一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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林間学校編、始まりです!


第12話 リンカン(1)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸たちが作ったお粥が効いたのか、それともそれ自体が大したことなかったのか。

楽の風邪は次の日にはすっかり治っていた。その一週間は特に特別なことはなく過ぎていった。

 

…いや、少しだけあった。

鶫の様子がおかしかったのだ。

陸は目撃していなかったのだが、いきなり廊下の壁に頭を叩きつけたり、くるくると踊り始めたり。

 

…見たいと思ったのは、誰にも言えない陸の秘密である。

 

そんな一週間が過ぎて、土曜日。

普通ならば学校は休みの日なのだが、一年生は校門の前に集まっていた。

 

今日は、凡矢理高校の伝統行事の一つである林間学校の日なのである。

校舎の前には八台のバスが止まっている。このバスに乗って、宿舎まで移動するのだ。

 

出発時間を待つ楽は、一人で荷物を持って立ちすくしていた。

そんな楽に近づいてくる一人の人物。

 

 

「おい一条兄。一条弟はどうした?」

 

 

楽は横合いからキョーコ先生に話しかけられた。

そう。楽はこの場にいるのだが陸がまだ来ていない。

集合時間はまだだが、すでに陸以外の全員が集まっている。

 

 

「あ、えっと…。もう少しで来るとは思うんですが…」

 

 

「んー…。まあ、とりあえずお前ら!班に分かれて集合~!バスに乗り込めー!」

 

 

このまま陸を待って他のクラスに迷惑をかけるわけにはいかない。

キョーコ先生は生徒たちに、バスに乗り込めと指示を出す。

 

 

「あの…、一条君、どうしたの?」

 

 

指示通り、楽は自分の班員の元に移動してからバスに乗り込もうとする。

 

すると、楽と同じ班員の一人である小咲が、陸はどうかしたのかと楽に問いかけた。

 

 

「あー…。まあ、あまり大したことじゃないよ。もうすぐ来るって」

 

 

楽の答えを聞いた小咲だが、やはり陸が心配なのか、両手を握る。

 

そう、別に大したことではない。

朝、急に『体動かしたい!道場行ってくる!』と言い出し、そのまま鍛錬に夢中で時間を忘れていた程度だ。

楽が家を出た時は、まだ陸は汗を流すためにシャワーを浴びていた。

 

恐らく今頃、簡単な朝食のトーストを咥えて、来るまで移動しているだろ…

 

キキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

 

瞬間、校門の前で甲高いブレーキ音が鳴り響く。

そのあまりの音量に、その場にいたほとんどの者たちが顔を歪めるが、音の正体を確かめるために校門の方に目を向ける。

 

校門の前に目を向けた物たちが見たのは、15m級のリムジン。

そのリムジンから一人の少年が慌てた様子で降りてくる。

 

 

「ごめんなさあああああい!!一条陸、遅れて到着いたしましたああああああ!!!」

 

 

そう、このリムジンは一条家のリムジンである。

陸を学校に送り込むために竜たちが用意したものなのだ。

 

 

「陸坊ちゃん!朝の鍛錬、お付き合いいただきありがとうございました!」

 

 

「お気をつけて行ってらっしゃいませ!」

 

 

「あぁうるせえ!黙って帰れボケが!」

 

 

…キャラが違う。

この場にいるほとんどの者が考えをシンクロさせる。

 

 

「お、おう一条弟。まだバスの出発時間じゃないから大丈夫だぞ?」

 

 

「そ、そうですか…。いや、遅れてすいませんした…」

 

 

先程のあまりの迫力に、キョーコ先生もわずかに引きながら陸に声をかける。

間に合ったことに安心した陸だが、集合時間は過ぎている。頭を下げて先生に謝罪する。

 

そして陸は、キョーコ先生に班のメンバーに合流してバスに乗り込めと指示され、楽たちの姿を見つけて歩み寄っていく。

 

 

「よぉ、ずいぶんかかったじゃねえか」

 

