一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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第19話 ホンコン(2)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸が、学校を休み始めてから5日。

その日、学校は休みであり、小咲は家の部屋のベットの上で寝ころんで天井を見上げていた。

 

 

「…陸君」

 

 

中学の時もそうだった。一年に一度ほど、一週間、最長で一か月も休んでいたことがあった。

どうしたのか気になり、陸が休んでいる最中に楽に聞いたり、学校に来るようになった陸に聞いたりもした。

 

だが、返ってくる答えは、毎回『大したことはない』。

一週間、一か月も休んで大したことないはずないのに、陸も楽も理由を教えてくれなかった。

 

知りたい。陸が休んでいる理由を知りたい

今までも思ってきたことだが、今回はあることも相まってさらにその気持ちが大きくなっている。

 

あの、陸が持っていた千棘の写真だ。

あの写真は、写真の端に映っている着替え中の小咲に気づいた陸が、教師に持っていって報せるために取り出したものだったのだ。

それを、小咲は勘違いしてしまった。

 

 

「陸君…」

 

 

今、何をしているのだろう。

会いたい。会って、お話がしたい。

 

今まで、ここまで会いたくはならなかったのに。

 

 

(…これって、陸君の事、もっと好きになっちゃったってことなのかな)

 

 

体を転がし、右腕を下にして頭を乗せる。

小咲の目に映るのは、自分の部屋の全体。

 

タンスや引き出し、部屋に置かれている家具は可愛らしい物が揃っている。

小さい頃、母にこれがいい、と必死に頼んで買ってもらったものばかりだ。

 

だが今は、その可愛らしい色は霞んで見えてしまう。

 

 

(陸君…、会いたいよ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…?」

 

 

不意に、陸が目を虚空に向ける。

じっ、とその方向に目を向けたまま陸は黙ってしまう。

 

 

「どうかされましたか?」

 

 

「…いや」

 

 

傍らにいた王が、どうしたのか様子を聞いてくる。

陸は、視線を向けたものの何もない事を確認してから答える。

 

 

(…バカか。小咲がいるわけないだろ?小咲の声が聞こえた気がするとか…、あり得ない)

 

 

自分を呼ぶ小咲の声が聞こえたような気がしたのだ。

この香港に、小咲がいるはずがないのに。そんなこと、あり得るはずがないのに。

 

小咲に会いたいと、思ってしまう。

 

 

(落ち着け。今は仕事の最中だぞ、集中しろ)

 

 

現在、陸は小さ目の乗用車に乗って、窓の外に目を向けていた。

その視線の先には、サングラスをかけスーツケースを持った黒スーツの男が、車道を挟んで向こう側の歩道を歩いている。

 

今の状況を説明するには、一昨日まで時を遡る。

 

 

「取引?」

 

 

ホテルの部屋の中で、陸が鋭い視線を向けながら相手に問いかける。

その視線の先にいるのは、王だ。王は表情を変えずに、陸に口を開く。

 

 

「はい。麻竹会が、二日後…つまり明後日に何かしらの品物の取引を行うという情報が、諜報員から入ったのです」

 

 

王が陸の部屋にやって来たのはつい先ほど。

何やら報告があるとやって来た王が持ってきた情報は、この仕事に終止符を打つための道を示す重要なものだった。

 

 

「迂闊だな。そんな情報を外に漏らすとは…、とはいえこちらにとっては好機だな」

 

 

その取引がどういうものなのかは知らないが、明らかに機密にすべき情報を簡単に漏らしてしまった麻竹会は迂闊としか言いようがない。

 

 

「…場所もわかっているのか」

 

 

「はい。ここから15㎞地点にある小さなビルです」

 

 

これには唖然としてしまう陸。まさか場所まで漏れているとは思わなかった。

 

 

「…罠じゃないのか?」

 

 

「はい。その可能性も考え、諜報員には更なる調査を命じております」

 

 

どうやら、王も同じことを危惧していたようだ。

ここまで情報が漏れてしまっていると、罠ではないかという恐れも浮かんでくる。

 

いや、それほどまでに麻竹会は組織としてあるまじきことをしてしまっているのだ。

組織の壊滅につながっていく恐れもある情報を、漏らしてしまっているのだ。

 

 

「…ともかく、何にしても行ってみるべきだろうな。明後日といったか、その取引は」

 

 

「はい」

 

 

王にもう一度確認を取ってから、陸は最後にこう言った。

 

 

