一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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これが、最後の投稿になります。
活動報告にもありますが、夏休みは実家に帰ります。
去年よりも長い間、投稿を休ませてもらうことになると思います。


第28話 ウミベデ

 

 

 

 

 

 

いよいよ、陸たちの夏休みも終盤へと差し掛かってきていた。

授業が再開するまで、残り一週間強。

 

宿題もそれぞれ一段落が着き、この一週間をどのように過ごすかを考えていた陸と楽、集の三人。

楽の部屋で集まり、何をしようかと話し合った。

 

そんな時、楽の一言が予定を決めることとなったのだ。

 

 

『そういえば俺達、海に行ってないよな』

 

 

 

 

 

「直、夏休みも終わるし…海くらいは行かねえとなー」

 

 

それぞれが、簡単なTシャツや短パン、パーカーを背負い、楽の手にはパラソル。

陸と集の手には大きめの荷物が握られている。

 

そして彼らのまわりには、いつものメンツである女子メンバー。

 

先程の集のセリフ通り、彼らは海に旅行へとやってきていたのだ。

 

 

「私、日本の海って初めて!ノースカロライナ以来かな」

 

 

「私は見るだけですが、モルディブ以来でしょうか」

 

 

(セレブかお前ら…)

 

 

何気ない会話に聞こえるが、そこに出てくるのはセレブご用達の国ばかり。

そんな会話をすぐ傍らで耳にしていた楽が内心で、会話をする千棘と万里花にツッコむ。

 

 

「俺も、海に来るのなんてレダン島以来だな」

 

 

「え?レダンに行ったの!?あそこってアクセスが不便だから行くのが難しい所じゃなかった!?」

 

 

「うん?まあね。親父に連れてかれてさ」

 

 

(陸よ、お前もか!)

 

 

ちなみに、そのレダン島のビーチには楽は行っていない。

レダン島に行ったのは裏の方の仕事関係だったのだから。

 

なので、海を楽しむ時間も正直ないに等しかったのだが、あの美しい風景を一目見ただけでも得をしたと今でも陸は思っている。

 

 

「あーもう、楽しみ!私いっちばーん!!」

 

 

「おい、こらてめっ!」

 

 

我慢ができなくなってしまった千棘が、両手を上げながら駆けだしていく。

楽たちも慌てて追いかけ、眼前の塀を上がる。

 

そして、塀を超えた彼らの目に映るのは、白い砂浜に青い海。

砂浜には、咲き乱れる花のような、色とりどりのパラソル。海ではバレーをしている者や、泳ぎの競争をしている者など人それぞれの方法で楽しんでいた。

 

 

「キャァッホーーー!!!」

 

 

「わーい」

 

 

「おいこら!パラソル張るの手伝え!」

 

 

はしゃぎながら、パーカーを脱ぎ捨てて海へと直行する千棘にるり。

そんな二人を追いかける楽。

 

少しして、楽に連れられて渋々といった感じで戻ってくる千棘とるりも加わって、パラソルを立て、荷物を整理し始める。

 

だが、その光景は周りの男共を魅了していることに全員が気づいていなかった。

 

 

「何だよあの美女軍団…」

 

 

「レベル高ぇ~…」

 

 

「まさか、芸能人じゃないよな…」

 

 

男どもの視線を受けながら、陸たちは準備を進める。

そんな中、集がいつもと違う鶫の姿に注目し始める。

 

 

「あらら?誠士郎ちゃん、今日は女の子らしい水着じゃない、どしたの?」

 

 

集が注目したのは、鶫の水着姿。

 

鶫が身に着けているのは水着は、真っ赤なビキニ。

だが、他のメンバーとは違って、上の水着は肩にかけるタイプのものではなく背中に巻くもの。

 

鶫の抜群のスタイルがこれでもかと言わんばかりに晒されている。

 

 

「わ、私はスーツで良いと言ったのです。それなのに、お嬢が…」

 

 

「海にまで来て何を言ってんのよ。観念しなさい」

 

 

