一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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第42話 ホワイト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月24日、クリスマスイブである。

この日の夕方、陸はクラス内で行われるクリスマスパーティに出席するべく外へ出ていた。

 

ついこの間まで夏だったのに、包み込むような不快な暑さから突き刺すような痛い寒さに変わっている。

しっかり三重で着込んでいるのだが、想像以上の寒さに抱えるように両腕を体に回してぶるりと体を震わせる。

 

向かう場所は、集が予約したホール。

集合時間までまだ余裕はあるが、そこではすでに集を初めとした数人がパーティの準備をしているだろう。

 

陸は先日、プレゼントを買いに行くために乗ったものと同じバスに乗って、目的のバス停で降りる。

そして違う路線のバスに乗り換えて、集合場所に一番近いバス停で降りた。

 

一番近いとはいえ、そこから歩いて十分ほどかかる。

竜たちがリムジンで送っていくと言ってきたのだが、その目的のホールは町中にあり、目立ちたくないからと理由を付けて断っておいたのだ。

 

だがあまりの寒さに思わずそのことを陸は後悔していた。

 

 

「────陸君!」

 

 

すると、陸の少し前の歩道の脇に車が止まった。

その車の窓が開くとそこから小咲の顔がひょこっ、と飛び出して陸を呼んだ。

 

 

「こ、小咲?」

 

 

目を丸くして、車に乗る小咲に駆け寄る陸。

 

 

「ほら坊や!送ってってやるから車に乗りな!」

 

 

「え…、いや、もうすぐ着きますし…」

 

 

「いいから乗れ!」

 

 

「り、了解しました!」

 

 

後五分ほどで着くという所にいたため、思わず断ろうとした陸だったが小咲母の有無を言わさぬ口調に圧され、yesの言葉と共にすぐさま車に乗り込んだ。

 

後部座席に乗り込んだ陸を確かめてから、小咲母は車を発進させる。

 

 

「陸君、歩いてきたの?家から遠いのに…」

 

 

「確かに遠いけど…、リムジン走らせて目立つよりは全然いいかなって…」

 

 

歩いてきた理由を聞いた小咲は、陸の返事を聞いてあっ、と何かを察したような表情になる。

そして陸の方に振り返らせていた顔をゆっくり前へ戻してしまう。

 

 

「あら、坊やの家はお金持ちなのかしら?…小咲、頑張って玉の輿狙いなさい」

 

 

「お母さんっ!!!」

 

 

「…」

 

 

相変わらずの小咲母のパワフルさに陸、苦笑中である。

しかし、こんな風に何かと自分と小咲を接近させようとする小咲母だが、自分の家がやくざの家だと知ったらどう思われるだろう?

 

 

(…少なくとも、おれに対する態度は一変するだろうな)

 

 

怒鳴られるだろうか?罵られるだろうか?

 

どちらも考えられるが、小咲に近づくなと言われるのは恐らく間違いないだろう。

 

まあそのどちらでもなく、陸の家がやくざだと知っている可能性もあるのだが。

 

 

「ほら小咲、いつまでも悶えてないの。着いたからさっさと降りなさい」

 

 

考え込む陸をよそに恥ずかしさに悶えている小咲に容赦なく厳しい口調を叩きつける小咲母。

小咲がこうなっているのは自分のせいだと分かっているのだろうか…。

 

陸が外に降りてからすぐ後に小咲も車を降りる。

 

 

「じゃあ、パーティが終わったらまた連絡しなさい。坊やも、一緒に乗せてあげるから」

 

 

「あ、いえ。帰りは家の人に迎えに来させますのでお構いなく」

 

 

陸と小咲を送り届けてくれた小咲母が、窓から顔を出して小咲に言ってから次に陸に視線を移し、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべながら言ってくる。

 

心遣いは嬉しいのだが、パーティが終わるのは遅くなるだろうし、そんな時間に送ってもらうのは悪い気がする。

その上、小咲母の顔が明らかに悪い顔をしている。嫌な予感がしてならない。

 

やんわりと断ると、そう?と唇を尖らせながら小咲母は不平を口にする。

 

 

「…まあいいわ。じゃあ二人共、楽しんで来なさい?」

 

 

最後に、先程の悪戯なものとは違い、見る者を魅了させるだろう笑顔を浮かべて二人に声をかけてから車を走らせていった。

 