「なら、その情報に誤りがあった、罠だ等の報告がない限りは明後日の取引、探りに行く」

 

 

 

 

 

こういう経緯があって今に至る。

陸が視線を向けている黒スーツの男は、周りに悟られないようにはしているが、ちらちらと顔を小さく動かして辺りの様子を探っている。

 

そして、不意に立ち止まるともう一度辺りを見渡して、路地裏へと入っていった。

 

瞬間、陸は王に目を向け、王もまた頷いて返す。

 

 

「追え。繰り返し言うが、悟られないように気を付けろ」

 

 

王は、襟元に取り付けられているマイクに向かって小声で語り掛ける。

すると、男が入っていった路地裏に、二人の男たちが入っていく。

 

捜査員が男の行方を探っている中、陸たちは路地裏への道をその目で睨むだけ。

車内は沈黙が支配し、外から聞こえてくる歩く往来のざわめきは今の陸と王の耳には入ってこない。

 

 

「…何だ。…そうか、わかった。引き続き、監視を続けろ」

 

 

「どうかしたか?」

 

 

路地裏の方に視線を集中させている中、再び王の口が開かれる。

恐らく、男の方に動きがあったのだろう。陸は王に問いかける。

 

 

「男は、路地裏を通って小さなビルの中へと入っていったそうです。引き続き、監視を命じておきました」

 

 

「…そうか」

 

 

王の判断に誤りはない。捜査員の存在が悟られていないのならば、監視を続けるべきだ。

そして、男に捜査員の存在に気付いたという様子はなかったという。

 

となると、やはり王と同じように監視を続けるべきだと陸も判断する。

 

再び訪れる沈黙。捜査員の報告を待つ陸と王。

 

だが、おかしい。報告を待ち始めて一時間が過ぎる。

念入りに取引が続いていると言われればそれまでなのだが、すでに品物も決まっているのだから、払う代金だって決まっているはず。

 

ここまで時間がかかるとは思えない。

 

 

「…っ?」

 

 

そこで、陸はバックミラーに映った黒い車に気づく。

一見、何の変哲もない車。だが、陸が注目したのはその車内。

 

完全に、車内の運転席、助手席に座っている二人の男の目が、こちらの車を捉えている。

 

陸の背筋に、寒気が奔る。

 

 

「車を走らせろ!」

 

 

「え…?」

 

 

「早く!」

 

 

運転手が戸惑った声を漏らすが、構わず陸は運転手に怒鳴りつける。

陸の強張った表情と、物を言わせぬ声に思わず運転手はアクセルペダルを踏んで車を走らせる。

 

 

「陸様、何を…」

 

 

「王。捜査員に連絡を取れ。…まあ、遅いだろうがな」

 

 

え、と声を漏らした後、王は陸の言う通りに捜査員に連絡を送る。

だが、それは陸の危惧していた通り、そして王が考えていなかった結果を呼び込む。

 

 

「おい…。どうした!返事をしろ!」

 

 

「…やはりか。俺たちは誘い込まれたんだよ。奴らの思い通りにな」

 

 

麻竹会から漏れてきた取引の情報。それが嘘だったとまでは断定できないが、それを餌にこちらを誘い込んできたのは間違いないだろう。

 

陸は後方をバックミラーを通して見る。

あの黒い車は、こちらを追ってきていた。

 

 

(こちらの拠点を特定するつもりだな。だが、そうはさせない)

 

 

この車を追って、陸たちが泊まっている拠点を特定しようとする意図を悟る陸。

 

陸は、なるべく後方にいる男たちに怪しまれないよう、座ったまま問いかける。

 

 

「人が中々来ない場所は近くにないか?後ろから追ってくる車を迎え撃つ」

 

 

「なっ…」

 

 

「後ろを見るな。こちらが向こうの思惑に勘付いていると気づかれたくない」

 

 

陸の言葉に、目を見開きながら振り返ろうとした王を陸は引き留める。

 

 

「…はい」

 

 

「それで、この近くに人が来ない場所、目立たない場所というものはあるか?」

 

 

「港…、港はこの時間帯、出発する船もなく人は少ないかと…」

 

 

陸の言う通りに、僅かに動いた体の位置を戻す王を一瞥してから、陸はもう一度問いかける。

その問いに答えたのは、ハンドルを握る運転手だった。

 

港…。陸は一瞬、他の所はないのかと口を開きかけるが今はそんなこと言っていられる場合じゃない。

 

 

(くそ、甘く見過ぎた…。何でこんな簡単なことを見抜けなかった…!?)