やはり、鶫が進んで身に着けたものではないのだろう。

話を聞く限り、千棘が無理やり着させたもののようだ。

 

まあ、このような水着を鶫が進んで着るわけがないのだが。

 

 

「?」

 

 

そこで、鶫がようやく周りから向けられる視線に気づく。

だが、初めとは違い、鶫に向けられているのは男だけではなく、鶫と違って恵まれていない女の視線も向けられている。

男は頬を染め、女はちっ、と舌打ちしながら。

 

 

「これだから胸なんて要らないんです…」

 

 

「まあまあ、せっかくの体なんだし自信持ちなさいよ」

 

 

自分を抱き締めるように腕を巻いて、小さく縮こまる鶫に、鶫の胸を凝視しながら言う千棘。

 

そして、鶫の背後からそろぉ~っと近づく人影。

 

 

「えい!」

 

 

「ぎゃあ!?き、貴様何を!?」

 

 

その人影は、鶫の背後から腕を巻いて豊満な胸を揉みしだく。

鶫は悲鳴を上げて、その手から逃れようともがく。

 

 

「むっ…。やはり私より大きいですわね…」

 

 

鶫の胸を揉んでいるのは万里花だ。

万里花は明らかな戦力差に不満げな顔をしながら鶫の胸を揉み続ける。

 

 

「あ、ホントだ。何この弾力!」

 

 

「お、お嬢まで!」

 

 

さらに千棘まで加わって状況は混乱。

 

 

「…あいつら、男がいるってこと忘れてるだろ」

 

 

「見ないのが一番だ」

 

 

その状況を凝視している楽、そして無言な集。

陸は、底へ目を向けずに準備を進めていた。

 

 

「てか集。さっきから何をやってんだ?」

 

 

「C…C…B…」

 

 

そして、双眼鏡でどこかを見ながらつぶやく集。

何をしているのか気になった陸が集に問いかけた。

 

 

「B…B…おお!?あれはEか!?あそこにはFクラス!」

 

 

「おーい集。そろそろ気づかないとやばいぞー」

 

 

次の集のつぶやきで、何をしているのか悟る陸。

そして、同じように気づいたある者が集の背後で、荷物から取り出したバットを構えている。

 

陸が集に警告を出すが、集は全く気が付かない。

 

 

「そおい!」

 

 

「ごはぁ!?」

 

 

結局、集は背後の人物、るりのバットスイングの餌食となってしまった。

 

陸は、その光景から視線を外してため息をつくと、整理し終えた荷物を置いて立ち上がる。

 

 

「…ん?」

 

 

すると、楽と千棘が不良に囲まれている光景を目にする。

特に騒ぎにはなっていない上に、何もせずに不良は立ち去って行った。

 

ふう、と息を吐いてから陸は海に入ろうと、Tシャツを脱いで敷いたシートの上に置いて歩き出す。

 

 

「ぎゃーーーーーーー!!」

 

 

直後、陸の頭上から悲鳴が響き渡る。

見上げると、何故か飛び上がっていく楽の姿が。

 

 

「…」

 

 

見てない。何も見てない。

 

ともかく、今の光景を見ていないことにして陸は海の中へと入っていく。

 

足に、心地よい水の冷たい感覚が染み渡ってくる。

 

陸は、足元を、足にかかってくる波を眺めながら足を進めていく。

足下から膝に、膝から、ついに足がつかなくなり、体全体が。

 

陸は体を浮かせて、水面で仰向けになって空を見上げる。

 

日差しが、青い空が見えるのがここまで心地よいと感じたのは久しぶりだ。

 

 

「わぁあああああああああああ!!」

 

 

「…」

 

 

また、先程と同じ人影が空を横切ったような気がするが、気のせいだと思いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと…。それじゃあ、夜の食事当番を決めておこうか。夜はバーベキューセットを借りることになってるから」

 

 

それぞれが海を楽しんだ後、日も傾きかけた時間帯で皆は集まって話し合う。

話し合いの内容は、夕食を作るのは誰にするか、だ。

 

