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ここ最近、晴れた日が良く続いている。
少し前、一日中雨が降った以外、日中に雨が降ったことはこの春になってからはない。
そんな爽やかな日、凡矢理高校の屋上に二人の少女が柵に両腕を乗せながら花壇で繰り広げられている二人の会話を眺めていた。
「…あの二人、いっつも一緒にいるわよね」
「そ、そうだね…。いいよね、ラブラブで…」
屋上にいるのは、誰もが認める美少女小野寺小咲。
そしてもう一人、ちょこんとした体系の理系少女宮本るり。
花壇では、楽と千棘がただ今絶賛口論中である。
るりは、その口論を眺めている小咲を見つめて口を開く。
「あの二人もどこか怪しいんだけど、まあそんなことはどうでもいいわ」
「あ、怪しくなんかないよ!?…え?どうでもいい?」
楽と千棘が怪しいと言ったるりを誤魔化そうとする小咲だが、続いて出た言葉で中断する。
どうでも、いい?
「あんたはどうするのよ?好きなんでしょ?一条弟君の事」
盛大に噴き出す小咲。小咲はるりから距離を取り、頬を染めながら問い返す。
「い、一体いつから…」
「気づいてないと思ってたの?呆れた…」
何時から気づいていたのか。気になる小咲だが正直、気が付かない方がおかしいとるりは思っている。
すれ違うごとに目で追いかけ、同じクラスになった二年三年と、授業中よく陸を見つめている所をるりは目撃している。
ただでさえ勘が鋭いるりが気が付かないはずがない。
「あんた、中学の時から好きなんでしょ?さっさと告白しなさいよ」
「む、無理だよぉ~…」
るりの案は、小咲にとってはものすごい無茶ぶりである。弱弱しい声で言いかえす小咲。
「…まあ私も告白は早いと思うわね。でも、アタックくらいしなさいよ。あいつ、色恋沙汰は凄い鈍そうだし」
「うぅ…」
るりの言う通りである。陸は恋愛方向にはものすごく鈍い。
いや、自分が関わることじゃなければるり以上の勘の鋭さを見せるのだが、何故か自分が関わると超絶鈍感男に成り下がってしまう。
染まった頬の色を更に濃くする小咲。
そんな小咲を見て、ため息を吐いたるりは提案する。
「仕方ないわね。チャンスぐらいは作ってあげるわ」
「え…?ちょっと待って!?るりちゃん、何する気…」
るりが告げると、小咲の手を引いて歩き出す。
るりは抵抗する小咲を強引に引いて、クラスの教室に入っていく。
「一条弟君」
「ははっ、それでよ…、ん?」
るりと小咲が教室に入ってきた時、陸は席に座り、まわりにたむろする友人たちと談笑していた。
自分を呼んだるりに気づいて陸は目を向ける。
「今日、私たちあなたの部屋で勉強会を開きたいんだけど、構わない?」
「…はい?」
「お待ちしてやしたぜ陸坊ちゃん楽坊ちゃん!勉強会ですってねー!!」
るりに勉強会を提案された陸が家に入ると、いつから待っていたのか大勢の部下たちが玄関前でスタンバイしていた。
一人ずつボードを持って、<おいでませ>という言葉を陸たちに見せている。
陸と一緒に来たのは、まずはもちろん楽。まあ楽は兄弟なのだから当然なのだが。
他には千棘、集、るり、そして広い玄関に感動しているのかまわりを見渡している小咲の四人だ。
「ああ。竜、茶ぁ頼む」
「了解しやしたぁ!」
靴を脱ぎながら竜に告げる陸。
竜たちがその場から去っていくのを見届けてから、他の人たちが靴を抜いたことを確認する陸。
「じゃあ、こっち。ついて来て」
靴を脱いで上がった所を見てから、陸は歩き出す。
陸に続いて楽たちも歩き出すと、楽の他四人のうち三人は辺りを見渡し始める。
「俺、陸の部屋に行くのは初めてだよな」
「そうだっけか?まあ、遊ぶときはいっつも楽の部屋だったからな」
陸の隣で歩く集がそうつぶやく。
集は、幼稚園の頃からの腐れ縁。よく楽の部屋で三人で遊んでいた。
