一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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第40話 シュウゲキ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも通りの登校、いつも通りの授業、そしていつも通りの放課後。

たまに怖くなってしまうほどいつも通りで平和な一日を謳歌する陸は、校舎から出て帰路に着こうとしていた。

 

陸の友人たちは部活やら用事やら彼女とのデート(爆発シロ)やらで皆さっさと早足で帰ってしまい、今日は一人で下校しようとしていた。

 

掃除当番である楽たちを待つという選択肢もあったのだが、何故か今日は早く家に帰りたいという気持ちに駆られて楽たちを置いて帰ろうとしている。

 

とまあ、こういう経緯で陸は帰路に着いているのだが、校舎を出てすぐから陸は背後に何者かの視線を感じていた。

ただの視線なら無視してもいいのだが、今感じている視線から殺気が感じられるのだ。

 

 

「…よし」

 

 

陸はその場で立ち止まってから一言呟く。

 

そして陸は、彼から見て左手にある脇道へと飛び込んでいった。

陸は鞄をしっかり肩に引っ掛けて脇道を駆け抜ける。

 

視線の主であろう気配もしっかり着いてくる上に、こちらに近づいてくる気配も感じられる。

 

 

(やる気満々…てか?)

 

 

陸は駆けながら脇道に散らばるごみをしっかり目に映す。

 

相手がこちらに襲い掛かる気がある様に陸自身も相手を迎え撃つ気なのだ。

だが、今陸の手元に得物はない。そのため、脇道のごみを目につく物はないかと探っているのだ。

 

 

「…っ」

 

 

陸は両足を踏ん張って急ブレーキをかけて立ち止まる。その足元には、少し汚れている木刀。

 

相手がどういう武装をしているのかはわからないが、脇道のごみにこれ以上期待してはいけない。

刃物になる刀が脇道に落ちているなどあり得ないのだから。

 

 

(むしろ木刀があるだけツイてるな)

 

 

恐らくここをたむろ場にしているチンピラが落としたものだろう。

そういう類の人をどちらかといえば毛嫌いしている陸だが、今回はそのチンピラに感謝する。

 

 

「…来たか」

 

 

陸が足元の木刀を拾ったと同時に、自分を追ってきていた気配の主も陸の背後で立ち止まった。

振り返る陸の目に映るのは、一人の少女。

白い髪に金の瞳、真っ白いコートに身を包み、首元には真っ赤なマフラー。

 

この姿、見覚えがある。

 

 

「ビーハイブのヒットマンの資料で見たことあるな。確か、『ホワイトファング』」

 

 

「あら。かの有名なディアナに知られているなんて、私も捨てたもんじゃないわね」

 

 

陸が言うと、目の前の少女はどこか挑発するような口調で言い放つ。

 

 

「初めまして、あたしの名前はポーラ。早速なんだけど…、お手合わせ願おうかしら」

 

 

「え」

 

 

少女、ポーラが自身の名を告げた瞬間、懐から多量の武器を取り出す。

どこかで見たことあるような武器の取り出し方に呆けた声を出す。

 

だが、陸には呆けている暇などない。

武器を取り出したポーラが次にする行動など決まっている。

取り出した銃を陸に向け、躊躇いなく引き金を引く。

 

 

「っ!」

 

 

陸は膝を曲げ、姿勢を低くすることでポーラが放った銃弾をかわす。

頭上を通り過ぎていく銃弾を見もせず、陸はポーラを見据える。

 

ポーラは陸が銃弾をかわしたことは想定済みだったのか、驚きもせず、次の手を打ってきた。

ポーラは銃口を陸に向けたまま、どこかから取り出した手榴弾を放ってくる。

 

陸はその場から跳び退いて距離を取る。

 

陸が持っている武器は木刀だけ。逆に相手はどこの戦争に行くのかと問いたいほどの大量の武装。

相手が何を考えているのかはわからないが、何としても相手を無力化しなければならない。

 