 

 

目を細くし、歯を食い縛って自身の失態を悔やむ陸。

いつもの自分ならば慎重に対応していたはず。

 

初めて、集英組のお供をつけずに一人で来たから?プレッシャーを感じていた?

それとも━━━━

 

 

(…どうでもいい。ともかく、今はこの状況を逆手に取ることを優先する)

 

 

確かに、状況だけ見るとこちらが追い込まれているようにも見える。

だが、逆に考えれば、上手くいけばこちらが向こうを領域に呼び込める好機。

 

陸は気持ちを入れ替え、次の行動に移るための準備を始める。

 

 

 

 

 

 

 

後方の車、助手席の男が不意に口を開いた。

 

 

「なあ、おかしくないか?ホテルが多く立ち並ぶ通りからこんなに離れて、あいつらはどこに行こうとしているんだ?」

 

 

「さあな。もしかしたら、俺たちの逆を突くために、思わぬところを拠点に構えているのかもな。ま、それも無駄になるんだけどよ」

 

 

いやらしい笑みを浮かべながらハンドルを握る男。

確かに、そう言われればそれまでなのだが、しかし助手席に座る男の胸に差した影は晴れてくれない。

 

前の車を追う男たち。

前の車は止まる気配を見せず、ついに人通りの少ない所まで走ってきてしまった。

 

 

「なあ…。マジでおかしくないか?こんな所に…」

 

 

「何がおかしいんだよ?俺たちの裏をかこうとしてるんだ、人通りの少ない所に拠点を置くのは当然だろう」

 

 

懸念を口にする助手席の男だが、ハンドルを握る男は相手にしてくれない。

しかし、男の言う事にも一理あるのだ。助手席の男は強く言い切ることができず口を噤んでしまう。

 

まだ走る前の車。そして、対象は人のいない港へと入っていった。

 

 

「おい、これはさすがに…」

 

 

「まさか奴ら!ここに車を止めて寝泊まりしてるんじゃ!?」

 

 

さすがにおかしい。そう思った助手席の男だったが、運転手の男はそうではないようだ。

この港に車を隠し、そこで寝泊まりしていると運転手の男は考える。

 

こればかりは引いてはいられない。いくら何でも、これはおかしすぎる。

 

 

「おい!奴らを追うのはいいが、まずは本部に連絡を…」

 

 

「ふざけるな!本部に連絡するのは奴らを見つけてからだ!」

 

 

運転手の男を止めようと、助手席の男は声を張り上げるが止まらない。

 

運転手の男の中にあるのは、対象の拠点を見つけて手柄を上げる。その事だけ。

 

 

「ふざけてるのはどっちだよ!状況を考えろよ!」

 

 

「考えてるに決まってんだろうが!ここで拠点を構えている奴らを見つける!そうすれば組織にとっても優位になるはずだ!」

 

 

運転席の男の頭の中では、すでにここで叉焼会の者たちが拠点を構えているのは決定事項のようだ。

後は、その拠点の場所を特定するだけ。そう考えている。

 

 

(くっそ!何でこんな奴とコンビ組まなきゃならないんだ!)

 

 

心の中で悪態をつく助手席の男。

ドライブテクを買われ、今回の任に就いた隣の席に座る男だが、どうも短絡的なのだ。

その上、自己中心的な性格をしており、言い出したら聞かないという欠点を持っている。

 

この任で、カーチェイスの可能性を考えてこの男を抜擢した組織のボスだが、どうやらその采配は失敗だったようだ。

 

 

「ともかく慎重になれ!まずは車を止めろ!走行音で奴らが気づいて移動する可能性だってある!」

 

 

「…わかった。確かにそうだな」

 

 

ともかく、車を止めなければ話にならない。

バカな男の頭にもわかる様に説明し、車を止めるように言う。

 

今回は男も納得したのだろう。

それでも渋々といった感じなのだが、頷いてブレーキをかける。

 

だが、余りにも遅すぎた。

 

 

「…なっ!?」

 

 

「何だ!?」

 

 

いきなり襲う車体の揺れ。車体が右に傾き、運転手のコントロールが効きづらくなる。

 

火花を散らしながら、ようやく止まった車から降りる二人。

何だったんだ、と息を吐きながら降りた二人は、こちらに向けられる銃口に気づく。

 

 

「動くな。…麻竹会の一員だな?」

 

 

二人が目を向けた先、そこには銃口を向ける陸と王の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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