 

「…ホント、小咲のお母さんはパワフルだな」

 

 

「ゴメンね…。ホントにゴメンね…」

 

 

美しい笑みを浮かべていった小咲母だが…、本性を知っている陸の心にはまったく響かなかった。

悪い人ではないというのはしっかり感じているのだが、それでもあの人ほど話していて疲れる人に出会ったことはないと断言できる。

 

 

「…とりあえず、会場に入るか」

 

 

「うん…」

 

 

この場で立ったままいても仕方がない。

陸としては予定よりも早くなったが、今は会場に入ることにする。

 

建物に入り、受付で名前を告げると奥にスーツを着た男性が案内してくれる。

 

少し歩いた先には大きな扉があり、そこを開くと中はすでにパーティ会場としての準備が終わっており、すでに会場に来ていたクラスメートたちが談笑していた。

 

 

「あ、寺ちゃん!一条君!」

 

 

会場のホールに入った陸と小咲に気づいた女子生徒が駆け寄ってくる。

 

女子生徒は、二人の傍で立ち止まるとこっちこっちと言って手招きする。

女子生徒に連れられて案内された場所には、先日集に問われた注文してほしい飲み物がテーブルの上にあった。

 

 

「ここが寺ちゃんと一条君の場所ね。一条君…、楽君はまだかな?」

 

 

「あぁ…。多分遅れてくると思う」

 

 

二人を所定の場所に案内してくれた女子生徒が、楽はどうしたのかと聞いてくる。

しかし、楽が今何をしているのかは陸にも詳しくわからない。

このパーティに来れるのかどうかも、正直分からない。

 

取りあえず、女子生徒には詳しい事をぼかして応えておいた陸。

 

すると、少し離れた所から足音がこちらに近づいてくるのが聞こえてくる。

 

 

「陸様」

 

 

「橘?」

 

 

こちらに歩み寄ってきたのは万里花だった。

万里花は陸に声をかけてから、首を傾げて口を開く。

 

 

「楽様はまだいらっしゃらないのですか?てっきり、陸様とご一緒に来ると思っていたのですが…」

 

 

「あぁ、楽なら遅れて来るって言ってたぞ?」

 

 

先程の女子高生に問われた時と同じように、楽は遅れてくると答える。

 

多分、ここには来ないと思うと心の中で付け加えながら。

 

 

「あら、そうなのですか…。残念ですわ…」

 

 

本当に心の底から残念そうに俯きながら言う万里花。

 

しかし、改めて考えるとパーティにも来れないとは。

どこまでハードな仕事を楽はさせられているのだろう。

マダムフラワーから頼まれたバイトは想像を絶するほどなのだろうか…。

 

 

「あ、千棘ちゃん!」

 

 

すると小咲が入り口の方に視線を向けながら立ち上がり、手を振り始める。

小咲が目を向けている方を見ると、そこにはホールの中に入ってくる、先日と同じくリボンを外して髪を下ろした千棘の姿があった。

 

先日よりも少しは元気になっただろうか?

そう思って見た千棘の顔は、陸の期待を裏切り先日と変わらない沈んだ表情を浮かべていた。

 

それでもやはり、人の前ではいつも通りに振る舞っている千棘がいる。

 

 

(…何やってんだよ)

 

 

心の中で悪態をつく。

その矛先は、今頃バイトで働きまわっているだろう楽。

 

本当の恋人ではないとはいえ、他の人とは明らかに違う、それでもとても深いつながりを持っているはずだ。

それなのに、何でクリスマスの日に、千棘にこんな顔をさせているのだろうか。

 

 

(まさか、何も思ってないとか言わねえよな?)

 

 

もしそう思っているのなら、絶対に殴る。

顔の形が変わってしまうまでひたすら殴ってやる。

 

 

「り、陸君。どうしたの?顔怖いよ…?」

 

 

心の中だけで憤怒していたと思っていた陸だったが、燃え上がる感情は外面まで出てしまっていたらしい。

隣に立っていた小咲が引きつった顔で覗き込みながらどうしたのか問いかけてくる。

 

陸はそっと深呼吸して気持ちを落ち着かせてから口を開く。

 

 

「何でもない、大丈夫だ」

 

 

小咲が心配そうな顔でまだこちらを見ているが、何を聞いても無駄だと悟ったのか陸から視線を外して千棘の方へと駆け寄っていった。

 

