一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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第48話 ワタシテ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せっかく作れたのに…、これじゃ渡せないな…」

 

 

どんよりと暗い気持ちを漂わせながら、中庭で小咲は呟いた。

小咲は芝生に正座で腰を下ろし、目の前にバラバラになってしまったチョコレートの入った袋が開かれていた。

 

そう、先程陸の目の前でこけた時、この袋が自身の体の下敷きになってしまったためこのようになってしまったのだ。

 

 

「あ、やっぱりおいしい…」

 

 

チョコレートの一かけらを口に含み、味わう。

チョコレートはしっかりとした苦みとほんのりとした甘みのバランスが良く、本当にこれを作ったのかと自分でも信じられなくなってしまう。

 

 

「おいしく作れたのにな…」

 

 

小咲自身、自分が料理を苦手としているという自覚はある。

だから、何としてもこのチョコレートを陸に渡したかった。

 

それなのに、自分のミスでチョコレートを台無しにしてしまった。

それがどうしようもなく悔しく、どうしようもなく悲しい。

 

 

「勿体ないなぁ…」

 

 

こんなもの、渡せない。自分で渡せなくしてしまった・

 

小咲はチョコレートをぱく、ぱく、と口に入れる。

何かしていないと、必死に留めている感情が流れ出しそうだったから。

 

 

「あれ?小咲ちゃん?」

 

 

その時だった。背後から自分を呼ぶ声が聞こえてきた。

振り返ると、きょとんとした顔でこちらを見ている千棘の姿が。

 

 

「千棘ちゃん…」

 

 

「どうしたの?こんな所で」

 

 

千棘は小咲に歩み寄って問いかける。

 

何をしている、と聞かれても答えられない。

自分自身でも、何をしているのかわからなくなってしまっているのだから。

 

 

「小咲ちゃん、それチョコ?」

 

 

「え?あっ、えっと…」

 

 

すると千棘が小咲の背後を覗き込んで、開かれた袋の中身を見た。

 

 

「あっ!そのチョコ、陸にあげるんでしょ!」

 

 

「ふぇぇぇっ!?」

 

 

え!?何で!?何で知ってるの!?

 

まさにそう言わんばかりに小咲は顔を真っ赤に染め、目をまん丸く見開く。

 

 

「小咲ちゃん。私もそうだけど、楽も舞子君も、るりちゃんも知ってるよ?」

 

 

「る、るりちゃんは私も知ってたけど…、え!?一条君と舞子君も!?」

 

 

いつの間に自分の思い人がここまで知れ渡っていたのだろう。

るりが教えたのだろうか?…後で問い詰めよう。

 

 

「それで、小咲ちゃん。そのチョコ、陸にあげないの?」

 

 

「…うん。もう、駄目になっちゃったし」

 

 

首を傾げながら問いかける千棘に、小咲は微笑みながら答える。

 

バラバラになったチョコを渡されても、不快な思いをするだけに決まっている。

 

だから、渡さない。渡せない。

諦めるしか、ない。

 

 

「小咲ちゃん…」

 

 

「千棘ちゃんは、チョコ誰かにあげないの?」

 

 

千棘の表情が悲しく染まる。

 

そんな顔をしないでほしい。これは自分のドジで招いた結果なのだ。

千棘が、そんな風に悲しく思う必要はない。

 

小咲は自分の話題から今度は千棘の話題に移そうとする。

 

 

「え?私?」

 

 

千棘の表情も、きょとんとしたものに変わる。

話題を変えることに上手くいったようだ。

 

 

「私は…、あげようと思ってる人は…いる…かな」

 

 

「え?」

 

 

千棘が、チョコを渡したいと思っている人がいると言った。

小咲は目を丸くして、口を開いた。

 

 

「それって、千棘ちゃんの好きな人?」

 

 

「…うん」

 

 

僅かに頬を染めて頷く千棘。

 

千棘の好きな人。

小咲の頭の中に、ある少年の顔が思い浮かぶ。

時には喧嘩をして、時には笑い合って。千棘と、とても仲良くしている少年の顔。

 