 

「いや…。普通の車でいいって言ったんだけどよ…。あんな出すのに苦労する物用意しやがって、五分はロストしたなあれで…」

 

 

どうやら竜たちが余計なことをしなければぎりぎり間に合っていたらしい。

楽は思わずため息を吐いた。

 

 

「でも、間に合ってよかったよ…。一緒に林間学校行けないんじゃないかって心配したよ…」

 

 

「はは、ごめんな小野寺」

 

 

楽がため息をついたとき、小咲が陸に話しかける。

陸も、笑みを浮かべながら小咲に返す。

 

 

「なあなあ陸」

 

 

「ん?何だよ集」

 

 

「鍛錬って、何してたの?」

 

 

集が、猫のような顔をしながら好奇心を素直に思いきりぶつけてくる。

陸は一瞬きょとん、とした表情になるがすぐに笑みを浮かべ直す。

 

 

「まあ、簡単に体動かした程度だよ。今日は剣道してきた」

 

 

集が剣道!?と驚愕しているが、陸はその顔を視界に入れずに前に視界を戻す。

すると、千棘の隣にいた鶫が陸の方に歩み寄ってくる。

 

 

「…体、鈍らせないようにしている様だな」

 

 

互いに目を向けず、顔だけ近づけ鶫は陸の耳元で囁いた。

 

 

「…まあ、いつ親父が厄介な仕事持ってくるかわかったもんじゃないからな」

 

 

陸の答えを聞いて、ふん、と鼻で笑った鶫は、再び耳元で囁く。

 

 

「貴様、いい加減私のことを名前で呼べ」

 

 

「…は?いきなり何だよ」

 

 

先程までは、二人の属する世界の話をしていたというのにいきなり話題を変えてきたことに戸惑う陸。

いや、さすがに強引過ぎるような気がする。

 

 

「いいから。さすがに、お嬢やその後友人の傍で異名で呼ばれたくはない。私も貴様のことをディアナとは呼ばないようにする」

 

 

「…なら、まあ」

 

 

鶫がまだ、自分のことをディアナと呼ぶつもりでいるのなら提案を突っぱねる気だったがそうでないなら受け入れよう。

陸は鶫の提案を受け入れ、そっと口を開いた。

 

 

「これからは、友人という事で。よろしくな、鶫」

 

 

「ふん、私は貴様を友人などとは思わん。…一条陸」

 

 

フルネーム?と小声で陸が聞き返すが、鶫は無視してそのままバスへと乗り込んでいく。

いつの間にか、列が進んでいたことに少しだけ驚く陸だったが鶫に続いてバスに乗り込む。

 

 

「お前、鶫と何話してたんだ?」

 

 

背後から楽が話しかけてくる。陸は簡単に「何でもないよ」と、一言答えてバスの奥に進む。

 

 

「あ、誠士郎ちゃん!一番奥の席に座ってー!」

 

 

「一条弟君、あんたはここ」

 

 

「「え?」」

 

 

この、集とるりの何気ない一言が、あんなことを引き起こすとは誰も思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

((((((いや、お前ら喋れよ!!))))))

 

 

心の中だけではあるが、盛大に突っ込まれるとある二人。

その二人とは、奥から二番目の席に座る男女。陸と小咲である。

 

陸と小咲はるりに強引に隣同士に座らせられたのだ。

陸は通路側で、肘当てに左ひじを置き頬杖をつき、小咲は窓側で両ひざに握り拳を作りながら俯いている。

 

 

「…なあ小野寺?今からでも誰かと席替わろうか?」

 

 

「あ!その…、大丈夫!」

 

 

いつもならば、少なからず会話が弾むというのに今日はというより今は全く会話が始まらない。

陸は小咲の様子がおかしいことに勘付く。それが、嫌がっていると思ってしまったところがまだまだなのだが。

 

 

(うぅ~…!こんな近くに一条君が…。し、心臓の音、聞こえてたりしてないかな…!)