決める方法は、くじ引きですぐに決まる。当番も二人という事で決まった。

 

早速、皆はくじを引いて、引いた紙の端を見る。

 

 

「「げ」」

 

 

「おー!恋人同士で当番かあ!よろしく頼むぞ楽!」

 

 

紙に端に色が塗られているのが、当番となる外れくじ。

そしてそのくじを引いたのは、楽と千棘の二人。

 

 

(つまり、実質一人か…。頑張れ楽)

 

 

だが、千棘は料理ができないに等しい。恐らくそれは、バーベキューにも当てはまると思われる。

つまり、それは料理当番は楽一人に等しいという事。

 

心の中だけで楽にエールを送る陸。

 

 

「じゃ、頑張れよ二人ともー!」

 

 

「よろしくねー」

 

 

「お嬢、私も…」

 

 

「あんたも来る」

 

 

「楽様ー!私もお手伝いしm…」

 

 

「お前も来るんだよ」

 

 

楽と千棘以外のメンバーは、夕食を二人に任せて再び海へと向かう。

 

楽と千棘が夕食の準備をしている間、陸たちはビーチバレーや小咲の砂の作品の作業を手伝ったりした。

特に小咲の作品は芸術の域に達しており、手伝うといっても砂を集めたりなどの簡単な作業しかできなかったのだが。

 

笑いが途切れることなく時間は過ぎて、日が沈みかけてきたころ楽が陸たちを呼ぶ。

夕食が完成したのだ。

 

 

「少し騒がしかったようだけど、何かあったのか?」

 

 

「は?…いや、何も」

 

 

楽と千棘が夕食を準備していた時、二人がいる方から二人の声が度々聞こえてきたのだ。

どちらかというと、怒声と言うべき声が。

 

それが気になった陸が、楽に問いかけるが楽は答えてくれない。

 

 

「…そうか」

 

 

特に大したことではないのだろうと判断した陸は、そのまま楽を追い越してすでにコンロのまわりに集まっている小咲や千棘たちの元へ向かう。

 

そして集からプラスチックの皿と割り箸をもらい、割り箸を割るとコンロで焼いている肉や野菜を取っていく。

 

 

「あ、貴様!その肉は私が焼いていたものだぞ!」

 

 

「あら、そうなのですか?申し訳ありません」

 

 

「謝りながら食べるんじゃない!あぁ!舞子集、貴様も!」

 

 

「油断しちゃダメだよ誠士郎ちゃん」

 

 

鶫、万里花、集が肉を巡って争いを始める。

万里花、集が鶫の焼いた肉を奪おうとして、鶫は自分の肉を何とか死守しようとする。

 

 

「ホント、あの三人は何を騒いでるのかしら…」

 

 

「ホントだな。あ、この肉焼けてる」

 

 

「あ、ちょっと。その肉は私が焼いてた…」

 

 

「ん?何か言ったか宮本?…いてっ、おい何だよ急に。痛いって、何で膝蹴りしてくんの?」

 

 

陸が、るりと一緒に呆れの視線を鶫たち三人に向ける。

そして陸は、焼けた肉を取って口へと入れる。るりが止めようとする前に。

 

 

「どうしたんだよ宮本」

 

 

「離しなさい一条弟君。あんたを蹴れないじゃない」

 

 

「蹴るな!」

 

 

るりの頭を掴んでるりの動きを止める陸。

 

 

「るりちゃん、やめなよー!」

 

 

「小咲も離して。こいつを、こいつを蹴れない」

 

 

「「だから蹴る(ら)な(いでよ)!」」

 

 

暴れるるり、るりを止める陸と小咲。

 

るりを止めながら、陸と小咲はある方向に視線を向けていた。

それは、千棘。他の人たちと違い、黙ったまま静かに肉を食べ続ける千棘。

 

千棘は顔を俯けて、物思いに耽っているような、そんな暗い表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食も食べ終え、辺りはすっかり暗くなっていた。

暗くなったことにより、明るい時には見えていた海の中は全く見えなくなってしまう。

 