陸も、千棘の元に行った小咲を見遣ってから自分に割り当てられた場所を記憶してから友人たちの元へと歩み寄っていった。

 

 

 

 

 

パーティが始まったのは、陸と小咲が別れて別々の友人たちの元へ行ってから十分後の事だった。

 

そういえば集の姿が見えないなと周りを見回してすぐのこと、ホールの照明が落ち、直後ホール内にあったステージにライトが当たる。

すると、いつの間にそこにいたのだろう、スーツを着て、首元に蝶ネクタイを着け完全に司会者の格好をした集の姿があった。

 

集は、『レディーーーーーースエーーーーーーンドジェントルメーーーーーーン!!』と気障な仕草を振りまきながら叫んだ。

 

 

『やあやあ皆さん!本日はこの私が企画したクリスマスパーティにご出席いただき、ありがとうございます…』

 

 

「おい舞子!こんな上手そうな料理を前にしてまだ待ってろってのか!?さっさと食わせろ!」

 

 

「そうだそうだ!」

 

 

「俺もう我慢できねえよ!」

 

 

集が舞台上で挨拶を始めるが、クラスの男子たちが集に向かってヤジを飛ばす。

 

ヤジを飛ばされた集は、カラカラと笑ってヤジを聞き流している。

 

 

「うんうん、わかってるわかってる。俺もそんなに長い挨拶をする気はないから。でも、こんなすごい場所を取ったり、料理を作ったり…。手伝ってくれた人達にはお礼を言っとこうぜ?」

 

 

集のセリフの最後の一文に、ヤジを飛ばしていた男子たちは静まる。

 

集が手招きすると、これまたいつの間にそこにいたのか。

十人くらいの男女たちがステージに上がる。

 

それぞれ何をしてくれたのかを集が説明してから、クラス皆でお礼を言う。

 

ここまで盛大にお礼を言ってくれるとは思ってなかったのか、ステージに上がった人たちは戸惑いの表情を浮かべたもののすぐに笑みを浮かべて、また機会があれば呼んでくださいと言ってくれた。

 

パーティの準備を手伝ってくれた人たちはこれから仕事があるため、すぐにホールから去っていく。

 

この場に来れなかった人にもお礼を伝えてくれるらしく、集も改めて電話という形にはなってしまうがお礼を言っておくと伝えていた。

 

さて、少し長い前置きになってしまったがこれにてパーティの開催である。

 

集にヤジを飛ばしていた男子たちは我先にと皿に次々料理を盛り付け、口の中にかっ込んでいく。

一方女子たちは男子と違い、ゆっくり自分のペースで料理を口にしていた。

 

そして、陸は────

 

 

「おーい陸、何かっこつけちゃってんだよ!」

 

 

「いてっ」

 

 

ホールの端で立っていた陸の肩を、集がばしん、と音が鳴るほどの強い力で叩く。

 

 

「別にかっこつけてないし。ただ…あのテンションについていける気がしないだけで」

 

 

「あぁ…。まぁ…、うん」

 

 

陸の視線を追った集は、さっきまでと打って変わって陸に同感した。

 

二人の視線の先には、男子たちが戦争を繰り広げていた。

 

 

「おい、俺のとったターキー食ったの誰だよ!」

 

 

「てめえ!俺のピッツァを返しやがれ!」

 

 

「なああああああああああ!?俺のジュースが何でこんなおぞましい色にぃいいいいいいいい!?」

 

 

楽しんで、はいるのだろう。

だが…、ついていけないしついていきたくもない。

 

ついていったら、自分が自分でなくなるような…、そんな気がしてしまったから。

 

 

「はは…。そう言えば陸、お前、いつの間にターキーなんかとって来たんだ?始まってから、ターキーの方に行ってなかったと思うんだけど…」

 

 

「何言ってんだ。とったからここにターキーがあるんだろ?盗って来たから、な」

 

 

集の問いかけに陸はにやりと悪い笑みを浮かべて先程ターキーを盗られたと怒鳴っていた男子生徒に視線を向ける。

そして、陸が一体何をしたのかを集は悟った。

 

 

「お、お前…」

 

 

確かに、あの激しい戦闘には参加していないものの…、しっかり陸は戦争に参加していたようだ。

飽くまで奇襲という形で…。

 