 

「それって…、一条君?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ!この辺で小咲を見かけなかったか?」

 

 

「寺ちゃん?ううん、見てないけど…」

 

 

廊下で見かけた女子のクラスメートに問いかけるが、答えは否。

 

 

(どこ行ったんだ…?さっきの小咲、様子がおかしかった気がしたんだが…)

 

 

先程突如去った小咲を追ったが、見失ってしまった陸。

その後、小咲を探し続けているのだが全く見つからない。

 

 

「待たんか貴様―――!!」

 

 

「うぉおおおおおお!誠士郎ちゃん、堪忍やぁああああああああああ!!」

 

 

小咲の姿がないか、辺りを見回す陸の耳に二人の男女の声が届く。

その声が聞こえてきた方へ視線を向けようとすると…、目の前を横切る二人の人影。

 

 

「集…、鶫も…?」

 

 

何やら二人は必死で…、本当に生きるか死ぬかの勢いで追いかけっこをしている。

 

 

「何してんだあの二人…。いや、そんな事よりも小咲だ」

 

 

どうしたのか気になるが、今は置いておくべきだ。小咲を見つけることが先決。

陸は視線を周りに回しながら、再び歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

千棘の目が見開かれ、だが瞳が揺れているのがわかる。

千棘の顔もみるみる赤くなっていく。

そんな千棘の様子を見て、小咲は悟る。

 

 

「…ふふっ」

 

 

「え…」

 

 

不意に笑いだす小咲。そんな小咲を見て、千棘が呆然と声を漏らす。

その千棘の反応が、小咲の笑いをさらに引き出してしまう。

 

 

「ふふふ…、ふふっ」

 

 

「え?えっと…、小咲ちゃん?」

 

 

笑いを止められなくなった小咲に、戸惑いの目を向けながら千棘が声をかける。

 

 

「ご、ごめんね?でも…、千棘ちゃんの反応が…」

 

 

正直、バレバレだ。千棘は、楽に思いを寄せているのだ。

 

日頃の行動を見ていれば、何となく予想は出来たのだが…、時折見せる楽への厳しい態度が確信に至らせてくれなかった。

 

 

「千棘ちゃん、一条君のことが好きなんだ?」

 

 

「えぇ!?え、えっと…あの…」

 

 

千棘の顔を染める赤みが、耳まで広がる。

 

 

「やっぱり…」

 

 

「ち、違うの!このチョコはえっと…」

 

 

「一条君に渡すんでしょ?」

 

 

「…うん」

 

 

違うと否定する千棘だが、顔を見ていると嘘を吐いているのが良くわかる。

止めに一言問いかけると、千棘は顔を真っ赤にして俯きながら小さく頷いた。

 

 

「こ、小咲ちゃんだってそのチョコ、陸に渡す気だったんでしょ?…これからどうするの?」

 

 

話題を戻されてしまった。

千棘は赤くなった表情を戻して、真剣な声音で小咲に問いかける。

 

 

「…どうするも、もうこれは渡せないよ。でも、作り直すにしても、これを作るのにスっごく時間がかかっちゃったし…。陸君が帰るまで間に合う訳ないよ…」

 

 

このチョコレートを作り上げるために要した時間が、およそ五時間。

今の時間は三時半を回った所。どう考えても、下校時間まで間に合うとは思えない。

 

諦めるしかないのだ。

諦めるしか…

 

 

「諦めちゃダメだよ?」

 

 

「え?」

 

 

自分自身を諦めさせようとした所で、千棘が一言言い放った。

 

 

「チョコ、陸に渡したいんでしょ?だったら最後まで諦めちゃ駄目」

 

 

千棘が小咲の隣に腰を下ろし、体を小咲に向ける。

指をちょん、と小咲の鼻に当てて言う。

 

 

「でも…」

 

 

「小咲ちゃんは陸のことが好きなんでしょ?だったら、チョコを渡さなきゃ!今日はバレンタインデーなんだよ?」

 

 

「…」

 

 