だがこちらと相手の武器による戦力差は明らかだ。

こちらからの手は慎重を期さなければならない。

 

 

「っ!?」

 

 

手榴弾が爆発し、それにより沸いた煙を切り裂いてポーラが突っ込んでくる。

彼女の手には小型のナイフ。

 

通常の陸ならば、愛用の刀で迎え撃つのだが現在手にあるのは木刀。

迎え撃てば敗北は目に見えている。

 

陸は木刀を握っていない方の腕を伸ばし、ポーラが突き出してくる手首を掴んで力を込める。

 

 

「ブラックタイガーから聞いて驚いたわ…。まさかあのディアナが学校なんかに通っているなんて…」

 

 

それぞれ合わせている腕に力を込めている中、笑みを浮かべながらポーラが言う。

 

力比べならば当然、男である陸の方が分がある。

そして今この力比べもその格の通り陸が押し切り、ポーラは飛び退き、後ろ三回転捻りで距離を取る。

 

 

「あなたほどの人が…、あんなぬるま湯に浸かって生活しているなんて思っていなかったわ!」

 

 

「ちっ…!」

 

 

地面に着地する前に叩こうと、ポーラに向かって突っ込んでいった陸だったが、彼女は空中で体勢を整えて銃を構え、陸に向かって発砲する。

 

やむを得ず、陸はその場から横にステップして銃弾をかわす。

 

 

(くそが…!この手にあるのが刀だったら、弾を斬って突っ込めたってのに!)

 

 

陸の内心、元にある自身の裏の口調が滲み出ているのは追い詰められている故か。

ポーラは自身の持つ大量の武装を上手く扱ってくる。対して自分の得物は木刀という頼りないものだけ。

 

 

「だからかしら?得物も持たずに外に出るなんて!」

 

 

ポーラに一方的に追い詰められている陸だが、一つだけ引っかかっている所があった。

それは、初めは挑発的に見えたポーラの態度が変化している所である。

 

余裕に見せ、尚且つ自分を挑発していたはずが、今では顔を怒りに歪ませ傍から見れば余裕がないように見える。

 

彼女と接触したことはなかったはずだが、一体なぜそこまで自分に対して怒りを抱いているのか。

 

 

「あんな所にいるからよ!あんな温い人たちに囲まれているから…だからっ」

 

 

「「「坊ちゃぁあああああああん!!!」」」

 

 

髪を乱しながら首を激しく振り、銃を構えるポーラ。

しかしその直後、どこからか聞こえてくる野太く低い叫び声。

 

 

「っ」

 

 

ポーラは目を見開いてすぐにその場から後退する。

それと同時に、陸の前に、まるで陸を囲む壁のごとく男たちがポーラに対して立ち塞がった。

 

 

「坊ちゃん、大丈夫ですかい!」

 

 

「竜…」

 

 

やって来た男たちの一人、竜が陸に声をかける。

 

 

「…『ドラゴンクロウ』」

 

 

「ずいぶん懐かしい名を言うじゃねえか嬢ちゃん…。しばき倒すぞ」

 

 

竜が持つ二つ名を口にするポーラと、主といえる少年に襲い掛かったポーラを威圧する竜。

 

竜のまわりの男たちも、ポーラを睨みつけていた。

 

 

「待て、竜。そいつは俺が片を付ける」

 

 

「ぼ、坊ちゃん?」

 

 

竜たちはやる気のようだった。だが陸はそれを腕を伸ばして制し、一歩竜たちよりも前に出る。

 

 

「こいつの狙いは俺だ。それも、ただの恨みや憎しみじゃない」

 

 

何か、期待をしていたのにそれを裏切られたかのような。

 

それを口にはしなかったが、心の中で呟く陸。

ポーラが自分を恨んでいたから襲ってきたのというのはどこか違う気がする。

 

 

「別にいいのよ?お仲間と一緒にかかってきても」

 

 

