一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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昨日一昨日と大学の文化祭を楽しみました。
そしてこの小説でも、文化祭編に突入です!


第30話 ハイヤク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海への旅行から一週間と強が過ぎた。

雲一つないほどに晴れ渡った今日。本日から凡矢理高校、新学期です。

 

新学期…、なのだが…

 

 

「楽、元気出せって。今日から新学期なんだぞ?」

 

 

「…俺は元気だ」

 

 

通学路を進む陸の隣には、高校に入学してからは珍しく楽の姿があった。

中学生の頃から、共に登校するのは数えるほどしかなかったのだが、楽と千棘が恋人の振りをし始めてからは全くと行っていいほど登校を共にすることはなかった。

 

だが本日。楽は登校を千棘と共にすることはなく、新学期初日の登校を陸と共にすることになっている。

 

 

「…なあ楽、いい加減教えてくれよ。あの日、千棘と何かあったんだろ?」

 

 

「そんなこと…、俺が聞きてえよ」

 

 

実は楽、あの旅行の日から全く千棘と会っていないのだ。

本人は千棘と連絡を取ろうとしているようなのだが、千棘の方が全く音沙汰無し。

楽の方からはもうどうしようもないという状況なのだ。

 

陸は、千棘に連絡が取れなくなった時から何度も楽に心当たりはないかと問いかけているのだが、楽は決して答えようとしてくれない。

それだけではなく、日が経つごとに目に見えて楽がイライラし始める。

 

 

「…はぁ」

 

 

「…」

 

 

陸は隣を歩く楽を見遣ってから、すぐに視線を前に戻しながらため息を吐く。

 

結局、教室に着くまでこれ以上の会話をすることはなかった。

 

教室に着くと、楽は何も言わずに自分の席に着いて荷物の整理を始める。

陸はその様子を少しの間眺めると、再びため息をついてから自分も席に着いて荷物の整理を始める。

 

 

「陸君!」

 

 

鞄から教科書、ノートやプリントが入れてあるファイルを机の中に入れていると背後からこちらを呼ぶ声が聞こえてくる。

陸が振り返ると、こちらに笑顔を向けながら歩み寄ってくる少女。

 

 

「小咲?」

 

 

小咲は陸の傍らに着くと、口を開いた。

 

 

「おはよう。えっと…、早速なんだけど…」

 

 

「ああ、おはよう。…うん、聞きたいことはわかる。けど、俺にもよく分かんねえんだ」

 

 

小咲が挨拶をしてくると、戸惑いがちにどこかへ視線を向ける。

陸も小咲に挨拶を返してから、その視線を追ってみる。

 

小咲の視線の先は、机に肘をついて何かを考え込んでいる楽の姿。

それを見て、陸は小咲が何を言いたいのかを悟る。

 

 

「何回も聞いてるんだ。でも、何も答えてくんなくて…」

 

 

「そう、なんだ…」

 

 

陸だけでなく、小咲も、あの時旅行に行った全てのメンバーが楽と千棘が連絡を取らなくなったということを知っている。

その情報の発信源は陸ではなく、千棘の様子を心配した鶫。

 

鶫からの連絡は当然陸にも届いて、それから何度かお互いそれぞれ楽と千棘の様子を聞き合っていた。

 

しかし何の解決の手立てはなく、この突然の二人の変化の理由はわからず終い。

結局そのまま今日、新学期を迎えてしまったのだ。

 

 

「あ…」

 

 

陸が旅行の日からの楽の様子を思い出していると、小咲が教室の扉に視線を向けながら小さく声を漏らした。

その声を聞き取った陸が、小咲が見ている方へと視線を向ける。

 

 

「あ」

 

 

陸も思わず声を漏らした。

 

教室の、黒板側の方の扉。

その扉は開かれ、教室の中に入ってくる一人の人物。

 

その人物は、声をかけてくる人たちに返事を返しながら楽の方へと近づいていく。

そして、楽の座っている席の隣の席にその人物は着く。

 

そう、先程教室に入ってきた人物とは、あの旅行の日から連絡を取ることができなくなった桐崎千棘。

 

 

「おはよう」

 

 

「お、おう。おはよう…」

 

 

千棘は、視線を向けてきている楽に普通に挨拶をすると、楽はつっかえながら千棘に挨拶を返す。

 

それから何か会話を交わしているようだが、内容は他の人たちの話し声に遮られてこちらには届かない。

 

 

「心配してたけど…、大丈夫みたいだね?あの二人」

 

 

「…いや」

 

 

楽と千棘が会話をしている様子を見ていた小咲が、不意にそんなことを口にした。

だが、小咲が言った言葉とは裏腹に、陸は険しい目で二人を眺めながら言う。

 