だが、集の言う通り陸の部屋で遊んだことはなかった。たまに陸の部屋にある遊び道具で遊んだことはあるのだが、その時はいつも陸が部屋から楽の部屋に持っていっていたのだ。
「…ねえ舞子君。どうしてあなたがついてきてるの?」
「冷たいこと言うなよー。同じ眼鏡のよしみなんだからさー」
「…嫌なカテゴリーね」
何やら集とるりが言い合っているが、陸は聞かないことにする。
「…何そわそわしてんだよ」
「べ、別にワクワクなんてしてないわよ!」
「わくわくしてんのかよ…」
反対に視線を向けると、今度は楽と千棘が言い合っている。
何故か挟まれて閉じ込められている感覚がしてくる。
陸はその場から一歩退いて後ろに振り返る。
見ると、目を輝かせながら辺りを見渡す小咲の姿。
「…小野寺、迷子になると困るからちゃんとついて来いよ?」
「え!?あ、う、うん」
一度、遊びに来た集がはぐれて迷子になったことがあった。
その時、今の小咲と同じように辺りを見渡しながら歩いている間に陸と楽と逸れたのだ。
そんな感じで歩いている内に、陸はある部屋の襖を開けて中へ入るよう勧める。
「ここ。俺の部屋」
最初に入ったのは楽、千棘、集、るり、小咲の順番に入って最後に陸が入り、襖を閉める。
「わぁー。ここが一条君のお部屋?」
「楽と違って、結構ものあるんだなー」
部屋に入るとすぐ両脇に、漫画が入った本棚。
反対側の壁際に、いつも使っている勉強机。
部屋の角にはテレビが置いてあり、その前にはたくさんのテレビゲームが置きっぱなしになっている。
最後に、部屋の中央に大きなテーブルがばん、と置かれている。
「お前、ゲームのコード片付けろって言ってるだろ?」
「めんどくさいんだよ。良いだろ別に」
「良くねえだろ。こういう時お客がどう思うか…」
楽が部屋をきれいにするように注意するが、陸は動じない。
それに、確かにテレビの前は汚いが、他は至って整頓されている。
だからこそ、別にそこだけ汚くても構わないだろというのが陸の考えなのだ。
「まあ今はいいだろそんなこと。さっさと道具出して勉強始めるぞ」
陸は、カバンを机の傍に置いてから、学ランをハンガーにかける。
そして鞄から教科書やプリントを取り出してテーブルに投げ置く。
「…ん?」
「っ!」
その過程の中で、陸の視線が小咲の視線と交わる。
だが、それも一瞬。小咲は視線をすぐに逸らしてしまった。
(…さっきも視線合ったけど逸らされたな。何だ?俺、何かしたっけか?)
心の中で首を傾げる陸。
すると、部屋の襖が勢いよく開かれた。
「坊ちゃん!お茶ぁ持ってきやしたぜ!」
「ん、おう竜。ご苦労様」
お茶を持ってきた竜にねぎらいの言葉をかけて、お茶が乗ったお盆を受け取る陸。
「あ、私も手伝うよ…!」
陸がお盆を受け取った所を見た小咲が、手伝おうと、というより陸に代わってお盆を持とうとする。
小咲の手が、お盆に触れて…、わずかに陸の手と重なった。
「っ!!!!!?」
「え…、あっ」
瞬間、小咲の両腕が勢いよく上げられた。
あまりにも不意な行動で陸は抵抗できず、お盆が宙へ浮く。
お盆はひっくり返り、それはすなわちお茶の入った湯呑もひっくり返るという事であり…。
「っ、あぶねぇ!」
「えっ」
咄嗟の行動だった。
陸は小咲の体を抱き締め、覆いかぶさる。
陸も小咲も目を瞑ってしまったため、しばらくわからなかったのだが、ひっくり返った湯呑は陸と小咲のすぐそばに落ち、熱い茶も運よく陸にかかることはなかった。
「あー!?陸坊ちゃん、大丈夫すか!?」
「…あ、あぁ。大丈夫。小野寺、大丈夫か?」
「……………」
竜に心配される陸だが、特に異常はない。
竜に大丈夫だと返すと、陸は小咲の容態を確認する。
だが、陸の問いに小咲は答えない。
「…小野寺?」
「……………」(え!?え!?今私、抱き締められた!?抱き締められたよね!?え!?うそ!?え!?)