「そう言ってもらえるのは嬉しいけどよ…。部下の手を煩わせないのも、上司の仕事だと思わねえか?」

 

 

先程とは変わって、挑発的な態度に戻るポーラ。

そして、いつもの優し気のある口調から、乱暴なものに変える陸。

 

同時に、陸のまわりに纏う空気が一変した。

それを感じ取ったポーラの表情も変わり、こめかみから汗が垂れる。

 

 

「ふ、ふん。あんた、その得物のままで戦うつもり?さっきまであんたは押されっぱなしだったこと、忘れたの?」

 

 

ポーラの言う通りである。

得物の数、質ともに圧倒的に劣る陸は先程までずっと劣勢にあった。

 

一人で戦い続けるのはまだいい。だが陸は得物を取り換える素振りを見せないのだ。

しようと思えば、竜などの男たちに言って取り換えることは出来るはずなのに。

 

 

「あんた程度、これで十分だからな」

 

 

「っ…、言ってくれるじゃない」

 

 

完全に、陸に舐められていると感じたポーラは再び大量の武器を取り出す。

対する陸も、手に握りしめた木刀をポーラに向ける。

 

両者の対峙、竜たちは陸の言葉に背くことは出来ず言われるまま離れる。

 

そして、初めに動き出したのは陸だった。

陸は一気にポーラに向かって踏み出していく。

 

陸の踏み込みは先程よりも圧倒的に速かった。

ポーラは一瞬呑まれそうになるもすぐに取り直し、陸から距離を取りながら陸に向かって銃を連続で発砲する。

 

先程までの陸ならば、突進を止めて横にステップして銃弾をかわしていた。

だが今の陸は、ポーラに向かって踏み出す足を止めることはしなかった。

 

自身を貫かんとする銃弾を、体を傾けて回避しつつ、尚且つスピードを緩めることなくポーラに迫る。

 

 

「っ!?」

 

 

ポーラは自身が撃った銃弾をかわされたことを驚愕しつつも動きを鈍らせることなく、弾切れした銃を投げ捨てると、新しい銃で陸に向かって発砲する。

 

両者の距離は先程よりも迫っている。銃弾をかわすことは難しいだろう。

だからなのか、陸はポーラが放った銃弾に対して木刀を差し出した。

 

木刀を差し出したと同時に陸は体勢を低くする。

 

木刀は銃弾によって当然破損する。

そして陸はそれを見ることなくポーラの懐に飛び込んだ。

 

 

「くっ!?」

 

 

両者が急接近し、ポーラは銃を撃つことができなくなる。

陸はポーラの顔面に向かって容赦なく拳を突き出す。ポーラは首を傾けることで陸の拳をかわすが、その間に陸はポーラの背後に回り込む。

拳を突き出した方の腕は伸ばしたまま、背後に回り込むと当然腕は曲がり、そしてポーラの首を巻き付ける。

 

 

「…これで満足か?」

 

 

「舐めないでくれる?この程度で私を制圧できたとでも思ってるのかしら?」

 

 

完全に制圧されたように見えるポーラだが、挑発的な態度は変わらない。

 

だが陸にとってポーラのこの態度は想定済みだった。

だから、ポーラに止めの一手を打つ。

 

 

「っ!?」

 

 

陸は、ポーラの首を巻き付けている方の腕の先の拳を開き、彼女の視界にソレを入れながらしっかり指で掴んだ。

 

ポーラはソレを見ると、目を見開いて驚愕する。

 

陸が持っているソレとは、先程ポーラの銃弾が砕いた木刀の破片だった。

掌の半分ほどのサイズだが、先端は鋭くとがっており力を込めれば人間の皮膚を切り裂き、血管を切り裂くこともできるだろう。

 

そして陸がその破片を突きつけるのは、ポーラの頸動脈。

 

 

「…私の負けね。煮るなり焼くなり好きにしなさい」

 

 

自分を襲ってきた割には潔すぎるポーラ。

 