 

「ちなみにあのジュースも俺がやったぞ。あそこまでおぞましい色にした覚えはないんだけどな…」

 

 

最後に苦笑を浮かべながらまた罪(?)の告白をする陸。

あのジュースに止めを刺したのは陸とはまた別の生徒のようだが。

 

 

「あ!おい、外見ろよ!雪降って来たぞ!」

 

 

そんな言葉が聞こえてきたのは、パーティが始まってからどれくらい経ってからだろう。

その言葉に従って、クラスの皆が窓の外へと目を向けると、確かにチラチラと白い雪が舞い降りていた。

 

 

「うわぁ…」

 

 

「ホワイトクリスマスだねぇ…」

 

 

空から舞い降りる雪を見ながら、ホワイトクリスマスなどいつ以来だろうかと思い返す陸。

少なくともここ数年、ホワイトクリスマスはなかったはずだ。

 

 

「綺麗だね…」

 

 

「あぁ」

 

 

パーティが進むうちに、陸は再び小咲と合流していた。

小咲がぽつりと呟いた言葉に、陸も呟き返す。

 

先程までどんちゃん騒ぎだったホール内が、たったほんの少し舞い降りる雪によって静まり返っていた。

決して悪い空気ではないのだが、誰もが声を出すことを戸惑ってしまうほど外の景色に魅了される。

 

その空気を破ったのは、今この場にいる誰でもなく。

 

突如現れた黒い車だった。

 

 

「千棘ぇええええええええええええ!!!」

 

 

彼らの目の前の、窓の外で止まった車の扉が開くとそこから飛び出してきたのは、千棘の名を叫ぶ楽だった。

 

 

「ら、楽!?」

 

 

千棘も、陸と同じように楽は今日、パーティに来れないと考えていたのだろう。

目を見開いて驚愕しているのが見てわかる。

 

千棘はホールを出て、楽を出迎えに行く。

他の陸を含めた生徒たちも千棘を追ってホールを出る。

 

入り口付近にたどり着いたときには、すでに楽と千棘は会話をしていた。

というより、声の大きさから聴いたら喧嘩をしているようにも感じる。

 

 

「私、行かないわよ!?」

 

 

「あぁ!もういいからさっさと来い!」

 

 

見ていると、楽は千棘を何処かに連れて行こうとしている様だ。

千棘の手を掴んで引っ張っている。

 

だが千棘は腕を引っ張る楽に抵抗している。

 

 

「貴様、一条楽!お嬢をどこに連れて行こうとしているんだ!」

 

 

「そ、そうよ!まず私をどこに連れて行こうとしてるのかを教えなさいよ!まずそれからよ!」

 

 

「あぁ、もう!」

 

 

理由はわからないが、楽は相当急いでいるらしい。

楽にどこへ行こうとしているのか問いかける鶫と千棘に対して苛立ち始めている。

 

その苛立ちのせいか…、楽はまわりのことを考えず、とんでもないことを口にしてしまった。

 

 

「高級ホテルのスイートルームだよっ!!」

 

 

「「「「「────────」」」」」

 

 

空気が、凍った。

 

当然、千棘も。鶫も。

その隙を狙って、楽は千棘を外へと引っ張り出す。

 

 

「「「「「えええええええええええええええええええええええ!!!!?」」」」」

 

 

そして外へと出て行った楽と千棘の動きを見て、ようやく空気が動き出す。

 

 

「なっ、な…。なぁああああああ!!?」

 

 

「ら、楽様…?」

 

 

クラスの皆もそうだが、特に鶫と万里花はかなりショックを受けていた。

 

 

「楽…?」

 

 

そして陸も、鶫や万里花程ではないものの楽の突然の行動に衝撃を受けていた。

 

高級ホテルのスイートルームに千棘を連れていく。

つまりそれは、楽は千棘とそうしたいということ。

 

 

(な、何があったんだ?)

 

 

心の中はただただ驚愕に包まれる。

 

しかし…、時間が経つ程に少しずつ好奇心が沸いてくる。

楽が何のために千棘を連れ出したのか。何か気持ちの変化はあったのか。

 

そして…、高級ホテルのスイートルームで何をするのか。

 

 

「「…」」

 

 

陸と集は目を見合わせて、にやりと笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




クリスマスの没ネタを載せると言ったな
あれは嘘だ
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