混乱していた。大混乱していた。
顔をこれ以上ないと言うほど真っ赤に染めて超混乱していた。
「おい小野寺…?っ、まさかどっか火傷したんじゃないだろうな!おい竜!竜!」
「わぁあああああああああ!!大丈夫!大丈夫だからぁ!!」
反応を返さない小咲が、どこか怪我したのではないかと勘違いした陸は、竜を呼んで救急箱を持ってこさせようとする。
だがそれはただの勘違い。小咲はただ陸に抱きしめられたことに混乱していただけであり、怪我などしていない。
小咲は焦る陸を必死に止めようとするのだった。
「…青春だねぇ」
「…青春だなぁ」
「あら、あなたたちも気づいてたの?」
「という事は宮本もか?…いや、まあ」
「あれ見たら、気づかない方がどうかしてるよなぁ」
「「はっはっはっはっは」」
「ははは」
「…?」
陸と小咲のやり取りを微笑ましげに見守る楽、集、るり。
状況が呑みこめないのは、つい最近彼らと知り合った千棘だけである。
騒ぎが収まると、すぐに勉強を始める陸たち。
テーブルは横長に広いもの。陸は短い辺の部分で腰を下ろして教科書を開いている。
他のメンバーは、それぞれ長い辺の部分で教科書を置いている。
集と楽、千棘の順番で陸から見て右側に座っている。
るりと小咲は陸から見て左側に座っている。
部屋の中に沈黙が流れ、ただ紙にペンを走らせる音だけが響き渡る。
「…ねえるりちゃん、ここの問題解ける?」
少し経つと、小咲がやっているプリントの中で解けない問題が出てきた。
小咲は隣で他の問題を解いている、るりにその問題について質問する。
「んー?」
るりは小咲がやっている問題に一通り目を通して、どうやって答えを出すかを導き出す。
そして、小咲に教えてあげようと口を開こうとして…、予定を変更した。
「ねえ一条弟君。ここ、小咲に教えてあげてほしいんだけど?」
「!!?」
「ん?」
目を丸くして驚愕する小咲。
問題を解いている中、声をかけられ振り向く陸。
驚愕した小咲は頬を染めてるりに詰め寄る。
「るるるりちゃん!?」
「あーここぜんぜんわかんないごめんねー」
「棒読み!?それにこのまえもっと難しい問題を解いてたじゃない!?」
わからないなど嘘に決まっている。
小咲はるりに問い詰めるがまったくるりは答えを返さない。
それどころか…。
「いいから行け。そして二度と戻ってくるな」
「えぇ!?」
非情なるりの宣告。もう、小咲に選択肢など一つしかなかった。
「…よ、よろしくお願いします」
「ん。で、どれがわからないって?」
頭を下げた小咲に手を差し出してプリントを要求する陸。
小咲からプリントを受け取って、小咲が指差した問題を解こうとする陸。
(…確かに、これは難しいな)
小咲は、別に学校の中で出来が悪いわけではない。
少なくとも半分よりは上の部類に入っている。その小咲がわからないと言っているのだ。
多分、難しい問題に違いないと考えてはいたが、これは苦労しそうだ。
「これ、αに代入しないと解けないわよ?」
陸が解くためにペンを走らせようとすると、脇から千棘が割り込んできた。
陸と小咲は千棘を目を丸くして見て、何故かはわからないが楽たちは千棘を信じられないような目で見つめ始めた。
「でも、これは先にこの計算を解いてから…」
「いやいや、αに代入しないとこっちの値が出てこないでしょう?」
「あ、そっか…」
「ちょ、桐崎。お前、自分のをやれよ自分のを」
陸と千棘が問題について話しあっていると、どこか焦った風に楽が割り込んで千棘に注意した。
「終わった」
「は!?でも、今日の宿題ってプリント三枚…、え!?マジ!?」
千棘が見せるプリント三枚。全ての問題が埋まっている。