しかし陸はポーラには自分を殺すつもりはない事はわかっている。

だからその旨を伝えようと口を開こうとした瞬間────────

 

 

「ポーラ───」

 

 

「?」

 

 

「ひぃっ!?」

 

 

底冷えする低い声が響き渡る。

 

それが自分に向けられたものではないと察していたおかげか、陸はやや目を丸くしただけだったのだが、ポーラは小さく悲鳴を上げてびくりと震えあがった。

 

首に巻きつく陸の腕にもそれは伝わっており、ポーラが感じている恐怖の程度をしっかり感じ取る。

 

 

「この声…、鶫か?」

 

 

ポーラを呼んだのは鶫の声だ。陸は声が聞こえてきた方へ目を向けて声の主を確認する。

もちろん、目を向けた先には鶫が立っていた。

 

 

「つぐ…み?」

 

 

鶫を見て、陸の表情は固まった。

 

 

「ポーラ…。何をしているのかな…?」

 

 

「あ…いや…。ブラックタイガー…、お、落ち着いて…」

 

 

「私は至って冷静だ…。冷静だからこそ…、今、貴様を断罪しなければならない…」

 

 

「あ…あぁ…」

 

 

一歩一歩こちらに近づいてくる鶫。

何か…、このままじゃまずいことになる気がした陸は竜たちに助けを求めるべく目配せした。

だが竜たちは首をぶんぶんと横に振ってそれは無理だと陸に伝えてきた。

 

 

「一条陸…、ポーラをちょっと返してくれないか?」

 

 

「そ、そんな人を物みたいに」

 

 

「一条陸…、ポーラをちょっと返してくれないか?」

 

 

「イエスマム!」

 

 

陸、鶫に屈する。

 

陸はポーラを開放し、そしてポーラの背を両手で押して鶫に差し出した。

 

 

「ち、ちょ!おい、ディアナ!何とかしてくれええええぇぇぇぇ…」

 

 

その後、鶫も陸も何も言わず、ポーラの叫び声だけが虚しく路地裏に響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うちのバカが狼藉を働いてしまい…、申し訳ありませんでした」

 

 

「い、いや…。ポーラに殺気はあっても殺意はない事はわかってたから…。気にすんなって鶫」

 

 

「だが…」

 

 

「気にするな」

 

 

「…わかった。だが最後にもう一度だけ謝罪させてくれ。…申し訳なかった」

 

 

鶫の謝罪を陸はすぐに受け入れる。

ポーラに殺意がなかった以上、彼女を制圧した時点でそれ以上事を荒立てるつもりはなかった。

 

 

「ポーラ…だっけ?俺を試したかっただけだったんだろ?」

 

 

「…」

 

 

ぐず、ぐず、と真っ赤な鼻を鳴らすポーラに声をかける陸。

 

 

「あたし…、アメリカであなたのうわさを聞いてて…。憧れてて…、だから…」

 

 

「…そうか」

 

 

ポーラが自分に憧れているというのは初耳だったが、その言葉を聞いてどこか複雑な気持ちを抱く陸。

 

 

(人を痛めつけて憧れる、か…。裏の世界で過ごしている以上、こういう評判が付きまとうことは覚悟してたけど…)

 

 

香港に行った時も、自分を殺すために画策していた男を手にかけたこともあった。

有名になるほど、標的になりやすい裏の世界。

 

今回は幸運だった方だ。ポーラは憧れの念を持っていたおかげでこの程度で終わったが、そうでなければもしかしたら命のやり取りをすることになったかもしれない。

 

 

「まったく…。明日アメリカに帰るのだろう?おとなしくしていろ」

 

 

「いてっ」

 

 

未だぐずり続けるポーラと、彼女の頭に拳骨を入れた鶫が去っていくのを見送ってから、陸たちも家への帰路に再び着く。

 

 

「坊ちゃん、車用意してありやすぜ。乗りますかい?」

 

 

「…あぁ。頼むわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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