 

 

顔を真っ赤にしながら、内心で考える小咲。

心臓の音こそ、告白未遂の時ほど高鳴ってはいないが、距離は明らかに近い。というより密着している。

 

自分の心臓の音が、陸に伝わっているかもしれない。

そう考えると、さらに顔の熱が高まっていく。

 

 

(小野寺、何で喋らないんだ?いや、別にいいんだけど…気になるな…)

 

 

陸だって何も喋っていないではないか。

 

ともかく、今の二人は明らかにどちらも恥ずかしがって、何も喋れないでいるという風にしか見えないのだ。

結果、周りからは━━━━

 

 

((((((お前ら二人、さっさと喋れ!何かこっちまで恥ずかしくなってくるわ!!))))))

 

 

男女関係なく、先生どころか運転手までもが心合わせて内心で叫ぶ。

 

そんな中、バスは急なカーブに差し掛かった。

 

 

「おおっと遠心力がー!これは仕方なーい!!」

 

 

「うぉっ!?」

 

 

陸と小咲の背後から楽しそうな声と、何かに驚いたような声が響き渡る。

 

陸が後ろを見ると、集が隣から楽を押して千棘の方へと押し付けている光景が目に入る。

ちなみに、その反対の端の方でるりが挟まれて潰れている。

 

 

「ち、ちょっとダーリン…!くっつきすぎないで…!」

 

 

「いや、だって集が…!」

 

 

「おい一条楽…!お嬢に近寄り過ぎだ…!」

 

 

楽と千棘だけでなく、何故か鶫まで頬を染めて言い合っている。

その途中でも、バスはさらにカーブの道に差し掛かって━━━━

 

 

「カーブー!!」

 

 

今度はさらに力を込めて、集が楽を押し込む。

千棘との密着感がさらに増し、それを見た鶫が臨界点を超える。

 

 

「貴様ぁ…!どうやら林間学校の前に冥土へと行きたいようだな…!」

 

 

「俺のせいじゃなあああああああああああああああい!!!」

 

 

「…」

 

 

さっ、と懐から取り出した拳銃を楽の米神に突きつける鶫。

だが、楽にとっては知らぬことである。押されていなければこうならなかったというのに。

 

すると、このやり取りの中ずっと黙って潰された状態のまま黙っていたるりの目が光る。

集が楽を押すせいで自分が被害に遭っている。るり、仕返しを開始します。

 

 

「おおっと今度はこっちから遠心力がーー。ごめんね鶫さーん」

 

 

「えぇ!?」

 

 

「きゃぁ!?」

 

 

「なっ!?」

 

 

「むぎゅぅっ!」

 

 

そこから先は、まさにやってやり返しての繰り返しだった。

右カーブの時は集が楽を、左カーブの時はるりが鶫を押しての戦いが起こる。

 

そして、その被害に一番遭っているのは二人の間にいる楽と千棘の二人だろう。

押されっぱなしで、それはつまり密着し続けるという事で。

 

宿舎に着いたときには、二人の顔は耳まで真っ赤になっていたのだった。

 

そして、その光景を見ていたあの二人は…。

 

 

「…はは、ははははは!!」

 

 

「ふふ…、あはははは!!」

 

 

初めに流していた気まずい空気を霧散させ、顔を合わせて楽たちを指さしながら笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

目的地に到着して、荷物を一つに固めて置いてから初めに生徒たちが始めたことは、カレー作りだ。

だが、抜かりはない。予定表を見て準備をしっかりしてきた楽と陸。

 

班が合流すると、楽がてきぱきと指示を出し始める。

 

 

「小野寺と宮本は薪をもらってきてくれ。桐崎はここで俺が指示を出す。勝手に動くんじゃないぞ。陸と集は二人でルーづくりをしてくれ」

 

 

小咲とるりは、楽の指示に素直に従って薪をもらいに行く。

千棘は楽を不満げな目で見上げる。そして、陸と集はそっと囁き合った。

 

 