千棘の言う通りだ。こんな所で諦めたら…、だが、どうしようもない問題もあるわけで。

 

 

「でも…、材料も持ってきてないし…」

 

 

「あ、材料ならあるよ?実は、ぎりぎりまで試行錯誤しようって思ってて…」

 

 

「今までどこに持ってたの!?」

 

 

材料が手元にないという問題がある…と思われたのだが、小咲の言葉通り、今までどこに持っていたのか不思議に思えるほど大量のチョコの材料を取り出す千棘。

 

小咲が呆然と大量のチョコの材料を眺める中、千棘は小咲の肩をポン、と叩きながら口を開いた。

 

 

「小咲ちゃん。もう一度チャレンジしよう?私も…、頑張ってチョコを楽に渡してみる」

 

 

「千棘ちゃん…」

 

 

「私も手伝う。だから…ね?」

 

 

小咲に手を差し伸べる千棘。

小咲は幾瞬か考え込んでから、その手を取って立ち上がった。

 

 

「私、頑張る。もう一回おいしいチョコを作って、陸君に渡すよ!」

 

 

「うん!」

 

 

決意を秘め、小咲が言う。

千棘も勇気を出しているのだ。自分だって勇気を出せるはずだ。

 

失敗するかも、とは考えるな。できるはずだ。

 

二人は教師に許可をもらい、家庭科室で早速調理を始めた。

 

張り切って始めたは良いものの、知っての通り料理を苦手としている二人である。

小咲の想像通り、そう簡単に上手くいくはずもなかった。

 

昨夜と違い、初めから完成には至れたもののやはり人に食べさせることができる代物はできなかった。

何度も何度も失敗して、だが決してあきらめることなく試行を繰り返す。

 

普通の人ならば、こうして失敗が繰り返される中ショックが重なっていくだろう。

それなのに、何故か小咲と千棘は楽しんでいた。

二人だから、というのもあるだろう。こうして思い人のために努力することが、どうしようもなく楽しいのだ。

 

 

「わっ、大変!千棘ちゃん、もうこんな時間だよ!?早く行かないと、一条君帰っちゃうよ!」

 

 

「え…、でも…」

 

 

試行錯誤を繰り返す中、当然時間は過ぎていき、遂に時計の針は六時に迫ろうとしていた。

千棘が言うには、今日は飼育係の仕事で忙しくしているらしいのだが、そろそろ帰ろうとしていてもおかしくない。

 

 

「でも、チョコまだできてないし…」

 

 

「駄目だよ!今日中に渡せなくなっちゃう!」

 

 

だが、陸へ渡すチョコは未だ完成していないのだ。

手伝うと言ったにも拘らず、自分だけチョコを渡しに行くという事はしたくない。

それが千棘の内心だった。

 

それは、小咲にもわかっている。

だがだからこそ、千棘にはチョコを渡しに行ってほしい。

 

 

「手伝ってくれてありがとう。私は大丈夫だから。ギリギリまで頑張って、絶対においしいの作る」

 

 

小咲は千棘の両手を握って、さらに続ける。

 

 

「だから千棘ちゃんも…、頑張って」

 

 

「小咲ちゃん…」

 

 

力強い小咲の目に映る、千棘の目の変化。

 

躊躇いから、決意の色へ。

千棘は頷いて、家庭科室を去っていった。

 

その後、一人になった小咲は再び試行錯誤を再開する。

何度も何度もチャレンジして、そのたびに失敗して、だが先程と同じように決してあきらめることなくひたすら繰り返す。

 

 

(諦めたくない…!千棘ちゃんとも約束した…。私自身が、陸君に渡すって決めたんだから!)