 

「大丈夫じゃないな、あれは。特に、千棘の方が」

 

 

「え?」

 

 

「見てわからないか?千棘は、まったく楽と視線を合わせようとしてない」

 

 

見ていると、楽と千棘は会話はしているものの全く目が合っていない。

特に、千棘に関しては楽の方を見ようとしていない。

明らかに、二人の関係は回復しているようには見えない。

 

 

「あ…」

 

 

小咲も気づいたのだろう。

先程浮かべた安堵の表情が悲しげに歪んでいく。

 

陸は険しい表情のまま楽と千棘の様子を見つめる。

ずっと変わらず、楽は千棘の方を見ているものの千棘は楽の方を見ようとしない。

 

さらによく見てみると、話しかけているのは楽の方だけのようだ。

 

 

(難儀な問題になりそうだなぁ…)

 

 

楽と千棘の仲が拗れる所は何度か見たことはあるが、ここまで冷えた拗れ方は見たことがない。

この問題はかなり長引きそうだと、憂鬱な気分に陥る陸。

 

 

「あ…、じゃあ席に戻るね?」

 

 

「ん、ああ」

 

 

楽と千棘の様子を陸と小咲の二人が眺め続けていると、鐘が鳴り、生徒たちは自分の席へと戻っていく。

当然小咲も例外ではない。陸に一言声をかけてから自分の席へと戻っていく小咲。

 

席へと戻る小咲の後姿を一瞥してから、陸は教室の中に入ってきたキョーコ先生に目を向ける。

 

キョーコ先生は教壇の上に立つと、机に出席簿を置くとHRを始める。

クラス係や委員への連絡事項を伝え終えると、今度は文化祭についてを話し始めた。

 

文化祭に関しては、集がその担当に決まっているようで、キョーコ先生が教壇を降りると今度は集が教壇に上がって話し始めた。

 

 

「はいはい注目~~~!!文化祭実行委員、舞子集から大切な連絡があるからよく聞けよ~~~!?」

 

 

両手を机に置くと、集は力強い笑みを浮かべながら口を開く。

 

 

「我がクラスの出し物は、厳正な投票によって文化祭当日に行われる演劇に決まった!気になる演目は…『ロミオとジュリエット』!」

 

 

我らが1年C組の出し物は演劇に、そしてその演目に関しては集の案によってロミオとジュリエットに決まった。

さらに集はその配役を決めるべく話を進めていく。

 

 

「さて諸君…。その配役について一つ提案があるんだ…」

 

 

すると、話している途中で集が目を怪しく光らせながら声を潜めて話し始める。

 

 

「主役であるロミオとジュリエットについてなのだが…、わがクラスのラブラブカップル!一条楽と桐崎千棘嬢にお願いしようと思うのだがいかがだろうかー!?」

 

 

「なあっ!?」

 

 

演劇の主役であるロミオとジュリエットの役。

その役を、集は楽と千棘にお願いしようと提案したのだ。

 

そんな集の提案に対して、クラスの反応は一つだった。

 

 

「さんせーい!」

 

 

「異議なーし!」

 

 

「よろしくー!」

 

 

反対意見は全くなく、クラスメイト達の口から出てくるのは賛成の言葉だけ。

楽が慌てて周りを見回すが、状況に変化はない。

 

だが…

 

 

「やらない」

 

 

それは、ざわめく教室の中で不自然なほど響き渡った。

 

その声の主は、楽の隣の席に座っている千棘。

千棘は、頬杖をついて廊下の方を見ながら続ける。

 

 

「演劇に興味もないし、やりたくもない。誰かほかの人に譲るわ」

 

 

淡々と、やりたくないという旨を伝える千棘。

 

 

「…そっかぁ。仕方ない、じゃあ誰か他の人に…」

 

 

「はい!」

 

 

千棘の一声によって、どこか微妙な空気が流れようとするのを止めるべく集が明るく声を出す。

すると、集の他の人にという言葉に反応するものが一人現れる。

 

 

「ジュリエット役、私がやりますわ!」

 

 

立ち上がるは、橘万里花。

万里花はずんずんと楽の方へと移動すると、その胸に頬を寄せて抱き付く。

 

 

「私と楽様の演じるロミオとジュリエット…。ああ、何と素晴らしい劇となることでしょう!共に頑張りましょうね、ロミオ様!」

 

 

「誰がロミオ様だ!いやホントに待ってくれ!俺、マジでロミオなんてやりたくねえんだ!」

 

 

「え~~~!?」

 

 

万里花がその凄まじい勢いを以て楽を飲み込もうとするも、楽は万里花の顔を鷲掴みにしながら様子を眺めていた集に向かって訴える。

 

 

「仕方、ねえな。平等にくじを引いて決めるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…何故?あの流れの中で、何故俺に決まる!?)