「楽の奴、必死だな…」

 

 

「聞いてるだろ、あのお粥の話。マジで大変だったんだぞあの時は…」

 

 

集は、楽が風邪を引いたときの陸たちのお粥づくりの話を聞いている。

どこか憐れんだ目で陸を集は眺めるのだった。

 

さて、陸と集はカレーの材料を取りに行って、それぞれの班に割り当てられたテーブルに全ての材料を置く。

 

 

「皆ー、薪をもらってきたよー」

 

 

「おー、材料から離して置いてくれ。集、俺は鍋を持ってくる」

 

 

「わかった」

 

 

小咲とるりが薪を持ってきて、陸は二人にテーブルのスペースを作ってそこに薪を置くように言ってから鍋を取りに行く。

 

そこからカレー作りは続く。陸が洗った鍋を持ってくると、小咲とるりが持ってきた薪を集が燃やし、るりと小咲が材料の皮を切る。

その間に陸はルーを入れて、集が燃やした薪の火の上に鍋を置く。

 

 

「…ん?何やってんだあの二人」

 

 

とりあえず、陸の仕事は一段落ついた。汗を拭って辺りを見渡すと、見つめ合う、何故かびしょ濡れになっている楽とぼうっ、とボールを持ったまま立ちすくす千棘の姿を見つけた。

 

仕事サボりやがって、と内心に憤りを感じながら陸は二人に注意をするために歩み寄る。

 

 

「あんた…、そのおでこの傷、何?」

 

 

「ん、これ?何か小さい頃からあるんだけど、よく覚えてないんだよな~」

 

 

歩み寄る途中で、二人の会話が聞こえてきた。

見ると、濡れた楽の髪は分かれて、前髪に隠れていた額の古傷が姿を見せていた。

 

 

「それ、確か野犬に襲われた時についた傷じゃなかったっけ?」

 

 

「っ!!?」

 

 

「陸?」

 

 

その傷を見た陸が、今思い出したように二人に説明する。

途端、千棘は目を大きく見開いて陸に振り返り、楽は目を丸くして、何でここにいる?と聞きたそうに陸の名前を呼ぶ。

 

 

「楽、桐崎さん。こんな所でサボるなよ。早くご飯を炊け」

 

 

「あ、あぁ。悪ぃ…」

 

 

陸が注意すると、楽は素直に謝るが何故か千棘は黙ったままだ。

怪訝に思った陸は、千棘の方を向いて口を開こうとする。

 

 

「桐崎さん?俺の話聞いt…」

 

 

「ねえ!その話、本当!?」

 

 

「ほ、本当?ああ本当だよ。二人のせいで俺達の調理は遅れてるんだ。早くご飯を…」

 

 

「あー!違う!その話じゃなくて!」

 

 

何やねん。

思わず似非関西弁で突っ込みたくなる気持ちを抑えて陸は千棘の話に耳を傾ける。

千棘の表情が、どこか必死に見えたから。千棘の話をちゃんと聞かなければ、と思ったのだ。

 

 

「このもやしの額の傷!本当に野犬につけられたものなの!?」

 

 

「え?あぁ、それは確かだよ。…あ、そういえば楽が怪我して気を失った時、女の子が泣きそうな顔して必死で看病してたぞ?覚えてるか、楽?」

 

 

「え!?ええと…、覚えてねえ…」

 

 

ともかく、陸にとっては今はそんなことはどうでもよく、さっさと二人には調理を進めてほしい。

もう一度そのことを伝えると、楽は素直に調理へと戻っていく。

 

だが、千棘はまたも陸の言葉に反応しない。

陸はため息をついてから千棘に話しかける。

 

 

「桐崎さん、ほら。さっさと調理を…」

 

 

陸は、そこで言葉を止めざるを得なかった。

何故なら━━━━

 

 

「うそ、でしょ…?だって…、そんなこと…」

 

 

顔を真っ赤に染めて、呆然と、ただただその言葉を繰り返し続ける千棘の姿がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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