗が流れ落ちる。

 

 

「だ、大丈夫!来た道を戻っていけば…」

 

 

小咲は回れ右をして、来た道を戻り始める。

だったのだが…

 

 

「…」(ここどこーーーーーー!!?)

 

 

来た道がどれなのかすらわからなくなってしまった。完全に迷子である。

本格的に冷汗が流れ始める。

 

迷った。人の家で迷ってしまった。

どこを歩いた?どの道を通って来た?

 

考えれば考えるほど焦りが募り始める。

 

 

「ど、どうしよう…」

 

 

もし、このまま見つけられずに放っておかれたら…。

 

ありもしない事実を頭の中で考えてしまうほど、今の小咲は追い込まれていた。

 

くるくると頭の中が回る。くらくらと血の気が下がっていく。

 

ここはどこ?どう行けば戻れるの?早く戻りたい。

 

 

「小野寺?こんな所にいたのか」

 

 

「…え?」

 

 

立ちすくす小咲に掛けられる声。小咲が振り向くと、陸がこちらに歩いてきていた。

 

 

「まったく、家の中で迷うなよな?探したぞ…」

 

 

「…い、一条君…!」

 

 

「え?小野寺?な、何で泣く!?」

 

 

自分を見つけてくれた。それも、好きな人が。

体全体を包む安堵感。緊張から解放される。

 

気付けば、小咲は目から涙をこぼしていた。

 

小咲が流す涙を見た陸は、自分が何かしたのかと焦って小咲に謝り始める。

だが、陸は何も悪いことをしていない。小咲は陸に、違うと言うのだが涙は収まらず、その言葉は逆に陸の焦りを助長するだけだった。

 

 

「ご、ごめん小野寺!俺、何したんだ?教えてくれ!」

 

 

「ち、違うの一条君…。私…、何かホッとしちゃって…」

 

 

「え?」

 

 

ようやく涙を拭きながらだが笑みを浮かべることができるようになった小咲は、陸の問いに答えを返す。

 

 

「ホッとした?何が?」

 

 

「えっと…、とにかくホッとしたの!うん!」

 

 

迷って不安になって、見つけてもらったからホッとしたなど恥ずかしすぎて言えない。

小咲は陸を誤魔化して歩き始める。

 

 

「小野寺、楽の部屋はそっちじゃないぞ」

 

 

「…」

 

 

もし陸がいなければ、小咲は再び迷っていたところだった。

 

陸に案内されて歩く小咲。

楽の部屋に向かっている途中、小咲が口を開いた。

 

 

「そういえば一条君。お粥を届けた時、一条君いなかったけど、どこにいたの?」

 

 

「え!?あぁ…、料理に使った器具を片づけてたんだよ!あははは…」

 

 

小咲に問いかけられた陸は、何故かぎくりと体を震わせてから慌てた風に答える。

何処か様子がおかしい陸を見て、首を傾げる小咲だが、その様子を問いかける前に楽の部屋の前についてしまった。

 

 

「さてと…。おーい楽、桐崎さん。小野寺いた…」

 

 

襖を開けて、中に入ろうとした陸。

だが、部屋に入る前に中の光景を見た陸は動きを止めた。

 

 

「あれ?どうしたの一条k…「しーっ」…?あ…」

 

 

動きを止めた陸に聞きながら、部屋の中を覗き込む小咲。

中を見た小咲は、頬を染めながらも微笑ましげに笑みを浮かべる。

 

二人が見た、楽の部屋の中の光景とは、楽と千棘が寝ている姿だった。

だが、ただ二人は寝ているだけではない。

 

楽は布団の中で、千棘は楽の傍らで座って寝ていた。

それだけでなく、寝ながら楽と千棘は手を繋いでいたのだ。

 

陸と小咲は、目を合わせて笑みを向け合う。

 

 

「…どこか行こうか?」

 

 

「そうだな…。どうする?折角来たんだし、俺の部屋でゲームでもするか?」

 

 

「え…!?一条君の部屋…!?え、えっと…」

 

 

「…別に無理にとは言わないけど」

 

 

「む、無理じゃない…!無理じゃないよ…!」

 

 

「なら行くか」

 

 

二人はその後、陸の部屋でゲームを始める。

アクションゲームを交代でやったり、対戦ゲームで戦ったり、RPGを二人で知恵を出し合ってプレイしたり。

 

外が暗くなっていることにすら気づかずゲームを続けた二人。

竜が陸の部屋に入ってくるまで、時間のことを気にせず遊び続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ 小咲が陸を探しに行ったあと

 

「お、陸。お疲れ」

 

 

「あぁ…。本当に疲れたよ…。小野寺も桐崎さんも、好き放題に材料入れようとするんだ…」

 

 

「そ、そんなこと!…あったかも」

 

 

陸が部屋に戻って会話する三人。そんな中、陸が小咲の姿がないことに気づく。

 

 

「小野寺は?」

 

 

「あれ?あんたを探しに出たんだけど」

 

 

「そういや遅いな」

 

 

この家は広い。無暗に歩けば、馴れたと思っていても迷う時もある。

陸はため息をついてから立ち上がった。

 

 

「俺、小野寺を探しに行ってくるよ。桐崎さん、楽よろしく」

 

 

「え?うん…」

 

 

「ちゃんと小野寺つれて戻って来いよー」

 

 

そして、小咲を見つけるところまで続く…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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