そんな暗い海を、太陽に代わって空に上がった月が照らしていた。

その光景を、陸は防波堤に腰を下ろして眺める。

 

 

「陸君」

 

 

「小咲?」

 

 

楽たちが今いるだろう所から少し離れた所に陸は居る。

まさか、見つかるとは思っていなかったため陸はやってきた小咲を見て目を瞠る。

 

 

「隣いい?」

 

 

「ん、ああ」

 

 

許可をもらった小咲が陸の隣に腰を下ろす。

 

何を話そうか…、いや、何も話さずこのまま静かに過ごすのもいいか。

そんな風に考えていた陸に、小咲が口を開く。

 

 

「ねえ陸君。千棘ちゃんの様子…、おかしかったよね?」

 

 

「…そうだな。何か元気がなかった」

 

 

小咲が聞いてきたのは千棘の事。

夕食を食べ終え、陸がここにやってくる前も千棘の沈んだ様子は変わっていなかった。

 

とはいえ、原因がわからない以上どうすることもできない。それは、陸も小咲もわかっている。

 

 

「皆は?どうしてる?」

 

 

「じゃんけんで負けた人が後片付けしてる。舞子君、陸君のこと探してたよ?」

 

 

「ははっ、そりゃいいや。後片付けを回避できたんだな」

 

 

集たちは後片付けをしているらしい。

そして、その当番を決めたのはじゃんけん。

 

陸はそのじゃんけんに参加していない。自動的に後片付けを回避したのだ。

 

 

「ま、後の報復が少し怖いが…、何とかなるだろ」

 

 

「はは…」

 

 

しかし、戻った後の仕返し、何をされるかわからない。

少しだけ恐怖感を感じるが、まあ何とかなるだろうと自分に言い聞かせる陸。

 

そんな陸を、小咲は苦笑気味で眺めることしかできなかった。

 

 

「…なんだか不思議だね。中学の頃は、こうして陸君を…、名前で呼ぶことも、一緒に海に来ることも想像してなかった」

 

 

「お互い、そんなに話す方でもなかったからな」

 

 

思い出すのは中学の頃。

陸と小咲が出会ったのは中学二年の時のことだった。

 

出会った後も、話す機会は多くはない。

友人、というよりは知り合いという方がまだ合っていた。

 

あの時は、ここまで仲が良くなるなど考えてもいなかった陸と小咲。

 

 

「ねえ陸君。陸君は、楽しかった?」

 

 

「…ああ、すごく。小咲はどうだった?」

 

 

「うん!もちろん楽しかったよ」

 

 

それぞれの問いかけに答える、陸と小咲。

 

この旅行はたった一泊だけ。つまり、明日はもう帰るという事。

 

楽しかったと答える陸だったが、内心ではもっと遊べばよかったと小さく後悔していた。

 

 

「…ふう」

 

 

陸は息を吐きながら、両手をついて空を仰ぎ見る。

 

ここは、都会からは離れた場所。星空が、良く見える。

 

 

(あれが白鳥座。ということはあれは夏の大三角形。琴座、わし座)

 

 

空を見上げて星座を眺める陸。その陸の横顔を、小咲が見つめていることに気付かない。

 

 

(…楽しいなぁ。こうして一緒にいるだけで、こんなに元気になるなんて)

 

 

この気持ちは、中学の時と変わらない。いや、中学の時よりもさらに大きくなっている。

 

もっと一緒にいたい。もっとこんな時間が続いたらいい。

 

 

(好きだなぁ…、やっぱり…)

 

 

改めて、陸が好きなのだと小咲は実感する。

 

陸も小咲も、口を開かない。言葉を出そうとするが、出てこない。

 

こんな空気、二人には覚えがあった。

そう、この空気はあの時。縁日の時と一緒だ。

 

小咲の草履を直した時、人気の少ない場所で二人で座っていた時。

 

 

「ねぇ、陸君…」

 

 

だからなのかもしれない。あの時もそうだった。

勝手に体が動いて…

 

 

「キスしても、いい…?」

 

 

今この時と、同じように━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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