 

 

小咲が味付けを終え、まだ固める前のチョコレートを指につけ舐める。

 

瞬間、小咲の体全体に衝撃が奔る。

 

 

「え…。これは…」

 

 

 

 

 

 

 

小咲がチョコレートを作っている中、陸はずっと小咲を探し続けていた。

その結果、今の時間は六時を回っていた。

 

校舎を歩く生徒もかなり少なくなり、すれ違う教師に「早く帰れよー」と声を掛けられる。

 

 

(ずっと探したけど…、全く見つからなかったな。もう帰ったのかねー…)

 

 

廊下で壁に寄りかかっていた陸は、壁から離れ、生徒玄関へと向かう。

 

 

「俺も帰るか」

 

 

小咲の事も心配だが、これ以上探しても見つかるとは思えない。

もう帰ってしまった可能性の方が高いだろう。陸は靴を履き替え、校舎の外へと出る。

 

 

「待って、陸君!」

 

 

直後、背後から声が聞こえた。

立ち止まり、振り返ると、そこにはこちらに駆け寄ってくる小咲。

 

 

「小咲?まだ、学校にいたのか…」

 

 

帰っていると思っていたのだが、小咲はまだ学校にいたのだ。

 

しかし、今までどこにいたのだろうか?

ひとしきり校舎内は探し回ったと思うのだが…。

 

 

「陸君、あの…。よかったら、これ…!」

 

 

「小咲、これって…」

 

 

「受け取って、もらえないかな…」

 

 

陸の前で立ち止まった小咲が、小さな袋に入れられたチョコレートを差し出した。

 

 

「え…、これ、俺に?」

 

 

「うん…。本当はもっと早く渡したかったんだけど…」

 

 

チョコを受け取り、問いかける陸。

だが、このチョコを見る限り…

 

 

「これ、手作りか…?」

 

 

このチョコは手作りの様だ。

陸の中で蘇る、過去の記憶。家のキッチンで広がった、戦々恐々の光景。

 

 

「お、おいしいから!」

 

 

「っ」

 

 

小咲も、陸の気持ちを読み取った。

陸は小咲が料理下手なのを知っている。だから、チョコを受け取った時に躊躇いを一瞬見せたことにも気づいた。

 

でも、食べてもらいたい。陸にだけ、このチョコを食べてほしい。

 

だってこれは…

 

 

「っ!うめぇ!」

 

 

「でしょ!!?」

 

 

数々の失敗の中で唯一出来た…、昨夜作った物よりもさらに完成度が高い物を作り上げたのだから。

 

自覚していないのだろう、陸は表情を蕩けさせながら夢中でチョコレートを味わう。

その様子を見ていた小咲が笑みを零していたことにも気が付かなかった。

 

 

「じゃ、じゃーね陸君。また明日」

 

 

「あ、どうせなら一緒に帰ろうぜ?俺、チョコ食いながら待ってるから」

 

 

「…うんっ」

 

 

チョコの美味から我を取り戻した陸が、小咲を誘い、小咲も輝くような笑顔を浮かべて頷いて返す。

 

小咲が荷物を取りに校舎へ戻り、その間陸は小咲から受け取ったチョコを味わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

(喜んでくれた…。喜んでくれた…!)

 

 

荷物を取りに教室に戻っていた小咲は、両手を自分の頬に添えて先程の陸の表情を思い出していた。

 

あんな蕩けた陸は見たことがなかったが、口元が緩んでいたのはしっかりと見たし、喜んでくれたのは間違いないだろう。

 

 

「千棘ちゃん…、私、頑張ったよ…!」

 

 

もうとっくに楽にチョコを渡し終えているだろう千棘。

千棘との約束を守り、自分の決意を成し遂げた小咲。

 

 

「あっ、早く行かなくちゃ…」

 

 

陸が喜んでくれたことに喜ぶのは後にしよう。

今頃陸は、寒い外で自分が来るのを待っているのだから。

 

だが、陸の所へ戻った小咲が見たのは、先程と同じように蕩けた表情を浮かべて立つ陸だった。

そう、小咲が来るまでの間再びチョコレートを味わった陸は蕩けた表情に逆戻りしてしまったのだ。

 

 

「…ふふ…、ははは!」

 

 

いつもの陸の表情とのギャップに、先程よりも大きく笑い声を漏らしてしまう小咲。

 

何とか笑いを収め、目から零れた涙を拭ってから小咲は陸をこちらの世界に呼び戻すべく足を陸へと向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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