 

 

陸は表情を変えないまま驚愕していた。

陸の手に握られているのは、端が黒く塗られている細く切られた紙。

 

そう、この紙は当たりくじともいえさらに外れくじともいえる。

引けばロミオ役に割り振られることを決定づけられることとなるくじ。

 

 

「え、えっと…」

 

 

さらに隣には、これまた陸と同じように端を黒く塗られたくじを握っている少女…小野寺小咲。

 

 

「じゃあ、神聖なるくじの結果…。ロミオ役は一条陸!ジュリエット役は小野寺小咲に決まりました~!!」

 

 

集の声と共に、歓声と拍手が二人に送られる。

その中心にいる陸と小咲は、互いに目を見合わせる。

 

 

「え…、えぇ!?」

 

 

小咲は頬を染めながら戸惑いの声を上げている。

一方の陸は…。

 

 

「お、俺が主役?は?今まででやった一番目立つ役なんて馬だぞ馬!無理に決まってる!」

 

 

実は、陸がこれまでにやったことのある演劇の役は全ていわゆるチョイ役と言われるもの。

その中でも一番目立つ役は馬の役である。

 

そんな陸が、いきなり主役をやれと言われても…、本人にしたら堪ったものではないのである。

 

 

「小野寺さん」

 

 

「へ?」

 

 

すると、不意に小咲の肩が誰かに叩かれたと同時に名を呼ばれる。

小咲が振り返ると、両目を輝かせながら詰め寄ってくる万里花が。

 

 

「変わってくださいまし」

 

 

「ええ!?」

 

 

万里花の口から出たのは、変わってほしいと頼む言葉。

小咲が戸惑っていると、万里花は両腕を振りながらごね始める。

 

 

「良いではありませんか良いではありませんか!私は楽様と主役を演じたいのです!陸様は見ていれば主役に乗り気ではない様子…。ならば小野寺さんが了承してくだされば私と楽様が主役を演じられるのです!」

 

 

「え、えーと…」

 

 

(これは…、チャンス!?)

 

 

小咲が詰めよられている中、陸もまた万里花と同じく目を輝かせる。

 

この機に乗じて楽に主役を押しつけることは簡単だろう。

小咲が了承を出せば万里花が主役となり、そして楽は間違いなく万里花の勢いに負けて主役をやることになるだろう。

 

主役を回避することができる!

 

陸が内心で企みを膨らませる。

主役をやるなど御免だ。そんなこと、やりたくないというよりもできるわけがない。

 

そう思い、陸が口を開こうとする。

だがその前に、もう一人の主役に決まった少女が口を開く。

 

 

「ご、ごめんね橘さん?その…実は、わたしもやってみたいなって…思ってて…」

 

 

(え?)

 

 

この瞬間、陸の心には企みを破られたというよりも、主役をやりたいと言った小咲への驚きが大きかった。

 

小咲は、自分から進んで目立つところへは行かないタイプだ。

そんな小咲が主役をやりたいと言っている。何の心境の変化だろうか?

 

 

「…ふ~ん?そうですか。なら、私と楽様は万が一の時のための代役、ということで手を打ちますわ。よろしいですか、舞子さん?」

 

 

「え、俺も!?」

 

 

何か含まれた笑みを浮かべながら万里花が、妥協案を言ってから集に了承をもらう。

 

そして何時の間にやら巻き込まれた楽が自分を指さしながら問いかける。

その問いは無視されることとなったのだが…。

 

と、ここで陸ははっ、と我に返る。

 

 

(これ…、もう逃げられる雰囲気じゃない)

 

 

気付けば、陸と小咲が主役という旨で話が進んでいた。

 

 

「じゃあ、放課後から劇の練習を始めるから教室に集合な!」

 

 

集の言葉に、クラスメートたちが返事を返していく。

小咲もこくりと頷いているのを陸は横目で確認する。

 

 

(やるしか…ないのか?)

 

 

何を考えているのかはわからないが、主役をやるにはかなりの勇気が必要だろう。

どちらかというと控えめな性格の小咲からしたら怖いとさえいえるかもしれない。

 

それでも、小咲は主役をやると言った。

 

 

(俺が断るわけにいかねえじゃねえか…)

 

 

もう、覚悟するしかない。

正直やりたくないが…、覚悟するしかないだろう。

 

この日、生まれて初めて陸が劇の主役を演じることが決定したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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