勉強会が始まって十五分ほど。千棘はたった十五分で全てのプリントを埋めてしまったのだ。
「桐崎さんて、向こうで成績どうだったの?」
「大体Aかな?」
楽が何故か項垂れている中、集も千棘に話しかける。
千棘は、集に答えを返した後、すぐに小咲に目を向ける。
「そうだ。小野寺さん、勉強だったら私が教えてあげようか?」
「お、そうだな。桐崎さんの方が教えるの上手いだろうし、その方が良いと思うぞ」
「え?」
千棘が教え、小咲が問題を解く。陸は自分のプリントに集中する。
楽たちは、白けた目で千棘をじと~と見つめる。
楽の視線に気づかない千棘は、さらに楽たちを混乱させる言葉を吐く。
「ねーねー、所で小野寺さんは好きな人とかいないの?」
「え!?」
「?」
「「「っ!?」」」
千棘の口から出たいきなりの言葉に、小咲は目を見開いて驚愕し、楽たち三人はずしゃっ、とテーブルに崩れ落ちる。
陸は、そんな三人を不思議そうに眺めていた。
「お、おい桐崎…。いきなりそんなこと聞くな…」
「何よ。ただのガールズトークでしょ?何か変な所でもあるって言うの?」
そう聞かれたら何も言えない。
何とか千棘を止めようとした楽だったが、それは不可能だった。
「え、えっと…。今はそう言う人はいないかな…?」
「へぇ~」
(((あぁもう!無知って本当に罪!!)))
楽、集、るりの内心がシンクロする。
だが、集だけは他にも…。
(でも、面白そうだから…。ぐっじょぶ!桐崎さん!)
そんなことを思うのだった。
そんな三人の思いなど露知らず、千棘は続ける。
「そっかー。私もまだそういう人いなくてさー。早く素敵な恋とかして見たいんだけどねー…」
千棘が言った瞬間、空気が凍りついた。
楽は焦りに焦りまくって体が何か物理的にあり得ない現象を起こしている。
陸と小咲は呆然と千棘を見つめ、るりと集は疑問符を浮かべながら千棘を眺める。
「…なぁんてね!?ジョークよジョーク!!ちょっと意地悪してみたくなっちゃってーーっ!!」
「こ、こら!ひ、ひどいぞハニー!?」
慌ててきゃぴきゃぴといちゃつき始める二人。
(…もう、絶対集と宮本の二人にばれてると思うんだけど)
必死に演技する二人を余所に、そんなことを思う陸。
すると、不意に集が口を開いた。
「なあなあ桐崎さん、俺もちょっち聞いていい?」
「へ?」
いきなり質問しようとしだす集。
集は、口を開いてとんでもないことを言いだした。
「ぶっちゃけ、お前らってどこまでいってんの?」
「「ぶぅっ!?」」
盛大に噴き出す楽と千棘。
はぁ、とため息つく陸に、僅かに頬を染める小咲にるり。
そして、にこにこと笑みを浮かべる集。
「ど、どどどどどこまでとおっしゃると…?」
「そりゃあもちろんき…」
「おいコラ集。ちょっとこっち来い!」
千棘の問いに答えようとした集は、途中で楽に口をふさがれるとそのまま部屋の外へと連れ出される。
「…」
「お前も来い!」
「は!?何で私まで…」
楽と集が部屋を出て少し経つと、部屋に戻って来た楽は千棘の腕を掴んで再び部屋を出て行く。
「…何だ?」
「…さあ?」
(…舞子君はともかく、桐崎さんを連れて行った理由は大体予想つくけどね)
小咲の気持ちに気づいていないのは、この場では思いを向けられている陸とつい最近知り合った千棘だけ。
楽は、千棘に教えてあげようとしているのだろう。陸と小咲についてを。
(…ま、私は勉強を続けますか)
まあ三人がどうしていようが自分には関係ない。
「小咲。わかんない問題があったら私にじゃなく一条弟君に教えてもらいなさい」
「えぇ!?」
「宮本、教えてやれよ…」
三人が退室してからも、勉強会は続く…。